壺職人憑依記 ~壺がデスサイズで何が悪い~ 作:パラスチミン
ありがとうございました。
「あひ~~~~…」
「おーい、立てるか?生きてるか~?保健室行くか?」
「い、いえ、大丈夫ですぅ~」
どう見ても大丈夫ではない黒髪の新入生は絶景を見た瞬間力が抜けたのかへたり込んでしまった。心配したファイアとサンダーが様子を伺ってるが大丈夫という割には一向に立ち上がる気配がない。まあ初日であの階段を上り切ったガッツは褒めてやるべきだろう。大半の新入生は在校生か職員の人が抱えてるんだからな、だからエスカレーター付けろって話なのに…
マカが残していったジュースを「外国の味だ~~!」と一気飲みした彼女が産まれたての小鹿のような頼りない足取りで立ち上がる。まだ膝が笑ってるらしい。
「えーっと、新入生は…」
「案内する。大抵の新入りは迷うからな。今日初めてだろ?死武専」
「はい、そうなんです…あっごめんなさい!私ったら名前も言わなくて…春鳥つぐみです、一応、武器です…」
「ああ、俺はキリク・ルング、こっちがファイアでそっちがサンダー、よろしくな、後輩」
たぶん彼女は俺より年上だろうけど死武専の先輩後輩は入学順で決まるのでタメ語でいいか。年上の後輩に舐められると面倒なことになることの方が多いし、多少上からなのは許してほしい。今日が新入生の顔合わせの日だから…多分講堂じゃねえな、ダンススタジオあたりか。死武専慣れても迷路みたいで迷うもんなあ。
「んじゃ、こっちな」
「武器が話してる…みんな人間なんだ」
「デスシティーじゃありふれた光景だぜ。この二人も武器だからな」
「そうなの!?私よりちっちゃいのに…」
肩車に戻った二人を見てつぐみがガガントス、という謎の擬音を口にしながら目を見開く。見つめる先のファイアとサンダーはなんだか誇らしげ、胸を張ってふふんとどや顔だ。ま、俺の自慢の武器たちだ、どっから見られても大丈夫だよ。どうやらつぐみは武器自体が珍しい地域からやってきたらしい、日本だというと椿の出身地だな。日本の総理大臣は死武専卒じゃないといかんらしいという話を前に聞いたくらいでこの世界の日本がどうなのかは俺もよく知らない。
途中でブラック☆スターが喧嘩をしていて相手を殴り飛ばし壁にめり込ませるのを目撃したつぐみは膝どころか全身が爆笑したりしているが死武専では日常茶飯事なので安心、ではなく自衛できるよう頑張ってほしい。ブラック☆スターを適当にあしらい、ついでにつぐみも紹介してやった「なんかあったらBIGな俺様に頼れ、サインいるか?」だってさ。まあサインは断って、案内すること15分、目的地のダンススタジオについた。
「どもっす、シド先生。ついでに新入生もつれていきました。武器だそうです」
「こ、こんにちは!春鳥つぐみです!」
「おう、キリク悪いないつも。それじゃ、胸にこのバッヂをつけて待っててくれ。キリクは待機だ」
「は、はい」
「了解」
そんなこんなでパートナー、いやこれから同じクラスになるだろう人たちの中に混ざったつぐみ。彼女はどうやら様々な人種がいる死武専にカルチャーショックを受けまくりのようでオドオドと頼りない。余りの様子に心配になったらしいファイアとサンダーが俺の肩から降りて近くに行って励ますほどである。あと新入生のやつらを見ると…意外とやんちゃそうなのがいるな。こういうのが初日で調子乗ってやらかすんだよなあ、さっきのブラック☆スターの喧嘩だって椿をよこせっていう新入生特有の怖いもの知らずの結果だし。
待機すること少し、つぐみもグループ作成に成功したらしくぽややんとした女子と話している。ファイアとサンダーも一安心したのか、シド先生の前の教壇に座っている。名簿を見比べるシド先生、ぱたんとそれを閉じたところを見るとどうやら全員集まったらしい。
「これで全員だな。俺はお前らの担任になるシドだ。そこにいるのはEATの職人のキリクと武器のポット兄妹。NOTの授業によく手伝いに来るから覚えておくように。今回は顔見せのために集まってもらった」
新入生じゃなかったのかお前、という視線が俺に集まるがそんなのはどこ吹く風。俺は基本武器担当なので、武器の余りが出ない限りお役御免なのだ。だから頼む!全員しっかりパートナー作ってくれ!そしたらEAT昇格試験くらいしか会わずに済むぞ!特にそこのチャラいの幾人か!あえてどうこうするつもりはないが俺はお前らの何倍も強いぞ。だから喧嘩吹っ掛けてパシリにしようぜみたいな顔するな。わかるぞ!去年そうだったからな!言っておくがお前らではEATでパシリにされてるヒーロにすら勝てん。
EATとNOTにはそれだけ開きがあるんだ。腐っても戦闘エージェント育成クラス、毎日が戦闘を前提にしてる俺らとのほほん殺伐ウキウキライフのNOTでは戦闘経験値が違ってくるのは当然の話。まあNOTの中からEATに上がるやつもいるにはいるから例外はなくもない、かな。
「パートナーについては、自分の魂にあった人間を見つけるように。このクラスだけではなく他のNOTの人間も視野に入れておいてくれ。では、各自このプリントを取って解散だ」
そんなこんなでガイダンス中も特にやることがなかった俺はぼーっとしてるだけだったんだけど…俺いる?正直さっさと魂集めしたいんだが…まあ教官からのご指名だし、じっとしてるけど。
「あ、キリク先輩!今日はありがとうございました!」
「ん、ああ気にすんなよ。新入りは大抵へばる、武器ならなおさらな。ま、明日からは膝を笑わせないこった」
「えへへ…あれは…?」
「あ~~、パートナーの勧誘、か?ちっと強引だけどな」
「めめちゃん…」
つぐみの視線の先には彼女が話していたのほほんとしためめというらしい女生徒の姿。チャラ男という言葉を形にした男二人に絡まれている。どうすっかなあ、パートナー勧誘だったらあれだ、悪いんだけど介入すべきじゃないんだよね。そういう学校だから、だけど…ん?待てよ?あっちょっつぐみ!
「めめちゃん、いこ」
「春鳥さん…」
「んだよペチャパイ、お呼びじゃねーんだよ!」
「ぺちゃ…」
相手の女子を強引に連れていくことで対処しようとしたつぐみに罵声を浴びせる男子、クソ失礼な奴だな。ムカついたのでぶん殴って死武専流の修正を加えてやりたくなった。ただのパートナー勧誘なら別、だけど喧嘩なら話は変わってくる。思わぬ事故が起こるNOT同士の喧嘩は危ないけど殺し方を分かってるEAT相手ならきちんと手加減が効くからそっちの方が逆に危なくない。
「愚民が」
何やってんだあのお嬢様!?火に油を注ぐなよめんどくさいから…!あーあーあー…あー……
「シド先生、介入しても?」
「危なくなったら、な。自衛の手段を覚えないことには死武専での生活は厳しいだろう。お前が何時も守るわけではあるまい。よくわかるだろ」
「…そっすね。本気でヤバくなったら、いきます」
「それでいい」
シド先生は傍観するようだ、俺もそれに従うことにする。たしか…アーニャ、だったか?いかにも御貴族様という感じの彼女が火に油を注いだせいで本格的に喧嘩になりそうだ。既に相手の男はやる気満々である。武器に変身、出来てないな。頭が丸々残ってる、つぐみはどうやらまだ変身すらできないらしい。すったもんだあーだこーだやってるけど…いかんか、動くぞ
「自分の中のイメージを感じろ!魂の中にある鋭い刃だ!それが、お前の本当の力だ!」
「私の…力…?」
つぐみの身体が淡く輝く、武器化の兆候だ、おっ?いけるか?行けるなら俺が介入する必要はない、かね。穏便にはすまないだろうけど…暢気してたらつぐみの身体の光が収まってしまった。ありゃ?だめ?いかんな、シド先生も駄目かという顔をしている。相手も嘲りの表情で馬鹿にしてる。
「はっ!変身もできねえとはお粗末な武器もあったもんだぜ!」
「貴方もでしょ、少なくとも彼女の方が貴方よりも万倍ましでしてよ」
「クソお嬢様は口も減らねえな!ま、終わりだ!」
発破をかけられても変身できなかったつぐみがぺたんと座り込んでしまった。アーニャはそのまま素手で挑みにかかるようだ。うん、危ないので介入決定。ファイアとサンダーを背負ったまま素早く間に入り、短剣らしい武器の男を顔面掴んで止める。仮のパートナーらしい男は押しても引いてもびくともしないことに目を白黒させているようだ。
「キリク…先輩」
「まー、ただの喧嘩ならご勝手にどうぞってんだけど目の前で刃物で女が切りつけられるのを看過するのはちょっとな、おい後輩、こいつとパートナーが組みたいんだよな?」
ぱっと武器の男を放してやる。つかんだ時に魂の波長は覚えた。あとは…そっちのめめっつーほうか。つぐみの手を引いて立ち上がらせる、お前よくへたり込むやつだなー。
「そ、そうだ!別にこの学校じゃふつーのこったろ!」
「ああ、パートナー探し大いに結構、でも言われてたろ?魂が合うやつ探せって。誰でも彼でもいいわけじゃねーんだよ、あー、めめっつったっけ。ちょっと手、貸して」
「…へ、私ですか?はい、どうぞ」
「おーう、さんきゅ」
「何してますの…?」
差し出せれためめの手を軽くとって魂の波長を探る、リズムはうん、こうね。これは…あわねーな残念ながら。やり取り見てこれは波長が合うわけねーわと思ってたんだけど残念ながら予感的中だ。まあこれだけ言っても納得しないだろうから職人の男を手招きして武器の男をそのまま受け取る。んでそのままめめに手渡した。
「持ってみ?」
「えっ、はい…?っ!?おも、い…です…」
「はぁっ!?何で!?」
武器男を受け取っためめはまるで大岩を渡されたかのように小さな短剣と顔面を取り落とした。地面に刺さった、武器男がなぜだなぜだと喚いている。そりゃ当然、魂の波長が合わなかったら武器は持つことすらできない。特にこのマイペースなタイプは職人が武器に合わせるんじゃなくて武器が職人に合わす感じじゃないと組めんだろう。廊下に刺さった武器男を引き抜いて仮パートナーである大柄な男子に渡す。
「今ので分かっただろうけど、お前と彼女じゃ魂の波長が合ってない。その時点でパートナーを組むのは不可能だ、今おまえを握ってるヤツとなら波長が合ってるみたいだしそれじゃダメなのか?」
「そっれ、は…!うるせえ!突然出てきて意味わかんねえことほざきやがって!先輩だか知らねえけどなあ!年下がイキってんじゃねえよ!」
「後悔させてやる!舐めんじゃねえ!」
あっそうなります?どうやら出来るだけわかりやすいように努めたと思うんだけどどうやら彼らの堪忍袋を破いてしまったようだ。まあそういう風に誘導したんだけど、多分一発やって体に教え込まないとダメな感じだと思ったから。後頭部を掴んだ状態で繰り出された斬撃を手首を叩くことで反らす。つぐみを心配して傍にいたファイアとサンダーが俺が戦いだしたのを見てこっちに寄ってくる。
「先輩っ!?あっ、ファイアちゃんサンダーちゃん、だめっ!」
「ほっときなさいな。EATなのでしょう?その小さい子も」
「いい機会だ、春鳥、変身できないならよく見ておけ。魂で感じろ、彼らの武器としての覚悟を。いい経験になる」
いつの間にかシド先生が近くにやってきて、ファイアとサンダーを引き留めていたつぐみの手を放す。二人は任せて!と胸をポンと叩いてつぐみに見せてからこっちに小走りでやってきた。そのまま光に包まれていつも通り俺の両腕に装着される。ガントレットのような壺を見た彼ら、特に自分より一回り年下の兄妹が完璧な武器状態に変身したのをみてギリギリと歯を鳴らしている。
「…武器に、なっちゃった…!」
「ハッ、何かと思えば刃もねえ雑魚武器じゃねえか!EATってのも大したことねえんだな!」
「いい言葉を教えてやろう。「姿形は問題じゃない。問題なのは魂だ」見てくれだけで判断すると痛い目見るぞ」
軽く二人に魂の波長を送ると炎と雷が走った。流石にヤバイと分かったらしく、ひどく青ざめている。まあきちんと殴るときは加減するし火も雷も使わないから。雄たけびを上げて飛びかかってくる彼らを、右のファイアで武器ごと殴り飛ばす。炎を消して、手加減も加えた一撃であったがカウンター気味に突き刺さったおかげでかなりの距離をぶっ飛んでいった。
「すっごい、キリク先輩…!」
「キリク・ルング、現在悪人の魂172個、魔女の魂1個…デスサイズに一番近い男と言われている。星2への昇格も近い有望な職人だ」
「やめてくださいよシド先生、悪人の魂はともかく魔女の方は偶然なんですから。それに、追いつかれそうで焦ってるんすよ、特にマカのやつに」
「二人分でなければすでにデスサイズを作ってるだろうに、おい、保険室のメデューサ先生に連絡しろ。二人追加だとな」
「わっ、ファイアちゃんサンダーちゃん、凄いんだね~!」
どうだった!?と人に戻ったファイアとサンダーがつぐみの身体をよじ登ってほっぺとほっぺをくっつけている。チャラ男コンビが保健室に搬送されてくのを横目に見ているとめめがつぐみにお礼とパートナーの申し込みをしていた。変身できなくていいの?と聞いた彼女に頷いているのでパートナー成立、かと思いきやアーニャがつぐみの服を掴んで待ったをかけた。まさかの展開に固まるつぐみ、俺はそれを大変だなと他人事のように見つめるのであった。
ノットを多少改変。まああそこで訓練もなく土壇場で武器になれるってつぐみさん凄すぎぃって話なんですけど。
ここではキリクくんに正論で殴ってもらって物理でも殴ってもらうことにしました。万能職人である彼だから出来ることですね。あと魂感知に長けたマカとかシュタイン博士もできそう。あとオックス君も魂感知できるらしい、あのクラス有能人物の集まりやんけ