壺職人憑依記 ~壺がデスサイズで何が悪い~ 作:パラスチミン
「あの、キリク先輩。いろいろ、ありがとうございました。何度も助けてもらっちゃって…」
「ありがとうございました~キリョク?先輩」
「感謝しますわ。お強いのね」
「キリクね、キリク。そんなぽややんとしてるとその内またトラブルに巻き込まれるぞ。俺がいりゃあまあなるたけ助けてやれるけどここは死武専、自衛も頑張ってくれよな。とくにつぐみ、変身できないと何も言い返せないからな、その内パシられるようになるぞ」
「ぱ、パシリ!?」
「ああ、弱いやつには基本発言権はないからな。弱肉強食の学校だぜ、強ければそれなりの自由があるよ」
「それはあなたも、かしら」
「否定はしない、座学でなくてもある程度見逃されたりとかはある。大体シド先生の手伝いだからだけどな。俺の場合課外活動でいない方が多いし。出席日数の誤魔化しをしてもらってるよ」
一難去って、まあ喧嘩は日常茶飯事の死武専だから怪我人が出ようが誰も気にすることなく手が空いた奴が保健室へ運搬してくれる。タチが悪いやつは運搬費とか言って生活費チョロまかしたりとかしてるぞ。ああ、そういえば
「お前ら住む場所決まってんのか?」
「えっと、女子寮らしいんですけど…案内の人が」
「あ、いたいた。あれ?キリク君、珍しいね、授業後に校内に残ってるなんて」
「あれ?エターナルフェザーじゃん。もしかして新入生の案内ってお前?」
「うん、そうなの!あとホアンって呼んでよ。女の子や後輩相手ならまあ我慢できるけど…同年代の男の子にそう呼ばれるのは…」
「死武専のルールだろ、校外ならともかく校内ではそうはいかん。EATの俺が規律を破るとか何の冗談だよ」
とててとやってきたのは修道服タイプの死武専制服を着た眼鏡でおさげの女子、いつぞやのEAT昇格試験の時のバタフライナイフの子だ。落ちてからも腐らず頑張ってるようでちょくちょく話したり練習に付き合ったりしてる。現在の彼女のパートナーはEAT行きに消極的らしいので、まあたまに手伝うくらいの感じでな。
エターナルフェザーという同期のキムっていうやつに勝手につけられた上に命名料をせびられたという踏んだり蹴ったりの名前をたいそう恥ずかしく思ってるらしく、本名のホアン・ティ・マイ、つまりホアンって呼んでと軽く頬を染めながらお願いしてくる。で、俺は死武専のルール上校外ならともかく校内でそうは呼ばんって言ってるだけなんだけどな。
「えっと…」
「ああ、ごめんごめん!私、エターナルフェザーっていうの。あなたたちを女子寮に案内しに来たわ。よろしくね」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
「んじゃあ、お前ら元気でやれよー。ファイア、サンダー、行くか。帰りにカフェ寄ってアイスでも食べて帰ろうな」
わーいやったーアイスー!と目を輝かせてぴょんぴょん跳ねて俺に抱き着いた相棒たちを抱きとめてさっさとその場を去ることにする、がエターナルフェザーが俺の服のすそをつまんで引き留めた。もじもじと伏し目がちに何かを言いたそうにしてるので先んじて尋ねてやろう。
「どうした?」
「えっと、キリク君お願いがあるんだけど…」
「練習か?今日は課外授業ないからいいぞ。DEATH BACKS CAFEにいるから案内終わったら来いよ」
「ほんとっ!?ありがとー!じゃ、みんな行きましょうか!」
「えっあの…はい?」
「どこへ行くんでしたっけ?」
「女子寮ですわめめさん。さっきから大丈夫なのですか貴方は?」
そう言って早足で彼女たちは去っていった。どうやらエターナルフェザーは自国の家族のためにできるだけ稼ぎがいい仕事に就きたいらしく、国家公務員かつ高給な死武専関連機関への就職を目指しているのだそう。だから、EATまでもう少しだという現状がひどくもどかしいそうなのだ。加えてパートナーがEAT入りに消極的なら猶更練習機会は減る。で、同期でどんな武器でも魂の波長を合わせて使うことが出来る俺に練習に付き合ってほしいって話なわけだな。あと動きのサポートを身に着ければEAT入りは確実だから。
「…いらっしゃい」
「どうもマスター。俺カプチーノ、こいつらにはバニラアイスとオレンジジュースね」
「はいよ、量は?」
「でかいの。待ち合わせすんだよ」
「了解、またあの嬢ちゃんか」
「まぁね」
やってきたのはデスシティーの隠れた名物カフェであるDEATH BACKS CAFE。シックな内装と落ち着いたジャズが流れる店内、不愛想だが腕は確かなマスターが切り盛りしている。あとよく死武専のやつがバイトしているのも特徴。今日はいないみたいだけど。俺のお気に入りなので専ら俺が待ち合わせするときは大体このカフェを使う。裏メニューで量を無料で増やしてくれるのでありがたいことこの上ない。
「うまいか?」
おいしー!とキラキラと瞳を輝かせながら小さな手でスプーンを握ってバニラアイスを掬って口に頬張る作業を続けるファイアとサンダー。おいおい、そんなに急ぐと…ほら、頭がキーンとなるだろ。誰もとらねえからゆっくり食えよ。え?一口くれるのか?おう、ありがとよ。
「相変わらず美味しいなマスター」
「…兄妹じゃなくて親子みたいだな…」
「はあ?そんな年離れてねーよ。おいファイア、口元ベッタベタだぞ、ほれこっちむけ」
「そういうところだよ」
なんだかよくわからんマスターの突っ込みを受けながら1時間ほどカフェで時間を潰した。じりじりと熱く照らす太陽の笑い声が止んでいびきが聞こえだした夕方ごろ店の扉が結構激しく開いて俺の待ち合わせ相手がやってきた。なぜかつぐみを連れて。
「ごめんなさいキリク君!遅くなっちゃって…!」
「キリク先輩、お邪魔します!」
「いや、それはいいんだけど…なんでつぐみがいるの?」
「実はその~、武器としての練習をするって聞いてエターナルフェザー先輩に連れて行ってくださいってお願いしてたんです」
「それでちょっと時間がかかっちゃったわ、待たせてごめんねキリク君」
「へえ、真面目に武器やろうとしてるのか、いいぜ。ついてきても。マスター、これお金ね」
「…おう。遅くならないうちに寮に戻りな」
マスターに代金をきっちり払って店を出る。昼に比べて随分と涼しくなった、向かう先は運動公園のようなだだっ広い広場。死武専生がよく自主練に使っているポピュラーな場所の一つだ。テキトーな場所に陣取った俺たち、俺はエターナルフェザーに手を差し出す。
「ホアン、ん」
「お願いするわ」
そう言ってエターナルフェザーが変身する。大ぶりのバタフライナイフ、刃をしまった状態であるそれをパチンと展開して刃を出した状態で構える。自主練に付き合ってるうちにエターナルフェザーは意思の汲み取りとそれによるサポートを大分習得してきた。経験がないからできなかっただけで数をこなせば出来る努力家タイプだったのだ。ファイアとサンダーは出身の家系の関係で物言わぬ状態でのコミュニケーションが当然のことだったから最初からサポートできたって話らしい。
「ん、けっこう上手になってきたな。波長の方は感じ取れるか?」
『大丈夫よ、貴方が合わせてくれてるもの。次は…こうかしら?」
「正解、連続で行くぞ」
『任せて』
ナイフが連続で風を斬る。EAT昇格試験であった時より格段にレベルが上がった。これならその内EATに来るだろう。近ければ…そうだな夏の終わりくらいか。死武祭前のテストで上がれるかもしれない。持ち替え、逆手、順手、刺突、柄による打突…いくつかフェイクを混ぜてみたけどうまいことサポートしてくれている。大丈夫そうだな。
「オッケーだ、まあこの調子ならEATに上がれるだろ。1年付き合ったけど、大丈夫だぜ。あとはEATでパートナーを見つけるこったな。ああ、俺はダメだぞ」
「…どうしても?」
「そんな冗談口にできるなら余裕だな。つぐみ、どうだった?」
「はひっ!?いや…その…すごい、としか…言えなくて。早く変身できるようになりたいです」
人の姿に戻ったエターナルフェザーが口をツンと尖らして不服そうな顔を形作るが、彼女なりの冗談だろう。武器3つを面倒見る甲斐性は俺にはないからな。目を皿のようにして俺たちを見ていたつぐみに話をするとびくっとなりつつもあたふたと感想を述べてくれる。変身、ねぇ…
「わり、ちょっと失礼するぞ」
「ひゃっ!?きききキリク先輩何をっ!?」
「魂だよ、人間の魂ってのは大体この位置にしまってあるんだ。仮に死んだらここから出てくる。お前の波長は、こうか。OK、わかった。つぐみ、目をつぶってここに集中しろ」
俺は唐突につぐみの胸の中央の少し上、胸骨の始まりあたりに拳を当てる。ちっと荒療治になるけど、行けるはずだ。俺はつぐみの魂の波長を覚えてそれをチューニング、俺の方から同じ波長をつぐみに送り込んで疑似的に魂の波長を大幅に増幅させた。動揺してたつぐみもよくわからないであろうまま大きくなる魂の波長に集中していく。
「いいか、よく感じろ。お前の中、底の底にある刃を。それがお前の形だ。あとは、その形が自分自身であると強く思い込め、見せてくれよ。お前の貫きたいものを」
「…私の…形……んんっ……!」
眉をぎゅっとひそめたつぐみ、暫く唸っていたけど、見つけたのか体が光りだした。武器化の兆候に笑顔になる。そのまま光は強くなってつぐみの形を変えていく、ポール系かな。穂先、その下に鎌、その逆側には斧が付いている。ハルバードというやつだな。光が収まり俺の手の中に納まったつぐみの驚く声が聞こえる。
『これが…私…?』
「まあ大甘で30点ってところだな」
「そうね」
『ガガントス!?何でですかっ!?』
「刃がついてない、ほれ」
俺がつぐみの刀身を触る。本来であれば鋭い刃が付いているべきそこにはのっぺりとした板になっていた。死武専ではNO EDGEと呼ばれるこの状態は、武器本人の覚悟と自覚が足りないから起きる現象、と言われてるが実際詳しいことは分からない。解決した事例は無数にあれどそれ自体に共通性がない、つまりは武器が自分で解決するしかない状態なのだ。完全武器化は出来ても刃がない状態はかなり危険な状態。点数が低くなるってわけさ。
「まあ、職人がいる状態ってのを教えてやる。ちょっと振り回すぞ」
『は、はいっ!』
ビュンビュンとつぐみを振り回す。重心自体に若干の癖はあるが扱い易い部類だな、突き、斬撃、打突の連打、うーん、まこんなもんだろ。コン、と石突を地面に落として静止。なんだ、武器になれたじゃないか。サポートはドヘタクソだけど初心者ならばそれも当然。現状EATを目指す状態でもないつぐみにこれ以上を要求する理由はないしな。
「戻っていいぞつぐみ」
「は、はい!キリク先輩、ありがとうございました!その…ちょっと、ビックリしましたけど…」
「ん、ああ悪い悪い。さて、そろそろ帰るか。ホアン、また練習したくなったら言えよ。空いてたら手伝う」
「ありがと、キリク君。じゃあ帰りましょっか」
人の姿に戻ったつぐみが顔を赤くしながら頭を下げる。そういや悪いことしちまったな…問題の解決を優先したくて若干強引な手段を使ってしまった。空気を変えたかったのかパタパタと手を振ったつぐみが別の話題を提供してくれる。
「あの、キリク先輩…一つ聞きたいことがあるんですけど…お昼、めめちゃんがあの武器の男の人を持てなかったのはなんでなんですか?」
「ああ、あれはな。魂の波長が合ってなかったんだよ。職人と武器は魂の波長が合わないと武器を持てなかったり最悪怪我したりするんだ。めめとあいつが合わなかったから武器が持てなかったってワケ」
「えっじゃあもしかしたら私とめめちゃん、アーニャちゃんも…!?」
「ああ、もしかしたら合わないかもな。だから持ってもらえ、変身できるようになったろ?持てるかどうかもパートナー選びのコツだぞ」
「じゃあキリク先輩が私を持ったのも魂の波長っていうのが合ってたからなんですね!?」
「いや、それは違うのよつぐみちゃん。キリク君はね、自分の波長を武器の方に合わせて使えるようにしちゃう
「だから俺がNOTの授業に引っ張り出されてんだよ。あぶれた武器の相手役としてな。だからお前もあぶれんなよ、俺の仕事が増える」
「へ、へ~~~」
若干アホの子なのか頭に?マークがたくさん飛んでるつぐみ。わかんないか~、ま、そうだよな。これは魂学っていう死武専の授業で習う分野なので今後の授業で理解できるようになると思う。ジャングルジムで遊んでいたファイアとサンダーに手招きをして戻ってきた二人をいつも通り抱き上げる。そのまま地平線に沈む居眠り太陽に照らされて俺たちはそれぞれの寮に帰るのだった
ノットを呼んでて思うこと。実はエターナルフェザー先輩はめちゃくちゃ可愛いのではないのかということです。眼鏡っ娘、まじめに見えるが冗談も言っちゃう茶目っ気、後輩にご飯を奢る優しさ…あと武器携帯がバタフライナイフっていうのもなんかいい。
そんな話はここまでにして、次回もよろしくお願いします