ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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SCPの可愛いイラスト・漫画を検索したいのに、必ずグロとかホラーの方向性のやつが出てきます。助けてください。



なまえがまだないねこです ②

 というわけで『ねこ』の名前を考えることになった僕である。

 

 自室に入って、ノートを広げて、そして固まった。

 

 名付けというのは難しい。小学生の頃に授業の一環で育てていたトマトに『火星くん』と付けた経験、それ一度きりしかない。

 

 僕の名前、『(まだら)』は、育ての親である母が付けてくれた名前だ。

 

「たくさんの色が入り混じる斑模様のように、たくさんのことを経験して優しい子になりますように」という願いが込められている────と、いうことは特にない。これは小学校の作文で『自分の名前について』みたいなお題が出たとき、母が急遽対外的に作った理由だ。

 

 

『アンタの名前はね、まぁ、姓名判断? っていうかなんかそういう感じで付けただけなんだよ』

 

『だって、どういう名前が良いか? なんて、まだちっさいアンタにはわかんないだろう。名付けなんて一方的な行為だし。まぁアタシの仕事は全部そうだけど。ぶっちゃけ人間社会では名前って概念が必要だから、事務的に従ってるだけでさ』

 

『血縁の上に自動的に絆が生えるわけがないように、親の真摯な祈りが込められているからといって、それを子がマトモに受け入れる必要はないってことだ』

 

『だからね、(まだら)。アンタの名前はアンタのモノなんだから、その名前を受け入れるのも、自分で変えるのも、アンタの自由だよ』

 

『しっかし、人間ってまだ家族愛とか崇めてんのか。面倒くさいねぇ、面倒くさいけど宿題なら仕方ないか……』

 

 

 ────と、こんな感じだったような気がする。

 

 特に自分の名前に対して嫌悪感も不便もなかったので、僕はこれまで『井上斑』を続けているのだが。

 

 ああ駄目だ、余計に難しくなってきた。もう名前付けなくてもよくないか? 

 

 しかし、個体を種族名で呼ぶのは失礼じゃないか? いや、猫にとっての失礼の範囲がそもそも判らない。

 

「せめて『ねこ』と話せたらいいんだけど」

 

 そうすれば、名前の方向性とか決められるのに。

 

 考えすぎても血管が詰まるだけだ。一旦お茶でも飲もう、と立ち上がったとき。

 

『ねこ』がいた。

 

「どうしたんですか?」

 

『ねこ』は答えない。

 

「名前、どういうのが良いんですか? ……そもそも、付けてほしいって思ってますか?」

 

『ねこ』は応えない。

 

 そりゃそうか。

 

 唐突に、何かが脳裏を過った。

 

 それは数字だった。シンプルな、3桁のナンバー。

 

「『040』……」

 

 どこで聞いたのか、誰から聞いたのか、よく覚えていないけれど、その番号が頭から離れない。

 

「……そうだ」

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

「ブライトさーん!」

 

 ブライト博士がSCP-3715────井上斑に“先生”と呼ばれる存在と話していると、居間に斑が飛び込んできた。

 

「名前! 『ねこ』の名前、決まりました!」

「はぁ、なるほど。それは良かった」

 

 斑は随分と満足げな顔をしている。よほどの自信作らしい。

 

「で、名前なんですけど……『()()』ってどうですか!?」

 

 部屋に沈黙の帳が降りた。

 

 ここにいる存在で口がある者は、斑とブライトしかいないから、2人が喋らなければ当然静かになるのだが、とにかく空間は静まりかえっていた。

 

「お……お塩? solt?」

「はい、調味料の、お塩です! 正直オレオと迷ったんですけどやっぱり……ブライトさん? どうして明後日の方向を見て震えてるんですか?」

「んっ、んー、な、な、何も? ところでもう一度言ってくれる?」

お塩です! オレオと迷って」

「オッッッッッ」

 

 ブライトは背中を伸ばしてはいられなかった。先ほど飲んだばかりのジャスミンティーを噴き出しては畳が汚れてしまう。

 

 生理的な涙が滲んできたのを拭き取ると、辛うじて声を絞り出した。

 

「いっ、いいっ、いんじゃないかな? お、おし、お塩……おしお……オレオ……んぐっ」

「そうですか!」

 

 斑は満面の笑みで『ねこ』にも尋ねた。

 

「で、あなたはどう思います? 『お塩』で大丈夫ですか?」

 

『ねこ』は答えなかった。

 

 答えなかったが、ぴょんっと斑の膝の上に乗って丸まった。

 

「えー……これは『YES』でいいんでしょうか」

「うん……いいよ凄くいい……君ってヤツは想定以上に最高……お、お塩てふふふふ」

 

 ブライトは、まだ腰が砕けたままだった。“先生”はというと、そんなブライトと斑を心配そうに見下ろしていた。

 

 すると、『ねこ』改め『お塩』は、ブライトのそばまでテクテク歩いていって、

 

 二度目の『共振“猫”パンチ』を炸裂させた。

 

「ヴァアアアアアアア!!」

「駄目ですよ『お塩』さん、ブライトさんは病み上がりなんですから、そんな戯れ方は……」

「おっ、お塩……ごめんやっぱ耐えられなアアアアアア!!」

「ああっ、また!」

 

 

 

 

 ねこです。

 

 ねこは『おしお』になりました。

 

 はかせのひとはねこをわらいます。

 

 はかせのひとはねこをわらうのでしばきました。

 

 よろしくおねがいします。

 

 

 




・お塩(SCP-040-JP)
お塩になったねこ。名前とかいう人間の文化に興味はないが、ブライト博士の反応がうざかったので一発しばいた。


・ブライト博士(SCP-963)
『Bright』には日本語で『輝き』という意味がある。つまり輝き博士。
もっとカッコよく描写したいのだが、なんかねこにシバかれる。


・“先生”(SCP-3715)
本名はベティ・マイルズ。小学生時代の斑が『火星くん』と書かれた名札を付けたトマトを持って帰ってきたとき、苦笑いしか出来なかった。


・井上斑
メタ的な名前の由来は、井上トロとニャンコ先生(斑)。母親の正体とは何も関係ありません。ちなみに母親の通称は“先生”曰く『おイワさん』。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-040-JP “ねこですよろしくおねがいします”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp

ブライト博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file

SCP-963 “不死の首飾り”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-963

SCP-3715 “それほど繊細でもないお茶”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3715
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