※SCP-2316のゾッとするイメージを崩したくない方は、この先の話を読むことをオススメしません。
“君”は覚えているはずだ。
彼らのことを、ひとりひとり、覚えているはずだ。
ずっと一緒だったじゃないか。
みんな“君”を待っている。
湖の中で、75年の秋から、ずっと。
“俺”の声が聞こえているだろう?
彼らの顔が見えているだろう?
“君”と“俺”だけ生き残った。
さあ、戻ってくるんだ。
“君”は水中の死体に見覚えがあるは
「わっ、死体かと思ったらただの枯れ木じゃん! うわー、ビビったー、マジでビビった」
……聞こえているだろう?
「焦ったー。危うく警察と救急車呼ぶところだった。寿命縮んだかもなぁ」
みんな“君”を待っていて、
「あ、早く帰らないとダーウィンが来た始まっちゃう。やっばい、走ろーっと」
えっ、ちょっと、
「今日なんだっけな、あ、ガラパゴス諸島だっけ。楽しみー」
……。
××××
「────それが去年の話だ。仕方ないから“俺”は湖から出て、自分から“君”に逢いに行くことにした……それなのに」
アメリカのハイスクールによくあるデザインの制服を着た、高校生くらいに見える少年は、露骨に顔を顰めた。
「なんで財団がいるんだい? 機械仕掛けの神に忘れられて、くたばったんじゃなかったっけ?」
「生憎私だけ死に損なってね。君はどうやらまだ成仏できてないらしいな、SCP-2316。立川から聖人でも呼ぶ?」
軽口を叩きながらも、ブライトは内心冷や汗をかいていた。
SCP-2316は、あまりにも危険な異常存在だ。水中の死体を見た者を、問答無用で湖に引き摺り込み、死体を増やす認識災害。オブジェクトクラスは堂々のKeter。収容そのものは可能なSCP-040-JPとは、比べ物にならないのである。
それを一応封じ込められていたのは、あれの手が届く範囲が、湖周辺に限られていたからだ。
だというのに、まさか人型実体を取り、自由に動けるようになるとは。
「……あれからというもの、“俺”たちは『なんか死体っぽいものが見えるドッキリスポット』として認識されるようになった。全く忌々しいよ」
「なるほど弱体化しただけか」
校舎を失い地縛霊から浮遊霊にジョブチェンジしたSCP-3715とほぼ同じである。
「元はといえば財団の仕業だろう。彼らがしたことを、“俺”は全部知っているんだ」
「凄い理不尽……」
SCP-2316の異常性は、あまりにも悍ましいものだ。しかし、現在の彼または彼らは、見た目も相まって拗らせたティーンズにしか見えない。
井上斑のアレは、やはり認識災害を無効化するモノのようだ。SCP-2316ですら逃れられないとは、いやはや恐ろしきかな。
そのとき、SCP-2316とブライトの間に、手書きメモがハラリと落ちてくる。
『教え子ではないとはいえ、教師として貴方の行為は見過ごせません。そろそろ斑くんのストーキングはやめてください』
「そろそろって何? 私が来る前からストーカーなの? それを“先生”に何度も注意されてるの?」
「アンタみたいに罪科を背負わず、日和ってられる死者ばかりじゃないよ、マイルズ先生。全く、これだから大人は。何も分かってないな」
『(´・ω・)』
SCP-3715、
いつの間に日本の顔文字覚えたんだ、という感想が浮かびつつも、ブライトは肩をすくめて2316と向き直る。
「ともかく、今日のところは湖に戻ってくれると助かる。これからSCP-04ゲフンゲフン、……ではなく、『お塩』の命名記念パーティーで鍋をするんだ」
ブライトは、まだ『お塩』がツボに入っていた。『オレオ』も怪しい。
『貴方もどうですか?』
「なんで誘うのかな3715……」
『こんな子を外に放ったらかしにするわけにはいきません』
「そもそも君たち幽霊は物質的な食事とか要らないのでは……?」
SCP-3715もといベティ・マイルズは、たとえ肉体が死しても信念は死んでいない。
いくら危険でも、ひとつ前の世界で多くの人間を殺していても、
すると、ちょうど今回の戦犯かつMVPが帰宅した。
「ただいま帰りましたー! 鍋の具材買ってきましたよ!」
足元に『ねこ』改めお塩を連れ、買い物を済ませてきた井上斑である。
斑は居間に入り、人型実体を取るSCP-2316を見た途端、「あっ」と声を上げた。
「バーチウッドくん、来てたんだ。これから鍋するんだけど一緒にどう?」
バーチウッド。母校の名を自分の偽名にしているのか、この認識災害は。
すると2316は眉をひそめて言う。
「……ねぇ“君”。心に虎でも飼ってるのかい?」
「え、なに、なんの話? 山月記? 臆病な自尊心と尊大な羞恥心のこと?」
斑の足元に座るSCP-040-JPが、SCP-2316を睨みつける。2316もそっくりそのまま返した。
明らかに不服げな顔をするバーチウッドをよそに、斑は彼のことをお塩とブライトに紹介した。
「この子、バーチウッドくんって言うんです。近所に住んでる留学生で、たまに話したりするんですけど」
「ああ……君、そういう感じで通してるのか」
「悪いか?」
世界人類の平和的には問題ないが。
SCP-040-JPが飼い猫。SCP-2316が近所の留学生。井上斑の見ている世界は、実に幸せでよろしい。
「で、こっちがブライトさんと飼い猫のお塩さん。ついこの間からウチに住むことになったんです」
「へーそうなんだ。
なんて白々しい。
しかし、相手が去年あっさり弱体化されたミーム汚染系SCiP(見た目は高校生、頭脳も高校生)ということを考えると、どんな生意気も許せる気がするブライトであった。
元SCP-2316現バーチウッドは、さっきまで散々放っていた邪気を消して、子どものように取り繕った。
「ちょうどお腹減ってるところだし、鍋には付き合おうかな」
「よし、じゃあ僕、具材とか切ってくるから。少し待っててくださいね」
斑が買い物袋を持って台所に消える。
居間には、またもひりついた空気が充満した。
ねこです。
ねこはおしおです。ねこをすきなひとのそばにいます。よろしくおねがいします。
が、ねこをじゃまするひとがいてじゃまです。
「……『お塩』とかいった? 無害な猫のフリして“君”に付き纏うのはやめてもらえるか?」
ねこをすきなひとは“きみ”ではなくねこをすきなひとです。
“きみ”なんてどこにもいませんですのに、ねこをじゃまするひとは“きみ”をみます。じゃまです。
「どうせキミも“俺”たちのお仲間だろう? “君”を食い散らかしたいだけなら余所へ行ってもらおうか」
ねこはすいちゅうのしたいにみおぼえがあります。きいていますか。
「キミがあってどうするんだ」
ねこです。ねこはどこにでもいます。みずうみにいます。あなたのなかにもねこはいます。あなたたちのなかにもいます。
「俺たちはずっと“君”を待っているんだ……俺たちが卒業するはずだった75年の秋、あの日からずっと」
ねこはいつでもいます。いつでもみています。
いつからもみていますです。ひとがいて、いなくなって、またうまれたときもそこにあります。
「俺たちはみんな一緒なんだ。一つなんだよ、そういうものであるべきだ。そういう風に
ねこはねこです。ねこはいっぴきです。
よろしくおねがいしません。
「……“先生”、やはり『脳内で喋るな』と指導してもらわないと困るんだが。替えのない脳味噌が割れそうだ」
『(´・ω・)』
「まだ落ち込んでるのかな?」
××××
ちょっと多めに具材を買っておいて良かった。バーチウッドくんが食べる分もこれで足りるだろう。
僕はそう思いながら、キャベツを一枚一枚剥いて洗う。
お塩さんは猫だから、熱いものは食べられない。でも具だけなら食べられる。お高めのささみチキンを買ってきたし、完璧だ。
ところで随分居間が静かだけど、知らない人同士で放置されたら、やっぱりお互いに気まずいだろうか。
バーチウッドくんは良い子だけど、ブライトさんみたいな知らない大人といきなり引き合わされたら困るだろうか。
早いところ調理して戻ろう。
・井上斑
水中の死体全スルーとか水中の死体より怖い。
・バーチウッド(SCP-2316)
井上斑を“君”認定し、湖に引き込もうとする悪い高校生。報告書のギミックがヒヤッとするので注意。
でも何十年も学生時代の仲間である“君”を探し続けるって何かエモい。
・お塩、ブライト博士
コイツいきなり現れて何やねん・・・・と思っている。恐らく初めて気が合った。
・“先生”(SCP-3715)
たとえketerクラスのSCiPだろうと、学生は学生なので、ちゃんと監督しようとしている責任感強めの教師。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-2316 “校外学習”
著者 djkaktus
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2316