ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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SCP-2316 “校外学習” ②

 ぐつぐつと煮立つ出汁。まろやかな鍋の香り。温かい食卓────とはいかない。

 

 何故なら、認識災害系SCPオブジェクトの2大巨頭が、井上斑を挟んで火花を散らしているからだ。

 

「バーチウッドくん、さっきからお塩さんと見つめ合ってるんですよね……何か通じ合うものがあるんでしょうか……」

「まぁ通じ合うものはあるだろうね」

 

 それが、精神衛生上好ましいかどうかは置いといて。

 

 斑は鍋の中身をぐるぐるかき混ぜながら言った。

 

「お塩さんの分は別にあるし、“先生”の分は先によそっておくとして……バーチウッドくんとブライトさんはどのくらいの量欲しいですかってあー!!」

 

 斑は喫驚した。鍋の上で唾を飛ばすようなことはいけないとはわかっていながら、そうせざるを得なかった。

 

「バーチウッドくん、もうお肉全部取ったの!?」

「成長期なんだよ“俺”は」

「現役高校生の食欲すごいなぁ……」

 

 取り皿に茶色い山を築き上げたバーチウッドは、涼しい顔で牛肉を屠った。

 

 何が成長期だ、現役高校生だ。没年が1975年なんだから、とっくに精神年齢オジさんだろ君は。

 

 そう言いたくなるのをぐっと堪え、ブライトは恨めしげにバーチウッドを見た。せっかくのお肉が。紅玉の至宝が。国産黒毛和牛が。どんどんSCP-2316の中に収容されてしまう。

 

 しかし、斑は肉を軒並み奪われたにも関わらず笑顔で、袋から新たな発泡スチロールを出した。

 

「じゃあ追加のお肉入れますね」

「チッ」

 

 抜かりない男だ。飼い猫が猫じゃないことにはちっとも気がつかないのに。水中の死体に見覚えがないのに。

 

 しかし、このままではSCP-2316に全ての肉を奪われてしまう。

 

 復活直後ということもあるし、そもそもこの身体は体力がなさすぎる。財団を再び設立する第一歩として、肉は必要物資なのだ。本当だ。ただ食欲に身を委ねているのではないのだ。

 

 そのとき。

 

『ねこ』と目が合った。

 

 

 

 

 ねこです。おしおです。おしおはねこです。よろしくおねがいします。

 

 ねこはねこではないのであついもたべられます。あついはきらいですがあついをたべます。

 

 にくがあります。なくなります。ねこをじゃまするひとがにくをもっていきます。

 

 ねこは、はかせのひとがほろぶのをこのみます。

 

 が、ねこをじゃまするひとはねこをすきなひとのこころにいつこうとします。

 

 ですので、ねこはねこをじゃまするひとがきらいですので、はやくなくなってほしいですますです。

 

 ので、

 

『たすけあい』をしてやります。

 

 

 

 

 SCP-2316もとい、井上斑に『バーチウッド』と呼ばれる少年は、ハイペースで肉を取っていた。

 

()()は集合意識だ。胃の内容量は北海道ひとつ分でも足りやしない。

 

 しかし彼らは、そもそも肉なんて食べる必要性がない。これは嫌がらせだ。財団と、謎の認識災害への。

 

 状況は彼らによる一方的な蹂躙に終わるかと思われた。

 

 だが、何枚目かの肉を鍋から取り上げた瞬間。

 

 

 

 ねこがいます。よろしくおねがいします。

 

 

 

「ぎゃっ!!」

 

 バーチウッドは頭からひっくり返った。

 

「どうしたバーチウッドくん? え、なんか虫とかついてた?」

「う、ううん……そんなことはない……」

 

 牛肉が『ねこ』に見えた。

 

 馬鹿な、そんなはずはない。たった一瞬でも、視覚に干渉されただなんて有り得ない。

 

 こんなちっぽけな虎如きに。

 

 頭を振って『ねこ』を追い出す。顔を上げると、それはそれは良い笑顔で肉を召し上がっている、首飾りを付けた人間と『ねこ』が見えた。

 

「いやー、久しぶりに文化的な食事にありついたなー。職場にいた頃は泥食っても気が付かなかったからなー」

 

 ねこです。たにんのこころといっしょにたべるにくはうまいです。

 

 ナメられている、とSCP-2316は焦った。

 

 もういい、財団はどうでもいいから“君”の方が先だ。

 

 覚えているはずだ。みんな待っているんだ。知っているだろう、聞こえているだろう、“俺”の声が────

 

「このしいたけ見覚えがあるような……」

 

『したい』じゃなくて『しいたけ』に見覚えがあってどうする。洒落(ジョーク)にしても低レベルすぎる。

 

「あ、これ猫の形じゃん! 見てくださいブライトさん、猫の形のキノコ! すごい、奇跡!」

「そうだねミラクルだね」

 

 物理的に湖に引き込んだ方がまだ早いんじゃないかとすら思えた。

 

 うんざりだ、こんな世界。

 

 “君”が見つかる前に人類が皆滅び、自分たちを抑圧していた財団がいなくなり、巻き戻った世界。

 

 皆生き返った。

 

 でも、自分たちは、取り残された。

 

 75年の秋に、ずっと、置き去られたまま。

 

 誰も湖の死体に見覚えがない。誰も“俺”たちの声を聞かない。誰も彼らを知らない。

 

 どうして。

 

 どうして────誰も、助けに来ないんだ。

 

「……バーチウッドくん、手止まってるけど。体調悪い?」

「別に」

「水飲む? 入れてくるよ」

「……水なら、十分飲んだよ」

 

 

 

 

 ねこです。

 

 ねこはどこにでもいます。ねこはどこにもいません。

 

 ねこはすいちゅうにいます。すいちゅうのしたいにもいます。

 

 たくさんのひとがいます。たくさんのひとがねこをみます。よろしくおねがいします。

 

 したへしたへしずみます。ねこはおぼれません。ねこはしたにもいます。

 

 あなたたちはどこにいますか。すいちゅうですか。ちがいますか。

 

 だれをまっているのですか。

 

 しっているのに、まっているのですか。

 

 しんでいるのに、まっているのですか。

 

 せかいがなくなり、ながいこと、だれもあなたたちをみませんでしたですのに、だれもあなたたちをつたえなかったですのに、すいちゅうでまつのですか。

 

 ねこです。ねこはあなたたちのすぐそばにいます。

 

 ありがとうございました。

 

 




・井上斑
今回影が薄め。


・お塩(SCP-040-JP)
物質的な食事は必要ないが、周囲の人間の“認識”は食べられる。

とりあえず水中の死体は邪魔なので早く成仏してください。よろしくおねがいします。


・ブライト博士(SCP-963)
お肉美味しい。幸せ。


・“先生”(SCP-3715)
斑の見ていないところでこっそりお肉を食べている。幸せ。それはそれとしてバーチウッドくんたちが心配。


・バーチウッド(SCP-2316)
高校生でメンタルが止まっている集合意識系SCP。とりあえず『ねこ』は沈める。

怖い怖いと言われがちなSCP-2316、個人的には「いや高校生でこんなことになって可哀想すぎるやろ・・・・“君”ひとりくらい探してあげなよ・・・・」と思ってしまった。



この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-2316 “校外学習”
著者 djkaktus
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2316
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