ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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すみません、土日の更新はお休みさせていただきます。

今回はあのかわいい子です。


SCP-2000-JP “伝書使” ①

 ぼくはSCP-2000-JP。ごじょうさんがつけてくれた、たいせつなおなまえ。

 

 ぼくは『ざいだん』ってところにすんでる。『ざいだん』のひとたちはいつもいそがしそうだけど、たまにぼくとあそんでくれる。

 

 でも、あるひから、あまりみんなはなしかけてくれなくなった。

 

 きっと、いまはおしごとがいそがしいんだよね。

 

 かってにあそびにいったらおこられるかも。

 

 いいこでまってたら、またなでてくれるよね。

 

 そうおもって、ぼくはまってた。

 

 まってたら、だれかからなにかがとどいた。

 

『SCP-2000』っていうところから。ぼくがまえにいったところだ。

 

 おくりもののなかみをみたけど、ぼくにはよくわからない。もじはよめるけど、なんのことかはわからない。

 

 でも、SCP-2000ってところには、まだだれかいるのかな。じゃあ、ちょっとだけみにいってもいいよね。

 

 ……だけど、SCP-2000のところにいったら、からっぽだった。いきどまりだった。

 

 もしかしてすれちがったのかも。

 

 まってたら、またなにかおくられてくるかも。

 

 じゃあ、またなきゃ。

 

 それから、ぼくはまってた。

 

 まってた。

 

 ずっとまってた。

 

 ずっと、ずっと、ずっとまってた。

 

 でもだれもこなかった。

 

 どうして、だれもこないんだろう? 

 

 ぼくがわるいこだから? 

 

 なにかわるいことをしちゃったから、すてられたの? 

 

 すてられたら、どうすればいい? 

 

 どうすればいいの? 

 

 さがせばいいの? 

 

 おいかければいいの? 

 

 ……みんな、どこにいったの? 

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

「ブライトさん、電話番号教えてください」

「え?」

「もうすぐ大学の春休みが明けるので、連絡手段あった方がいいじゃないですか」

「あ……あ、なんだ。大胆でストレートなナンパかと思ったよ」

 

 ブライトさんは随分面白いことを言う。最初はぐったりしていて気が気でなかったけれど、元気そうで何よりだ。

 

 アドレスを交換した後、お塩さんに煮干しを出して、僕はお昼のワイドショーを点けた。

 

 

 〈東京は『地引き網漁大会』の開始を待ち侘びる人々の熱気で賑わっています! 〉

 

 〈注目はどの選手でしょうか? 〉

 

 〈やはり『暗星豪(あんせいごう)』さんでしょう。経歴不明ですが妙な覇気がある彼、今大会のダークホースですね〉

 

 

 カメラがアップにして映しているのは、身長190センチはある、黒ずくめの男性。引き締まった体躯とミステリアスな雰囲気から、会場の注目を集めているのがよく分かる。

 

 まさにアスリートって感じだ。高校時代は卓球部だった僕だが、どちらかというと運動神経はない方だから、こういう人が羨ましい。

 

「ブライトさんってスポーツ出来ますか?」

「夜のレスリングなら」

「え、格闘技? いいなー、何か巻き込まれたときに役に立ちそう。僕そういうの向いてないんですよね」

「……君、保健体育の授業受けてるよね?」

「受けた上でスルーしたんですよ」

「はえ?」

 

 ブライトさんはポカンとした。その表情が可笑しくて笑いそうになる。いつもは浮ついた感じの笑顔なのに、本気で呆然としている。

 

「ブライトさんは僕のこと、ピュアなチェリーボーイとか思ってたんですか?」

「じゃなきゃ何なんだよ……」

「経験はなくても知識はありますよ。知りたくなくても、周りでワーワー騒がれたら覚えます」

 

 卓球部を辞めたのもそれが理由みたいなところがある。

 

 部活中、周囲がやたら下半身の話をしていたのだがどうも興味が湧かず、かわしていたのだけど、あるとき「色恋沙汰より動物を愛でてたいから」と話したら、

 

『え? お前ケモナーなの? 獣姦? 変態かよ』

 

 と返された。

 

 面倒くさすぎてツッコむ気も反論する気も失せた。

 

 それ以来、こういう手合いの話は気持ち悪いし面倒くさくて触れたくないのである。

 

「お塩さんは可愛いですねー。人間に全く興味なさそうなところが可愛いですねー。僕も猫パンチ受けてみたいな」

「マジで言っているのか君は……」

 

 さっきから何故かブライトさんが引いているけれど、そんなに僕の考えって理解し難いものなんだろうか。

 

 お塩さんは僕のために生まれたわけじゃないのに、こうやってわざわざ僕のような人間に構ってくれるんだから、偉いことこの上ないと思う。

 

 そうやってお塩さんをもふもふしていると(お塩さんはもふもふはしていないけど)、番組がCMに切り替わった。

 

 

 〈ええっ、学校でオカルト事件が発生!? でも大丈夫、どんな暗闇も切り裂く、この刃があれば! 〉

 

 〈『エックスキャッチャーやみこクリアランス編』、ご覧の時間で放送中! 絶対見てね! 〉

 

 

『エックスキャッチャーやみこ』……僕が幼い頃からやっている、人気のアニメシリーズだ。まだやってたんだな、懐かしい。

 

 闇を操る能力を持つ高校生『消照闇子』が、ひょんなことから『エックスキャッチャー』として様々な町のオカルト事件を解決する、王道だけどどこか奇妙な空気感のあるお話を、毎週木曜日の夕方に、テレビの前で楽しみにしていたものだ。

 

 だが感傷に浸っている場合ではない。そろそろ昼食の準備をしないと。

 

「ブライトさん、お昼何がいいですか?」

「なんでもいいよ」

「『なんでもいい』が一番困るんです。……卵の賞味期限近いし、卵焼きにしますね」

 

 冷蔵庫の中身を思い出しながら立ち上がったとき、ふと僕はスマートフォンを取り出した。

 

 そして、お塩さんの姿をカメラに収める。

 

「……写真でも変わらない可愛さ。さすが猫」

「痛い痛い痛い、首飾りを引っ張るんじゃない首が締まる」

 

 ブライトさんの赤い石のついたペンダントにじゃれつくお塩さんの写真も撮る。

 

「あー……窒息するかと思った。今はこの身体しかないんだぞぉ……」

「やっぱり、猫がいるところでそんなキラキラふらふらする物を着けてると危ないのでは?」

「……でも、これは本当に失くすとマズイからな」

 

 ブライトさんはそう言って、首飾りに目を落とした。澱んだ碧眼から、彼の感情は窺い知れない。

 

 大切な首飾り。素手で触っちゃいけない首飾り。誰かからのプレゼント、とか? 

 

 少なくとも、ブライトさんはここに来る前に、いろんな人といろんなことがあって、こうなったんだろうなとは思う。そんなの、誰だってそうだけど、それは大事なことだ。みんな何かしらの事情を抱えている。

 

 僕はスマホをコタツの上に置いて、台所に向かった。確かブロッコリーの消費期限も近いはずだ。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

 ────みつけた。

 

 おくりもののなかにあった『え』と、にたかたちのいきもの。

 

 それから、きらきらひかるまるいもの。『ほんぶ』にそれをつけたひとがいるんだって、だれかがはなしてくれたことがある。

 

 ぜったいそうだ。きっと『ざいだん』のひとだ。

 

 ずっとさがしててよかった! 

 

 ずっとまっててよかった! 

 

 ぼく、やっと『ざいだん』のひとにあえたんだ! 

 

 




・井上斑
動物が好きな普通の人間。高校時代は卓球部だったが、中学は茶道部だった。


・お塩(SCP-040-JP)
SCP-040-JPはねこのことではなく、正確には井戸小屋の中を見ると起こる認識災害のことです。よろしくおねがいします。


・ブライト博士(SCP-963)
ねこにしばかれることは減ったが、代わりに地味に苦しいじゃれ方をされるようになった。


・SCP-2000-JP
世界線を乗り越えたわんこ。
SCP-2000から送られてきた大量のデータを抱えながら、財団の手がかりを探して、いろんなところを掘っていた。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp

SCP-835-JP “ゼノフォビア消照闇子”
著者 home-watch
http://scp-jp.wikidot.com/scp-835-jp

SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp
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