ねこです。
ねこは『こんぴゅーた』のなかにもいます。よろしくおねがいします。
「あれ! きみ、しゃしんにうつってたこ!?」
なんですか。ねこです。ねこはおしおです。えすしいぴいぜろよんぜろじぇえぴいはありません。びゃっこです。ねこはねこです。
「きみもSCPナントカって名前なんだ! ぼくとにてるね! ぼく、SCP-2000-JP!」
にてませんですのに。
「やった! ともだちだ、はじめてのともだちだ!」
ねこです。ともだちではないです。
「ねえねえあそぼう、あそぼう? それともおしゃべりする? あのねあのね、ぼくね、ずっとひとりでね」
きいていますか。
「あ、だめだめ。ぼく、やることがあるんだった。『ざいだん』のひとにあわないと」
……はかせのひとのことですますか。
「『はかせ』? ……うん、きっとそれ! ざいだんには、はかせってひと、たくさんいたから!」
ねこはどこにでもいます。ねこはそとにいます。ねこはなかにいます。ねこはひとのなかにいます。
のですが、おまえはそとにいられませんですのに。
「? ……でられるよ? おそとのひととも、はなせるよ?」
××××
ブライト博士は、さっきからSCP-040-JP(現在、井上斑から『お塩』と呼ばれる個体)が、コタツの上にある斑のスマホをずっと見ていることを奇妙に思った。
猫は虚空をよく見つめるが、040-JPはそれに当てはまらないはずだ。そもそも猫ではないのだから。
そのとき、斑のスマートフォンのバイブレーションが発動した。
お塩が、まるで猫のようにピンと耳を立てる。
ブライトは、マナー違反と知りながら────というか財団の活動にマナーやプライバシーなどないのだが────携帯端末の画面を覗き込む。
そこに映っていたのは、手紙を咥えた、つぶらな瞳の犬の画像。犬種で言うなら、最も近いのはボーダーコリー。
『はかせ? きいてる? ぼく、SCP-2000-JPだよ?』
SCP-2000-JPだって?
ブライトは危うく口に出しそうになった。
日本支部の報告書で読んだことがある。ネットワーク上で生きている情報知性体だ。
オブジェクトクラスはThaumiel。即ち財団の切り札ともいえる存在を示す。
元はAnomalousアイテムだったが、前の世界線……いや、その前の世界線だったか? 解らない。財団は何度も繰り返しているようだから。
ともかく、このアノマリーは世界を救った功績がある。それを称え、彼にはThaumielクラス、そして
まさか、SCP-2000-JPが生き延びていたとは────こうして話しかけられるまで、想定もしていなかった事態だ。
とにかく、テキストを打ち込んで返事をする。
『聞こえているよ。私はブライト博士。ジャック・ブライトだ。わかるかい?』
『……んっと、まって。おもいだすから。……あ、わかった!』
『何かな?』
『“SCPカップリングパーティー”をひらいてたひと!』
「………………」
流石に。
SCP-963とかよりも真っ先にそれが出るのは、流石に、ブライトも凹む。
『どうしたの?』
『何でもないよ。とりあえず、君がここに来る前の話を』
「ブライトさんどうしたんですか?」
「Oh⁉︎」
ブライトは慌ててスマホに背を向けた。見れば、おたまを持った斑が小首を傾げている。
「さっきバイブレーションの音が聞こえたので、火を止めて見に来たんですけど。……何か来てました?」
「いや、何も、何も来てないよ全くびっくりするほどに。あれかな、犬耳、あっ違う空耳かな?」
「そうですか? でも確かに聞こえたんですが」
そこはスルーしてほしい。ねこも何故か姿を見せない家庭教師も水中の死体もスルー出来たんだからこれもスルーしてほしい。
すると、お塩が突然、スタスタと台所に入っていく。
「おわっ! 駄目ですよお塩さん、包丁とか出しっぱなしだから!」
どうしてねこが突然動き出したかは分からないが、これは好都合。
斑のスマホの画面に向けて、自分のスマホをひらひら見せる。SCP-2000-JPが外の映像を観れるかは分からないが。
『SCP-2000-JP。こっちの、すぐ近くにある別の端末に移れるかな?』
『うーん……うん、やってみる』
十数秒ほど間が空いて、ブライトの持つスマートフォンが振動した。
『できたよ!』
『オーケイ、では話の続きと行こうじゃないか。まず、君は今までどこにいた?』
一拍置いて、返信が来た。
『……わかんない』
『わからない?』
『ずっとまってたけどこなくて、だからさがしにいったけど、……なんかいろんなとこをぐるぐるしてたからわかんなかった』
つまり、様々な場所を渡り歩いてきたらしい。ネットワークのセキュリティーを“掘る”ことで。
『しばらくどこもまっくらで……でもきゅうにあかるくなったけど、ぜんぜんわかんなくて、もといたばしょもわかんなくて』
ボーダーコリーの画像が、項垂れたように見えた。
『……もう、ぜんぶわかんない』
SCP-2000-JPの知能は、人間の5歳程度と考えられている。
それが、世界が滅んで、巻き戻って、今日に至るまでの長い時間をひとりで過ごしてきたのだ────その心境は、想像するに余りある。
だが、SCP-2000-JPは気持ちを切り替えるように言った。
『でも、もう大丈夫! だって、ざいだんのひととあえたから! よかった。ざいだん、ちゃんとあったんだね! みつかんなかっただけなんだね! もどってこれてよかった!』
……ああ。そうか、知らないのか。
先にも述べた通り、SCP-2000-JPの知能は5歳程度だ。ネットワークの海を旅してきても、仮に“根拠”が流れてきても、「財団がないかもしれない」という推定には結びつかなかったのだろう。
2000-JPの“巣”は、この世のどこにもない。きっと、彼のことを撫でてくれた、日本支部の職員たちも────
『SCP-2000-JP。落ち着いて聞いて』
『なに?』
『財団は、ない。設立されてないんだ』
『え? でも、ぶらいとさんがいるよ?』
『……私は、特殊だから』
『とくしゅ? とくしゅってなに? ぶらいとさんいがいのひとはみんなどこかいっちゃったの?』
『わからないよ』
分からない。全部分からない。
世界再構築なんて芸当が出来るのは、SCP-2000だけのはずだ。バーチウッドことSCP-2316もそう言っていた。
なら、どうして財団がない? 財団は、機械仕掛けの神に見捨てられたのか?
あのとき、皆どこかにいってしまった。皆先にいってしまった。
守るべき人間なんて、もうどこにもいないのに、
嗚呼、だがしかし、今は違う。違うのだ。
置いていかれる苦しみなぞに喘いでいる場合ではないのだ。
『ぶらいとさん? ……ざいだんがないなら、ぼく、これからどうすればいいの?』
『問題ない。ないなら作ればいいだけだ』
『つくる?』
『そうだとも。元よりそのつもりで、……きっとそのために、私だけ最初に起こされたんだ』
機械仕掛けの神。あのときも壊れたままのはずだった、機械仕掛けの神。
どうして起動したのか、なぜ財団を見捨てたのか、それは分からない。神の計画は図り知れないのだから。
いつだって、人は分からないことに無理矢理意味を見出して、納得するものだ。
『なに、すぐにでも復興できるさ! もう既に、私は3つのSCPオブジェクトを収めている!』
収められていないが。
ひとつは一般人の飼い猫、ひとつは一般人の家庭教師、ひとつは一般人のストーカーになっているが。
『それに君がいる。SCP-2000-JP、世界を救った偉大なる御使い!』
『ほんと!? じゃ、ぼくまたごじょうさんにあえるかな?』
『……それは分からないが』
『ぼく、がんばる。SCP-2000からもらったものも、やっとやくにたてられるよね!』
『そうだなぁ、君の働きに期待して
SCP-2000!?」
おっとマズイ。口に出してしまった。慌てて口を押さえて、そっと台所を覗く。
「だーめーですよー。お塩さん、冷蔵庫の中身漁っちゃ駄目ですってー……あー! お塩さんが冷凍庫の中に落ちたー!」
全くもって安心安全、大丈夫そうだ。
対話を続ける。
『……SCP-2000? SCP-2000から何かデータを貰ったのか?』
『うん。なんかいっぱい。みる?』
そりゃあもちろん。遠慮なく。
ボーダーコリーの画像は一旦引っ込んで、少ししてから、大量の書類を積んだ荷台を引き摺るコリー犬の画像が画面左端から現れた。
『これでいい?』
こっちを見るので、肯定を返す。
ひとまず1枚目のデータにざっと目を通すと────赤い物質を排泄する彫像の画像が、トップに出てきた。
これは、もしや。
2枚目、3枚目、4枚目……とめくっていく。
全て、以前の世界で財団が収容していたSCPオブジェクトの報告書だった。
『あとね、こっちのにもつは“人事ファイル”ってあったよ! ぶらいとさんたちのことがかいてあるんでしょ?』
『そうか……』
ボーダーコリーが別の荷台を引っ張ってくる。
これだけ重いデータを今まで抱えていたのか。きっと、相当な負荷だったに違いない。
ざっくりとだが、全てのデータに目を通す。斑が昼食を作り終えるまでに終わらせる。
最後に添付されていたのは、テキストデータだった。
しかも、たった一言。
『Remember us.』
『……ぶらいとさん、よみおわった?』
『ああ……SCP-2000-JP。これじゃ本当の御使いじゃないか! 君は、ずっとこれを……いや、違うな』
真っ先にかけるべき言葉は、それではなく。
『良い子だ。今まで、よくがんばった』
頭を撫でると、SCP-2000-JPは舌を出して満面の笑みを浮かべた。
『いままで、じゃないよ。これからも、まだまだおしごとあるんでしょ?』
『そうだね』
『だったら、ぼくがんばる! くんれんもちゃんとやるよ。ざいだんをたてなおすため、だからね!』
『よろしく頼むよ、SCP-2000-JP』
ねこです。
ねこはれいぞうこのなかにいます。やかんのなかにいます。なべのなかにいます。にぼしうまい。よろしくおねがいします。
「ごはん出来たからコタツの上片付けてくださいねー。……あれ? ブライトさん、なんか目腫れてませんか?」
「一時的な花粉症さ」
「花粉症に一時的とかあるんですか……?」
ねこはどこにでもいるねこはいます。ねっとわーくにもいます。
「ねえ、おしごとひとだんらくしたからあそぼうよ! なにしてあそぶ?」
ねこにあそぶはありません。
おまえはなんですか。いぬですか。いぬはねこのてきです。すいちゅうのしたいもてきです。ねこにはてきがおおくいますです。よろしくおねがいします。
「えー。でもあそぼうよ。ぼくずっとあるいててつかれてたけど、いまげんきだからなんでもできるよ!」
きいていますか。
「SCP-040-JPは、なにしてあそびたい? ぼくキャッチボールってやつやりたい!」
きいていますか。きいていませんね。
ねこです。ねこはおしおです。えすしいぴいぜろよんぜろじぇえぴいでもやっぱりいいです。
ねこでした。
・井上斑
今回ほぼ出番なしの主人公。
・お塩(SCP-040-JP)
犬VS猫の派閥争いは昔から続くものだが、ねこにとってはおのれいがいのすべてがじゃまです。よろしくおねがいします。
・ブライト博士(SCP-963)
やっと財団の仕事っぽいことが出来た人。SCP-2000-JPが良い子すぎることとか、あといろいろ思い出してしまってセンチメンタルクライシス。
・SCP-2000-JP
人懐っこく、「待て」が出来る電脳わんこ。
ねこを初めての友達だと思っており、興味津々。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp
SCP-173 “彫刻-オリジナル”
著者 Moto42
http://scp-jp.wikidot.com/scp-173
SCP-2000 “機械仕掛けの神”
著者 FortuneFavorsBold
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000