よろしくおねがいします。
────幸運を。
────死にゆく者より、死にゆく貴方へ敬礼を。
××××
「春ですねー……」
桜がまだ咲いていて、太陽の光がさんさんと降り注ぎ、風も心地良い。
どこかの家から飛んできたシャボン玉が、タンポポの綿毛と共に空高く舞い上がっている。
穏やかで静かな日。だけど、こういう平和が一番尊いものなんだ。
「お塩さん、どこ行きたいですか?」
返事がないのは知っているけど、足元をテクテク歩くお塩さんに尋ねる。
いつものスーパーもいいけど、たまには、駅前のショッピングモールまで足を伸ばすのもいいかもしれない。
そう考えていると、突然お塩さんが立ち止まった。
そして、山の方をじっと見て、数秒後そっちの方面へ歩き出す。
「え、ちょっ、買い物が……お塩さん!?」
決して足取りは速くはない……なのに、何故か追いつけない、捕まらない。流石は猫、動きがしなやかだ。
走る僕。歩くお塩さん。奇妙な追いかけっこは山中に入っても続いた。
そろそろ斜面が急になってきて、僕の息が荒くなってきたところで、お塩さんが木々の間を軽やかに抜けていった。
「ま、待って………………」
満員電車を用いた通学だって、立派な運動だと思うが、どうやら体幹しか鍛えられなかったようだ。
ぜぇぜぇ言いながら森を抜けたとき────眼前に広がる光景に、僕は息を呑んだ。
そこにあったのは、大きな桜の樹だった。
天球を覆い尽くすように枝を広げており、樹の周囲にだけ桜色の空が生まれている。
樹を囲むように立つ4つの祠────あれは何だろう。虎、鳥、亀、龍……もしかして四神を模しているのだろうか。どれがどの方角を守護しているんだったか、覚えていない。
樹にも祠にも、同じようなお札が貼ってあった。なんて書いてあるかは読めない。昔の文字だ。
お塩さんは、桜の樹を一心に見上げていた。
「お塩さんは桜が好きなんですね」
僕も隣に座って、桜を見上げてみた。
枝に咲いた、小さく可憐な花ひとつひとつが集まって、均整の取れた“桜”を作り上げている。
たまにはらはらと花片を落として、地面に桜色が溢れている。
今まで見た中で、一番美しい桜かもしれない。
「こんなところにも桜が咲いているなんて知らなかった……」
こんなに綺麗な桜があるんだったら、山の下からでも目立つはずなのに、さっきは見えなかった。
白虎、朱雀、玄武、青龍……四神を模した祠も、それに貼られたお札も結構立派で、殆ど汚れていない。つまり定期的にここに来て、掃除している人がいなきゃおかしいのだ。
「この辺、神社なんてあったかな」
そんなはずはない。あったとしても、豪族を神格として祀った小さなものだ。
初詣とか、大学受験の合格祈願とかは、少し離れた都市の大きな神社まで、母と電車で行ったのを覚えている。
もしかしたら。この辺りは自分が知らないだけで立ち入り禁止区域なのかもしれない。
急いでいたから、看板とか、ロープや鎖が見えなかっただけかもしれない。一旦ここを出た方がいいんじゃないのか。
「お塩さん、帰りましょう……」
声をかけたのに、お塩さんはそこから動こうとしない。抱こうとすると、地面にピッタリ貼りついたように離れない。
それどころかお塩さんは、地面を掘るような仕草を見せていた。
「駄目ですよ、桜の根っこ傷つけちゃいますから」
そのとき、ふと何かが浮かんだ。
桜の木。掘る。そんな昔話があったような……
「……え、ここ掘れワンワン? 花咲か爺さんみたいな?」
いや、掘っているのは猫なんだから、正確にはここ掘れニャンニャンだろうが。
……つまり、お塩さんの指す通り、この辺りを掘れば金銀財宝ざっくざく?
だが勝手に土を掘っていいものか。お金だって、“先生”に毎月のお給料払いながら、
しかし、お塩さんは珍しく聞き分けが悪い。ここまで強情なのは何かあるんじゃなかろうか。
悩んだ末、僕は手袋をはめて土を掘り始めた。
ごめんなさい、ここの土地の人。金銀財宝が出たら、絶対に連絡しますから。自治体にも。
シャベルがあればもっと作業が速く進むのだけど、それはないから手で掘るしかない。
10分くらい経った頃だろうか。
流石に手が疲れてきて、桜の木にもたれて休む。今のところ収穫はナシ。
だが、お塩さんはまだ掘っている。元気な猫だ。
「お塩さん、何か出ました?」
尋ねた直後、白い前足の動きが止まった。
金銀財宝……は、ちょっと夢見すぎ。魚の骨、虫の巣、ドングリ……誰かのタイムカプセルは、ノスタルジーが過ぎるか。
少し胸を弾ませながら、穴を覗き込むと。
「……ロザリオ?」
鈍い銀色に光る、小さな十字架。その下には、古そうな黒い布地。
恐る恐る触ってみたら、布から生温かい感触が伝わってきた。
すなわち、これは。
「人肌……では?」
え? つまり? これは人の服の部分で、多分ロザリオかけてるということはこれは首から下辺りで、それに体温感じるってことはまだ息があるということで、息がある人が土の下に埋まっているということは、
「生き埋め!!」
疲れている腕を無理矢理駆動させて、僕は一心不乱にショベルカーと化した。
ここ掘れニャンニャンとか言っている場合じゃなかった。桜の木の下には死体が云々と昔からよく言うが、生き埋めのパターンもあるのか。いや、体温が残っているだけでもうお亡くなりにという可能性も、いやいやいや縁起でもないこと考えるな、こんなに見事な桜が咲いているのに。
土を掘るというよりこそぎ取るように進んでいくと、やがて埋まっている人の上半身が顕になった。
年齢は20代後半から30代前半……だろうか。髪は短め。死人みたいに肌の色素が薄くて血の気がない。本当に生きているのか不安になってきた。
警察。救急車。先にどちらに連絡しようか考えていると、その人の目蓋が開いた。
「あっ……生きてた! 生きてますね!? 大丈夫ですか、怪我とか具合悪いとか……自分の名前、分かりますか!?」
彼はすぐには質問に答えなかった。ゆっくり上体を起こして、額を押さえて周囲を見回した。ここがどこか分からないのだろうか。
そして、溜息混じりに言い放つ。
「……
・井上斑
その辺の犬よりもお外で歩くのが好きなところがある。
・お塩(SCP-040-JP)
ねこは当然のようにかいものについてきます。ねこなので。
・エージェントバークレー
銀の弾丸は、心臓を貫いた。
・・・・ならば、それを撃ち出した銃本体は?
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SCP-1983 “先の無い扉”
著者 DrEverettMann
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1983
SCP-1500-JP “和魂祭”
著者 29mo
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1500-jp