次回はコメディー路線に戻ります。
「おかえりー! 斑くんにお塩! あとバークレーくん! いやー、待ちわびたよ」
「ごめんなさいジャックさん、買い物する前にいろいろあったので……」
「うんうん、昼食はカップ麺だね。とりあえず、バークレーくんと2人きりで話をさせてほしいんだが」
「はい! 居間を空けておきますね」
軽やかに廊下を走ってゆく井上斑。彼は何も知らない。自分が助けた人間が誰なのかも、ブライトとどういう関係なのかも。
「……さて。まず、君は死んでいるのかどうかを聞いておこうか? この家には既に幽霊の先客がいるから、どちらでも問題ないけどね」
「生憎、壊したはずの心臓はしっかり煩く喚いていてね。どうやら、死に損なったらしい────オレも、アンタも」
「そのようだ」
ブライト博士は、ニヤリと口端を吊り上げた。彼の心臓であるルビーの首飾りが、怪しく揺れて煌めく。
やれやれ。天下のジャック・ブライト様との謁見がこんな形で実現するとは。
エージェントバークレーは、嘘みたいに鼓動する心臓を撫でた。
××××
『はじめまして、ばーくれーさん! ぼくはSCP-2000-JP! ぶらいとさんのみつかいだよ!』
「御遣い……?」
「天使みたいに可愛いだろう?」
ええ、それはそうだけどさ。
バークレーは、ノートパソコンのモニターの中でしっぽを振るボーダーコリーのイラストを見つめた。
ブライト曰く、先日井上斑の母親から最新型のノートパソコンが送られてきたようだ。『犬っころにスマホは窮屈だろ』と。
その井上斑の母親もまた、かなり重要度の高いアノマリーだとも。
「SCP-2000-JP。さっそく頼みたいんだが、SCP-1983の報告書を出してほしい」
『いいよ! ………………えーっと、なんだっけ』
「SCP-1983」
『ん、おぼえた! ……あったよ!』
数秒後、見慣れた書式の文書が画面上に表示される。
────SCP-1983。オブジェクトクラスは、KeterからNeautralizedに変更済み。
「パーソナルコンピュータの使い方は分かるだろう、多分。じっくり読みたまえ」
「お気遣いどーも」
とはいえ久々にブルーライトを浴びて、目が眩む。バークレーは目を擦り、息をつきながら、少しずつ読み進めた。
SCP-1983。心臓を引き抜くバケモノ。祈りを込めた銀製の銃弾によってのみ打倒できる。
特別収容プロトコル。説明。補遺。バークレーたち機動部隊Chi-13(“少年聖歌隊”)が突入してから、その後の顛末。
驚くべきことに、自分が遺した非公式のレポートまで載っていた。誰かの目に触れることを願ってはいたが、SCP-1983と一緒に、とっくに破られるか汚れるかでくたばると思っていた。
文書1983-15。
バークレーが当時、ペンライト片手に暗闇の中で必死に書いたものが、しゃんとして報告書に載っけられているのは不思議な感じだ。
当時の記憶が脳内を駆け巡る。
最後の文章。
『SCP-1983はD-14134によって無力化されたと推測され、彼の死に財団の勲章が贈られた』
Dクラス職員がやってくれたのは本当らしい。財団史上、勲章が贈られたDクラスは2人しかいなくて、そいつがその内の1人。
「……D-14134もといミスター・パーカーもだが、君も十分表彰に値する英雄だよ、エージェントバークレー」
「オレが? お世辞はよしてくださいよ、博士」
「私がお世辞を言う人間に見える?」
「さあ。オレは、アンタみたいな上にいる秀才のヤツらとは、住む次元が違うんでね」
卑屈な言葉に対して、ブライト博士は苦笑する。そして、突然真面目な表情になる。
「……ここからは、私の考察なのだが」
文書1983-15に目を向けながら語る。
「D-14134が、どうして単独でアレを破壊できたのか。不思議に思わないか? 私が思うに、あの怪物たちは銃弾ではなく“祈り”に重きを置いていたのだろう」
────“銀の銃弾”には、“問題の解決策”という意味も含まれる。
────即ち、“祈りを込めた銀の銃弾”とは、“難題を打破する一手になるよう誰かに祈られたもの”とも言える。
「この場合における“銀の銃弾”は? もちろん、D-14134だ。……ならば、それを撃ち出した銃器であり、
バークレーは瞠目した。
ブライトはあざといことに、右手を銃の形にして、バークレーに向けてBANGと撃つ。
「君だよ、エージェントバークレー。君の信心なくして、D-14134が心臓を貫くことはなかった」
────幸運を。
────死にゆく者より、死にゆく貴方へ敬礼を。
最期に遺した言葉が、彼の推進力となったのなら。
自棄っぱちの最高の捨て台詞が、純粋な祈りとして天に認められたなら。
「あ……ハハハ……そうか、そうだったんだ……────オレは最期に、“銀の銃弾”を撃てたんだな……」
バケモノ自体は、別にそこまで怖くない。バケモノに殺されることも。それを百も承知で、財団に所属していたんだから。
バークレーが恐怖したのは、あの呪われた空間を作り上げたのが、異常性でもなんでもない、ただの人間の心臓と、悍ましい悪意の集合体だということ。
生きていても、天に富を積んでも、こんなに罪だらけのどうしようもない世界で善行を働いたって、意味はあるのか。
神の創った世界を疑ってしまった。信仰に曇りが生じた。だから、もう祈れないと思っていた。
だが、まだ燻っていたらしい。
心臓の奥底で燃えたぎる、透明な感情が。
「よかった……オレ……きっと、これだけがずっと未練で……」
直後、エージェントバークレーは糸が切れたように倒れ、即座にブライト博士に支えられた。
「エージェントバークレー!?」
「████!?」
台所で作業していた斑が、何事か叫びながら飛んでくる。
「なぁ、ブライト博士……そこのクレイジーな天使様に、伝えてほしいんだ。オレはアンタに見つけてもらえて幸せだったって……」
暗闇の中、血と後悔に塗れて孤独に死んだ。
でも再び目覚めたとき、そこにあったのは、淡く美しく大きな花束だった。
あのときは、ショボい天使のお迎えだなんて毒づいたけれど。
「アンタのおかげで、ここに辿り着けた。未練がなくなった。……今度こそ天国に行ける自信があるよ、ありがとう……」
温かな春の光に包まれて、眠ることができるなら、こんなにも嬉しいことはない。
震える手を伸ばすと、斑は目尻に涙を浮かべながら握ってくれて、日本語で何か言っていた。
それじゃあ理解できない。せめてヘブライ語を使ってくれ。
でも、どれだけ変だろうと天使様の言うことなんだから、きっと福音だ。
「これ、で………………満足して……ねむ……れ……る………………」
こうして、エージェントバークレーは静かに、息を────
していた。
「寝てるね?」
「寝てますね?」
なんともまぁ、安らかで清々しい寝顔。やりかけの仕事を終えたんだから、そうもなるか。
バークレーの心臓は2人の問いかけに答えるように、鼓動し続けている。
「斑くん、私の布団に彼を寝かせてあげようと思うんだが」
「そうですね。あ、もうお湯沸いてるので、好きなカップ麺取って食べてていいですよ」
「いいや。私も手伝うよ。英雄サマの帰還だからね」
最初は『ねこ』にシバかれ怪我を負い、どうなることかと思ったが。
機械仕掛けの神の御遣いに、復活した
これはなかなか、面白くなってきたじゃないか。
太陽の光は眩しく、金を通り越して銀色に輝いて、地に満ちる全てを祝福していた。
ねこです。
ねこはまだらのそばにいます。えーじぇんとのひとのそばにもいます。すいちゅうのしたいのそばにもいます。よろしくおねがいします。
ところで。
「わかるわかる。カルト教団ってマジでクソだよな。ちゃんと真摯に信仰しているやつらに失礼じゃん。我もずっとカルト教団に苦しめられてきたし。でもなー、ルルイエには電気通ってないからゲーム出来ないんだよなぁ」
だれだこいつは。
えーじぇんとのひとにけいれいを。
ありがとうございました。
・ブライト博士(SCP-963)
まさかの形で仲間が増えた!新生ざいだん(仮)はレベルアップした!
・SCP-2000-JP
再登場、賢い犬2000-JPタール。ばーくれーさんと早く遊びたいようだ。
仕事がないときは、SCP-040-JPに絡んでいるらしい。
・井上斑
生き埋めになってた人間を掘り起こして、かなり疲弊している。バークレーを寝かせたあと、カップ麺を食べてすぐ昼寝した。
・お塩(SCP-040-JP)
えーじぇんとのひとは、ぶらいとよりほろぶひつようせいをありません。よろしくおねがいします。
・カルト教団被害者の会
メンバーは、お馴染みの邪神さんとSCP-1983(の残滓)。
ぶっちゃけ被害者と言っても、信仰対象と生贄対象なので、その辺の大きな齟齬とかありそうだが、なんか通じ合ったらしい。
・エージェントバークレー
ーーーー幸運を。
ーーーー死に損なった貴方に、割れんばかりの喝采を。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-1983 “先の無い扉”
著者 DrEverettMann
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1983
SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp
SCP-2662 “くとぅるふ ふっざけんな!”
著者 SoullessSingularity
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2662