ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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エージェントバークレー編、これにて完結です。

次回はコメディー路線に戻ります。




文書1983-15 ⑤

「おかえりー! 斑くんにお塩! あとバークレーくん! いやー、待ちわびたよ」

「ごめんなさいジャックさん、買い物する前にいろいろあったので……」

「うんうん、昼食はカップ麺だね。とりあえず、バークレーくんと2人きりで話をさせてほしいんだが」

「はい! 居間を空けておきますね」

 

 軽やかに廊下を走ってゆく井上斑。彼は何も知らない。自分が助けた人間が誰なのかも、ブライトとどういう関係なのかも。

 

「……さて。まず、君は死んでいるのかどうかを聞いておこうか? この家には既に幽霊の先客がいるから、どちらでも問題ないけどね」

「生憎、壊したはずの心臓はしっかり煩く喚いていてね。どうやら、死に損なったらしい────オレも、アンタも」

「そのようだ」

 

 ブライト博士は、ニヤリと口端を吊り上げた。彼の心臓であるルビーの首飾りが、怪しく揺れて煌めく。

 

 やれやれ。天下のジャック・ブライト様との謁見がこんな形で実現するとは。

 

 エージェントバークレーは、嘘みたいに鼓動する心臓を撫でた。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

『はじめまして、ばーくれーさん! ぼくはSCP-2000-JP! ぶらいとさんのみつかいだよ!』

 

「御遣い……?」

「天使みたいに可愛いだろう?」

 

 ええ、それはそうだけどさ。

 

 バークレーは、ノートパソコンのモニターの中でしっぽを振るボーダーコリーのイラストを見つめた。

 

 ブライト曰く、先日井上斑の母親から最新型のノートパソコンが送られてきたようだ。『犬っころにスマホは窮屈だろ』と。

 

 その井上斑の母親もまた、かなり重要度の高いアノマリーだとも。

 

「SCP-2000-JP。さっそく頼みたいんだが、SCP-1983の報告書を出してほしい」

『いいよ! ………………えーっと、なんだっけ』

「SCP-1983」

『ん、おぼえた! ……あったよ!』

 

 数秒後、見慣れた書式の文書が画面上に表示される。

 

 ────SCP-1983。オブジェクトクラスは、KeterからNeautralizedに変更済み。

 

「パーソナルコンピュータの使い方は分かるだろう、多分。じっくり読みたまえ」

「お気遣いどーも」

 

 とはいえ久々にブルーライトを浴びて、目が眩む。バークレーは目を擦り、息をつきながら、少しずつ読み進めた。

 

 SCP-1983。心臓を引き抜くバケモノ。祈りを込めた銀製の銃弾によってのみ打倒できる。

 

 特別収容プロトコル。説明。補遺。バークレーたち機動部隊Chi-13(“少年聖歌隊”)が突入してから、その後の顛末。

 

 驚くべきことに、自分が遺した非公式のレポートまで載っていた。誰かの目に触れることを願ってはいたが、SCP-1983と一緒に、とっくに破られるか汚れるかでくたばると思っていた。

 

 文書1983-15。

 

 バークレーが当時、ペンライト片手に暗闇の中で必死に書いたものが、しゃんとして報告書に載っけられているのは不思議な感じだ。

 

 当時の記憶が脳内を駆け巡る。

 

 最後の文章。

 

『SCP-1983はD-14134によって無力化されたと推測され、彼の死に財団の勲章が贈られた』

 

 Dクラス職員がやってくれたのは本当らしい。財団史上、勲章が贈られたDクラスは2人しかいなくて、そいつがその内の1人。

 

「……D-14134もといミスター・パーカーもだが、君も十分表彰に値する英雄だよ、エージェントバークレー」

「オレが? お世辞はよしてくださいよ、博士」

「私がお世辞を言う人間に見える?」

「さあ。オレは、アンタみたいな上にいる秀才のヤツらとは、住む次元が違うんでね」

 

 卑屈な言葉に対して、ブライト博士は苦笑する。そして、突然真面目な表情になる。

 

「……ここからは、私の考察なのだが」

 

 文書1983-15に目を向けながら語る。

 

「D-14134が、どうして単独でアレを破壊できたのか。不思議に思わないか? 私が思うに、あの怪物たちは銃弾ではなく“祈り”に重きを置いていたのだろう」

 

 ────“銀の銃弾”には、“問題の解決策”という意味も含まれる。

 

 ────即ち、“祈りを込めた銀の銃弾”とは、“難題を打破する一手になるよう誰かに祈られたもの”とも言える。

 

「この場合における“銀の銃弾”は? もちろん、D-14134だ。……ならば、それを撃ち出した銃器であり、火薬(いのり)を弾に込めた者は?」

 

 バークレーは瞠目した。

 

 ブライトはあざといことに、右手を銃の形にして、バークレーに向けてBANGと撃つ。

 

「君だよ、エージェントバークレー。君の信心なくして、D-14134が心臓を貫くことはなかった」

 

 ────幸運を。

 

 ────死にゆく者より、死にゆく貴方へ敬礼を。

 

 最期に遺した言葉が、彼の推進力となったのなら。

 

 自棄っぱちの最高の捨て台詞が、純粋な祈りとして天に認められたなら。

 

「あ……ハハハ……そうか、そうだったんだ……────オレは最期に、“銀の銃弾”を撃てたんだな……」

 

 バケモノ自体は、別にそこまで怖くない。バケモノに殺されることも。それを百も承知で、財団に所属していたんだから。

 

 バークレーが恐怖したのは、あの呪われた空間を作り上げたのが、異常性でもなんでもない、ただの人間の心臓と、悍ましい悪意の集合体だということ。

 

 生きていても、天に富を積んでも、こんなに罪だらけのどうしようもない世界で善行を働いたって、意味はあるのか。

 

 神の創った世界を疑ってしまった。信仰に曇りが生じた。だから、もう祈れないと思っていた。

 

 だが、まだ燻っていたらしい。

 

 心臓の奥底で燃えたぎる、透明な感情が。

 

「よかった……オレ……きっと、これだけがずっと未練で……」

 

 直後、エージェントバークレーは糸が切れたように倒れ、即座にブライト博士に支えられた。

 

「エージェントバークレー!?」

「████!?」

 

 台所で作業していた斑が、何事か叫びながら飛んでくる。

 

「なぁ、ブライト博士……そこのクレイジーな天使様に、伝えてほしいんだ。オレはアンタに見つけてもらえて幸せだったって……」

 

 暗闇の中、血と後悔に塗れて孤独に死んだ。

 

 でも再び目覚めたとき、そこにあったのは、淡く美しく大きな花束だった。

 

 あのときは、ショボい天使のお迎えだなんて毒づいたけれど。

 

「アンタのおかげで、ここに辿り着けた。未練がなくなった。……今度こそ天国に行ける自信があるよ、ありがとう……」

 

 温かな春の光に包まれて、眠ることができるなら、こんなにも嬉しいことはない。

 

 震える手を伸ばすと、斑は目尻に涙を浮かべながら握ってくれて、日本語で何か言っていた。

 

 それじゃあ理解できない。せめてヘブライ語を使ってくれ。

 

 でも、どれだけ変だろうと天使様の言うことなんだから、きっと福音だ。

 

「これ、で………………満足して……ねむ……れ……る………………」

 

 こうして、エージェントバークレーは静かに、息を────

 

 

 

 

 していた。

 

「寝てるね?」

「寝てますね?」

 

 なんともまぁ、安らかで清々しい寝顔。やりかけの仕事を終えたんだから、そうもなるか。

 

 バークレーの心臓は2人の問いかけに答えるように、鼓動し続けている。

 

「斑くん、私の布団に彼を寝かせてあげようと思うんだが」

「そうですね。あ、もうお湯沸いてるので、好きなカップ麺取って食べてていいですよ」

「いいや。私も手伝うよ。英雄サマの帰還だからね」

 

 最初は『ねこ』にシバかれ怪我を負い、どうなることかと思ったが。

 

 機械仕掛けの神の御遣いに、復活した救世主(シルバーバレル)

 

 これはなかなか、面白くなってきたじゃないか。

 

 太陽の光は眩しく、金を通り越して銀色に輝いて、地に満ちる全てを祝福していた。

 

 

 

 

 ねこです。

 

 ねこはまだらのそばにいます。えーじぇんとのひとのそばにもいます。すいちゅうのしたいのそばにもいます。よろしくおねがいします。

 

 ところで。

 

「わかるわかる。カルト教団ってマジでクソだよな。ちゃんと真摯に信仰しているやつらに失礼じゃん。我もずっとカルト教団に苦しめられてきたし。でもなー、ルルイエには電気通ってないからゲーム出来ないんだよなぁ」

 

 だれだこいつは。

 

 

 えーじぇんとのひとにけいれいを。

 

 ありがとうございました。

 




・ブライト博士(SCP-963)
まさかの形で仲間が増えた!新生ざいだん(仮)はレベルアップした!


・SCP-2000-JP
再登場、賢い犬2000-JPタール。ばーくれーさんと早く遊びたいようだ。
仕事がないときは、SCP-040-JPに絡んでいるらしい。


・井上斑
生き埋めになってた人間を掘り起こして、かなり疲弊している。バークレーを寝かせたあと、カップ麺を食べてすぐ昼寝した。


・お塩(SCP-040-JP)
えーじぇんとのひとは、ぶらいとよりほろぶひつようせいをありません。よろしくおねがいします。


・カルト教団被害者の会
メンバーは、お馴染みの邪神さんとSCP-1983(の残滓)。

ぶっちゃけ被害者と言っても、信仰対象と生贄対象なので、その辺の大きな齟齬とかありそうだが、なんか通じ合ったらしい。


・エージェントバークレー
ーーーー幸運を。

ーーーー死に損なった貴方に、割れんばかりの喝采を。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-1983 “先の無い扉”
著者 DrEverettMann
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1983

SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp

SCP-2662 “くとぅるふ ふっざけんな!”
著者 SoullessSingularity
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2662

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