ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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ダークホース編これにて終わり。

次回は登場SCP紹介。その後はいよいよ、本部のあのSCP回を予定しています。よろしくおねがいします。


SCP-973-JP “エターナル・ダークホース” ③

 

 

 一着の消失から十数分後。暗星豪さんもブライトさんもお塩さんも、ちゃんと戻ってきた。

 

 だが、しかし。

 

「ひひぃぃぃぃぃぃん!! 納得できねぇよぉぉぉぉ!!」

 

 あの壮観な走りを魅せてくれた暗星豪さんが、今、何故か僕の家の居間で号泣していた。

 

 涙の理由は、野球のルールを知らない僕にとっても理解のし易い、至極単純かつ慣れ親しんだものであった。

 

 話は、数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁやぁ、王者たる(うぬ)の帰還であるぞー! さあ、賞賛と羨望を召し上がらせろ!』

『そのことなのですが……暗星さん、そのシューズは厚底ですよね?』

『え? うん。最近足の爪(ひづめ)割れちゃったから良いやつ買ったんだけど』

『厚底スニーカーは規定違反になります』

『は、はーん?』

『なので、暗星さんは失格です』

『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなの後から言われても知るかよもぉぉぉぉ!! あんまりだ、理不尽だ、運営の怠慢だ、呪ってやるぅぅぅぅ!!」

 

 ────というような、かなり同情の余地がある悔しさと悲しさを胸に、暗星豪さんは僕の家に押しかけてきたのである。

 

 聞けば、暗星さんは昔、ブライトさんの職場にお世話になったことがあるようで。

 

 お塩さんとブライトさんの両方を知っていたのは、そのときの件があるからだそう。

 

 浅黒い顔をベショベショにしながらインターフォンを連打する彼を放っておくことも出来ず、こうやって迎え入れたのであった。

 

 “先生”が事前に淹れてくれた、ラベンダー茶が入った湯呑みを台所から持ってきて、暗星さんの前に置いた。

 

「ハーブのお茶、飲めますか? なんかカロリーや糖質制限がどうとかは……」

「ないです……(うぬ)は生まれながらにして完璧造形なので飲みます……ひひーん……」

 

 暗星さんからは、マラソンのときの豪快さが失われており、ひちゃひちゃと舐めるように少しずつお茶を減らしていく。

 

「ひひーん……菅原(すがわら)ぁ……人の世って厳しいなぁ……」

「菅原?」

「昔の家来……(ぬし)みたいなやつ……」

 

 家来って言葉を、恐らくはそのままの意味で使っているのを、僕は初めて聞いた。

 

「ほんとは……ほんとはこんなはずじゃないのだ……今は泰平の世でないから、力が十全に発揮されないだけで……」

「えーっと……どういう意味ですか?」

(うぬ)は“鶏口牛後”の精神に則り、俗界の王にならねばならぬのだ……アシスタントは1945年で廃業した……でも、(うぬ)は桜の頼み断ったの後悔してる……」

 

 話の内容が要領を得ない。もう少し落ち着いてから、話を聞いた方が良かったかもしれない。

 

「こういうことを話すと、北も南も東も西も、みんな(うぬ)を痴れ者扱いするのだ……失敗ばかりの草食動物って……」

「そうなんですか……?」

 

 周りに愚痴を聞いてくれる人が、寄り添ってくれる人がいないのは、僕だって辛い。

 

 暗星さんはあのとき、(ソラ)を駆ける一筋の流星みたいにカッコよく走っていた。そんな彼の心を、曇らせたくはなかった。

 

「……僕でよければ、いつでも……は無理かもですが、お話聞きますよ」

「────(まこと)か?」

「はい。陸上には詳しくないですけど……」

 

 真っ黒な格好に身を包んだ彼の顔が、目に見えて明度を上げていた。

 

「その言葉、(たが)わないな?」

「というか暗星さんはいいんですか? 僕みたいなど素人が相談相手で」

「何言ってんだ。(うぬ)からすれば、全人類が下手の横好きだぞ」

 

 暗星さんはそう言って起立すると、パカパカと足を鳴らして居間を出て行く。

 

「今日はこれにて帰るぞ。馬の合う昔馴染みにも再会できて満足だ」

「あ、その前に連絡先聞いても構いませんか?」

(うぬ)はケータイを持たない主義の知性体だ。走って直接伝えた方が早い」

 

 淡々と言い放つ。流石はアスリート、ストイックな生き方をしている。

 

 暗星豪さんは、20代〜30代らしき見た目にはそぐわない、老成した雰囲気の笑みを浮かべた。

 

「ひひっ。(ぬし)、その『ねこ』はとんだじゃじゃ馬だから、重々気をつけろよ?」

 

 玄関の戸が閉まる。

 

 突如現れ、突如消える。あのマラソン大会のように、彼の在り方は流星によく似ていた。

 

 面白い人だった。また会えるかな。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

 それから1週間後。

 

「ニンジンをふんだんに使用したアップルパイの何がイケないんだぁぁぁぁ!!」

「パティシエコンテストにも出てるんですか……? 暗星さん多彩ですよね……」

 

 隣の部屋で2人の会話を盗み聞きしていたエージェントバークレーは、自分の後ろから様子を覗くブライト博士に尋ねた。

 

「アイツ、連日ここに来てるな……何故だ?」

「そりゃそうさ。SCP-973-JPは、ほぼ毎日何かしらの大会に出場しているからね。そして、その大半で優勝を逃している」

「精力が有り余ってるんだな」

「そのタフネスは見習いたいね。……大会参加中は、関係者への記憶処理が効かない。大会が終わるとすぐ消失するので、捕獲も不可能であると、日本支部の報告書にはあった」

「Keterクラスじゃないのは、一応管理はできているからってところか……」

 

 厄介なSCPオブジェクトが、また井上斑の周囲に増えてしまった。

 

 ブライトは、SCP-040-JPやSCP-2316よりは格段にマシという理由で、特に気にしていなさそうだ。

 

 しかし、バークレーにとっては、これが日常的であってほしくない。

 

「……ところでBarclay(バークレー)。冷蔵庫に入れてたハーゲンダッツを知らないか? バニラ味で、蓋に『B』ってサインしてたやつなんだが」

「ああ。あれ、Bright(ブライト)のBだったんだな」

 

 

 

 

 ねこです。

 

 あいつはめんどうくさいです。はやくかえれをじっこうしてほしいです。てんにかえれ。

 

 ねこはねます。あいつにからまれるとねこのそばにうざいがうまれるのでねます。

 

 ありがとうございました。

 

 

 

 

う し

 

 




・暗星豪(SCP-973-JP)
彼に関する本作独自設定
孔子(こうし)と菅原なる日本人に関係アリ
・一人称が『(うぬ)』、二人称が『(ぬし)
・四神と黄竜、桜主と知り合い
・SCP-973-JPの目的

ちなみに、SCP-1500-JPのディスカッションによれば、当該オブジェクトには四神の他、ある幻獣が登場予定だったそうです。

設定の発想の元は、アニヲタwikiの記事に寄せられた『SCP-1500-JPにもしあの存在がいたら、正体はコイツなのでは?』という主旨のコメント。なので自分のオリジナルアイデアではないのです。


・お塩(SCP-040-JP)
ねこはよくねますがねこはねこでないのでねませんがねこはねます。


・ブライト博士、エージェントバークレー
子ども向けのサイエンス漫画によくある、研究者とそれに振り回される助手みたいな感じにしたい。


・井上斑
最近、家に変なやつが集まってくる。しかし一番の問題は、本人がそれらを変なやつだと認識していないことである。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp
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