一旦居間に入ると、ティーカップがひとつ用意されていて、そこから湯気が踊っている。
そして、カップのそばには、こんなメモ書きが。
『斑くん、いつもお疲れさまです。今日も、買い物ありがとうございました』
これを書いたのは、“先生”と僕が呼ぶ人。我が家の家事手伝いさんだ。
“先生”は、この家のお茶淹れと掃除を担当している。料理とか洗濯は僕がやっている。
“先生”は僕が幼い頃からいるけれど、姿を見たことは一度もない。雇い主の母曰く、「とても人見知りが強いから、顔を知られたくない」らしい。意思疎通は基本的にメッセージカードだが、最近電子メールも使うようになった。
元は高校教師だったのだが、勤めていた学校がなくなって途方に暮れていたところを、母に拾われたそうだ。
たまに僕が勉強で行き詰まったとき、メッセージカードを介して丁寧に教えてくれる。だから“先生”。
僕は鞄の中からメモタイプの付箋を取り出すと、1枚ちぎって、ペンで連絡事項を書いた。
『今、家に白い野良猫が上がり込んでいます。買い物帰りのときについてきました。保健所に連絡する予定はありませんが、仕事の支障になるようでしたらお申し付けください』
これでよし。多分。
あったかいお茶を一口飲むと、僕は台所に入って、冷蔵庫を開けた。
『ねこ』は冷蔵庫の陰から僕を見ている。
一番上の棚に、煮干しのパックが入っていた。残量は袋の半分。まぁ、2、3尾……4、5尾くらいなら構わないだろう。
小皿を出して、その上に煮干しを乗せる。
『ねこ』は十数秒ほど僕を見つめていたが、やがて煮干しをポリポリ食べ始めた。
うん、大丈夫そうだ。
全部食べ終わると、『ねこ』は僕を────否、僕の後方を見つめた。
振り返るが、そこには壁があるだけだ。
「……猫が虚空を見つめるのって本当なんだな」
ねこです。
ねこはいます。
ねこはどこにでもいます。
どこにでもいるねこはそこにもいます。
はいおくにいます。ざいだんにもいます。えのなかにいます。てえるにいます。どうがにいます。けいじばんにいます。
のが、いまはねこをすきなひとのそばにいます。
ねこをすきなひとはねこがいます。といいません。
ねこをすきなひとはねこをねこだとおもっていますいます。
ねこはねこです。
ねこはいました。はいおくにいました。ながいこと、だれもねこをみませんでした。
ねこをすきなひとがねこをみました。ねこです。ねこがそこにいます。
ねこをすきなひとはねこをねこだといいます。
ねこをすきなひとはねこをひろめません。
ねこはいきるもののなかにいます。ねこはしんだもののなかにいます。
が、ねこはしんだものをすりぬけますので、ずっとはねこはいません。
ねこです。ねこはどこにでもいます。ねこはどこにもいません。
みるくをいれてくださいです。
ねこをすきなひとがいないときにみるくはあります。
ねこをすきなひとがいなくなりました。
みるくがいれられました。
ありがとうございました。
ねこはどこにでもいます。ねこはどこにもいません。ねこはいまねこをすきなひとのそばにいます。
ねこです。
よろしくおねがいします。
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SCP-040-JP “ねこですよろしくおねがいします”
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SCP-3715 “それほど繊細でもないお茶”
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