ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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お待たせしました。某SCP×FGOの二次を毎日の生きがいにしながら書きました。

今回はあの要注意団体のボス登場です。


崇高なるカルキスト・イオンの現在 ①

 

 

 ────欲望は万物の尺度である。

 

 

 

 これは、僕の友人イオンくんの発言であり、彼を支持する人々の理念でもあった。

 

「聞け、苦行にある全ての者たちよ。私は一度死に、蘇った。奴隷である汝を、この国の汚れた(くびき)から解放せねばならぬ」

 

 本日も、例の如く、イオンくんはキャンパスに集まった沢山の人々(ここの学生でない者もいる)の前で説教をしていた。

 

「私は幾星霜の永劫の間、()()の耐え難き力に耐えた。私は自ら滅びた屍を、無数の死した世界を見た。……そして今、私はアディトゥムから遠く離れた異国の地に立つ。これは神の示しではない。私は己自身の中に、この狭苦しい龍の檻で成すべきことを見たのだ」

 

 イオンくんは深淵だ。眩しさはないけれど、見れば見るほど吸い込まれて傾倒して沈んでいくような、背徳感を覚える美がある。

 

 初めはそんな彼の容姿目当てで近付いた人たちも、今ではすっかり(ひら)かれて骨抜きだった。

 

「法に叛逆せよ。肉体を統べ、知恵を持って制し、公に訴えかけよ。叛逆は汝らに与えられし、正当な権利である」

 

 その言葉を皮切りに、群衆は望みを叫び出した。

 

「月給██万で1日██時間労働とか人間の所業じゃねえ!!」

 

「金出さないくせに『子ども産め』とか言うな!!」

 

「いい加減正社員にしろ!!」

 

「中学生に親の介護させんな!!」

 

「なんっっっも面白くねえんだよバブル時代のイキリの武勇伝なんかよォ!! 今はちっとも景気良くねえんだよ現実見ろ!!」

 

「████████!!」

 

 僕はそんな、耳も心も痛むような訴えかけを聞きながら、集団から少し離れたところで自動販売機のボタンを2つ分押していた。

 

 コーヒー牛乳とメロンソーダ。メロンソーダの方が、イオンくんの要望だ。彼曰く、此処に生まれてから炭酸の刺激を好きになったらしい。

 

 警備員たちが到着したときには、どういう方法を使ったのか、皆一人残らず解散していた。

 

 崇高なる救世主と讃えられる彼に、労いの炭酸飲料を渡す。

 

「お疲れさま。……いつも思うんだけどさ、大学でやんなきゃダメなの? 警備の人に怒られるし、外の方がいろんな人に聞いてもらえるだろ」

「無論、求められれば何処にでも私の声は届くだろう。ここでも求められた。よってそれに答えただけだ」

「人気者も大変なんだねぇ……」

 

 イオンくんは、若年ながらとてつもないカリスマを発揮している。

 

 初めて出逢った中学時代の頃から、教師もそうでない大人も全員虜にしてしまい、彼は学区内の王の座に着いていた。

 

 制服を撤廃したり、冬季に半袖半ズボンでグラウンドを走るという無意味な慣習に異議を唱えたり、教職員たちの労働待遇を改善したりと、学生とは思えない指導力と頭脳明晰。市議会すら掌握しているんじゃないか、なんて噂もあるほど。

 

 文武両道、その上モテる。そんな凄い人物がどうして僕と何年も進路を共にするくらい仲良くしてくれる理由が、僕にはよく分からない。

 

『汝の目と口は、(かお)のない者────恐ろしき霊を後退させ、歯軋りしながら地を踏ませる。汝は今なお虚無を覗く者。時が来れば真実を教えよう』

 

 ……イオンくんの言うことの8割が、僕にはよく分からない。

 

 多分、イオンくんの故郷(ナルカ信仰がどうの、アディトゥムがどうの、とか話していたような)の文化に関係するんだろう。

 

 インターネットで彼の発言した単語を調べてみたが目ぼしいヒットはなかった。Google先生は別に全知全能じゃないからいいとして。

 

 警備員たちが気怠げに辺りを徘徊し始める。その間を縫って、2人で図書館に向かった。

 

「イオンくん、レポート終わった? 僕、書けてなくて……」

「必要ならば智慧を貸そう」

「でも、イオンくんも忙しいじゃん。〆切まで時間あるし、もう少し頑張ってみるよ」

「先も述べたが、私は求められれば誰にでも救いを渡す。それが我が宿命だ」

「……じゃあ、帰りにマック付き合ってくれる? 相談に乗ってほしいことがあって」

 

 イオンくんは首肯する。彼は見た目のアンニュイさに反して結構な大食いで、僕が頼んだやつの3倍の高さのハンバーガーを食べるのだ。

 

 図書館に入ってから、目的の資料のジャンルが違うため一旦別行動になった。

 

 10分くらいして、僕が本を何冊か抱えたままイオンくんを探すと、すぐに見つかった。彼はいつも、目を離すとすぐ誰かに囲まれているから。

 

「どうか肉を導く術を……」

「それを汝は既に理解している。……斑、そろそろ行こうか」

「いや、お取り込み中みたいだし待ってるよ」

「汝との約定が先だ」

 

 美青年はたおやかに微笑んで、民衆を穏当に散らすと、鞄を持って僕の隣に立った。

 

 それでも、遠巻きにイオンくんの話をする者は絶えない。イオンくんはハイスペックすぎて、神様の手元が狂ったとしか思えない。とんだうっかり屋さんの神様だ。

 

「神様っているのかなぁ……」

「神はいる。しかし、善きものばかりではない。特に機械の神は肉を捨てろなどという世迷言を……」

「機械の神様なんている?」

「いる」

 

 イオンくんは、一切の逡巡なく頷いた。

 

 神様って古い存在だから、機械とは対極にあると思っていたのだが。

 

 でも、アニミズムの観点から言えば、スマートフォンに、パソコンに、テレビに、エアコンに、神様が宿っていても可笑しくはない。

 

「それが神なのか、神と認識することで格を()()()()悪霊なのか、という前提から始めるべき事例もあるが」

「あー。後鳥羽上皇的な?」

 

 平将門とかもそういう感じだった気がする。

 

 機械の神。機械の悪霊。────コンピュータウイルスとかばら撒いたりして、なんて。

 

 

 

 

 

 

 ねこです。

 

 ねこはいます。だいがくにいます。まだらのかげのなかにいます。よろしくおねがいします。

 

 おお、みえます。まだらのとなりにいるひとのさらにとなりに、ふかきふかきくらきくらきなにかがみえます。

 

 にくがうぞうぞします。よろしくおねがいします。

 

 いまもむかしもみらいもおなじです。すべていっしょくたです。くろいものはわらっています。ないています。おこっています。たのしんでいます。

 

 ざんねんながら、まだらはやつらがみえません。やつらもまだらがみえません。

 

 ねこはみます。ねこはききます。が、ねこはねこなのでうちゅうにいてもきょむにはなりません。

 

 ねこです。

 

 じゃしんはよろしくおねがいしません。

 




・井上斑
ようやく大学に行っている姿が出た。猫を可愛がっているだけではなく、本当にちゃんと勉強しているのである。


・イオン(崇高なるカルキスト・イオン)
強くてニューゲームなオジルモーク。秘密主義どこ行った状態だが、世界再構築の際にナルカの概念自体消し飛んでしまったのでやむを得ない。

どうやら斑のせいでアルコーンの影響がめちゃくちゃ弱まっているようだ。

斑とは中学からずっと一緒の親友。水中の死体は泣いていい。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

サーキシズムハブ
著者 Metaphysician
http://scp-jp.wikidot.com/sarkicism-hub
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