ホワイトデーには特別編を更新する予定です。
「家に人を2人、匿っているんだよ。1人は病気で寝込んでたせいで金がない元研究者、1人は銃携帯の記憶喪失」
「警察に引き渡せばいい」
「提案した。でも、物凄く嫌がるんだよなぁ。市役所にも病院にも行きたがらないし」
「……名前は?」
「ジャック・ブライトさんとバークレーさん……ネットで調べたんだけど、それらしい情報は何も」
そこまで語ってから、僕はストローに口をつけ、ファンタグレープを啜る。
イオンくんは山盛りナゲットをあっという間に、吸収するみたいにして平らげていた。恐ろしい食欲だ。
「あ、でも、つい最近ブライトさんの知り合いっていう人が出てきた。暗星さんっていう、大会マニアみたいなアスリート」
「ならば、彼に身柄を預けるというのは?」
「暗星さん、ホテル暮らしなんだってさ」
しかも、あちこちのホテルを転々としているらしい。とんでもないフットワーク。とんでもないお金持ち。
「“先生”も母も、ブライトさんとバークレーさんを家に置くことを許してくれてる。でも、ずっとこのままは……『これからどうしたいか』って話をどうやって持ち出そうかと……」
2人を追い出したいとは考えていない。可能なら、ずっと家にいてくれていい。
……しかし、2人の気持ちはどうなんだろう。どこまで、内情に踏み込んでいいんだろう。
「汝の望むことを成せば良い。欲の衝突は避けられぬ、だが、それらは擦り合わされて、和が訪れるだろう」
「そうなんですかねー……」
「けれど、その者たちは気になる。今度私が赴いて邪を見極めよう」
「ありがとうイオンくん……相変わらず頼りになるよ……」
イオンくんが家に遊びに来るのは久々だ。クリスマス以来じゃないだろうか。
僕がハンバーガーを半分食べ終えたとき、イオンくんは既にハンバーガーもポテトもサラダもパンケーキも食い尽くしていた。
「その細身にどうやって入るんだ……?」
「汝に魔術は必要ないだろう」
「え、魔法? それ魔法なんですか?」
本気か冗談か判らない。でも、イオンくんはときどき人間の限界を超えたような言動をするから、魔法使いでも不思議じゃない。
炭酸でバーガーを流し込みながら、混雑してきた店内を見回すと、ある人と目が合った。
「あっ……アナさんの飼い主さん」
「マジか、偶然だな。学校帰りにマックって、アオハルかよ」
この間知り合ったばかりの、猫の飼い主仲間の人。いつもは休日に会うから互いに私服だけど、今日の彼はスーツ姿だ。
「仕事早めに上がってさぁ。今日はアナと再会した記念日だから……」
すると、彼は僕の向かいに座るイオンくんに目を止めた。
瞬間、ゾンビの大群に鉢合わせたかのように真っ青になって後ずさった。
「あ、あ、アンタ……なぁ、井上コイツ……」
「イオンくんです。知ってます?」
「知っ、知ってるって……は? 嘘だろお前、わかんねえか!?」
「……?」
「あああああ!! そうだった!! お前は……お前は、一般人だから!! こんなに、こんなにハッキリ……」
ひどい怯えである。一体どうしたって言うんだ。
イオンくんの後ろに、幽霊とか怪物がいるのか? 僕には霊感がなくて、あの人にはあるとか?
僕が目を凝らしても、目の前の友人は普通に綺麗に笑っている。お化けらしきものは見当たらない。
「彼は?」
「猫の飼い主同士親しくさせてもらってる方なんだけど……」
「……猫」
「ほら、前にも話したじゃん。お塩さんのこと」
「……なるほど」
イオンくんは微笑みをそのまま、怯え切っている彼にも向ける。
「私はイオン。アディトゥムの崇高なるカルキストにして、井上斑の友だ。
年上の知人は、イオンくんのオーラに威圧感を覚えたのかたじろいで、何か口に上りかけて、けれどすぐ背中を向けて去ってしまった。
どうしたんだろう、本当に。具合が悪そうだったけど。
少しだけでも、猫トークがしたかったのだが……まぁいいか。今はイオンくんとの約束が先だから。
「ごめん、食べるの遅くて……もう少しで食べ終わるから」
「問題はない。私もまだビッグマックとチキンフィレオと肉厚ビーフを収められていないのだから」
「そ……そっか……」
××××
「なぁなぁそこの湖の霊〜。
「マイルズ先生、この問題どうやっても解けない。教えて」
『計算ミスしてますよ、バーチウッドくん』
「ひひーん……無視されたぁ……」
集合意識と異常現象と妖怪変化が、ワークブックを前にやんややんやと喋る。
そこから注意を逸らさずに、ブライト博士はノートパソコンと向き合っていた。
「財団もないのに仕事ですか? アンタ、なかなか年季の入ったワーカーホリックだよ」
「再建したあとのことを考えてだよ、エージェントバークレー。井上斑の母親の話じゃ、私は20年も有給を使っていたらしいから、その埋め合わせだ」
「そうか、ならオレはアンタの倍以上働かなきゃだな?」
「君は
バークレーは、雑に渡されたチラシをまじまじと見て、すぐ机上に置いた。日本語の勉強でもしてろって?
「それにしてもブルーライトは目に毒だ……身体が一つしかないことが、こんなにも不便とは」
「その辺の野生動物を捕まえてくるんじゃダメなのか」
「ここは財団じゃない、公に開かれた街だ。どんな病気を持っているか分からない。リスクが高すぎる」
「彼らの肉体は貸さないぞ。もう死んでるし」
「生きてたとしてもお断りするよ、SCP-2316」
『バーチウッドくん、勉強に集中してください』
「ハハハ、怒られてやんの」
『ドクターはちょっかいをかけないでください』
「……」
私が悪いの? と上目遣いをするブライトを、バークレーは無視して、チラシに目を戻した。
暗星豪はというと、ティーンズの無視を喰らったくらいじゃへこたれないので、勝手にちゃぶ台の上の煎餅を食べている。
ブライトが肩をすくめて画面を見直すと、画面下からボーダーコリーがひょっこり現れた。
『ぶらいとさん、つかれてるの?』
「疲れていないよ。視神経その他諸々に過負荷が積もっているだけだ」
『ぼく、おてつだいするよ?』
「今のところ君に頼むことはない。あー、私が2人いたら昼夜交代で……」
「オレじゃ駄目か?」
「……What?」
シャーペンが動く音と、新たなお茶が満たされる音と、煎餅を咀嚼する音が止んだ。
「だから、オレじゃ駄目なのかって。どうせ一度は死んだ身なんだ。下っ端のオレがアンタに役立てるとしたら、それしかないだろ」
「んっ、んー? それは大胆でストレートなナンパと捉えて構わないかな?」
「弾がなけりゃ、銃なんて単なる荷物だ。しかも、オレじゃあそこのティーンエイジャーにすら敵わない。アンタが2人いた方が得だろ?」
「いやいや、その理論は短絡的にも……君たち! 気を遣って場所を移そうとするんじゃない!」
首飾りを慌てて後ろ手に隠しながら、ブライトはSCPオブジェクト3個を引き留めた。
SCP-2000-JPは画面の向こうの状況を把握できず、ただただ首を少し傾げて、ピクセルで構成されたしっぽを振る。
『ねえどうしたの? ぶらいとさんやっぱりつかれてるの?』
「疲れてるっちゃ疲れてるね! 何せSCiPだけでなく財団職員にまで振り回されているからね!」
「振り回す側はアンタでしょうが、ブライト博士。日本じゃ数多の禁止リストパロディが制作されるほど大人気らしいぞ」
「いいから手を離せ! 距離を取れ! 何を血迷ったのか知らないが、この家にブライトは2人もいないんだぞ!」
それは確かに。井上斑を混乱させるようなことをしてはならない。
バークレーはあっさり引き下がると、再びチラシを手に取った。
水中の死体とお茶の幽霊とダークホースは、状況終息を見届けると、そろそろと卓に戻る。いや、先生以外は帰ってほしい。
「……ねこの手も借りたいのは事実だ。しかし、SCP-963は破壊不可能だが、SCP-1983を無力化した君の心臓は、そこにしかないだろう?」
「それでも……オレはこの世に未練なんてない。やりたいこともやるべきこともない」
「あるよ」
ブライトはそう言って、突然黙る。
部屋が静かになる。
しとしと、ヒタヒタ、透明な音が家を撫でたり叩いたりするのが聞こえる。
「洗濯物取り込んできて」
「えー……」
「『えー』じゃない! そこのアノマリーも、収容される気がないなら馬車馬のように働くんだ! 私は寝るぞ!」
「ちぇっ」
「もぉー……」
エージェントバークレーとバーチウッドと暗星豪は、のろのろと不服げに腰を上げた。
その直後、家に飛び込んできたのは大学から帰ってきた彼だった。
「ただいま帰りましたー! ごめんなさい、イオンくんとマクドナルド行ってて! イオンくんはナルカ信仰とかあれでいっぱいお肉食べてて……」
バークレーが見下げると、ブライトは寝ていた。
否、気絶していた。血の気がないのか、不自然に真っ白だった。
「ブライトさんったらパソコン開けたまま寝ちゃって……仕方ないですねー。僕は洗濯物を取り込むので、バークレーさんはブライトさんにお布団掛けてあげてください」
「あ、はい。了解」
ねこです。ねこがきかんしました。よろしくおねがいします。
あめがふります。ねこはあめのなかにもいます。
ぶらいとがねています。なぜねるをしますか。
おきろ。おきてせんたくものをとりこむです。しばきますか。
ふとんはねこのものです。あまねくふとんはねこがそこにいるためにあります。あなたのではありません。
きいていますか。
きいていませんね。
「SCP-040-JP! かえってきたの!? ぼくおしごとおわったからぼくとあそぼ、あそぼ!」
ねこもねたいですがねられません。
なぜならいぬがねこをみますからです。
ねこです。おやすみなさい。
・イオン(崇高なるカルキスト・イオン)
ファストフードにハマった魔術王。尋常ならざる力を帯びており、斑にとってはよき相談相手。人選ミスってるよ絶対。
・アナの飼い主
SCP-976-JPこと『アナ』の飼い主。殺人歴のある現実改変能力者だが、現在は改心して真面目に働いている。
イオンのせいで正気度が下がったが、即帰宅して飼い猫に癒してもらったのでセーフ。
・ブライト博士(SCP-963)
仕事のできる研究者。残機がないので無駄におふざけとか出来ない。
・エージェントバークレー
なんか血迷ったやつ。今のところ彼のTaleはなく、文書1983-15だけが彼の人格を窺い知れる貴重な資料。
・“先生”、バーチウッド、暗星豪
財団職員の前なのに、なんかもう普通に入り浸っている。後者ふたりは、勝手に夕食まで居座ろうとしている。
・SCP-2000-JP
気遣いのできるわんこ。仕事とプライベートをちゃんと分けられるお利口さん。
・お塩(SCP-040-JP)
ねこは要注意団体にも負けません。ねこはつよいです。よろしくおねがいします。
・井上斑
友達とマック行って楽しかったーとしか思ってない。それ以上でも以下でもない。
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サーキシズムハブ
著者 Metaphysician
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SCP-2316 “校外学習”
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SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
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SCP-976-JP “スクラントン現実猫”
著者 08_ORB
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SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp