イオンくんと仲良くなったキッカケは、彼の一風変わった外見や経歴や特技には似つかわしくないかもしれないが、極めて普通だ。
イオンくんが出席番号2番で、僕が3番。だから、中学の入学式後に教室に入ったとき、隣の席だった。
「は、はじめまして。僕、井上斑です。よろしく」
「……
「え? カミノト? ……あ、信仰の話ですか? あの、一応神道? です。初詣とか七五三とか神社でやったし」
他人に宗教を聞かれたらそう言え、と母から言われていた。正直、神様の名前はアマテラスとかサクヤヒメとかウカノ何たらしか覚えていないが。
イオンくんは暫し僕を怪訝な顔で見つめると、一息ついてから呟く。
「……なら良し」
「うん……?」
「父なる蛇、MEKHANE、WANと呼ばれし、壊れたる機械の神の忌々しい気配の残滓があった。だが、汝がそれらと関係がないのであれば……」
「あれば?」
「……私は、汝の友を演じても良い」
というわけで、僕とイオンくんは友達になったのであった。
イオンくんは何故か苗字を名乗りたがらず、古風で難しい話し方をする。
なので、周りはみんなイオンくんを避けて、話しかけようとしても逃げられたのだと言う。
「この国では、『一年生になったら友達100人』という、愚かで厭うべき、形骸化した因習があると聞く。群衆はこれを守らない者を弾き出し、その者が道を歩くとき嘲って貶めるのだ」
「それはまぁ……100人とは行かずとも、友達がいないと『思いやりと協調性を持ちましょう』って書かれるらしいですから……」
小学校時代に一番仲が良かった子がそうだった。彼はとても聡明で機械に詳しかったが、あまりにも賢すぎるので、クラスメイトも教師も彼を疎んでいた。
妙にメカって感じの義眼や義手や義足を気持ち悪がられたのも理由の一つだ。そんなことを気にする人こそ、思いやりや協調性がないと思うけれど。
中学入学前に、遠くに引っ越してしまったブマロくん。今どうしてるんだろう。
話を現在に戻そう。つまりイオンくんは、学校生活を円滑に送るため、友達としてのポジションが必要らしい。
僕は同じクラスに喋れる子がいなかったので、それに乗った。
イオンくんは皆から怖がられていたけれど、僕にとっては、自分より下の人にも優しくできる良い人だ。
僕が委員会や係の仕事をしているときに手伝ってくれたし、テスト勉強にも付き合ってくれるし、給食にあげパンやフルーツポンチが出たら少し分けてくれるし、修学旅行でも一緒に観光してくれたし。
ブマロくんにイオンくんとのことを電話で話したら、翌日どころか1時間後に突如訪ねてきたこともあった。彼は存外心配性だ。
2人は実は旧知の仲のようだが、そんなに相性がよろしくない。犬猿の仲ってやつだ。
その後、みんなもイオンくんのことが分かってきたのか、手のひらを返して神様のように崇めたが、それでも彼は僕の友達のままだった。
一度、どうして仲良くしてくれるのか質問したことがある。
イオンくんは成績トップで、体力テストも全部1番の記録だ。普通の人間である僕より、もっと上の人と関われるはずなのに。
すると、彼は淡々と言った。
「汝の目と口は、
「恐ろしき霊? え、オカルトな話?」
「汝は今なお虚無を覗く者。時が来れば真実を教えよう」
イオンくんはときどき、こういうオカルトチックな言葉を使う。僕にはよく理解できない分野だ。
仕組みはどうあれ、彼の心の安寧が僕によって保たれているのなら、それは良いことなのだろう。多分。
しかし、まさか高校も3年連続同じクラスだなんて思いもしなかった。大学だって、彼なら東大どころかハーバードも目じゃないのに一緒なんて。
イオンくんが僕に目をかけてくれるのは嬉しいのだが、流石にこれはおかしい。知らない間に彼の命でも救ったんだろうか。
今でも解けない、僕の人生における最大の謎である。
××××
「────で、どう思います?」
「は?」
「イオンくんが僕に付き合ってくれる理由です。彼がとてつもなく優しい人なのは解りますが、隣にいるのは僕じゃなくてもいい。イオンくんの力なら、全ての銃弾をチョコレートに変えるのだって絵空事じゃないでしょう?」
彼がやるとしたら、チョコレートではなくミートボールだ、とブライトは言いそうになった。だが、例の如く口を噤む。
エージェントバークレーは、元々黙っていた。情報を処理しきれていなかったからだ。
「あー、斑くん。君が考えるべきは、『どうしてイオンが自分と仲良くしてくれるのか』ではない。『自分はイオンのために何を出来るのか』じゃないのか?」
「……そうですよね、友達ですもの。与えられた分は返さないと」
恐らくこの世で最も幸運な男はおもむろに立ち上がると、夕食の準備のために台所へ向かう。
「今度映画とか誘おうかなぁ……水族館もいいな……夏近いし……」
お出かけのプランを考える彼を見届けたあと、ブライトは居間と台所を隔てる襖を閉じた。
そして、ちゃぶ台の上で両手を組み、口元を隠す。さながらどこぞの司令官のように。
「“先生”は知ってたの?」
『ごめんなさい。確かに普通の人間でないことは把握していましたが、財団と関わりのある方だとは』
「“俺”は知っていたよ。この家で何度か鉢合わせたこともあったし、
「カルキスト・イオン? ……ゐおんのことか!
「……アンタ、今なんて?」
ようやく正常な思考力が復帰したバークレーが、ぐったりした声でSCP-973-JPに問う。
暗星豪を名乗る謎の草食動物は、自慢話でもするように語り出した。
「あれは████年前……
「簡潔に本題から」
「……喰われかけたのだ、アイツに。でも
サッちゃんは二度とゐおんに会いたくないって言ってたがな! 暗星はうっしっしと笑う。
サーキックの信者たちは『
……そもそもサッちゃんとは誰だ、どんな異常存在だ、と聞きたくなるところだが、今はサーキック・カルトの情報が最優先。
「他にイオンと会ったのは?」
「
興味がなさそうに丸まって寝ていたSCP-040-JPが、出来の悪いムーミントロールのような顔をもたげた。
ねこは音声を発しません。が、SCP-973-JPはその意思を自由に受信できるようだ。
「……一度もないそうだ。まぁそうだな、
『暗星さんは、そんなに昔から生きてたんですね』
「応よ!
そのとき、SCP-040-JPが暗星豪の頬を一発殴りつけ……いや、後ろ足で殴ったのでこれは蹴りです。言うなれば、『共振猫
う◾️は部屋の隅に吹っ飛ぶも、不明な方法で衝撃と重力を打ち消して天井に着地した。ちっ。
「ひひん!? 突然何すんだ
さいきんでばんがなかったのでやつあたりをしました。
ねこはつよいです。あなたよりつよいです。なぜならねこなので。
このいえにねこはいます。あなたのではありません。てんじょうでせんべいをくうな。
「ごめん小腹減って」
「暗星さんとバーチウッドくんは夕食たべていきますかー?」
刹那、SCP-973-JPは光よりも速く畳に降り立って、お塩に殴られる前とほぼ同じ位置で同じ姿勢を取った。
「うん、食べる食べる」
「“俺”もいただくよ。大人たちの面倒事に巻き込まれる迷惑料だ」
「じゃあ帰れば?」
本来なら、Keterクラスのオブジェクトを不用意に刺激したくはないのだが、ブライトは疲れていたので本音が収容違反した。
しかし井上斑は気にしない。「キャベツ足りるかなー」と呟きながら戻ってゆく。
暫し、場は静寂に包まれた。
『……イオンくんについて知りたいのでしたら、その、斑くんに頼んで中高の卒業アルバム出してもらいましょうか?』
「そうしていただけると助かるよ……」
卒アル撮ったんだ、古代の魔術王。人生二周目エンジョイしてるじゃん。
今はその感想しかなかった、博士とエージェントであった。
・井上斑
出席番号が早いのは、あ行の苗字の宿命。
この性格なので、小学校の頃から『面倒な子の世話をする係』を周囲から押し付けられがちだったが、この性格なので本人は気づいていない。
・イオン(崇高なるカルキスト・イオン)
昔からこんな感じ。中学生にあるまじきカリスマを発揮しており、廊下を歩くとどんなに混んでいても道が開けたという。
・ブマロくん
斑の小学校時代からの親友。今でもちょくちょく遊びに来る。そしてイオンといがみ合う。
・お塩(SCP-040-JP)
さいきんでばんがなかったのでふきげんです。ことしはとらどしなのでねこのとしです。よろしくおねがいします。
・暗星豪(SCP-973-JP)
友達の『サッちゃん』は、
・“先生”(SCP-3715)
忘れられているかもしれないが、彼女は12年前から井上家にいる最古参のSCP。当然、イオンとも顔見知り。ただのすごい超能力者だと思ってたらしい。
・バーチウッド(SCP-2316)
イオンとは争いたくないので、不干渉を貫いていた。でも隙あらば斑共々湖に誘い込むつもりでいた。
・ブライト、バークレー
どうしろっちゅうねん・・・・と思っている。
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サーキシズムハブ
著者 Metaphysician
http://scp-jp.wikidot.com/sarkicism-hub
SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp
SCP-2316 “校外学習”
著者 djkaktus
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2316