「お帰りなさい、ブライトさん、バークレーさん! 遅かったですが、何かあったんですか? ……あっ、玄関の靴? えー、その、実はですね、1日……いえ、2、3日、人を泊めることになったんです。セスさんというのですが……
────どうかしましたか?」
××××
「……普通さ、逃げるならせめて県境くらい越えたらどうだい? 本当はお兄ちゃんに探してほしかったんじゃないのか? 末っ子特有の構ってちゃんが発露したのか? 誘い受けなのか?」
返す言葉もないのか、セスさんは黙って焼きおにぎりを齧っていた。
ブライトさんとバークレーさんは、買い物帰りにブライトさんの昔馴染みに再会したらしい。話が弾んでいて帰りが遅くなったようだ。
────で、ここからが問題。
何と彼らはセスさんの生き別れの兄弟で、20年以上、弟のことを探し回っていたという。
その捜索への助力を依頼されて帰路に着いたブライトさんたちだったが、僕の家には食卓で焼きおにぎりを食べるセスさんがいた……
何たる偶然。何たる運命の悪戯。
「どうして彼らから逃げる? カインもアベルも、君への害意はもうないと言っているのに?」
「兄を信じていないのではないぞ! だが、これは……感情的であり、根深く、古き図書館のどんな本を参考にしても解決できない因縁だ。俺が昔のように、父と兄と、土の上で静穏を享受することは不可能だとは俺自身が知っている」
しかし、当のセスさんがこの通りだ。どんな事情があったのかは知らないが、彼は兄との再会を望まない。
「仮に私が君のことを諦めても、あの2人は諦めないことくらい分かるだろう。彼らは未収容。君を乗せる空中都市はない。日本は狭い。詰んでるじゃないか」
「一部、嘘をついているな。俺がどうしても会いたくないと主張すれば、兄を穏健に取りなせる者が、彼らの側にいるはずだ」
「……そこまで知っているなら、アベルが借りてきた猫みたいに大人しい現状も把握しているはずだが?」
「言ったはずだ。冷静になれば解ける蟠りではない。俺は兄とは縁を……いや、切れないからこそ厄介だ。この肉体に兄と同じ血は流れていないが、そういう話ではない」
ブライトさんが思い切り溜息をつく。子どもを説教しているというより、頑固な老人を説得しているような態度である。
「じゃあ聞くぞ? 君に太い実家はない! 頼れるドラゴンもいない! ひとり暮らしの大学生のお世話になるほど困窮しているのに、いつまでも逃げ切れるとでも?」
「
バークレーさんがボソッと放った一言に、ブライトさんが何か言い返そうとして、結局何も言えずにセスさんに向き直った。
「俺は、彼らに赦されてはならない。守るべき秘密も、都市も、失われたとてそれは変わらん」
セスさんはここまで言われても、意見を変えなかった。焼きおにぎりを全部食べて呑み込んで、僕たちに背を向ける。
「……こちらの事情にお前たちを巻き込む道理はない。夜が明ければどこぞへと去ろう」
「それでは何も変わらないぞ、S────」
「ブライトさん」
話に割り込むつもりはなかった。大人の問題であり家庭の問題で、これに大学生の僕が介入したところで何かが変わるとは思えない。
それでも、口が勝手に動いていた。セスさんがさっき言ったように、冷静になればいい問題じゃないのだ。
「ブライトさん、僕、セスさんはこの家にいた方がいいと思います」
「だが……君の負担になるよ」
「負担なんて後で辻褄合わせられます。でも、セスさんの問題は、お金とか労力でどうにかなる話じゃなさそうですよ」
母に何か言われるかもしれない。経済面がキツくなるかもしれない。そこは僕がバイト増やすとか方法があるだろう。
しかし、セスさんに関しては違う。
「ただの兄弟喧嘩で、橋の下で何日も寝ることになりますか? ……そこまで追い詰められてる人に、『家に帰れ』とか、『ここを出て行け』なんて言うのは無慈悲です」
「
「そりゃあ、お役所が何とかしてくれるならそれに越したことはありませんけど。でも、実際そうなってないからボランティアで動くしかないっていうか……」
無理を言っているのは理解している。
でも、こういうのは何というか、動機とか理屈とか考え出したら駄目なのだ。
「……セスさんに必要なのは、物理的な距離と時間だと思います」
僕は、家族と不仲になったことなんて一度もない。彼らの心情を詳細に想像することは難しい。
お互い、嫌っているわけじゃない。それでも、どうしても、今は会えない、会いたくないと当人が言っているのだ。2:1じゃ、分が悪いだろうし。
ブライトさんは癖っ気の強く明るい茶髪を雑に掻いて、仕方なさそうに告げた。
「私も、セスと同じようなものだ。名状し難い背景を抱えている。────養う立場の君がそこまで言うなら、拒む権利はないよ」
「ブライトさん……」
「アベルは同じ町に住んでるんだ。和解を焦る必要もないだろう」
「同じ町に!?」
「あと、カインとアベルを養ってる子。████大学の生徒だったよ」
「僕と同じ大学!?」
どんなミラクルなんだ。世間は結構狭いのかもしれない。
「しかし……君の周辺はどうしてここまで異常の坩堝と化しているのか。作為的なものを感じるよ」
「そうですか? そんなに珍しいですか、僕の周辺って?」
「神の実在を証明しているよ」
「神様がいるんなら、猫をたくさん派遣してほしいですよ」
いや、猫じゃなくてもいい。犬でも兎でもハムスターでも文鳥でも、金魚でも、トカゲでも、ドラゴンとかグリフォンだって構わないので、一度でいいから動物の群れに埋もれたい願望を叶えたいのだ。
それはさておき。僕はセスさんに改めて話す。
「えー、そういうわけなので。セスさん、狭いところですけど、ここでいいのなら、好きなだけ滞在してくださいね」
「……悪いな。いずれ兄とも話をする。この恩は必ず返そう」
「お気になさらず。ひとまずお風呂にします? もう寝ますか?」
「私は疲れたから寝たいかな……」
「ちょっと待ってくださいブライトさん。すみませんバークレーさ……こっちも寝てるし!!」
同居人が3人。“先生”やお塩さん、最近ほぼ毎日遊びに来るバーチウッドくんや暗星さんもカウントすると、この家は短期間で随分賑やかになった。
……流石に忙しない。今日は早く寝よう。
ねこです。
ねこはねこであるのにだれもねこをみません。せんせいのひとだけです。よろしくおねがいします。
ひとがふえてふえてめんどうです。とりあえずぶらいとからほろぶをのぞみます。
みるくをいれてくださいです。
みるくがいれられました。
ここでまともなのはあなただけですか、ざんねんです。
ねこです。ねこはねます。あしたはもっとうるさいですのでねます。
ねこでした。
・財団神拳を
○使える
ねこ、ブライト、暗星豪、アイリス、アベル、カイン
×使えない
井上斑、マイルズ先生、バーチウッド、2000-JP、アナ、アナの飼い主、バークレー、イオン、セス
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SCP-4840 “魔性のランスロットと空中都市アウダパウパドポリス”
著者 djkaktus
http://scp-jp.wikidot.com/scp-4840