ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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ダークホースがダークホースになる前のお話。

本作におけるSCP-973-JPの独自設定が100%ですのでご注意ください。ぶっちゃけラスト以外全部捏造です。

次回更新は3月21日(月)の予定。


畜生万事、塞翁がダークホース

 

 

 今は昔、葦原中津国に、それはそれは猛々しく美しい、生まれながらにして完璧なる霊獣がおったそうな。

 

 その霊獣は、人に化けることが出来た。詩歌を解する心もあり、剣技や弓矢、軍略もお手のものと、万能の才を持っていたため、人々はこれを恐れた。

 

 神や妖怪は全然尊敬してくれなかったけどな! アイツら(うぬ)の魅力に嫉妬してるのよ! 

 

 とはいえ獣は人の心を糧としていたので、浮世で人に混じって悠々と生きていた。

 

 あるときは、鬼道を操る巫女の弟を騙って彼女を補佐したり。

 

 あるときは、馬小屋の前で出生した少年を背中に乗せて3日3晩遊び回ったり。

 

 あるときは、尾張のうつけ者の亡骸を引き取ってやったり。

 

 あるときは、新婚旅行中のカップルから天逆鉾(あまのさかほこ)を押し付けられたり。

 

 平安の世では、ある男を助けていたこともあった。雪月花を好み、詩の才能に溢れた聡明な男だ。

 

 でも、アレはそんなに大した男じゃないぞ? 

 

 アイツ、責任とかそういうの大嫌いだったし、よく泣くし、あと(うぬ)を敬わないし。

 

 被害者だから美化されまくってる節があるけれど、正直、人間のオス同士のマウント合戦に負けただけだ。大したことない。

 

 政敵が流した讒言の所為で、立場が悪くなったヤツを、獣は何度も助けようとした。

 

「風聞が嫌なら(うぬ)が消すぞ?」

(あやかし)のお前に、そこまで頼ることはできない。これは私自身の問題だ」

 

 使えるものは使えばいいのに、愚かな人間だ。断られる度に獣は呆れていた。

 

 出立の時。家族に、愛しい都の花々に別れを告げた男は、最後に獣の元へとやってきた。

 

「なぁ、(ぬし)(うぬ)の眷属にならない? そうすれば煩わしいしがらみなんて気にしなくて済むじゃん?」

「それは出来ない。私は人間として死にたいのだ」

(ぬし)の色がわからぬ……別に、人間辞めても死ぬわけではないのに」

 

 しおらしく大宰府に行くのなら、それに着いていってやろう。どうせ惨めな暮らしに耐え切れず泣くのだろうから。

 

 提案を呑むのなら、責任を持って霊獣としての振舞いの手解きをしてやろう。無理に人間社会に帰属する理由もないのだから。

 

 そのときまでは、獣はそう考えていたのだ。

 

「……お前には何も解らぬだろう。例え苦しみ多くとも、儚い命であろうとも、人の身であることの尊さ。心なき妖獣に堕ちることが如何に罪深く短絡的か────」

(うぬ)って罪深いの?」

 

 聞き流せれば、適当に相槌を打っておけば、お互い美しい思い出で終われたのだろうか。

 

「ヒトより長いこと生きてきたが、ヒトの世界も怪異の世界も、目まぐるしく変わって退屈しなかったぞ。友と地を駆け回るのは、何時であっても楽しかったぞ。……なのに、なんで、勝手に幸せじゃないって決めつける?」

「……違う。言い方が拙かった」

「違わない。……ずっとそう思っていたのか? ヒトでない時点で、そいつら全員負け組だって?」

「待て、待ってくれ!! 私を置いて行くでない────!!」

 

 いつも、こうなのだ。獣の生はいつもこう。いつだって、人間の友とは喧嘩別れして終わる。

 

 神々や同類たちと遊ぶのは楽しい。例え諍いがあっても、互いに全部をぶつけてスッキリしたら、仲直りできる。

 

 しかし、人間は違う。人間は脆くてか弱い命だから、丁重に扱わなければならない。言論でも武力でも、戦いなんて出来なかった。

 

 朝廷を荒らしたのは、傷心でむしゃくしゃしていたからだ。その辺の疫病神や風神雷神まで巻き込んだから、想像以上に大きな騒ぎになってしまったが。

 

 俗世が平和だったのなんて、天地創造からほんの数年だけ。獣がのびのびできたのはその期間だけ。

 

 楽しいことばかりの妖生だ。でも、人界に関しては黒星続きだった。

 

 獣の(かて)は、人の心だ。特に、頂点に座す者への羨望や憧憬、眩い純粋な希望は栄養価が高い。

 

 権威ある者を補佐していたのは、それが理由というのもある。最もコストパフォーマンスの良い食事方法だったから。

 

 今思えば、それは間違いだったのだろう。(うぬ)が体制側を助けた所為で、多くの弱き民が死んでいった。

 

 いつ見限ればよかった? 東京五輪が取り止めになったときか? 関東の震災か? 

 

 いずれにしろ、1945年では遅かったのだ。

 

「アンちゃんは、高天原にも異国にもツテがあるんだろ? こんな国、とっとと捨てて自由に生きろ。……俺たちは、今更海なんて渡れないよ」

 

 人の方が騙すのが上手くなった、と嘆くようになった化け狸は、それから程なくして山から消えた。

 

「何が『妖怪大隊』だ! 妖怪の地位向上なんて嘘っぱちだ! そもそも、地位を下げてきたのは人間たちじゃないか! 人間より頑丈な資源としか見てねぇくせに……!!」

 

 酒の席で義憤を露わにしていた誰かは、人間としての姿を捨て、遠野に作られた妖怪の独立区に加わった。

 

 人間の戦争は、野に生きる獣たちにも大きな爪痕を残していた。神々は恐れをなして、とっくに(やしろ)を放って逃げ出していた。

 

 弱い妖怪たちは不安で縮こまっていた。強い妖怪たちは今まで通り好きに生きていたが、人里からは距離を置いた。

 

 どこもかしこも焼け野原。人の心も真っ黒に焦げついている。全然美味しくない。

 

 東京のオリンピックだって、本当は出たかった。馴染みの祟り神も誘ってこっそり出場して、もし妖怪が金メダルを取ったら、人間も少しは身の程を弁えるんじゃないか、と。

 

 黒星続きの妖生だ。泰平の世なんてやってこないかもしれない。

 

 だが、ふと、まるで綺羅星が落ちるようにして、獣の心にとても簡潔な考えが浮かんだ。

 

 ────それなら。

 

 ────自分が浮世を治めればいいのではないか。

 

 そうだ、どうして今まで思い付かなかったのだろう。

 

 (うぬ)は猛々しく美しい、生まれながらにして完璧なる霊獣だ。今まで見てきたどの人間よりも上手くやる自信がある。

 

 しかして、馬に乗る前にまず牛に乗れ、という言葉もある。積むべき経験は積まねばならない。

 

 (まつりごと)に関わるのは御免だ。人間のオス同士のマウント合戦と同じ土俵に立ちたくない。

 

 オリンピックのように、きちんとルールが決められていて、血の流れない遊戯で天下を取ろう。

 

 世界をもっとシンプルにしよう。好きなように遊んで駆けずり回って、勝っても負けても笑っていられる、そんな世を創ろう。

 

 同胞たちは、どうでもいいです、とか、馬鹿も大概にしろ、とか言ってきたが構うものか。

 

 (うぬ)は、勝者(ヒト)でなくとも幸せになれる世界にするのだ。

 

 最初はアレがいい。東京オリンピックのリベンジは逃したが、冬にも競技大会はあるようだから────

 

 

 

 

 

 

 

 

事案973-JP-█

 

 

19██/██/██

大会・競技会名: 長野██████

種目: スピードスケート500m

結果: 試合前練習においてスケート靴が破損した。SCP-973-JPの使用できるスケート履が他に用意できなかったためか、欠場となり直後消失した。

消失時間: 1時間20分

 

 

 




・暗星豪(SCP-973-JP)
昔より今のが傍若無人。褒められるの大好き。

ハイスペックだが変なところで詰めが甘いしポンコツ。財団の記憶処理も貫通するクセに記憶の置換はしないor出来ない辺り不思議。

本作ではねこが豪くんのことを『うし』と呼称していますが、彼自身が種族をどう自認しているかは曖昧にしてあります。


・暗星豪の交友関係について
彼は霊格が高い低いとかではなく、そこにあるだけの存在なので、周りの人外からはそこまで見下されてもいないし崇められてもいない。

平安時代の彼は傷心でかなりグレており、ワルな妖怪や祟り神たちと交流を持ったのもこのとき。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp

SCP-2708-JP “狐七化け、狸八化け。されど敵わぬものがいて。”
著者 Ueh-s
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2708-jp

遠野妖怪保護区ハブ
著者 2MeterScale, aisurakuto, FattyAcid, fish_paste_slice, hitsujikaip,
islandsmaster, kskhorn, Mishary, Nanigashi Sato, sakuradafarm,
Salamander724, snoj
http://scp-jp.wikidot.com/toyoho-hub
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