4月中旬までには・・・・何とか・・・・
「……何て?」
「つまり、男性の方は本来老いた鶴と人との合成生物のはずで、女性の方は即死級の認識災害を引き起こす実体のはずで、だがしかし2人とも普通に人間として生活しているのは可笑しいので例によって斑くんが何かしたんだろう、というのが私の推察だ。お分かりかな?」
ちなみに元とされるSCiPがコレ、と見せてきたスマホ画面には、大きな鳥居の画像が添付されたSCP-777-JPの報告書が映し出されている。
「女性……八尋と名乗る彼女は、まぁSCP-2316と同じようなパターンだと思われる」
「待てよ、ならSCP-777-JP本人は?
「んー……これもまた推測でしかないが、彼はアイリスやセスのパターンだろうね」
無論、人間になっているのか、神として生まれ直したのかは、本人に聞かねば分からないことである。
『ぶらいとさん! ばーくれーさん! SCP-040-JPが、なんかつるとかめをはやくおいだせっていってるよ!』
「2000-JP……いつの間にアレと親交を深めて……」
「残念ながら、追い出されそうなのはオレたちだよ」
「2人とも、話終わりましたかー?」
「オウッ!?」
襖がノックされた。
SCP-2000-JPは音声を発しているわけじゃないから会話内容は聞こえていないだろうが、ブライトは何となくスマートフォンを後ろに隠す。
「ごめんごめん、もうそっち行くから……」
「そうですか! あのですね……大変申し訳ないのですが、僕、これからバイト行かなきゃいけないんですよ」
「えっ」
居間に再入室すると、赤いリュックサックに急いで荷物を詰める斑と、不機嫌そうな亀、冷や汗を流す鶴、お茶を全部飲んでしまい手持ち無沙汰なセスが見えた。
スマートフォンを見直すと、確かに、いつも斑が家を出る時間帯だ。
「八尋さん、幸彦さん、ごめんなさい。帰ったら話の続きをしますから」
「……元はといえば、
いやこっちが構うわ。勝手に話進めるな。頼むからまだいろよ家主。バイトより世界平和だろ。サボれクソッタレ、とバークレーが矢継ぎ早に毒づきそうになるが、ブライトに口を押さえられた。
斑はリュックのショルダーハーネスに腕を通しながら、廊下を早歩きして、玄関で靴を引っかける。その間わずか1分。
ブライトたちの心境なんてお構いなしに、さっさと別れを告げてしまう。
「それじゃあ行ってきます! なるだけ早く戻りますから!」
「う、うん。斑くん行ってらっしゃーい」
シャッ、と扉が閉められる。
海の怪物のジメジメした視線に気付かないフリをして、ブライトは踵を返した。
居間に戻ると、さっきよりも格段に室温が下がっている。
「……お前たちに死に方を選ばせてやろう、と言いたいところだが」
「斑くんの母親に止められてる?」
「今は蒐集院よりも、海に毒を流す人間を排除する思想が、常世の主流でな」
「われらは汝ら人類にとって煙たい存在であろうが、共生を許してほしい……」
バークレーとセスが細く長い息をつく。
2人はブライトに比べて社会経験が薄い上に、追い出されるとやっていけない。ブライトは、一応、元の身体の持ち主の戸籍が残っているけれども。
「そうと決まれば、住まいを相応に整えねばならない。おい人間!」
「汝よ、どの人間か示さねば判らぬ」
「学者以外の2人、お前たちは風呂掃除だ。
『あの……ゲストルームは今、ドクターたちが使用しているのですが……』
「────やはり追い出すか」
「
「ううむ……斑の縁者に迷惑はかけられないな」
「私の同意は?」
××××
「えー!? 親戚が急に!? めっちゃ迷惑じゃん、井上君はそれで大丈夫?」
「大丈夫……ではないかもです……食材買い足さないと……献立計画狂いました……」
客足が途絶えている時間、チキンを揚げながら先輩と雑談を交わす。
外の景色は少しずつ群青を重ねていて、対照的に変わらず明るいのに誰もいないコンビニ店内は、何となく不安を覚える。
「あのさ、親戚が来たのって、お
「おにいさんって、ジャックさんのことですか?」
「え、あの人以外に兄弟いたっけ?」
「い……いないですよ、はい」
そういえば、バークレーさんとセスさんを周りにどう説明するか考えていなかった。遠い親戚とかでいいか。
「関係なくはないですが、別に大したアレじゃないと思います。僕やジャックさんのことが心配で、しばらく一緒に住むってだけなので」
「いやいやいや、それめちゃくちゃ大したことあるよ。アポなしで突然住むとか、距離感ヤバいって、その人たち」
「そうでしょうか……」
ひとつ目のチキンをトレーに上げる。
「でも、忙しくて電話できなかったみたいです。幸彦さんは農協で働いてるし、八尋さんなんて官僚ですから」
「守秘義務云々の話じゃないでしょ……てか官僚が親戚か……斑くんは、人生勝ち組だよね」
「恵まれてる自覚はあります。親に殴られたことないし、友達は優しいし、大学まで行かせてもらえるし、毎日ごはんが食べられますし」
「それって普通じゃない?」
「……普通じゃないですよ。これが普通なら、日本は自殺大国になってません」
2つ目、3つ目が揚がる。ちょっと油が手首に飛んだ。痛い。
これくらいじゃ何ともないけど、もし僕が「痛い」と口で言ったら、耳を傾けて心配してくれる人がいるのは確かだ。
でも、世の中にはそうじゃない人もいる。痛みを痛みとして取り扱ってもらえない人。声を上げる手段がない人。口を塞がれている人。わざわざ痛めつけられている人。
そんな人たちが、いつかと言わず、今すぐにでもどうにか生きやすくなればいい。
「僕は、お金と時間と体力に余裕がある分、少しでもちゃんとした大人になりたいんです」
「若いのに立派だねー」
「先輩と3歳差なんですけど?」
先輩が「マジか」と笑う。先輩は大学院生らしい。どこの院かは聞いたことがない。
そのとき、店内同様明るい入店音が鳴る。
「いらっしゃいませー!」
「斑ぁぁぁ!
「……バイト終わってからでもいいですか?」
妙に真っ黒なので誰かと思えば、暗星さんだ。
「え、井上君の知り合い?」
「そんなところですかね」
「もうな! 自転車のタイヤが吹っ飛んでな!?」
「バイト終わってからでもいいですか?」
ねこです。
しゃべるのもだるいです。
ねこでした。
・井上斑
コンビニバイトは大学に入ってから始めた。チキンを揚げるのが楽しい。
・バイト先の先輩
フリでも何でもなく、本当にマジでただの一般人。趣味はドライブとラーメン屋巡り。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-777-JP “鶴の翁”
著者 tokage-otoko
http://scp-jp.wikidot.com/scp-777-jp
SCP-973-JP “エターナル・ダークホース”
著者 perry0720
http://scp-jp.wikidot.com/scp-973-jp