ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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今回SCP-031が登場していますが、どうやら記事は削除済みのようです。プロットを書いた時点(6月くらい)では残ってたはずなんですが・・・・

鶴じいさんとサメ姫様のお話はこれにて終了。次回更新は8月までにやる予定。


SCP-777-JP “鶴の翁” ③

 

 

 

「かーごーめ、かーごーめ、かーごのなーかのとーりぃは、いーつ、いーつ、でーやぁる……」

 

「親戚が来てるなら」という店長のご厚意により、今日は少しだけ早く上がらせてもらった。ありがたいことだ。

 

 弾む心に任せて、落ちていく夕陽を眺めながら、適当に歌を口ずさむ。

 

「よーあーけーのーばーんーにー、つーるとかーめがすーべったぁ、うしろのしょうめん、だーぁれ……」

 

 直後、僕はギョッとしてしまった。

 

 前から歩いてくる2人の姿が異様だったからだ。

 

 1人は、カジュアルな装いの、20代くらいの男性。

 

 もう1人は────黒くてぶよぶよとした、かろうじて二足歩行と解る程度の奇妙な着ぐるみ。

 

 朱色と群青がなめらかに溶けた光の中を、その2人は寄り添い合いながら歩く。テレビの話とか、夕飯の話とか、そういう他愛ない話題が、冷たい空気に乗って耳に届く。

 

 カップルなのだろうか。着ぐるみじゃない方の人は、何やら時折愛を囁いていた。

 

 彼らがすっかり黄昏の奥に行ってしまったとき、僕は呟く。

 

「変わった着ぐるみだったなぁ……」

 

 世の中には、ああいうデート形式やファッションを好むカップルもいるのだろうか。世界は広い。僕の知らないことがまだまだある。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

「はぁー、これが昔の斑くん?」

「然り。確か(よわい)は七つのはずだ」

 

 浴室から響く「最悪だ!! 黒い悪魔(ゴキブリ)め!!」というエージェント・バークレーの悲痛な叫びを聞き流しながら、ブライトはアルバムを眺めた。

 

『入学式』と書かれた札の前で、ぎこちない笑みを浮かべる幼い少年。ピカピカの赤いランドセルを背負っているというより、背負われているような雰囲気だ。

 

 鶴と亀の生い立ちと住環境から考えて、まともなカメラ技術を覚えているとは推測し難いので、恐らくこれを撮ったのは斑の義母だろう。

 

 2枚目の写真は、綿津見八尋────SCP-777-JP-Aとされる人型実体が、7歳の従弟(いとこ)にサメの絵を見せられているものだった。

 

「懐かしき(かな)……絵画の()()()()()で佳作を取ったときの写真だ」

「あの母親はともかく、オトヒメ様は人間嫌いじゃなかったかい?」

生業(なりわい)の合間の暇潰しだ……と、あやつは語っていたが。われに本心は判らぬよ」

 

 幸彦は、鶴のように白い(かんばせ)に楽しそうな笑顔を浮かべる。直後、その微笑みに切なく苦々しい感情が混じった。

 

「何千年も昔────われは、姫との約定を破った。出産の痛み苦しみは計り知れない上に、伴侶に化け物と恐れられたあやつの絶望に、正面から向き合おうともせず。それが、われの罪なのだ」

 

 男は、古き異類婚姻譚を主観的に語る。約束を破り、伴侶を突き放す。遠い昔から変わらない不幸の玄関だ。

 

「だが、あの人の子……斑は、姫の姿を悍ましいと捉えなかった。それが例え誤解でも、(まじな)いによるものだとしても────われらには、何よりの救いであった」

 

 雪白の手指が、アルバムの写真を撫でた。仏頂面の八尋和邇の隣で、人間の少年がスイカを齧っている。何も知らない者が見れば、姉弟に見間違えたことだろう。

 

「かかることを汝らに願っても叶わぬとは知っている。────されど、どうか……あの子を大切にしてくれぬか」

 

 ブライト博士は、何も言わなかった。何を言っても、不正解になり得た。

 

「セス! ゴキブリを素手で触るな!」

「申し訳ない。手遅れだ」

「クソッタレ!!」

 

 風呂掃除はまだ終わりそうにない。2人きりの気まずい時間が続いてゆく。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

 帰宅すると、魚の着ぐるみを纏った方々が家の前に集まっていた。八尋さんの実家の使用人さんたちだ。

 

「████!!」

「████████?」

 

 相変わらず、方言が強くて内容が聞き取れない。家財道具を運んでいる様子からして、八尋さんの引越し準備に来たのだろうけど。

 

 軽く会釈をすると、腰(魚に腰はないけど)を曲げて返してくれる。潮の香りが辺りに蔓延していた。

 

「ただいま戻りましたー!」

「遅いぞ、斑」

 

 玄関の扉を開けると、八尋さんが腕を組んで待ち構えている。仕事着の重そうな着物を着ていて、何だか気迫が凄い。

 

「手を洗ったら夕食だ。わざわざ竜宮の召使いに作らせたのだから、残すことは赦さぬ」

「はーい」

 

 僕は洗面所に向かった。廊下の途中で「I told you not to touch it(だから触るなって) with your bare hands! (言ってんだろ!)」と言う声が聞こえたような気がした。

 

 洗面所で手を洗う。指と指の間、手首までしっかり泡で洗い、タオルで拭いた。

 

「斑くーん。ティッシュ切れたんだけど、買い置きってどこだっけ?」

「それなら、そこの棚に……え、ティッシュ切れたんですか? 今朝替えたばかりなのに」

「うん………………ちょっとね……Sし、サチヒコがアルバムを見ながら感極まってしまって」

 

 鏡の中を見ると、廊下の向こうをバークレーさんとセスさんが駆けて行く。何やらバークレーさんが怒っているようだった。

 

「斑! 早く来い! 飯が冷めるぞ!」

「はっ、はい!」

 

 八尋さんの高飛車な態度は、昔から変わらなくて安心する。沢山の使用人さんを従えているところといい、まるで本当の王族みたいだ。

 

 なんて、まさかそんなことあるわけない。彼女は官僚で、実家は九州の資産家らしいってだけなのだから。

 

 僕は念を入れてもう一度手を拭き、居間に向かった。そこへ、スタスタとお塩さんが無表情で歩いてくる。

 

「お塩さんもごはん食べます? 魚だから猫でも食べられると思いますよ」

 

 お塩さんは答えない。これだけ魚の匂いが漂っているのに興奮しないなんて、お塩さんはクールだ。

 

 

 

 

 ひさびさのねこです。よろしくおねがいします。

 

 さかながうごめきます。さかながねこのいえにつめよります。ここはねこです。

 

 つるもかめもおかえりください。よろしくおねがいします。

 

「久方振りだのぅ、白虎? どうやら随分な猫被りをしているようだが、我にはお見通しだぞ」

 

 それはねこのことばです。さめはしばきます。よろしくおねがいします。

 

「あ゛?」

 

 あ゛? 

 

 ねこです。ねこがねこでねこですので、ここはねこです。りゅうぐうではありません。かめのせきはありません。さようなら。

 

 ねこです。ありがとうございました。

 

 




・井上斑
小さい頃からよくシーフードを食べさせられていた。意外にも、裸で叫ぶタイプのお笑いが好き。


・八尋、幸彦(SCP-777-JP)
斑の親戚ふうふ。ベタベタイチャイチャはしていないが、お互い落ち着くところに落ち着いている。

育児経験は幸彦の方が積んでいるため、基本幸彦が斑の世話をしていた。八尋は、斑が成人したら自分の職場にスカウトするつもりでいる。


・バークレー、セス
風呂掃除をしていた2人。バークレーは日本語が読めないので、洗剤やら何やらの扱いはセスに任されている。


・お塩、ブライト
今回あんまり出番なし。


・SCP-031
これ以降は特に本編に絡まないゲストSCP。なんかぶよぶよした黒いやつ。
恋愛をする人には恋愛対象に見えるようだが、無性愛者には効かない。



この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

SCP-777-JP “鶴の翁”
著者 tokage-otoko
http://scp-jp.wikidot.com/scp-777-jp

SCP-031 “愛とはなんぞや?”
著者 Roget
元記事削除済み
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