ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

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SCP-CN-994の報告書が怖すぎて読めません。オールドマンも無理です。

そんな作者が書いてるSCP二次創作ですが、よろしくおねがいします。


SCP-963 “不死の首飾り” ①

 生きたかった。死にたかった。

 

 働きたかった。休みたかった。

 

 いろんなことを考える自分が増えたり、減ったりするのを眺める毎日。

 

 どちらにしろ立ち止まる余裕はなかった。良いことも悪いことも、全部ひっくるめて大変な人生だった。しかし、出来る仕事は出来る限りやったと思う。

 

 その結果が、()()だ。

 

 今、ジャック・ブライトは極めて空虚で長い眠りから目覚め、新しい顔をただ見ている。

 

 癖っ気の強い茶髪と、澱んだ碧眼。恐らくコーカソイド系統。身長は170センチ程度。視界が若干ぼやけているので、視力は悪い。

 

 片方のつるがセロハンテープで固定された眼鏡をかけて、ブライトは洗面所を出た。

 

 首にかけた“本体”の重みは、久しぶりに着けたはずなのに、気持ち悪いほどしっくりくる。

 

 電気の消えた、暗い部屋。空き缶や使用済みティッシュが散乱し、その辺を蜘蛛が我が物顔で歩いている。

 

 さっき判明したことだが、水道は止められていた。きっとガスもつかない。机の上にスマホの充電器があったが、この部屋では使えないだろう。

 

 薄汚れた手袋を、床に向かって脱ぎ捨てる。

 

 首飾りをどこかで拾った。そのときは手袋をつけていたから無事だった。が、家に帰ってから、どうしてか戦利品を首にかけてしまった。

 

 そんなことせず、そのままどこかに売り飛ばせば良かったのに。

 

 だが仕方ない。彼には悪いが、ジャック・ブライトを名乗らせてもらおう。

 

 ────名乗ってどうする? 

 

 正直に言うと、ブライトは前回の世界で全て出し尽くして果てた。ちっとも以前のような気力が湧かない……要するに燃え尽き症候群だ。

 

 いっそ────いっそ、何か知る前に、ここで二度寝するか。

 

 ちょうどそのとき、胃腸が悲鳴を上げた。

 

 餓死で終わるのはキツい。

 

 せめて、食い逃げでもいいから美味しいものを食べたい。

 

 家の鍵は開いていた。盗られるものなんて、今のところSCP-963-1しかないのだし。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

『ねこ』と出会ってから、数日が経過した。

 

 その間、『ねこ』はずっと僕のそばにいて、ほとんど離れなかった。

 

 一晩寝たら、ふらっといなくなるものだとばかり考えていたが、まさかこんなに居着くとは。

 

 しかしこの猫は実に不思議である。

 

 というのも、動物を飼うときに最も大変なのがトイレの躾なのだが、『ねこ』はその懸念を裏切った。

 

 庭でしているのかとも思ったが、どこにも排泄の便りは見当たらない。

 

 そもそも『ねこ』は僕に付きっきりなのに、いつトイレに行ったんだろう。全くもって不思議だ。

 

 しかも、『ねこ』はお風呂も嫌がらない。

 

 もう家で飼おうかな。そういうことにしようかな。という邪念が時たま過るのだが、感情に流されるままに命を預かるなんて、無責任ではないだろうか。

 

 そんなことを思いつつ、僕はバイト先のコンビニに行く。先日までは改装工事やら何やらで、店が休業だったのだ。

 

 問題は『ねこ』。

 

 家を出たら当然のようについてくる。多分、コンビニにもついてくる。それは普通によくない。

 

「コンビニの中には食品とかもあるので、バイト終わるまで外で待っててもらえませんか」

 

 というか野良猫なんだし。外にいるのが当たり前で、何日も民家に泊まっているのがおかしいんだけど。

 

 僕のお願いに対し、『ねこ』は馬耳東風といった様子で、僕の足元に座る。

 

 そういえば、『ねこ』はいつも、目線より下にいる。猫は高いところにいる印象があるのに。

 

 なんとなく思い立って、僕は『ねこ』を抱えた。『ねこ』はびっくりするほど暴れなかった。

 

 軽い。あまりにも軽い。あと、思ったより体温が低い。

 

「コンビニに着いたら、もうついてきちゃ駄目ですからね。『ねこ』なんてすぐ追い出されますからね。本当ですよ」

 

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

 その『ねこ』に見覚えがあった。

 

 いや、あれは()()()()()()()()()()()()類いのシロモノだ。

 

 それを、どうして、ただの青年が抱えている? まるで、普通の猫でも抱くみたいに。

 

 強烈な違和感があった。

 

 本来、あれは見てはいけない、聞いてはいけない、知ってはいけない、その瞬間に取り返しのつかないことになるような存在のはずで。

 

 こんな風に、冷静に分析なんかしてられないはずで。

 

 一体全体、何が起きている? 

 

「SCP-040-JP……」

 

 日本支部から送られてきた報告書に、一度軽く目を通したくらいだ。それでも覚えている。

 

 というより────アレが元々囚われていた廃屋を、ここに来る道中に見かけて思い出したのだ。

 

 どうしてミーム災害系のオブジェクトがここに? 

 

 どうしてあの男は、そしてそれを目撃したブライトも、平然としていられる? 

 

 ああ、ひどく頭が痛い。やっぱりあそこで二度寝するんだった。

 

『ねこ』がこちらをチラリと見やったとき、奇妙な視線に射抜かれて背筋が粟立つ。

 

 ────それだけだ。それで、おしまい。

 

 奴はどうやら、こっちに干渉したくてもできないらしい。

 

「……へえ」

 

 知ってしまったら、もう際限(キリ)がない。リンゴは芯まで食べ尽くす。それが、人間の“(さが)”だろう。

 

 

 




・ブライト博士(SCP-963)
いろいろあって蘇った、財団の問題児。世界滅亡の顛末を一から十まで目撃し、いろいろあって若干病んでる。



この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

ブライト博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file

SCP-963 “不死の首飾り”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-963
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