そんな日もあります!
流線型のフォルムが
ダイナミックな演目に歓声が上がり、跳ね上がった水飛沫を被って楽しげな悲鳴が上がる。
青空の下、5体のイルカは最後に息の合った大ジャンプを魅せて、約15分間のショーを完遂した。
拍手喝采の余韻が残る会場を後にして、僕たちは館内に戻る。
「最前列にして良かったー! あんな間近でイルカのジャンプ見たの初めてかも! ……あれ、2人とも服全然濡れてないね?」
「……偶然だ」
「古代の魔術をもってすればこの程度で」
直後、ブマロくんが鋼の肘打ちを繰り出すも、イオンくんは手の甲で受け流した。ダメージを打ち消しきれなかったようで、両者舌打ちをする。
「斑。これは偶然だ。この世に奇妙な事象は数あれど、それが起こらない可能性を証明するには存在しない悪魔が必要になる……理解できたな?」
「う……うん? そ、そういうものなんだ?」
「ローマ法学を用いた詭弁は止せ、ブマロ」
ブマロくんが舌打ちをする代わりに、金属の眼を攻撃的な色に発光させた。彼なら、いきなりビームやロケットパンチを撃ったって不思議ではないと思う。
ただそんなことをすると、この青い箱庭が全壊してしまうので、ブマロくんは溜息をついて終わった。
「我々は、来たる決戦まで力を温存すべきだ……違うか?」
「違う。私は即座に貴様の鉄の体を切り刻んでスクラップにしてやりたい。それをしないのは、私の繊細で温厚で慈悲深き感性が肉体の内に欠片を残しているからだ」
「2人とも、ペンギン見に行くよー?」
水族館はそこそこ混んでいたが、涼やかさと幻想を損なうことはなかった。
ペンギンはとても可愛かった。だが、20羽いるオウサマペンギンの内の1羽がとんでもなく剛力らしく、彼だけ脱走して行方不明になっているのは心配だ。
ドクターフィッシュのコーナーでは、水槽に手を突っ込んでドクターフィッシュに角質を食べてもらう体験ができた。何故かブマロくんには1匹も寄り付かず、イオンくんにはピラニアかと思うくらい群がっていた。イオンくんはそれからずっと勝ち誇ったような顔をしている。
チンアナゴも良かった。特に、エサを貰ったあとコインを置くパフォーマンスが可愛くて、子どもみたいにはしゃぎそうになった。写真を撮っておけばよかったと後悔している。そういえば、あそこは深海魚のコーナーの一角だった気もするが。
サメのコーナーでは、偶然八尋さんと鉢合わせた。八尋さんは水槽に向かって、「海から出ずるものは全て我のもの」とジャイアンみたいなことを言っていた。
そしてお昼。僕たちはクジラを眺めながらスイーツを楽しめるカフェにいた。
雄大な身体を翻して、クジラがぐるぐる回っているのを見つめる。
視線を前に戻すと、ブマロくんが『マッコウクジラのBIGパンケーキ』を、イオンくんが『ダイオウイカの山盛りパフェ』を、とっくに平らげていた。
「もう食べたの……早いね?」
「一口欲するならばくれてやったというのに」
またもブマロくんの肘打ちが炸裂した。今度は火花を噴いたように錯覚する勢いだった。
「さっきから手が止まっているが、胃が荒れているのか? 君のバイタル値は正常のようだが」
「んー……」
「例の、ざいだ……保護している外国人のことで合っているだろうか」
僕は頷いた。『クマノミのカラフルパンケーキ』は、二、三口分しか減っていない。僕はそこまで器用じゃないから、考え事をしながらスムーズに別のことを進められないのだ。
「このままじゃ良くないってのはわかってる。……でも、どこまで聞いていいのかわからない」
「どこまで?」
「……僕のお母さんのこと、知ってるでしょ」
母は、外では仮面を着用している。醜い容姿を笑われて、貶されて、差を別たれるからだ。
『あんな顔でよく外に出られるな。整形すればいいのに』
『普通に両親揃ってた方が子どものために……ああ、あのゴミみたいな顔じゃ再婚は無理か』
『なんか態度が偉そうなんだよな、不細工のくせに。もっとわきまえろよ』
無辜の一般人気取りで、偏見まみれの“アドバイス”を押し付ける場面を、幼少期から何度見たことか。今だってたまに言われる。
「僕は、同じことをしたくない……自分の中の無自覚な偏見で、ブライトさんたちを傷つけたくないんだよ……」
世の中には僕の知らないことが沢山ある。ブライトさんたちが何を抱えているのか。どのようにして日本に来たのか。
温室育ちの僕は、意図せずとも上から目線の物言いになってしまっているかもしれないのだ。
ブライトさんと出会った春からずっと悩んでいることだった。無知は罪だが、何もかもを暴露させるのは無神経にも程がある。
しかし、ブマロくんはあっけらかんと言い放つ。
「何だ、存外単純で解決可能な命題だな」
「うぇっ」
流石は天才だ。
「誰しも他者を、そして己をも破損させ、歪ませながら生きているのだ。つまらない次元で悩んでいないで、とっとと尋問すればいい」
「でもー……」
「無論、リカバリーを保証しなくていいなどというのは愚者の考えだ。思考を止めるな。何かあれば誠実に謝罪を示せ。君にはそれが出来るだろう」
ブマロくんは機械の腕を組んで、滔々と語る。
一方イオンくんは、2杯目のパフェを完食してから、何も言わずにブマロくんの表情を注視していた。
「ブマロくん……」
「もし奴らが下手な動きを見せるようなら私が潰そう」
「ブマロくん……暴力は駄目だよ……」
気持ちだけは受け取っておく、と付け足す。
クジラの影が、僕の頭上を通り過ぎた。
正直、問題は何も解決していない。これから解決しなくちゃいけない。だが、何故だろう、少しだけ心が晴れやかになった。
この2人は、真面目な話を笑わないで聞いてくれる。僕は、本当に人間関係に恵まれている。
「話、聞いてくれてありがとう。で、この後はどうする?」
「回転寿司」
「……イオンくん。水族館行った後にお寿司行くの? というか、まだ入るの?」
二度あることは三度ある。
鋼鉄の肘打ちが撃ち出された。
・ロバート・ブマロ
イオンよりは自らの正体を隠す努力をしているつもり。機械の身体に食事は不要だが、内部機構によりエネルギー変換が可能なので食べることはできる。
・崇高なるカルキスト・イオン
ドクターフィッシュにめちゃくちゃ手を食われたが、秒で再生したので問題ない。仮に問題があるとすれば食った側である。
・井上斑
ブライトたちの扱いに悩む大学生。幼少期から母親のことでいろいろと言われていた結果、こういう感じに成長した。
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