排泄を装い、席を立つ。当然のように宿敵も後を追ってくる。
「汝にしては随分生温い対応だ。計算機の冷却が滞っているのか?」
「……何を言う、カルキスト・イオン。教団の最高位たるオジルモークのお前が、私の計算を読めないとは恐れ入った」
肩から生成された肉の刃が飛ぶ。光速を超えるそれだが、両者にとっては戯れの域を出ない。
一寸の無駄ない動作で避けて、ブマロは笑う。
「全ては私の目的の為だ。奴は使える。このまま泳がせて、財団の残党を懐柔させておけば、後々こちらが楽に動けるだろう」
「どうだかな」
「とぼけているが、お前とて考えることは同じはずだ。でなければ、わざわざ凡人の親友を演じたりなどしない」
見知らぬ外国人を突き放し、神は死んだと安全圏から嘲笑うのが『普通』だ。
親友のことを真に思うのなら、『普通』に生きてほしいのなら、浅はかな演算結果に基づく低次元の思考回路を身に付けるよう忠告すべきなのだ。
それをしない時点で、ブマロもイオンも、井上斑を『普通』の世界に置き続ける気など毛頭ない。
「いいや、壊れたる神の構築者よ。汝は残酷で冷酷な機械を模倣する自我に酔っている。夏王朝で伝道をしていたときから、何も変化していない」
「それはお前もだろう。家に4KテレビとAIスピーカーを設置したな」
「魔術の道具だ」
「Netflixに富を積んでいるな」
「いずれ組織を乗っ取る前準備だ」
「笑わせるな。お前こそ、狂気と流血と弱肉強食を好む異常者の振りをした臆病者ではないか」
殺気の詰まった視線が衝突する。何万年も積み重ねられた確執が、今まさに弾けようとしていた。
────が、両者はほぼ同時に、視線を宙に逸らした。野生動物において、対峙した相手から先に目を逸らした方が敗者とされる。にも関わらず、彼らはそうすることを選択した。長い間争っていた彼らが。
これは、まさしく歴史的瞬間だった。彼らの情報を少しでも有する者ならば、この光景を見て月まで飛び上がり、酸欠で亡くなったことだろう。
歴史は繰り返す。だが、歴史から学習し、より善い未来へにじり寄ることも出来る。
「……少しは君にも変化があったようだな」
「フン、汝ほどではあるまい」
両者は今、和解への一歩を確実に踏み出したのだ────
「では、先週君がストレス発散で破壊した私の別荘設備を弁償してもらおうか」
「は?」
「は?」
そんなことはなかった。
××××
「ただいま戻りました〜!」
家に入ると、真っ先に出迎えてくれたのはお塩さんだった。ガラス玉みたいな双眸が見上げてくる。
「お塩さん、見てくださいコレ! お土産にクッキーとハンカチと……アザラシのぬいぐるみ買ってきましたよー!」
水族館で買ったのは、いろんな魚のイラストがプリントされたクッキーの箱に、イルカ模様のハンカチ3枚セット、そしてゴマフアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみ。
ぬいぐるみやクッションの類は、犬猫が寝具として利用することがある。まぁ、単純に部屋の彩りとして買っただけなのだけど。
「それにしても、ブライトさんたち、『お土産は何でもいいから五体満足で帰ってこい』だなんて……南極に行くんじゃないんですから……」
クッキーなら無難だろうと思って買ってきたのだが、大丈夫だろうか。
居間を覗くと、何やら聞き覚えのあるゲーム音楽が聞こえてきた。ついでに、ここ最近で聞き慣れた啜り泣きも。
「ひひーん……ひひーん……しゅーしゅーいんんんん!! バーチウッドが虐めるぅぅぅ!!
「ワー、スゴイスゴイ。アンセイゴウサンカワイソウデスネー」
「もぉぉぉぉ!! 雑!!」
予想通り、ブライトさんに縋りつく暗星豪さんの姿があった。ブライトさんは棒読みで喋りながら、バーチウッドくんが黒龍を狩る様子を見ていた。ついでに、バークレーさんとセスさんは神経衰弱をしていた(圧倒的にセスさん優勢)。
「ただいま戻りました……あれ? 幸彦さんは?」
「そういえば買い物に行くと言ったっきり帰ってこないね……天然記念物として保護されちゃったかな」
「幸彦さん人間ですよ……」
テーブルの上には、恐らく淹れ立ての紅茶の入ったカップがあり、『お帰りなさい斑くん』のメモが添えられていた。
すると、玄関の扉が開く音がする。迎えに出ると、細い片腕で幸彦さんを抱えた八尋さんが立っていた。
「ど……どうしたんですか、その、え?」
「
「う、うむ……大変申し訳ない……」
幸彦さんは抱えられたまま苦笑いした。八尋さんが呆れたように溜息をつく。
「全く情けない奴よ。あの程度の個体なんて、さっさと絞め殺してしまえばよいものを!」
「あまり物騒なことを言うでない……蒐集院は汝を警戒しておるのだから……」
2人が靴を脱ぐのを横目に、僕は再び居間に戻った。既にバーチウッドくんはゲームの手を止めて、ちゃぶ台の上のカントリーマアムを齧っている。
「あっ、こらSCP-2316!! ココアとバニラは交互に食べろ!!」
「うるさいオッサンだなぁ……」
「バークレー! セス! 君たちもだぞ!」
「
賑やかだ。少し前までは僕と先生、たまに母や友人たちだけの暮らしだったのに、僕の家はここ数ヶ月で随分賑やかになっていた。
人が多いことが一概に良いとは言えない。ただ、こうなる前の僕は、自分がねこを拾い、その飼い主と出会い、やがてこうなることを予想できただろうか?
人生は波瀾万丈だ。何が起きるか分からない。1分後には、空が落ちてきたり、大地が割れたりするかもしれない。
無力な一般市民の僕は、良くも悪くも、そういうどうしようもない不安を抱えて生きていくしかないのだ。
もちろん、可能なら、足元のお塩さんと共に。
ねこです。
てつのおりはまだゆれています。よろしくおねがいします。
きかいのひとはかるきすとのひととなかをわるくしていますでした。そのままひとどうしけしてください。
ねこはどこにでもいます。ひとのみているばしょのみていないところにいます。
「私の視覚センサーに死角はない。君が肥えて眠る暗闇はないと思え」
しかくだけにですか。
「………………」
ねこのてんかはちかいです。
ありがとうございました。
・井上斑
ねこがいるだけで人生楽しい。登場人物&SCPが増えてきたので、影が薄くなりつつある。
・ブマロとイオン
因縁の関係。年取ってある程度丸くなった。あと大食い芸人になりつつある。
・バーチウッド(SCP-2316)
溺死したティーンズの集合意識。友達の家でやるゲームが楽しい。すっかりただの生意気なガキになりつつある。
・暗星豪(SCP-973-JP)
大会大好きダークホース。すっかり即落ち2コマ芸人になりつつある。
・ブライト、バークレー、セス
すっかり大学生に養われる現状を受け入れつつある。
・八尋、幸彦(SCP-777-JP)
押しかけてきた親戚。これからより神らしく面倒くさくなる予定。
・お塩(SCP-040-JP)
ねこがこのいえのあるじです。ひれふしてよろしくおねがいします。
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壊れた神の教会ハブ
著者 FortuneFavorsBold
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サーキシズムハブ
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