今回は玄武のお話です。次回更新は土日を挟んで7月25日(月)の予定。
魂あるものの複雑さを、原初の海と常世を統べる我が知らぬ訳がない。
ゆえに此の世には『約定』というものがある。複雑な因果を、簡潔明瞭な
けれども、妹を遣わして尚、不安は募った。
一度は「化け物」と恐れられようとも、もしやいずれ心変わりしてくれるのではないかと期待した。
ならば、今すぐ殺めることは取り止めよう。不老不死の没収だけを懲罰として、奴が死んで常世に来るまで待とう。
数十年、長くても百数年のときがくれば、互いに冷静になって話ができるだろう。
それだというのに。奴は、奴は鶴に成った。農耕を愛していたあの男は、一千年の命と翼を手に入れて、陸と海を離れた。
忌々しい。何故だ。我が待っているのだぞ。お前が拒絶した元配偶者が、国を海水に浸すことなく静かにお前の死を待っているのに。
そうまでして、我の姿を畏れるか。臆病者め。お前の祖母と父親によく似ているではないか。
先に約定を破ったのは奴だ。全ての責任はあの男にある。誠意さえ見せてくれれば赦すつもりだったのだ。それを、我の精神疾患に原因を求めるなど、道理が外れているではないか。
海底にあっても鎮まることなき、煮えたぎった我が愛憎、我が執念、「女の怨みは恐ろしい」の一言で笑い飛ばされることの厭わしさよ。
嗚呼、嗚呼、嗚呼────早く死に絶えればいい。
あの男の血脈、権威を振り翳す小賢しい人間ども、全て滅んで仕舞えばいい。
そう、考えていたのに────
いざ、元伴侶を常世に迎え、人類が泡沫のように絶滅したとなると、我が心は宿主を失った貝のように空洞となったのだ。
奴らを愛していたわけではない。ただ、その滅びの様子が、あまりにも退屈で、現実味に欠けるものであったから……
なるほど、これが、数千年振りに感じる失望か。
××××
「……暇だ」
斑は大学。バーチウッドは“彼ら”との会議。暗星豪はトライアスロン。幸彦は実家から呼び出し。バークレーとセスは、近所の図書館に行ってしまった。
つまり、ブライト博士は久々に人間独りの状況を味わっている。
カインに協力してもらい、財団再建に向けてまずは資金集め(デイトレーダー)に奮闘しているブライトだが、進捗は牛どころかミミズの歩みだ。
億や兆なんて
かと言って、派手に動けば井上斑周辺の面倒なアノマリーに妨害されかねない。主に、現在進行形でキーボードの上に乗って、仕事の邪魔をするミーム汚染系SCiPのように。
金はない。仕事もできない。ついでに正座で足が痺れて動けない。八方塞がりだった。
「SCP-3715ことミス・マイルズ? いるんだろう、の話し相手になってくれ」
『申し訳ありません、これから仕事でして』
「仕事? お茶なら、さっき私が沸かしたぞ」
『いえ。ヤヒロ様に依頼された、リュウグウでの業務が……あっ』
メモの筆跡が止まる。
内臓をチクチク刺すような空気が漂った。
ブライト博士は、これまでの観察結果から
「SCP-3715……現代社会において、闇営業はご法度だ。まぁなんかしれっとテレビに戻ったりYouTubeやったりしてるけどそれはそれだ。解るね、SCP-3715?」
『えっと……』
そのとき。スパンッ、と気持ちの良い音を立てて襖が開いた。
SCP-777-JPとは対照的な、深海の黒闇を形にしたような人型実体がそこに立っている。
「その者が行なっているのは闇営業ではない。竜宮城の
「自然の法則たる神の下した命令に反論があるならば申してみよ、蒐集院」
綿津見八尋とベティ・マイルズ曰く。
マイルズは井上イワにより、彼女の給仕と斑の面倒を見る仕事を与えられていた……と、ここまでがブライト博士の聞いていた話。
これには続きがある。
いのうえまだらくんは、予想以上に手がかからない子供だった。障子を破るどころか、食事の好き嫌いもしない。忘れ物もほぼしない。夏休みの宿題は概ね7月中に終わらせる。現代っ子なので、勉強で分からないところがあったらまずインターネットで調べる。
マイルズは暇になった。暇つぶしと日本語勉強のためにクロスワードの空欄を潰す日々が続いた。
そこへ現れたのが、農林水産省と根の国で働く八尋だった。
『……ヤヒロ様に提案されました。お前は常世の住人なのだから常世で働けばいい、と』
「歳若くして死した者も多い。そういった者の
「………………」
そこまでして、教師がやりたかったのか。心臓発作で死んでも、異国とはいえあの世への道筋が開かれても、安寧より教職に従事することを選んだのか。
ブライトは、SCP-3715の報告書の記録を思い返した。不動かつ穏やかな性質。研究員にお茶を入れるだけで満足していたように見えた。それは全くの誤解だったのだと、ブライトは知る。
いや、財団は常にあらゆる状況、特に最悪を想定して動く。可能性を考えなかったのではない……認識しながら、あえて無視していたのだ。他の切羽詰まったSCPオブジェクトの管理に手を回すために。彼女の、“不動かつ穏やかな性質”に甘えていたと言ってもいい。
「SCP-3715。……教師の仕事はどう? 楽しいのかい?」
『ええ。やはり人間と勝手は違いますが』
「マイルズは人間の中でも優秀な個体だ。雑用と接待に留め置くには惜しい」
『身に余る光栄です』
大きく息が零れた。
まさかこうなるとは、ブライトも想定外だ。井上斑にばかり気を取られていたから仕方ないとはいえ、SCP-3715がSCP-777-JP-Aと関係を持つなんて夢にも思わない。報告書からして大したことはしないだろう、とマークを外していたのは間違いだった。先入観は身を滅ぼす。
「では、もう構わんな? 我は
「待て待て待て待て。待って。そこにお座りください御大臣様?」
「……いまだ何ごとかあるのか、蒐集院?」
意外にも、神は素直にインタビューに答えてくれるらしかった。機嫌が悪くならない内に畳み掛けて、事を済ませよう。
「農林水産省に勤めていると言っていましたね?」
「左様だが。人間の群れに直接干渉する必要もあるからな」
「それは貴方単独で?」
「ハッ、馬鹿かお前は? 我は海を統治する神であるぞ。下の者を補佐として潜り込ませるに決まっているであろうて」
「君以外にも神がいるのか?」
「何を言うか……組織など一枚岩では成り立たぬ。お前たち蒐集院も同じはずよ」
「……農林水産省に?」
「防衛省にも、外務省にも、宮内庁にもいるが?」
ジーザス。政教分離なんて大嘘じゃないか。
「そんな中枢にまで異常存在が食い込んでいたとは……そうか……」
ブライトは、空調で冷えた頭脳を回した。そして、あるよからぬ企てを閃いた。最も、それは世間的には許されない財団の常套手段であったが。
ねこです。
ねこはぶらいとのしごとをじゃまします。にんげんのじゃまがねこのしごとです。よろしくおねがいします。
「SCP-040-JP! おひまなの? ぼくはしごとないよ! あそぼあそぼ!」
しごとちゅうです。かえれくださいよろしくおねがいします。
・ざっくり容姿設定
挿絵を誰かに描いてほしいという下心がないと言うと嘘になります。
井上斑・・・黒髪黒目。『式守さん』の和泉くんみたいな感じ。ユニクロで買った服を着ている。赤色が好きなので、カバンや小物は赤。
ブライト博士・・・現在の容姿は、茶髪の癖っ毛に緑色の目。・・・・っていうのがどこかの人事ファイルだかTaleだかにあったはず。
バークレー・・・ロザリオと黒コート。あとはあまり考えていません。
バーチウッド・・・イメージはポケレジェのウォロを幼くした感じ。ハイスクールの制服を常時着用。
聖書三兄弟・・・褐色肌。カインが青目でアベルが赤目(公式)らしいですが、セスは特に決めてません。
鶴の翁、玄武・・・鶴の翁が全身白、玄武が全身黒。玄武の髪はショート。気分によって洋装だったり和装だったりする。
ねこ、SCP-2000-JP・・・見た目はほぼ本家通り。声のイメージはしまりんとなでしこですが、千空と大樹でもいいかもしれない。一松と十四松でも可。
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。
SCP-777-JP “鶴の翁”
著者 tokage-otoko
http://scp-jp.wikidot.com/scp-777-jp
SCP-2000-JP “伝書使”
著者 WagnasCousin, FeS_ryuukatetu, furabbit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000-jp