ねこです観察日記はじめました。   作:彩辻シュガ

8 / 56
SCPの報告書、オブジェクトクラスとかよりも先に『この報告書にはこれくらい怖い画像やギミックが仕込まれています』の注意書きが必要だと思いませんか?

自分は思います(アニヲタwikiとかでしか怖いSCPを調べられない人間)。


SCP-963 “不死の首飾り” ④

 妙なことになったぞ、と僕は思う。

 

「私は生命工学の研究者だったのだが……さっき言ったように長らく病気で臥していたものだから、再就職は難しい。身内もいない、職場もない、素寒貧だ。わかるだろう?」

 

 わかるだろう、と言われても。

 

 確かに放ってはおけない。

 

 生活保護申請なんて、こちらが提案するまでもなく先に思いつくだろう。なのに挙げなかったということは、公共機関にすら頼れない事情があるのだ。

 

 けれど、突然家に置いてほしいと言われると、ちょっと回答を逡巡してしまう。

 

「……僕の家でいいんですか?」

「良いも悪いもない。現状、私の選択肢(てふだ)は君しかいないんだ。────『ねこ』も君が気に入ったようだしね?」

 

『ねこ』は僕の膝の上に乗っかり、お弁当のゴミをペシペシ叩いていた。

 

 気に入っているのだろうか? ただ元々の性質が大人しくて、良い子なだけではなかろうか? 

 

 ……でも、もしブライトさんをこの家に置くことになれば、『ねこ』もこれから暫くは一緒だ。

 

 いや待て、そんな下心とか打算で人を助けてはいけない気がする。ブライトさんは本気で困っていて、僕とあそこで出会わなければ、明日にでも死にそうだったのに。

 

「ひとまず……その、母に相談してみてもいいでしょうか」

 

 そう言って、スマホをポケットから取り出した瞬間、メールの着信が来た。

 

 誰からだろう、と思って見ると、“先生”だ。

 

『おイワさんには既に連絡済です。来週の日曜日には帰ってくるそうなので、それまでは彼らを保護しておいてほしいそうです』

 

 一体どこでこの会話を聞いているのか。前からそうだけど、“先生”は不思議な人だ。

 

『それと、少々席を外していただけないでしょうか。ドクター・ブライトとお話がしたいのです』

 

 え、と思わず声が漏れた。

 

 “先生”が直接誰かと話をしようとするなんて珍しい……どころか、一度だって見たことがない。母とはよく話すようだが。

 

「すみません、これから“先生”……うちで働いている方が、ブライトさんと2人で話したいそうなんですが。それで僕、ちょっと席外しますね」

「……ああ、構わないが」

 

 スマホをポケットに戻して、居間から出る。声が聞こえるといけないから、居間から離れて、洗面所の方へ向かった。

 

『ねこ』は、ついてきていなかった。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

 目の前に、突然ティーカップが現れ、ふよふよ浮くポットからハーブティーが注がれる。

 

「……SCP-3715。直接会うのは初めてかな?」

『ドクター……貴方のことは、かねがね聞き及んでいます』

 

 手書きメモが、カップのそばに落ちてきた。2枚目も同様にして。

 

『まさか今こうして会えるとは、夢にも思いませんでした。何せ、財団は……』

「解っている。君たちが()()()()()()()()ことが何よりの証拠だ……」

 

 ブライトは『ねこ』とティーカップを交互に見た。

 

 異常存在を一般社会から隔離することで、人々の営みを守ること。それが財団の使命だ。

 

 しかし、今ここにいる2つのアノマリーは、確保も収容も保護も成されていない。

 

「SCP-3715。君が“先生”になったのはいつからだ?」

『……12年前です。“おイワさん”という女性に拾っていただきました』

「それが井上斑の母親か……」

 

 幽霊が見えている、というだけでも彼女は異常だ。その異常性が、息子の井上斑にどう影響しているかは調べる必要がある。

 

 井上斑。SCP-040-JPのミーム汚染能力を、ほぼ無効化していると考えられる、謎の人間。

 

『ねこ』を猫と思い込むことでミーム災害を防いだのか、否か。どちらにしろ、そのままなら確実に人類を蝕んでいたSCP-040-JPが、実質無力化状態にある。これは驚くべきことだ。

 

 財団職員としては、彼を野放しにするわけにはいかない。

 

「────終末を跨いだ有給休暇も、これで終わりか。いやぁ長かった。長すぎて休んだ気がしない」

 

 最優先事項は、確保されたSCP-040-JPを安全に収容するべく、ミーム汚染無効化のメカニズムを解明するべく、『井上斑』の身柄を保護すること。

 

 ……そして。

 

「財団の再建……資金も人脈も権力もない。963-1(不死)という折角のアドバンテージも、残機(うつわ)がないなら意味がない。今の博士ですらない、ただのジャック・ブライトに出来ることは無いだろう」

 

 だが、死んでも腐っても、自分は財団の一員だ。

 

財団()に見つかって不本意だろうが、よろしく頼むよ。SCP-040-JP……いや、これから君は井上くんの飼い猫ということになるのかな?」

 

 へらっと笑い、しゃがんで『ねこ』に握手を求める。

 

 まぁ、『ねこ』に握手とか挨拶とかいう概念が理解できるかどうかは知らないが────

 

 と思っていたら、『ねこ』は素直に前足を差し出して、

 

 前足はそのまま、

 

 ブライトの顔面にめり込んだ。

 

 それは、見事な、『共振“猫”パンチ』だった。

 

 

 

 

 ××××

 

 

 

 

「うあああああ!! 痛覚にまで干渉出来るのか!? やめてくれ今この身体しかないんくぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

 遠くからブライトさんが何か言う声が聞こえるけれど、内容はよくわからない。

 

 でもきっと、大切な『ねこ』と再会して、ひとときの幸せを噛み締めているに違いないのだ。

 

 そして、僕にできるのは、そんなブライトさんと『ねこ』を支えることだけ。

 

「これから忙しくなりそうだなぁ」

 

 

 

 

 ねこです。

 

 ねこは、はかせのひとよりつよいです。

 

 よろしくおねがいします。

 

 

 

 




・ブライト博士(SCP-963)
シリアスとギャグの振れ幅が激しい博士。財団としての活動初日、早速ねこにより全治2日の怪我(幻覚)を負う。


・『ねこ』(SCP-040-JP)
財団神拳を覚えている系SCP。一体どういうルートで知ったのかは不明。ちなみに、同僚が一度それで倒されているようだ。


・“先生”(SCP-3715)
ブライト博士のことは何となく知っていた。『ねこ』に関しての情報を後でブライト博士から聞き、ちょっと肝が冷える。幽霊なので肝ないけど。


・井上斑
完全にブライト博士の嘘を信じている。ブライト博士と『ねこ』に一緒の部屋で寝てもらおうとか考えている。やめろ。


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。

ブライト博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file

SCP-963 “不死の首飾り”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-963

SCP-040-JP “ねこですよろしくおねがいします”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp

SCP-3715 “それほど繊細でもないお茶”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3715

SCP-710-JP-J “財団神拳”
http://scp-jp.wikidot.com/scp-710-jp-j
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。