姉さん、あのね、聞きたいことがあるの。
なあに?
姉さんは、辛くなかった?苦しくなかった?
エインフェリアになる前の話?
ええ。
随分と昔の事ね。どうだったかしら。
アタシ、偶然耳にしたことがあるの。姉さんを…「斬鉄姫」と呼ばないで……
あぁ、「斬鉄鬼」と呼ばれていた事?知っていたわよ。
いつから…?
もう忘れちゃったわよ。
アタシ、陰であんな風に言われていたなんて…聞くまで全然知らなくて。
そもそも私に対しての聞こえよがしの悪口だから。
兄さん達がフィレスの耳に入れない様にしていた、というのもあったと思うわ。
でも!
私は、全てを引き受けると決めたのよ。
「嫡子の服を着た庶子」って、アタシ達三人に言われていたんでしょ?
…アレス兄さんね、バラしたのは。
けど、アタシがその言葉を聞いた時、それは姉さん一人に向けられた言葉だったわ。
確かに色々言われて、平気…ではなかったけど、ね。
姉さん、アタシの前でも、辛かったとか認めたくない?
認めるとね、いかにも「フィレスの為です」って恩着せがましくなるから、嫌。
くす。姉さんらしいけど、もうね恩着せがましく言っちゃってるから。
誘導尋問なの?
ふぅ、フィレス貴女ね、兄さんにそっくり。
兄さんと姉さんとアタシは、庶子で嫌な思いや苦労をしたでしょ?
パルティアに嫁いだ時、シフェルの庶子が四人居たの。知らされてはいたけれど実際に目の当りにすると、そりゃもう腹が立って腹が立って仕方なかったわ。
シフェルはアレは、もう天性のものだから仕方ないじゃない。
フィレスが嫁いでもあの調子だった?
アタシの夫になってからは、子供は作らなかったけど相も変わらず「美しい花は愛でるべきだ」とか何とか言ってくれちゃって…あのバカ!
アレはもうパルティア王家特有の病気としか…。
病気なら治るけど!シフェルのアレは!!一生治らなかったわよ!!!
そういえばシフェルよりフィレスが先に逝ったのよね。
シフェルは最後の別れの時、泣いたんじゃない?
当然!
もうね、齢を重ねた王の威厳なんて遥か彼方に吹っ飛んでね、涙と洟で凄い事に…ぷっ!
ねえ、フィレス。幸せだった?
それなりにねー。
そう。なら良かった。
アタシとシフェルの一人娘クリスティが出奔して、王位継承がどうなる事かとあの時は流石に胃が痛い思いをしたけれど。
アルムも居たけど、庶子にも助けられた?
うぅ~、絶対言いたくない!!
けど、クリスティを無理やり連れ戻さずに好きな事をさせてやれたのは……
庶子の存在ね。
王位継承者が複数いたから、フィレスは娘をある意味自由にさせる事が出来たのね。
アタシはシフェルに一人しか産んであげられなかった。
クリスティが出奔した後、一度だけ娘と接触したんだけど、帰らないっていう本人の意思が強かったって。
後顧の憂いを断つ意味でもパルティアとして完全に縁を切ったって。
シフェルがそう言ってたわ。
王の判断、か。
皮肉なものね。アタシ達はディパンに居た時、散々庶子という存在に苦しめられたのに、
パルティアでは……。
現実は時として辛辣だわ。こちらの心を平気で抉る。
こうして愚痴れる位には消化出来ただけでも、御の字って事かなあ。
色々と、そう簡単には行かないものなのよ。多分。
色々って、なによ姉さん。
色々は色々よ。
なんなのよー。
うふふ、知らない。
あはは、姉さん自分で言ったのにー。
ゆら、ゆら、ゆら。
蒼穹の鎧の下で二つの魂が寄り添いまどろみ、そして揺蕩う。
戦いありきでエインフェリアとなった、魂たち。
魂たちの見る白日夢は、何色をしている?
黒か銀か金か。
それは断罪か冤罪か罪科か。
今はただ、魂たちに暫しの間、休息を。
次の戦いが始まるまで、血塗られた定めを再び戦乙女と共に歩み始めるその時まで。
揺蕩う魂たちに安寧を―――――