細石   作:moon

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クールダンセル宅急便

「毎度ー!!クールダンセル宅急便でーす!!」

「あぁ、ご苦労さん。今回は早いんだね。」

「山賊が出なかったんで早まっちまいました。あ、受け取りお願いします。」

「ハイハイ、ちょいちょいっと。いやー魚介類が丁度切れそうだっだから助かったよ。」

「解凍は?」

「ミトラさん、自然解凍でいくから今回はいいよ。」

「了解した。」

「ここの魚介パスタ美味いからなー。ミトラ、食ってく??」

「ザンデ、食事は後だ。」

「早く届けてもらったお礼にご馳走するよ、お二人さん。」

「非常に申し訳ないがお断」

「本当っスか!!!ゴチになりまーす!!」

「いいねぇ、その返事!さ、ミトラさんもザンデさんの横に座って。」

「・・・宜しいのか?」

「たまにはご馳走させてくれよ。実は塩を変えてみようと思ってね。」

「塩か。ひょっとして岩塩とか?」

「鋭いね、トゥルゲンだよ。」

「あそこの岩塩はクセがあると思ったが。」

「そそ。山鶏と合わせて今度メニューに載せようかと思って。

味を利いてくれないかな?ミトラさんの舌は的確だからね。」

ザンデさんは何でも美味いだから、批評は期待できなくってさ。

小声で話す料理人の声を聞きながらミトラは俯き、笑った。

 

奪われた舌。潰された目。剥がされた耳。

無くした全てが今、ミトラと共に生きている。

だからミトラはその全てを駆使し、生を感じる。

 

----------

 

「よおー!ミトラじゃんか!!久しぶりーー!!」

笑いながら声をかけてきた若者の元気な声に振り返った。

喪失の森で川で乱射する光を受け、ぶんぶんと手をふるザンデ。

屈託のない笑顔。影の様な自分とは正反対の存在。

「本当に久しぶりだな、ザンデ。こんな場所に何か用があるのか?」

解放後に別のエインフェリアと出会うとは思っていなかったミトラは驚いた。

「いやー、迷っちまってさ。どうしたもんかと闇雲に歩いていたらあんたを見つけた。」

額の汗がキラリと光る。

 

こんな小さな森で迷うとは。ザンデは方向音痴なのか?

小さな疑問を口には出さずに、別の言葉を口にする。

「森の入り口まで案内しよう。」

「助かるわー。ミトラは今何をしてるんだ?」

「生を感じている。」

「そっか。充実してるんだな。」

ミトラが生を失った理由をザンデは知っているのか、いないのか。

答えを口に出さずに別の答えを口にするザンデ。

「充実している。ザンデは何をしている?」

帽子のつばを少し押し上げてミトラは問い返す。

「俺も充実してるぜ!何せ森に迷ったからな!」

些細な事でも楽しむ、小さな失敗も楽しみに変える若者。

解放後もザンデは相変わらずの様だ。

 

「ミトラ、俺と組まないか?」

森の入り口まで来た所でザンデは思いがけない提案をミトラに持ちかけた。

「組む、とは?」

普段なら警戒するであろう提案。生を失う理由を考えれば致し方ない。

だが、目の前のザンデは表も裏も無い。

「実はさ・・・。」

 

解放後、世界のあちこちを放浪した事。

海から離れた場所にある定食屋の魚介パスタが非常に美味かった事。

その店の料理人は中々魚介類が手に入らず困っていた事。

「でさ、クールダンセルで商品を凍らせて運ぶってのを考えたんだ。」

「いい案ではあるが。代金の問題があるぞ。」

「それは考えた。信用問題でもあるから、こっちが仕入れて

運賃込みで支払ってもらうってのは、どうだろう。」

「一度に多くは稼げないな。ザンデはそれでいいのか?」

「店にとって今の仕入れ値より安くなれば、それでいい。」

 

「・・・。」

あご髭をなでながらミトラは考え込んだ。

確かにこの提案は素晴らしい。

自分達も儲かり、相手からも喜ばれる「仕事」だ。

何より自分のクールダンセルが生かせる。

ザンデは商売とは無縁の生き方をしてきた。

そっち方面は疎いから、冷静に契約や代金の事を見れる人物が必要になる。

鳥の声が森から聴こえた。

 

「ミトラが嫌ならいいさ。」

「その定食屋は本当に美味いのか?」

「あんな美味いの、食った事無い!」

「魚は何を使う?」

「キレイな色や地味な色の魚だなー。」

「街道を通るのか?」

「基本はそれだけど、急ぎの時は山道になるかな?

ついでに狩りをして仕入れするのもいいかー。」

答えになっていない答えを口にするザンデ。

 

自分が生を失った理由。

失われた舌、目、耳で生を感じ、充実している今。

「お前は天然か?」

思わずミトラはザンデに問うた。

「へ??」

両手を頭の後ろで組み、空を見ていたザンデが間の抜けた返事をした。

空が眩しい。

そして口が言葉を発する。

「その提案に乗ろう。」

「本当か??やっぱ降りるなんて言うなよ!」

「私でよければだが。」

「決まりだ!決まり!!やったーー!!」

 

数日後、実はミトラを当てにして喪失の森に来た事をすまなそうにザンデが言った。

予想内の言葉にミトラは笑った。

「だってさ、クールダンセルと言えばミトラ。ミトラと言えばクールダンセル。

それしか思いつかなかったんだよ。それがザンデ流。」

 

----------

 

山鶏のパスタを美味そうに平らげていくザンデ。

ミトラはザンデの「美味い!美味い!やたら美味い!」を耳にしながら

皿の上の料理を見、その印象を口にする。

フォークに巻きつけた麺を口に入れ、山鶏と香辛料と塩加減を舌に乗せ

その感想を口にする。

 

貴重な意見を聞いた料理人は奥へ消えた。

開店前の店に他の客は居ない。

ザンデは完食し、腹を叩きながら食後のお茶を飲んでいる。

ミトラはまだ料理を楽しんでいる。

その二人の目の前に山鶏の肉の塊が置かれた。

「出稼ぎに行った妹に、これを届けてくれないか?」

料理人から仕事の依頼が来た。

「よっしゃー!その依頼、受けた!!」

「場所は何処になる?」

 

——クールダンセル宅急便——

依頼された仕事は完了した。

そして新たな仕事が舞い込む。

 




三角帽子のロゴマークが今日もミッドガルドを突き進む。
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