その姿を太陽が出ている真昼に見る事が出来るなどと、今だかつて無いことであった。
そしてこれからも決して無い、太陽の下の不死者。いや、不死者王。
鋭い鉤爪で引き裂いた足元の魔物に一瞥もくれず、踵を返しシルメリアへと向かう。
不死者が太陽の下で活動する場面を生まれて初めて、エインフェリアとなっても初めて見たアドニスは口にした。
「・・・・信じれねぇ・・・」その言葉に呆れと恐れが混ざっている事に、神族と不死者だけが気付いた。
アドニスより前に出て魔物を屠ったブラムスが黒づくめの姿の横を通る時、呟いた声が鎧に吸い込まれる。
「契約者か。」
その言葉にアドニスは一気に殺気立ち、大剣を振り上げた。
「斬れるか、私が。」立ち止まらずにブラムスは続ける。問い掛けですらないその言葉を聞いたアドニスの背中に冷たい汗が流れ、ざわざわと鳥肌が立つ。
相手は不死者、だがその強大さゆえに「王」の名を冠する。不死者への本能的、生理的恐怖とともに、そんな存在を相手にするという歓喜が黒い刃を煌めかせた。
一瞬の殺気の応酬を羽毛の様な声が断ち切る。
「眩しいわね。」
太陽の如き金色の髪とともに微笑むシルメリア。ブラムスは歩みを止めずにシルメリアへと歩き、アドニスは振り上げた剣を動かし、黒い刃で太陽を隠した。
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「契約者がエインフェリアとはな。」ブラムスがシルメリアの前に立つ。
太陽を背に立つ姿。不死者王ブラムスが生み出す影がシルメリアの全てを覆った。
契約者とは、一般的に不死者と何らかの契約を交わした者をいう。
契約内容はそれぞれであるが、高位の不死者と契約した場合に於いてその証として契約者の瞳が不死者のそれと同じ赤へと変化する。
赤といっても純粋な赤ではない。赤茶色であったり、アドニスの様な赤銅色であったり、要するに赤系の色なのだ。
赤という色素自体が人間に現われにくく、髪であれば数が多くはないが存在しない訳ではない。
が、瞳となると自然発生率は極端に低くなる。皆無ではない、稀に赤系の色を持って産まれる存在もある。が殆ど無いと言っていい。
ミッドガルド全体で何十年かに一人出るか出ないかの確率である。
共に戦うエインフェリアはそういった自然発生ではないとブラムスは言ったのだ。
「だからエインフェリアにしたのか。」
「そうではないの、純粋に彼の強さが欲しかったから。」
シルメリアの言うそれは理由の一つであり、全てではないとブラムスは思った。
「ロゼッタ王家の本流、壊滅する何代か前に契約者が居たな。」
「その人物はこの世にも、エインフェリアとしても存在しないわよ。」
「遺伝子としてあの色を受け継いだ、か。」
ブラムスの口端から鋭い犬歯が小さく顔を出す。
それを見たシルメリアは困ったといった風に微笑みながら横に首を傾げる。
「確かにアドニスは契約者その人ではないわ。契約者の血統に生まれただけ。」
「あの戦いぶりは、狂戦士だな。契約者の名残りが濃い。」
「だから欲しかったの。」
それまでブラムスの視線を受け止めていたシルメリアがアドニスを見る。
ブラムスはシルメリアの横顔を見ていた。
エインフェリアにした理由は力だけではない。他にもある。
おそらくは狂ったように戦うその滾りを鎮める為なのだろう、とブラムスは思った。
「召喚」の後には「解放」が待っている。
それ故に。
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黒い刃で太陽を隠したアドニスは久しぶりに聞いた言葉を反芻する。
「契約者・・・」
手首を翻し、一陣の風を斬る。
「反吐が出る。」
唸る様なその言葉は風切り音にかき消された。