【本編完結】転生したらブラック鎮守府の時雨だった話 改 作:chanhaya
杉野は激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の上官を除かなければならぬと決意した。
杉野には艦隊指揮がわからぬ。彼は士官学校を何浪かして卒業した提督予備生であり、今のところ大本営の役人である。艦娘は軍人だと考えているが、艦娘人間派の一員であり、人間派のエライ提督のお金で暮らしてきた。けれども地方への着任に対しては、人一倍に敏感であった。
本日の午後、杉野は大本営を出発し、ビルのジャングルを越え、この上野の市(東京都台東区)にやって来た。
杉野には地位も、金もない。父も、母も無い。女房もない。数年前に購入した二眼レフカメラと二人暮らしだ。
大本営では近々、先の大規模作戦の戦勝記念パーティーが開かれる予定である。
杉野は、それゆえ買い出しを頼まれ、この市まで来たのだ。
先ず、買い出しだとホラを吹き、それからカメラで鉄道の写真を撮った。
杉野には、竹馬の友があった。名をE233系と言う。
今はこの上野東京ラインを経由し、熱海から黒磯を結ぶ運用に就いている。その友を、これから訪ねる予定なのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちに杉野は、駅の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
もう既に日も傾いて、外の暗いのは当りまえだが、妙に静かだった。
基本的にのんきな杉野も、だんだん不安になって来た。路で逢った若い駅員さんをつかまえて、何かあったのか、十日まえにこの駅に来たときは、帰宅するサラリーマンで混沌としていて賑やかだったが、といい質問をした。
駅員さんは、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて定年寸前の駅員さんに逢い、今度はもっと、語勢を強くして質問した。老人は答えなかった。
杉野は両手でジジイのからだをゆすぶって質問を重ねた。老害は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「海軍と陸軍は、物資を奪います」
「なぜ奪うと言うのだ。徴収だぞ。まあ続けてくれ」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ」
「たくさんの物資を徴収したのか」
「はい。まず、駅のベンチを。それから、駅の看板を。それから、電光掲示板を。それから、一部のホームの線路を。それから、旧型車両を」
「驚いたよ。軍の人はご乱心か(自分が軍人ということは棚に上げる)」
「いいえ、乱心ではございませぬ。戦局が、悪化している、と言うのです。このごろは、通勤客をもお疑いになり、JR貨物は軍の管理下で大増発され、我がJR東日本は路線の使用料で儲かっておりますが、旅客列車の本数と比例して利用客は減っています。御命令を拒めば、深海棲艦が近海をうろついている千葉支社に、左遷されます。私事ですが、今月は、5編成のE231系が重機の餌食になりました」
聞いて、杉野は激怒した。
「呆れた上層部だ。こうしておれぬ」
杉野は、単純な男であった。仕事を、放ったままで、のそのそ軍用車に戻って行った。
たちまち彼は、上官の着信履歴に捕縛された。調べられて、軍用車に付いていたドラレコからは映像が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
杉野は、上官の前に引き出された。
「上野駅で何をするつもりであったか。言え!」
暴君滝川は静かに、けれども威厳を以って問いつめた。その人の顔は色黒で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。そして、髪はバーコードの如く。
「買い出しを」
杉野は悪びれずに答えた。
「お前がか?」
部長は、憫笑した。
「仕方の無いやつだ。お前には、軍人の仕事がわからぬ」
「言うな!もっとハゲるぞ!」
杉野は、いきり立って逆ギレした。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。滝川中将は、部下の忠誠さえ疑って居られる」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、お前たち新人提督だ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ」
バーコードハゲは落ち着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「私だって、平和を望んでいるのだが」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。このハゲ」
今度は杉野が嘲笑した。
「罪の無い人を叱りつけて、何が平和だ」
「黙れ。穀潰し」
バーコードハゲは、さっと顔を上げて報いた。
「提督予備の口では、どんな清らかな事でも言える。私には、軍人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。お前だって、いまに、軍法会議にかけられてから、泣いて詫びたって聞かぬぞ」
「ああ、ゲーハーは悧巧だ。自惚れているがいい。私は、ちゃんと働く覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」
杉野は、そこで言葉を切った。
「ただ、なんだ?」
バーコードハゲが促した。
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、三日間の猶予を与えて下さい。たった一人の893の知り合いが、闇市の物資の取引に乗り気なのです。三日のうちに、私は彼らとの契約を纏めて来ます」
「馬鹿か」
バーコードは、嗄れた声で低く笑った。
「とんでもない嘘を言うわい。逃がした無能が帰って来るというのか」
「そうです。帰って来るのです」
杉野は必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。中山組の若頭さんが、私との取引を待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この大本営の役人の一人に、白崎という大尉がいます。私の唯一の後輩だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が失敗して、三日目の定時までに、ここに帰って来なかったら、代わりにその男を処罰してください。たのむ、そうして下さい。あと、その白崎もよく勤務時間帯にパチンコ店にいるのを見かけます」
白崎はとばっちりを受けたという。
それを聞いて滝川は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。
生意気なことを言う。どうせ帰って来ないに決まっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。ついでに白崎とかいう男に、杉野から密告があったと伝えてやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、私は悲しい顔して、その白崎とかいう男を柱島鎮守府送りに処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう人間にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その契約をとってくるがいい。三日目には定時までに帰って来い。遅れたら、白崎は殺す。ちょっと遅れて来るがいい。おまえの罪自体は、永遠に許してやる」
「な、何をおっしゃる」
「はは。私は国が大事だから、遅れて来い。お前の性根は、わかっているぞ」
杉野は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
唯一の後輩、白崎楠男は、会議室に召された。暴君バーコードの面前で、先輩と後輩は、数時間ぶりで相逢うた。
滝川は、白崎に一切の事情を語った。白崎は無言で戦慄し、杉野をぎろと睨みつけた。後輩なんかは、それでよかった。
白崎は、こっぴどく締め上げられた。杉野は、すぐに出発した。
東京駅の最終列車、総武線快速 東京行に一駅乗って。
杉野はその夜、電車の写真を撮った後、五里の帰路を急ぎに急いで眠りについた。
大本営へ到着したのは、翌日の午前、陽は既に高く昇って、同僚たちは皆、パソコンや紙と見つめ合って居た。
杉野の上官の一人であり、坂本研究所の所長である坂本中佐も、今日は何か作業をしていた。颯爽と歩いて来る杉野の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく杉野に罵声を浴びせた。
「朝イチに呼ばれてまして……」
杉野は無理に取り繕おうと努めた。
「中山組に用事を残して来た。またすぐ中山組に行かなければいけない。あと明日、先月分の稚内鎮守府の戦果を纏めて挙げる。早いほうがよかろう」
坂本は顔を赤らめた。
「うれしいか。この前のヘコませたバンパーも直して来た。さあ、これから行って、お偉いさんたちに知らせて来い。先月分の稚内鎮守府の戦果の提出は、明日だと」
杉野は、また、颯爽と歩き出し、席へ帰ってyou○ubeで鉄道音MADを見始め、間もなく机に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは昼だった。私は起きてすぐ、中山組本部を訪れた。そうして、少し事情があるから、契約を明日にしてくれ、と頼んだ。
若頭さんは驚き、それはいけない、こちらには未だ何の書類も来ていない、せめて見積もりは出してくれ、と答えた。私は、それじゃ困ると食い下がった。
若頭さんも頑強であった。なかなか承諾してくれない。夕暮れまで議論をつづけて、やっと、どうにか若頭さんをなだめ、すかし、おだて上げ、ご機嫌を取り結んで、説き伏せられた。しつこく食い下がった結果、怖いお兄さんたちに連れ出され、帰宅することになった。
結局契約は、白紙になった。私の、若頭さんへの謝罪が済んでしばらく、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
家のパソコンでyou○ubeのジ○ジョのMADを見ていた私は、何か不吉なものを感じたが、それでも、MADの演出で気持を引きたて、狭いアパートの中で、一人笑いころげていた。
明日の定時までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに言い訳を考えよう、と考えた。その頃には、怒りも小ぶりになっていよう。少しでも永くこの環境にグズグズとどまっていたかった。
私ほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。
今宵呆然、風俗にてヤケ酒に酔っているらしい白崎に電話をかけた。
「栄転おめでとう。私は脅されてしまったから、ちょっとご免こうむって白状しただけだ。眼が覚めたら、すぐに東京駅で新幹線に乗れ。暴君滝川はキレたら何するかわからんからな。私がいなくても、もう君には優しい自然と部下の艦娘があるのだから、決して寂しい事は無い。君の先輩の、一番嫌いなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。お前も、それは、知っているね。先輩との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。君に言いたいのは、それだけだ。君の先輩は、おそらくエラい男なのだから、君もその誇りを持っていろ」
白崎は、話途中でワンワン喚きだし、うるさかったので「黙れカス」と一言言い、電話を切った。
そして私はス○ロングゼロを一つ飲むと、布団にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌日の始業の頃である。私は跳ね起き、南無三、寝過ごしたか。いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、刻限までには十分間に合う。
今日は是非とも、あの暴君に、私の処世術を見せてやろう。そうして笑って軍の足元にしがみついてやる。私は、悠々と身仕度をはじめた。
おそらく怒りも、いくぶん小ぶりになっている頃合いである。身仕度は出来た。
さて、私は、安っぽいチャリに飛び乗ると、雨中、車の如く走り出た。
私は、これから、怒られる。怒られる為に出勤するのだ。身代りの後輩を弔う為に出勤するのだ。
暴君の奸佞邪智を打ち破る為に出勤するのだ。弁明しなければならぬ。そうして、私は許される。
若い時からの居場所を守れ。さらば、白崎。若い左遷は、つらかった。
幾度か、吹き出しそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながらチャリをこいだ。
家を出て、ビルを横切り、高架をくぐり抜け、大本営の近くに着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
私は額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや白崎への未練は無い。
白崎は、きっと良い提督になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。
まっすぐに大本営に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気を取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、私のチャリは、はたと、止まった。
見よ、前方の海軍陸戦隊の群れを。その中心に居る男こそ、邪知暴虐の滝川バーコード少将だ。
「…………」
滝川が振り向いて私を見た。私は慌てて目をそらし、俯向いて、そのまま立ちつくした。
「やあ、杉野少佐」
暴君滝川は妙にフレンドリーに私に話しかけてきた。
「な、何でしょう……」
私の背骨は、凍り付いた。
「君には網走鎮守府への異動命令が出ている。ご苦労だが、荷物をまとめてくれ給え」
暴君はニコニコ笑っている。
「は?」
私は、きょとんとした。
「聞こえなかったかね? 私は何度も言わぬ。杉野、貴様、耳も遠いのか。それでは困る。網走に行けと言っている」
「アッハイ」
そうして、私は、網走鎮守府に左遷された。
◇
「まあ、こんなことがあったんだよ」
話し終わった時雨は、どこか遠くを見るような眼をして、フッと微笑んだ。
「お、おう」
荻原は、めっちゃ戸惑った。
「まあ、そのおかげで網走の時雨と出会えたんだけどね」
時雨は照れくさそうに笑い、ス○ロングゼロを飲み干すと、新しいのを取り出して栓を抜き、
「じゃ、もう一杯飲もっか」と言った。
「そうだな」
荻原も笑ってグラスを差し出す。
こうして、夜は更けていく。
杉野時雨(時雨)
本作、転生したらブラック鎮守府の時雨だった話 改の主人公。
やべーやつ。
大本営の陰謀によりぶっ殺され、横須賀鎮守府の時雨に転生した。
白崎楠男(串本白露)
外伝、因果応報としか言えない白露の話の主人公。
出世コースを歩んでいたのに、柱島鎮守府とかいうド田舎に左遷され、出世コースから外れた結果、元々結構クズだったのがさらにクズになり、立派なブラック提督となった。
そして、ぶっ殺され、串本鎮守府の白露に転生した。
滝川さん(バーコードハゲ)
唯一の良心。
将来、坂本に粛清される。
坂本藤雄
転生したらブラック鎮守府の時雨だった話 改の黒幕みたいなやつ。
大本営の偉い人。
杉野より何歳か年上。
後日談書きたいんですが、読みます?
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読むから書け
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あったら読む
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好きにしろ
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読まない
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どうでもいい
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蛇足だから書くな
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串本の白露の話を書け