「中」と呼ばれる無法地帯で流れの料理人が、捨てられていた1人の赤子を自分の後継者とする為に拾って育てることにしたらしい。
時は流れて赤子は子どもになり、流れの料理人の手伝いができるようになった子どもは料理の才能があったようで、親代わりの流れの料理人よりも料理が上手になる。
流れの料理人は治安の悪い「中」で自由に生きられる程度には強い武術家でもあった。子どもに武術も教えることにした流れの料理人は、後継者となる子どもに自身が学んだ全てを教え込んでいく。
料理よりも武術の才能が凄まじかった子どもは普通の子どもではないようで、生まれつき神経伝達物質を思うままに出すことができていて、ミオスタチン関連筋肉肥大であり、遺伝子変異と筋細胞による非受容が重なって筋量は常人の2倍以上。
武器術も教えるつもりだった流れの料理人は、子どもに日本刀を渡したが、初めて握った日本刀で燕を切り落とした子どもを見て、生まれる時代が時代ならこの子どもは剣豪にもなれていたかもしれないと思ったようだ。
超人的な動体視力も持っている子どもは、流れの料理人の技を短期間で全て身につけることに成功して、後は成長して身体ができあがるのを待つだけとなる。
「中」で料理人として生きている流れの料理人は仕事を依頼されればどこにでも行き、料理をした。後継者である子どもは流れの料理人に当然のように着いていき、一緒に仕事をしていく。
流れの料理人がしばらく留まって料理を作る仕事をするようになった場所は男娼を雇っている店であり、そこで子どもは男娼をしていた桐生刹那と出会う。
「中」での庇護者を探す為に男娼をしていた桐生刹那へ食事を渡しに行く時に少し話すようになった子どもと桐生刹那の2人。
「自分を罰してくれる神と再び巡り会う為に生きている」と言った桐生刹那に「そうか、会えるといいな」と桐生刹那の考えを否定することはなかった子ども。
それから少し仲良くなって一緒に食事をすることになった子どもと桐生刹那。子どもが作った料理は桐生刹那の好みに合わせて作られていて、桐生刹那が自然に笑えることも増えていた。
そんな穏やかな日々も過ぎ去っていき、やがて桐生刹那が「中」の一区画である五熊区の有力者に寵愛されるようになると、身請けが決まった桐生刹那と最後に話しをした子どもは自分に名乗れる名前がないことを少し寂しく思ったらしい。
次に刹那と会う時までに名前を決めておこうと思った子どもは植物図鑑を拾って、これで名前を決めようと考えたようだ。
植物図鑑を見ていきながら子どもは自分の名前を、柳葉竜胆と決めて、流れの料理人にも自己紹介しに行く。
自己紹介を聞いて目を丸くした流れの料理人は「そういえば、お前の名前決めてなかったな、俺も自分の名前がないから忘れてたわ」と言って柳葉竜胆を呆れさせた。
「じゃああんたは俺の親なんだから、柳葉大樹って名前でいいんじゃねぇかな」と柳葉竜胆が言うと流れの料理人は嬉しそうに笑って「ああ、ありがとうよ」と言いながら柳葉竜胆の頭を撫でる。
それからまた料理人として別の場所に向かうことになった柳葉大樹と柳葉竜胆。「中」で飯屋を開くことになっていた柳葉大樹を柳葉竜胆は手伝っていき、食い逃げしようとした奴等をぶちのめしていく2人。
十鬼蛇二虎と十鬼蛇王馬が飯屋に来ることもあり、飯を食いながら二虎流の話をする十鬼蛇二虎と十鬼蛇王馬。肉ばっかり食う十鬼蛇王馬に「野菜も食わねえと強くなれねぇぞ王馬」と注意する十鬼蛇二虎は、まるで父親のように見えていた。
トマトが嫌いなのか必ず残す十鬼蛇王馬を見て、加工したトマトソースを使ったピザを出してみた柳葉竜胆。それはトマト嫌いな十鬼蛇王馬でも食べられるものだったようで、残さずトマトソースを使ったピザを食べた十鬼蛇王馬に柳葉竜胆は達成感を覚えたようだ。
日々手を変え品を変え、柳葉竜胆は十鬼蛇王馬に野菜を食べさせていく。数日後のある日、柳葉大樹と柳葉竜胆の飯屋には珍しく外からの客が現れたらしい。客は手練れの護衛を連れた老人で、飯屋で料理を頼んだその老人の名は片原滅堂。
片原滅堂は飯屋の料理をとても気に入っていたようで、基本的に肉を中心に料理を食べていた。護衛にも料理を食べさせていった片原滅堂は「美味いじゃろう」と楽しげに護衛に話しかける。
押しの強い片原滅堂に御前は相変わらずだなと思いながらも「確かに美味いですね」と頷いていた護衛。片原滅堂が外でかなりの立場にある人間だと気付いていても自然体でいた柳葉大樹と柳葉竜胆。
料理を食べ終えた片原滅堂は飯屋の料理人2人に「料理人として雇われて、わしと一緒に外に出てみる気は、ないかのう」と聞く。
「せっかく「中」で開いた飯屋を潰すつもりはないんで、自分は行く気は無いが、こいつを外に連れていってくれないか」と柳葉竜胆を前に出して答えた柳葉大樹。
「いきなり何言ってんだ大樹、あんたよりも俺の方が料理上手いだろ、飯屋どうすんだよ」と柳葉竜胆は言って真っ直ぐな眼差しで柳葉大樹を見る。
「竜胆、お前は外に行け、このまま「中」で過ごしているより、外に出た方がずっといい、後継者としてお前を育ててきたが、俺の全てを受け継いだお前は、もう自由だ」と柳葉大樹は言った。
「おいおい大樹、名前も知らねぇ爺さんに着いてけって凄いこと言ってるぞ、そのこと自覚してんのか」と呆れている柳葉竜胆。
「わしの名は片原滅堂と言うが、これで名前も知らねぇ爺さんではなくなったのう」と笑う片原滅堂は、とても楽しそうだ。
「ほら、名前を知ってる爺さんになったぞ、よーし外に行け竜胆、爺さんに面倒みてもらえ」と言いながら柳葉大樹は柳葉竜胆の背中を押す。
背中を押して片原滅堂に柳葉竜胆を近付けていく柳葉大樹に「待てや、コラァ!」と言うと柳葉竜胆は全力で抵抗していく。
「うむ、話は纏まったようじゃから、とりあえずその子を連れていくとしようかのう」と言った片原滅堂が指を鳴らすと更に現れる護衛達。
合計で30人を超える片原滅堂の手練れの護衛が「御前の命だ、悪く思うな」と言って柳葉竜胆に手を伸ばした。
片原滅堂の護衛30人を相手にして「どいつもこいつもふざけやがってよぉ!」と怒りながら戦う柳葉竜胆は、護衛達を圧倒する。
「ほっほう、これは驚いたのう、年端もいかぬ子どもが、わしの護衛者達を相手に圧倒しておる」と楽しそうな片原滅堂。
「御前、笑い事では、ありませんが」と片原滅堂の側に控えている4代目滅堂の牙が言うと残りの護衛も内心で同意していたようだ。
包囲していた片原滅堂の護衛30人を倒した柳葉竜胆が急いで逃げ出そうとしたところで立ち塞がった柳葉大樹。
前方を柳葉大樹、後方を4代目滅堂の牙に挟まれた柳葉竜胆は構えを取り、強引に押し通るつもりでいたらしい。
互いの手の内が解っている柳葉大樹と柳葉竜胆が牽制をしている内に背後から近付いた4代目滅堂の牙へ、柳葉竜胆の高速後ろ廻し蹴りが叩き込まれた。
顎を狙って放たれたそれを両腕を交差して受けた4代目滅堂の牙は自身よりも体格で劣る子どもの蹴りとは思えない威力に戦慄する。
護衛者を倒していた動きから見て只者ではないと思っていたが、全く末恐ろしい子どもだと考えていた4代目滅堂の牙。
柳葉大樹と4代目滅堂の牙2人がかりでようやく勝つことができた柳葉竜胆は、まだ子どもであることから伸び代があることは間違いない。
柳葉大樹と4代目滅堂の牙が全力を出してようやく気絶させることができた柳葉竜胆を背負う4代目滅堂の牙は完全に疲れきっていたようだ。
「料理人のスカウトに来たつもりが、思わぬ原石を見つけてしまったのう、まあ、面白くなりそうじゃから良し」と気絶して背負われている柳葉竜胆を見ながら片原滅堂は楽しげに笑った。