だから俺は料理人だって言ってんだろ!   作:色々残念

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第10話、拳願仕合

加納アギトと戦って倒した結果として今日も加納アギトの代わりに拳願仕合を行うことになった柳葉竜胆は「俺の本業は料理人なんだが」と嫌そうな顔を隠さない。

 

柳葉竜胆が今日最初の拳願仕合で戦う相手はドーピングを好んで使用する相手であり、ステロイドで増強された筋肉を持っている元柔道家であった。

 

ヘビー級の打撃や蹴りも身につけている元柔道家は今日も薬を使うつもりであるようで、拳願仕合が始まる前にドーピング薬が入ったカプセル剤を水で飲み込む。

 

元柔道家が飲んだそれはアンフェタミン系の薬であり、持続時間は極端に短いが、その分効果が極端に高く、僅か0.3グラムを水に溶かして飲むだけで飛躍的に運動数値が上がる薬。

 

いかに人間の力を極限まで引き出せるかだけを目的に作られていたその薬を使えば、中枢神経が興奮状態となって集中力の向上から時間の流れは遅く感じ、対戦者の動きはよく見えるようになる。

 

そして筋力は最大限近くまで引き出せて、疲労も痛みも消える無敵状態が1分間続く薬を飲んでいた元柔道家だが、薬はカプセルに包まれて直ぐに溶けだすことはないようで、拳願仕合開始まで薬が効果を発揮することはなかった。

 

大きさの違うカプセルを二重に被せて溶解時間を調整していた元柔道家は柳葉竜胆との戦いが始まる時にぴったりと薬の効果が発揮できるようにしていたらしい。

 

筋肉増強剤で限界まで肥大している筋肉を持ち、その筋力を極限まで引き出せる薬を飲んでいる自分が負けることはないと考えていた元柔道家。

 

薬の効果が発揮されて集中力が極限まで引き出された元柔道家は、聞こうと思えば拳願仕合の会場全ての会話が聞こえるほどにまで集中力が高まっていたようだ。

 

時間がゆっくり流れていると感じていた元柔道家は全てのものが見れると判断して、どんな些細な動きも見逃さない圧倒的な集中力で柳葉竜胆の最初の攻撃がジャブであることを見抜く。

 

一秒が十数秒に体感で感じていた元柔道家は、放たれた柳葉竜胆のジャブを避けると間合いを詰めて打撃を叩き込もうとしたが柳葉竜胆に拳を掴んで受け止められた。

 

元柔道家は離れようとしたが掴まれている拳を外そうとしても外れない握力で拳を柳葉竜胆に掴まれていて、筋肉増強剤で肥大した筋肉の筋力を最大限引き出しても柳葉竜胆には力では敵わない。

 

限界までドーピングで筋肉を肥大させて強化していても敵わない力を持っている柳葉竜胆のことを化物かと思いながらも元柔道家は蹴りを放つ。

 

全力で元柔道家が放った上段廻し蹴りすらも片手で掴んで受け止めた柳葉竜胆は、元柔道家を持ち上げて地面に叩きつけると掴んでいた拳だけを離して素早く動き、足を掴んだまま膝の関節を外した。

 

柳葉竜胆が足を容易くへし折ることも可能な力を持っていることにも気付いていた元柔道家は、足をへし折らなかったことを後悔させてやると考えていたようだ。

 

しかし柳葉竜胆は優しさから足をへし折らなかったわけではなく、膝の関節を元柔道家がはめ直す隙を狙うつもりであり、狙い通り元柔道家が膝をはめ直したところで接近していた柳葉竜胆。

 

元柔道家の体勢を崩して倒した瞬間三角絞めに入り、僅か六秒という短時間で元柔道家を落とした柳葉竜胆が勝利したことを宣言した拳願仕合の審判。

 

いつも拳の一撃で勝負を決めていた柳葉竜胆が見せた技術を知った闘技者達は、ストライカーだと思っていた柳葉竜胆の引き出しの多さを知ることになって驚く。

 

柳葉竜胆には見せていない技がまだまだあるはずだと判断した闘技者は多いようで、番外の牙と呼ばれる柳葉竜胆の実力を少しでも引き出した元柔道家が弱くはないことを理解した闘技者達。

 

自分ならどう戦うかを考えている拳願試合の闘技者達は、番外の牙に本気で勝ちたいと思う連中ばかりであり、柳葉竜胆の拳願仕合を毎回欠かさず見ているらしい。

 

無傷で体力の消耗もなく最初の戦いを終えた柳葉竜胆の前には、次の拳願仕合の相手が現れていたようで、アップライトに構えた柳葉竜胆に対して中国拳法である極意拳の構えを取る洪小虎。

 

拳願仕合通算戦績11勝0敗の洪小虎が12戦目で戦うことになった柳葉竜胆の実力が確かであることを、今まで柳葉竜胆の拳願仕合を見ていたからよく知っている洪小虎は油断をすることはない。

 

俺よりも柳葉竜胆は身体が大きくて筋肉も発達しており、そして柳葉竜胆が俺よりも動きが速いことは確実だと考えていた洪小虎は、極意拳の奥義を最初から使うことにした。

 

奥義により脳内麻薬様物質をコントロールし、痛覚を完全にシャットアウトして痛みを感じることが無くなった身体で拳願仕合をする洪小虎は柳葉竜胆に挑む。

 

痛みがなければ恐れがなく、恐れがなければ躊躇がなくなり、痛みでは止められない状態になった洪小虎は柳葉竜胆に真正面から突撃していった。

 

拳を打ち込み反応を見て、洪小虎が痛みを感じていないようだなと理解した柳葉竜胆はダメージを与える打撃技から関節を外す組技に切り替えると、洪小虎の四肢の関節を外す。

 

反撃ができない状態となった洪小虎に裸絞めを使って首を締め上げて頸動脈を圧迫し、脳へ行き渡るはずだった血液と酸素を強制的にシャットダウンした結果として洪小虎を失神させた柳葉竜胆。

 

行われた拳願仕合2戦目も対戦相手を容易く圧倒して勝利した柳葉竜胆は、観戦していた大企業の重役達以外の闘技者達が観察するように自分を見ていることに気付いており、この中にいる誰かと拳願仕合で戦うことになりそうだと考えていたようだ。

 

その機会は直ぐに訪れたようで休みなく拳願仕合3戦目が始まることになった柳葉竜胆の前に現れた対戦相手は、柳葉竜胆の拳願仕合を観戦していた闘技者であるキックボクシングの使い手。

 

互いに構えを取った柳葉竜胆とキックボクサーだったが、キックボクサーは膝関節の緊張を解いて軽く曲げると上半身を前後左右とリズムを刻むように動かしていく構えを取る。

 

キックボクサーの構えはウィービングやダッキングを多用するボクサーが使う構えになっており、この構えからは飛び膝蹴り以外の蹴りはワンテンポ以上遅くなる為、通常のキックボクシングでは使われることはなかった。

 

柳葉竜胆の拳を喰らえば一撃で終わると理解しているキックボクシングの使い手は、避けながら打つにはボクシングの構えが最適だと考えて、あえてボクシングの構えを取っていたらしい。

 

基本的に最初は顎を狙って放たれる柳葉竜胆の拳をなんとか避けたキックボクサーは、避けながらフックを打って柳葉竜胆に当てようとしたが、柳葉竜胆は身体を反らしてフックを避けていく。

 

互いの攻撃が当たらない状態で戦いが続いていく最中、綱渡りをしているような気持ちになっていたキックボクシングの使い手は、自分の最大の武器を使う時を待つ。

 

今だと判断したキックボクサーが重心をキックボクシングのものに変えて放つ蹴り、蹴りこそが自分の最大の武器であると理解しているキックボクサーの蹴りは充分な威力を持っていたが、それが柳葉竜胆に当たることはなかった。

 

蹴り足を受け止められたキックボクシングの使い手は、瞬時に足首と膝の関節を外されて完全にフットワークを奪われてから顔面に柳葉竜胆の拳を叩き込まれて気絶してしまう。

 

連続で休みなく行われた今回の拳願仕合の3戦目も勝利で終わらせた柳葉竜胆は、連戦でも体力的には問題がないから、まだ戦うことは充分可能だなと判断していたようで、次もさっさと終わらせようと考えて次の対戦相手を待つ。

 

4戦目の対戦相手はカポエイラの使い手であり、低い体勢から足技を多用する相手ではあったが柳葉竜胆には通用することはなく、柳葉竜胆の拳の一撃で決着となった拳願仕合4戦目。

 

続けて行われていく柳葉竜胆の拳願試合は休憩はないようで今日最後の5戦目が始まっていき、柳葉竜胆の拳願仕合5戦目の相手は元相撲取りであった。

 

筋肉質な身体を持つ元相撲取りは余分な肉がついておらず、しかし細い訳ではない屈強な肉体を持っており、拳願仕合40戦無敗の戦績を持っている強者だ。

 

互いに構えを取った柳葉竜胆と元相撲取りの間で審判が手を高く振り上げてから振り下ろし、柳葉竜胆の今日最後の拳願仕合が始まっていく。

 

初っぱなからぶちかましを選んだ元相撲取りが凄まじい速度で頭から突進していくと、片手だけで元相撲取りのぶちかましを受け止めた柳葉竜胆。

 

ぶちかましを受け止められたことには驚きはない元相撲取りは、わざと大きく腕を振りかぶって突っ張りを放ち、突っ張りを囮にして素首落としを繰り出す。

 

それすらも受け止められた元相撲取りは、全力で再びぶちかましをすることを決意して柳葉竜胆から離れて姿勢を低くするとぶちかましを放つ為に構えた。

 

全力でぶちかましを放つ元相撲取りの動きに合わせて拳を繰り出す柳葉竜胆に、相撲は立ち合いの時に1トンの衝撃が額に当たることを知っていた元相撲取りは、そんな突きなど効かんと思っていたようだ。

 

しかし柳葉竜胆の部位鍛練で鍛えあげられた拳は硬く、恵まれた凄まじい筋力と練り上げられた技で繰り出される一撃は、とてつもない威力を持っている。

 

元相撲取りのぶちかましに合わせた柳葉竜胆の拳の一撃は、元相撲取りの顔面を叩き潰していき、完全に意識が飛んだ元相撲取りが吹き飛ばされていった。

 

こうして全てが柳葉竜胆の勝利で決着となった今日行われた5戦の拳願仕合は、拳願会会員達にとっては番外の牙が1日で5連勝したということであり、長く語り継がれていくことになっていく。

 

拳願仕合通算戦績60勝無敗となっていた柳葉竜胆は、番外の牙として有名になっていて、滅堂の牙とどちらが強いんだと気になっている拳願会会員も多いようで、番外の牙と滅堂の牙が戦うところが観たいと考える者もいるらしい。

 

全ての戦いを終えて帰っていった柳葉竜胆は、直ぐさま片原滅堂の料理人としても働いていき、全く休む暇がないようだが問題なく動ける凄まじい体力を持つ。

 

拳願仕合を5戦していても疲れていない柳葉竜胆は片原滅堂の好みに合わせて料理を作っていき、肉全般が好きな片原滅堂が喜ぶような肉料理と栄養バランスも考えたサラダも一緒に用意した。

 

料理を持ってきた柳葉竜胆に「今日はお疲れ様じゃったの竜胆、アギトの代わりによく戦ってくれたようじゃな、竜胆が勝ってくれたおかげで色々良いことがあったぞい」と嬉しそうに笑いながら言った片原滅堂。

 

「俺の本業は料理人だぜ爺さん」と言いながら作った料理を片原滅堂の前に置いていく柳葉竜胆は、拳願仕合には慣れてしまっていたが、自分の本業が料理人だということを忘れることはない。

 

「滅堂の牙ではないが、実力者である竜胆のことを番外の牙と呼ぶ者もいるようじゃな」と言う片原滅堂へ「いつの間にかそう呼ばれるようになってるのは知ってるけどよ、闘技者として有名になっちまってるみてぇだぜ」と柳葉竜胆は嫌そうに言ってため息をつく。

 

「まあ、竜胆は仕事をきっちりとこなすからのう、アギトの代わりに行った拳願仕合でも手を抜くようなことはないようじゃし、有名になるのも当然じゃろうな」と楽しげに笑っている片原滅堂は、柳葉竜胆が磨いた武を曇らせなかったことが嬉しいようだ。

 

「俺は戦うなら負けるのは嫌いなんだよ、知ってるだろ爺さん」と言いながら調理場に戻っていく柳葉竜胆はデザートの用意を始めていき、フルーツを使った特製のデザートを作る。

 

片原滅堂が肉料理とサラダを食べ終えた頃を見計らってデザートを運んでいき、片原滅堂の前にフルーツを使った特製のデザートを置いた柳葉竜胆。

 

肉料理とサラダが入っていた空になった皿を持って下がった柳葉竜胆に感謝をしてからデザートを食べ始めた片原滅堂は、フルーツが最大限活かされたデザートに「美味いのう」と思わず声を漏らす。

 

「中」で柳葉竜胆に出会えて良かったと考える片原滅堂は、竜胆が居るだけで毎日退屈しないからのうと嬉しそうに笑っていて、柳葉竜胆の行動を心から楽しんでいた片原滅堂。

 

さて次は何をしてくれるのかのうと思っていた片原滅堂は、柳葉竜胆が行動することを待っているようであり、子どものようにワクワクしていた片原滅堂は柳葉竜胆に期待していることは間違いない。

 

そんな片原滅堂の期待に応えるように色々とストレスが溜まっていた柳葉竜胆は行動に移して護衛者達を再び困らせることになるが、柳葉竜胆の雇い主である片原滅堂だけは、とても楽しそうに笑っていた。

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