だから俺は料理人だって言ってんだろ!   作:色々残念

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第13話、拳擊

食材の買い出しに向かった柳葉竜胆は買い出しに行く度に何かしらのトラブルに巻き込まれる為、今日はトラブルに巻き込まれなければいいんだがなと思いながら片原滅堂に紹介された商店まで移動していく。

 

商店で買う物を選んで会計を済ませると大きなバックに食材や調味料を詰めていき、帰り道を歩いていった柳葉竜胆が今日は何事もなく帰れそうだなと思っていると近付いてくる体格のいい男。

 

道を塞ぐように立ち止まった体格のいい男が「番外の牙、柳葉竜胆で間違いないよな」と柳葉竜胆に話しかけてきたので「俺に何の用だ」と聞いた柳葉竜胆。

 

「今すぐオレと喧嘩しろや」と目的を答えた体格のいい男はボクシングの構えを取ると柳葉竜胆を真っ直ぐな眼差しで見て、喧嘩を売られた柳葉竜胆の反応を待っているようだった。

 

持っていた食材や調味料が詰まったバックを置いた柳葉竜胆は、今回は帰りにトラブルが来たかと考えながら名も無き武術の構えを取ってボクサーから売られた喧嘩を買う。

 

利き腕という最大の武器を相手の最も近くに置き、構えて、狙う、という動作の隙を排除し、撃つという思考の元に考えられた最速縦拳であるリード・ストレートを柳葉竜胆はボクサーに放つ。

 

一般的な打撃は足の踏み込みによって重心が動き、拳や足先へと威力が伝わっていくが、手が足よりも先に動くフェンシングの突きに似ているリード・ストレートは、動いた手に引かれるように遅れて威力が伝わる技。

 

ジャブが横拳なのに対して、リード・ストレートは縦拳であり、柳葉竜胆が放った縦拳のリード・ストレートはボクサーのジャブよりも速く、ボクサーの顔面を捉えて鼻骨を折りながら突き刺さったリード・ストレート。

 

手加減をしているとしても規格外の腕力を持っている柳葉竜胆のリード・ストレートで、顔面を少々ヘコませられた体格のいいボクサーだが、それでも怯まずに右ストレートを繰り出す。

 

通常リードパンチはジャブのように最短で元の位置に戻すような動作はとらず、内側に半円を描くようにして戻すが、その動きはボクサーの右ストレートを弾くことになり、ガラ空きとなったボクサーの肝臓に柳葉竜胆の鉤突きが叩き込まれた。

 

まるで甲羅のように硬いボクサーのアバラが、1枚アバラと呼ばれるものであることに気付いた柳葉竜胆は、俺以外にも1枚アバラである奴がいない訳じゃないのは知ってたが、喧嘩の相手として出会うとはなと思いながら笑う。

 

一旦互いに距離を離れた柳葉竜胆とボクサーは、互いの拳擊で得ることができた情報を元に次の戦略を考えていき、攻め方の考えが纏まったところでそれぞれが次の行動に移っていく。

 

ボクサーは体格にしては素早いフットワークを使って間合いを詰めていくとフックを放つが、柳葉竜胆にはボクサーの動きが全て見えていて容易くボクサーの拳を掴みフックを受け止める。

 

臥王流の柳も名も無き武術には受け継がれており、力の流れを操る柳によってフックを掴まれていたボクサーは身体を回転させられて柳葉竜胆に背を向けるような状態にさせられてしまい、無防備な背が晒されているボクサーは危機感を感じていたようだ。

 

1枚アバラとは骨が太くなって骨と骨の間が狭くなり、正面の肋軟骨と繋がっている第1肋骨から第10肋骨までが、まるで1枚の甲羅のようになっている状態のことをいう。

 

だが肋骨には肋軟骨と繋がっていない浮いた状態の第11番と第12番肋骨が存在しており、1枚アバラ外の第11番と第12番肋骨が守る臓器があるが、その臓器は弱点でありながらもボクシングで打たれることはない。

 

ルールで禁止されるほど危険であるから打たれることなくボクサーには警戒心が薄れていたが、ルールに守られているボクシングではなく喧嘩であるから可能な腎臓を狙った1打によって攻略されることになった1枚アバラ。

 

放たれた柳葉竜胆の腎臓を打つ一撃は左鉤突きであり、ボクサーに今まで感じたことのない痛打を与える一撃であったようだが、左鉤突きだけで終わりではなく、名も無き武術の無手技では骨子の技が繰り出されていく。

 

その技の名を、名も無き武術では煉獄と呼ぶ。繰り出されていく柳葉竜胆の凄まじい連打がボクサーを打ちのめしていき、一瞬意識が飛んでいたボクサーはダウンすることさえ許さない煉獄で打たれ続けた。

 

煉獄による連打で打たれながらボクサーが思っていたのは、とんでもないドS野郎が現れたということであり、痛めつけられることが快感であるボクサーは喜びを感じていたらしい。

 

た、倒れたいと思いながらも、もっと殴ってと考えていたボクサーは、いつまで続くんだと考えながらも、どうか止めずに打ち続けて下さいと思って与えられた痛みという喜びに顔を歪ませ笑う。

 

頑張った自分へのご褒美と考えていたボクサーは「はぅわっ!」と声を漏らして我慢できずに達してしまっていたが、柳葉竜胆の煉獄は止まることなく打ち続けられていく。

 

もういったよ!もう無理!もう出ないって!とボクサーが思っていても柳葉竜胆の連打は止まることなく続いていって、こ、こんなの初めてとボクサーは物凄く喜んでいたようだ。

 

柳葉竜胆の煉獄は5分以上続いていたらしく、打たれ続けていたボクサーは幾度も達してしまっていたようで与えられた強烈な痛みが凄まじい快感に変わって動けない状態となっている。

 

ボクサーは無神論者であったが、何かに感謝せずにはいられなかったようであり、こんなドSの変態野郎を私の前に遣わしてくださいましてありがとうございますとボクサーは感謝していた。

 

自らの身体を極限まで追い詰めることによって得られる喜びの境地があり、マゾヒストであるボクサーが苦痛を受けることによって辿り着く境地こそが変性意識状態と呼ばれる状態。

 

変性意識状態によってオーバークロックさせた脳で柳葉竜胆の攻撃より早く次に取るべき行動を考えるボクサーに、脱魂させていた自我が「骨が幾つか折れているうえに打撲と脳へのダメージがある」と語りかけていく。

 

立ち上がったボクサーは変性意識状態による高まった集中力で柳葉竜胆の動き、表情、目線から心理状態を探り、柳葉竜胆の次の行動を正確に予測したが痛んだ身体は思うように動かず、柳葉竜胆の拳による一撃が心臓に突き刺さってボクサーは倒れ込む。

 

強固な1枚アバラが折れるほど柳葉竜胆の拳による金剛は凄まじい威力を持っており、完全に失神して倒れたボクサーは起き上がることはないようで、タフな相手だったなと思っていた柳葉竜胆。

 

そんな柳葉竜胆がマゾヒストであるボクサーの内心を知っていたら確実にドン引きしていたことは間違いないだろう。基本的に無法地帯だった「中」でもこのボクサーほどの変態に出会うことはあまりないらしい。

 

他人を痛めつけることが好きな奴は「中」には山ほどいたようだが痛めつけられることが大好きなボクサーのような奴は、それほどいなかったようで、今まで柳葉竜胆は出会ったことはなかった。

 

しかしマゾヒストのボクサーと出会ってしまった柳葉竜胆は、買い出しに行く度にマゾヒストのボクサーに喧嘩を売られるようになったようで、何回か戦っている内にボクサーがマゾヒストであることに気付いた柳葉竜胆は戦いを避けて逃げるようになる。

 

柳葉竜胆に逃げられたマゾヒストのボクサーは「どれだけ焦らすつもりだよぉぉ、ど変態野郎が!」と大きな声で叫んでいたが、それが聞こえていた柳葉竜胆は、ど変態なのは、てめぇだけだと思っていたようだ。

 

基本的に売られた喧嘩は買う柳葉竜胆でも、ど変態野郎の相手をするのは普通に嫌だったようで、俺の拳は、ど変態を喜ばせる為に鍛えた訳じゃないと考えて戦いを避けていた柳葉竜胆。

 

番外の牙と柳葉竜胆が呼ばれていることを知っていたことから予想できたように拳願仕合の闘技者であったマゾヒストのボクサーは、柳葉竜胆と戦う為に拳願仕合で勝利を重ねていく。

 

マゾヒストのボクサーの願いが叶う時が来て、拳願仕合の場で真正面から対峙することになった柳葉竜胆とマゾヒストのボクサーは、避けられない戦いで決着が着くまで戦うことになった。

 

興奮しているマゾヒストのボクサーが息を荒げている姿を見ても無表情な柳葉竜胆は、煉獄で連打をしても喜ばせるだけだからな、連打ではなく一撃で決めようと考えていたようであり、使う技は金剛と決めていたらしい。

 

柳葉竜胆とマゾヒストのボクサーの拳願仕合が始まっていき、拳願仕合で相手に何度打たれても立ち上がる姿から不死身というアダ名がついているマゾヒストのボクサーが拳を放つ。

 

拳擊を避けた柳葉竜胆が繰り出したマゾヒストのボクサーの顔面を狙った右ジャブは、わざと避けさせて視線を右ジャブだけに一瞬誘導することが目的であり、その隙に柳葉竜胆の左拳が心臓を狙う。

 

以前金剛を喰らったことを覚えていて、なんとか右手の掌で左拳を受けようとしたマゾヒストのボクサーだが、掌すらも押し潰しながら突き進んだ柳葉竜胆の左拳は、マゾヒストのボクサーの心臓を強く押し込む。

 

一撃で勝負は決着となり、倒れたマゾヒストのボクサーが動くことはなかった。柳葉竜胆は優れた聴覚でマゾヒストのボクサーが金剛で心室細動を起こしていることに気付いて、急いでAEDを持って来させる。

 

処置が遅れれば死んでいたことは確実なマゾヒストのボクサーは柳葉竜胆以外にも喧嘩を売って恨まれていたようで、拳願仕合から数日後、武器を持った「中」出身の殺し屋に襲われることになり、その殺し屋を返り討ちにして殴り殺したようだ。

 

しかしマゾヒストのボクサーは殺し屋の持っていた武器に塗られていた毒によって命を落とした。殴り殺されて死んだ殺し屋の流派では毒のことを「屍」と呼び、武器に塗られていた毒は「大当たり」と呼ばれている物。

 

「当たり」の作り方としては、蒸し餅を山羊の乳で煮て人肌に冷めたところで蜂蜜を混ぜた物を離乳食として乳児に与えると稀に「当たり」ができるようであり、乳児の活気がなくなりよだれを多く垂らすようになり首の据わりが悪くなると糞便検体から「当たり」が取れる。

 

腸内細菌の整っていない1歳未満の乳児を使いボツリヌス症を発症させ、腸内でボツリヌス菌を増殖させて糞便から採取するというのが「当たり」の作り方。

 

現代では乳児に蜂蜜を食べさせてはいけないことは常識であるが、無法地帯である「中」にはそんな常識は無く、金銭や物と交換で売られた乳児に蜂蜜入り粥を食べさせて糞便から「当たり」を採取していた殺し屋。

 

稀に取れる「当たり」から世代を重ねて数万の「当たり」の中から一度だけ異常な猛毒を持つものが取れたらしく、それこそが「大当たり」と呼ばれる物で、現在ボツリヌス菌の系統樹は8種あり、その内のタイプHと呼ばれるボツリヌス毒素こそが、0.5Kgで全人類を滅ぼすことができる史上最強の毒。

 

タイプHも実験室で作られた物ではなく「当たり」同様乳児の糞便から偶然見つかったものであり、強い毒性のボツリヌス毒素こそが「中」出身の殺し屋が使った「大当たり」と呼ばれている屍の正体であることは間違いない。

 

「大当たり」を塗った針で引っ掻く程度の傷がつくだけで致死量分の「大当たり」が身体に入っていくことは間違いなく、ナイフにたっぷりと塗られた「大当たり」で切り傷をつけられたマゾヒストのボクサーが死ぬことは確定していたが、殺し屋に予想外だったのはその毒に侵された身体でマゾヒストのボクサーが動けたこと。

 

ボツリヌス毒素は意識と体温に変化を与えることなくマゾヒストのボクサーの身体を壊していったようだが、頭の中は澄み切っていると感じていたマゾヒストのボクサーは毒を使われたことに気付いていたが、戦うことは最後まで止めなかった。

 

死ぬ前に殺すことを決意したマゾヒストのボクサーは逃げようとした殺し屋をフットワークで追い詰めて拳擊を浴びせていき、最期の命の炎を燃やして拳を叩き込んでいく。

 

武器に塗られていた毒によって死ぬ前に、自分を殺しにきた殺し屋を殴り殺したマゾヒストのボクサーは命の火を燃やし尽くし、崩れ落ちるように倒れ込むともう2度と立ち上がることはない。

 

マゾヒストのボクサーが最期に思うことは、柳葉竜胆ともう一度戦いたかったということだったようだが、その願いはもう叶うことはなく、最期の最後まで拳を握り締めたまま、拳擊の使い手は命を落とす。

 

最近ど変態のボクサーに襲われることがなくなったなと考えながら買い出しを済ませた柳葉竜胆は帰り道で倒れている男を発見して、問題なく息はしているし、特に異常もないようだが何故倒れているんだと疑問に思う。

 

男の腹が凄まじい勢いで鳴ったことで物凄く腹を空かしているのかと気付いた柳葉竜胆は「パンと牛乳くらいなら持っているが食べられるか?」と空腹で倒れている男に聞く。

 

「ください」と答えた男にパンと牛乳を渡した柳葉竜胆の前でパンと牛乳を瞬く間に胃に収めた男は「しばらく何も食べてなかったんで助かりました、ありがとうございます」と礼を言うと立ち上がって「お礼に荷物持ちをします」と言い出す。

 

「気にしなくていい」と言って断ろうとする柳葉竜胆に「命の恩人に恩を返させてください」と引かない男は押しが強かったようで、断ろうとする柳葉竜胆と荷物を持とうとする空腹だった男は、しばらく問答を続けることになった。

 

男が武術家であることには気付いていた柳葉竜胆は、拳から見てかなりやり込んだ空手ってところだろうが、何で空手家が倒れてたんだと不思議に思いながら男の申し出を断り続けていく。

 

歩き出した柳葉竜胆に迷わず着いていく男は「恩を返すまで自分は離れませんよ、さあ、お荷物をお渡しになってください」と言いながら常に柳葉竜胆の隣をキープしていたらしい。

 

帰り道の途中で柳葉竜胆を片原滅堂の関係者だと判断して襲いかかろうとした相手がいたが、柳葉竜胆を恩人だと考える男にとってもその相手は敵であり、容赦なく鍛え上げた拳を振るう男。

 

男が放つ拳による一撃は確実に敵対した相手を倒していき、柳葉竜胆が手を出すまでもなく倒されていった相手は全員が急所を拳で打たれていたようで、全く加減されていない攻撃であった。

 

「恩を少しは返せたでしょうか」と言った男に「充分返してもらったから帰っていいよ、と言いたいところだけど、もしかしたら帰る場所が無いんじゃないか」と言う柳葉竜胆。

 

「何でわかるんですか」と不思議そうに言ってきた男へ「居場所が無い奴をよく見てきたからなんとなくわかるんだよ」と言いながら柳葉竜胆は、並の護衛者より腕は立つから爺さんの護衛者を仕事としてすすめてみるかと考える。

 

結局豪邸まで着いてきた男は片原滅堂の護衛者として働くことになり、就職先を見つけてくれた柳葉竜胆にとても感謝をしていたようで、畑作業にも熱心に取り組んでいた。

 

家庭環境が嫌になって何も持たず家を飛び出してきた空手家の男は護衛者として働いている内に、自分の家のことを忘れるようになっていたらしく、清々しい気分で仕事ができていた空手家の男。

 

畑作業の最中に柳葉竜胆と会話する空手家の男は「あの時、貴方に会えて良かった、だから自分は、こうして今も生きていられます」と笑顔で言うと野菜に水やりを続けていく。

 

畑作業を行っていく柳葉竜胆と護衛者となった空手家の男は、とても楽しそうに畑作業をしていて、丁寧な作業をする2人は畑作業に完全に慣れていたようだ。

 

片原滅堂からマゾヒストのボクサーが亡くなったことを伝えられた柳葉竜胆は、処置は間に合っていたから別の要因だと直ぐ様気付いて、マゾヒストのボクサーの死因を聞いて「中」の殺し屋によるものだと悟る。

 

柳葉大樹から毒を使う殺し屋について聞かされていた柳葉竜胆は、屍によるものだろうなと正解に辿り着いており、名も無き武術にも屍の作り方は伝わっていて、血清も持っている柳葉竜胆には毒を防ぐ術があった。

 

あの時はAEDで処置が間に合ったが、今回は死んじまったかとマゾヒストのボクサーに両手を合わせて合掌した柳葉竜胆は、僅かな時間だけマゾヒストのボクサーのことを思い出す。

 

以前戦ったマゾヒストのボクサーについて思い出していた内容は、どれもあまりいい思い出ではなかったようで、眉間に思わずシワがよって物凄く嫌そうな顔をしてしまっていた柳葉竜胆。

 

まあ、個人的には好きな相手ではなかったが、死人を悪く言うのも良くないから、俺は特に何も言わないでおこうと考えていた柳葉竜胆は、一応あんな奴が居たってことは覚えておくとしようと思いながら畑に向かっていく。

 

つーか忘れようとしても強烈過ぎて忘れられねぇよとマゾヒストのボクサーの行動や反応を思い出してドン引きしていた柳葉竜胆だったが、気持ちを切り替えて畑作業を行って護衛者達といい汗を流していった。

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