西品治警備保障の闘技者である今井コスモは片原滅堂に気に入られていて、気軽に片原滅堂と電話をしたり片原滅堂の家にまで遊びにいくこともあるようで、日本経済界の首領を相手にしても今井コスモは物怖じしたりしない。
若い相手とつるむのが好きな片原滅堂は楽しげに今井コスモを今日も家にまで呼ぶ。今井コスモと会話をしていくとちょうど昼になったので「昼食でもどうかのう、わし専属の料理人の腕はかなりのもんじゃぞコスモ君」と言い出した片原滅堂。
「食ってくよ爺ちゃん、どんな料理が出るのかスッゲー楽しみ」と満面の笑みを浮かべて言った今井コスモの前で「という訳じゃからわしとコスモ君で2人分の昼食を頼むぞい竜胆」と柳葉竜胆に携帯電話で伝えた片原滅堂に「2人分な、わかった」と了解した柳葉竜胆は料理を作り始めていく。
「竜胆って柳葉竜胆さんのことだよね爺ちゃん、あの人爺ちゃんの専属料理人だったんだね、闘技者として働いてるだけかと思ってたら違うんだ」と驚いている今井コスモに「竜胆が聞けば料理人が本業だと怒りそうじゃのう」と言うと片原滅堂は楽しげに笑った。
2人分の料理を持ってきた柳葉竜胆は片原滅堂と今井コスモの前に料理を置いていき「どうぞ」とだけ言って下がる。料理を見た今井コスモは「スッゲー美味そう!」と言いながらフォークを掴むと料理を食べ始めて「めちゃくちゃ美味い!」と喜んだ。
やはり竜胆の料理は美味いのうと頷いて料理を食べ進めていく片原滅堂は、柳葉竜胆が作った料理を目の前で美味しそうに食べている今井コスモを見て、やっぱり若い子は食欲旺盛じゃなと考えていたらしい。
料理を食べ終わって満腹になった片原滅堂と今井コスモの元に皿を下げにきた柳葉竜胆が、護衛者の手伝いを連れて大量の皿を運んでいく。そんな柳葉竜胆に「柳葉さんありがとう、柳葉さんが作ってくれた飯、めちゃくちゃ美味かった!」と礼を言った今井コスモ。
「それは良かった」と言って笑った柳葉竜胆は皿を洗いに行こうとしたが今井コスモは続けて「食後の運動がしたいんだけど柳葉さん付き合ってくれないかな」と言い出す。嫌そうな顔で「俺は料理人ですよ」と言う柳葉竜胆。
そんな柳葉竜胆に聞こえるような声で「竜胆とコスモ君の食後の運動を見せてくれたら、入手困難なスパイスが手に入りそうなんじゃが」と片原滅堂は言った。クソジジイと言いたげな目で片原滅堂を見ていた柳葉竜胆は客人がいるところでは荒っぽい言葉を使うことはない。
「あくまでも食後の運動に付き合うだけですよ」と言った柳葉竜胆に「うん、俺はそれでいいよ柳葉さん」と言う今井コスモは獰猛な笑みを浮かべる。完全にやる気になってる今井コスモを見て、怪我をさせない程度に相手をするかと柳葉竜胆は考えていたようだ。
あの番外の牙と戦えるなんて今日は良い日だな、爺ちゃんに家に呼んでもらえて良かったと思っていた今井コスモは、打ち合いはしたら駄目だ、柳葉さんの一撃が重いことは確実、基本的に打撃の一撃で拳願仕合を終わらせてきた柳葉さんだけど、他の技術を間違いなく持ってるのも見た、打撃だけの人じゃないと冷静に考えていく。
柳葉竜胆と今井コスモが互いに構えを取って全く動かない姿を見た片原滅堂は、かなりの緊張感をコスモ君は感じておるようじゃのうと理解していた。構えているだけなのに汗をかいている今井コスモの頬から垂れた汗の雫が床に落ちていき、床に当たって弾ける。
前に竜胆と戦った護衛者が言っておったの「柳葉竜胆の構えられた拳は、まるで銃口を突き付けられているかのように感じる」と護衛者の言葉を思い出していた片原滅堂。その言葉を知らないはずの今井コスモも同じようなことを思っていて、柳葉竜胆の圧力をしっかりと感じていたらしい。
一撃で相手を終わらせる拳を持っている柳葉竜胆の圧力は並みではなく、拳願仕合デビューが史上最年少の14歳であり、身長差20センチ体重差30キロの巨漢を相手に鮮烈なデビューを果たした天才と言われる今井コスモでも攻めあぐねるほどに隙がない柳葉竜胆の構え。
互いに構えを取った状態で先に動いたのは柳葉竜胆の方であり、運動したいって言ってたんだから運動させてあげようと考えていた柳葉竜胆は今井コスモを素早く掴むと投げ飛ばす。投げ飛ばされた今井コスモは、俺が対応できない速さで投げられた!?と驚きながらも体勢を立て直して着地した。
床に叩きつけることもできたのにしなかったのは、運動したいって俺が言ったから、怪我をさせないように気を使ってるってことかと理解した今井コスモは、舐められてると思って少し怒ったようで自分から攻めにいく。
戦闘スタイルは柔術で組み技を得意とする今井コスモは絞殺王の異名を持ち、強い相手と戦うことを楽しみにしているが、格上である相手と真剣に戦ったことがなく、1度終わればそこで終わりの戦いもしたことがない今井コスモは精神的には、まだ未熟だ。
打撃を繋ぎに組み技に移行しようとした今井コスモの動きが形になる前に止めた柳葉竜胆は、今井コスモを再び投げていき、投げられながら延髄を狙った蹴りを放った今井コスモの蹴り足を片手で容易く止めた柳葉竜胆。
今井コスモの打撃を捌き、崩して投げる柳葉竜胆だが、客人である今井コスモが運動したいではなく戦いたいと素直に言っていたら、打撃を捌くだけでは済まさずに捌きながら拳を打ち込み、崩して投げるだけではなく、崩して投げた瞬間に腎臓へ蹴りを入れていたことは間違いない。
柳葉竜胆に攻撃しては簡単に止められて怪我をしないように投げられ続けていた今井コスモは、俺の技が通用しない!?と驚愕を隠せないでいたが、まだ俺にはゾーンがあると考えて大量にかいていた汗で濡れた髪をかきあげると、姿勢を低く構えた今井コスモ。
相手の意識が攻撃のみに集中する瞬間、0.1秒に満たない刹那を見極め、意識の死角に潜り込む技術であるゾーンを発動した今井コスモに対して、柳葉竜胆は繰り出した拳を今井コスモの眼前で止めて突き出した指で今井コスモの鼻を軽く弾くと素早く腕を引く。
腕を引かれなければ三角絞めに移行しようとしていた今井コスモはゾーンが失敗したことを悟って距離を取り、どうすればこの人を倒せるんだと思っていたが「そんなに汗をかいているんだから良い運動にはなったでしょう、もう終わりでいいですね」と柳葉竜胆は言い出す。
「もしかして、運動したいって言った俺に付き合ってくれてただけなのかな柳葉さん」と言う今井コスモに「別に戦えとは言われてませんからね、貴方の食後の運動には充分付き合いましたよ」と柳葉竜胆は言った。
「ああ、くそ、本気になってたのって俺だけか、知ってたけど柳葉さんめちゃくちゃ強いじゃん」と言って疲れきった身体を床に倒した今井コスモ。だいぶ汗をかいている今井コスモを見て「今井君にシャワーでも貸してあげたらどうですか?」と片原滅堂に言う柳葉竜胆は全く汗をかいていない。
「そうじゃの、汗をかいたままじゃと風邪をひくかもしれんし、かいた汗をシャワーで流してから帰るんじゃぞコスモ君」と今井コスモに優しく言った片原滅堂は、今井コスモという進化を続ける天才を相手にしても揺るぐことのない竜胆は凄まじいのうと思っていたようだ。
シャワーがある浴場の場所まで柳葉竜胆が今井コスモを案内することになり、道中で会話をしていった柳葉竜胆と今井コスモは何故か互いの絞め技について話すことになって、共通の話題で意外と話が盛り上がっていた柳葉竜胆と今井コスモの2人。
シャワーを浴びる前に「今度は俺とちゃんと戦ってね柳葉さん」と言ってきた今井コスモに「貴方と戦う理由があれば戦いますよ」とだけ言った柳葉竜胆は浴場に今井コスモを残して去っていき、しっかりと手を洗ってから調理場へと戻っていく。
「料理人以外の仕事も俺にやらせ過ぎだろ爺さん」と思わず独り言を言う柳葉竜胆は、俺は料理人だって言ってんのに爺さんは俺を積極的に戦わせようとしてやがるからな、今日は運動って言ってたことを逆手に取って俺からは攻撃しなかったがと思いながら夕食の仕込みを始めていった。
柳葉竜胆が夕食の仕込みをしている最中にシャワーを浴びて汗を流した今井コスモは帰っていったようだが、どうやったら柳葉竜胆に勝てるかを考えていた今井コスモはそれだけに集中しており、全力で挑んでいた自分に対して運動に付き合っただけと言った柳葉竜胆が本気ではなかったことを重く受け止めていた今井コスモ。
強い相手だからこそ倒しがいがあるけど、柳葉さんは俺の全力でも崩せない相手だったと思っていた今井コスモは、もっともっと強くならないと柳葉さんと戦う相手にすらなれないと決意していたらしく、この日から今井コスモは強くなる為、更に修行に励む。
西品治警備保障の社長である西品治明は、コスは良い影響を受けたようだなと喜んでいて、今井コスモの修行相手を用意する為に手を回した。表裏を問わず西品治警備保障が用意できる金を目当てにした相手と戦うことになった今井コスモは戦いを続けていく。
用意された修行相手を全員倒していった今井コスモだが、この程度の相手に勝てても柳葉さんには絶対に届かないと考えていて、珍しく戦いを楽しむこともなかった今井コスモは、直に体感した柳葉竜胆の実力の一端をしっかりと理解していたようだ。
今井コスモの目指す先は遥かに遠いが、1歩1歩確実に前に進んでいる今井コスモが歩みを止めることはない。今日も戦いを続けていく今井コスモは、いずれ番外の牙と戦う日を待ちながら勝利を重ねていき、絞殺王の異名に恥じない戦いを見せつけた。
まだ戦いの恐怖を知らない今井コスモは、いずれ行われる戦いでそれを知ることになるが、それはまだ先の話となるだろう。確実に強くなっている今の今井コスモでも容易には勝てない相手と戦う時が必ず訪れることは確かだ。十鬼蛇王馬が拳願仕合に参戦してから物語は一気に動き出す。
今の十鬼蛇王馬は拳願仕合に参戦しておらず、柳葉大樹の元で過ごす日々をおくっているが、十鬼蛇王馬が拳願仕合に参戦しようと考えていることは確実だった。柳葉大樹と日常的に戦っていて強くなっている十鬼蛇王馬は、それでも柳葉大樹には勝てていない。
いまだに枷が残っていて記憶を完全に思い出していない十鬼蛇王馬では柳葉大樹に全ての実力を発揮することができておらず、勝利することは難しいだろう。十鬼蛇王馬の枷が外れて記憶が完全に戻ったとしても容易に勝てる相手ではない柳葉大樹。
寿命を縮める「前借り」に頼り過ぎないで強くなってほしいと考えている柳葉大樹は、十鬼蛇王馬に金剛を打つことはなく、命の危機に陥るような技を使うことはなかった。柳葉大樹にとっては十鬼蛇王馬は十鬼蛇二虎が唯一残した大切な後継者であり、労るべき存在という気持ちが少なからずあったらしい。
そういう気持ちを考えることなく戦える柳葉竜胆と十鬼蛇王馬の戦いが必要なものだと思っていた柳葉大樹は、以前柳葉竜胆に十鬼蛇王馬と戦ってほしいと頼みに行って、基本的には戦うことに乗り気ではない柳葉竜胆の了承を受け取って帰ってきたようだ。
柳葉竜胆は片原滅堂から休日をもぎ取ると調理場を吉岡を筆頭とした護衛者に任せて柳葉大樹と十鬼蛇王馬が住まう家まで向かっていく。今日この日戦うつもりでいた柳葉竜胆は、戦意を静かに胸に秘めて柳葉大樹の家までタクシーで向かうと、料金を支払ってタクシーから出た柳葉竜胆。
柳葉大樹の家にあるインターホンを押すと出てきた柳葉大樹が、普段とは違う柳葉竜胆の顔を見て、戦いに来たんだと悟ったようで、十鬼蛇王馬を呼び出す。柳葉大樹に呼ばれた十鬼蛇王馬は柳葉竜胆が自分と戦いに来たと聞き、楽しげに笑っていた。
家の中で戦うのは問題がありそうだと考えて移動することになった柳葉竜胆と柳葉大樹に十鬼蛇王馬の3人。近くの山に入っていった3人は手頃な場所を見つけると戦う柳葉竜胆と十鬼蛇王馬の2人が準備運動を始めて身体をほぐしていく。
充分に身体がほぐれた両者は互いに向き合って間合いを取ると、それぞれの武術の構えを取り、名も無き武術と二虎流を受け継ぐ者が対峙することになる。柳葉竜胆と十鬼蛇王馬の中間に立っている柳葉大樹が振り上げた手を振り下ろすと同時に、武術を受け継ぐ者2人による戦いが始まった。