だから俺は料理人だって言ってんだろ!   作:色々残念

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第23話、初見泉

乃木グループの闘技者である初見泉の戦闘スタイルは、初見流合気道をベースにしたものであり、浮雲の異名を持っている初見泉の合気道の腕前は凄まじく、猛虎の異名を持つ若槻武士にも勝利したことがある初見泉は、現在乃木グループに所属している闘技者で最強だろう。

 

しかしムラがある闘技者であることは間違いない初見泉は好不調の波が余りに極端で、コンディションが悪い時は格下相手に苦戦することも珍しくない。初見泉は短いスパンで仕合を繰り返し、調子を上げていく傾向があるようで、重要な仕合の前は仕合を連続で行っていく初見泉。

 

柳葉竜胆と戦うことが決まった初見泉は拳願仕合を繰り返して調子を上げていき、絶好調にまで調子を上げることに成功した初見泉は柳葉竜胆との拳願仕合を寝坊することもバックレることもド忘れすることもなく、拳願仕合が行われる場所まで向かった。

 

柳葉竜胆と対峙した初見泉は、番外の牙ねえ、こりゃとんでもなく強えわと考えていたが、落ち着いた様子で軽く指2本だけを立てて斜めに掲げながら「よっ」と柳葉竜胆に挨拶をした初見泉に緊張は欠片も感じられない。

 

絶好調である自分に自信がある証拠ともいえる余裕を見せている初見泉の挨拶に軽く手を上げて応えた柳葉竜胆を見て、お堅い野郎って訳ではなさそうだぜと思った初見泉は柳葉竜胆から離れて距離を取ると審判の開始の合図を待つ。

 

柳葉竜胆と初見泉の間に入った審判が振り上げた手を振り下ろして「始め!」と叫ぶと邪魔にならない位置まで移動していく。審判が離れてからゆっくりと歩いて距離を詰めていった初見泉に、柳葉竜胆が試しにジャブを繰り出す。

 

柳葉竜胆のジャブを避けた初見泉は、想像以上に速いじゃねえかと驚いていたが驚きを顔に出すことはなく、膝の入り抜きを使い最小限の動きで連続で放たれた柳葉竜胆の拳撃をかわし続けていった初見泉は、おっかねえなあと思いながら間合いを更に詰める。

 

初見泉は極限のラインを越えていき、誰もが死を確信する距離まで打撃を引きつけて最小の動きでかわした。死を回避できる距離をミリ単位で見極めなければ不可能な芸当を行う初見泉は絶好調でなければできない戦いを見せていく。

 

柳葉竜胆に至近距離まで接近して蹴りの間合いは潰したぜ?さあ、どうする?と考えていた初見泉へと柳葉竜胆は対角線上のストレートを放つ。そうそう、これが欲しかったんだと思いながら柳葉竜胆の腕を掴んだ初見泉は肘固めを繰り出そうとしたが、腕を掴んだ瞬間に初見泉は柳葉竜胆に投げられてしまう。

 

腕を掴ませる為にわざと対角線上のストレートを放った柳葉竜胆の罠にはまった初見泉は、天地がひっくり返る瞬間を見ることになったようで、地面に叩きつけられてようやく自分が投げられたことに気付いた初見泉。

 

おいおい、マジかよ、絶好調の俺があっさりと投げられた?とんでもねえなと思いながらも立ち上がった初見泉は、ダメージはそこまででもねえが、番外の牙は打撃以外も超一流ってことが良くわかったぜと冷や汗を流す。

 

せっかく絶好調まで仕合繰り返して仕上げたんだ、何もできねえまま終わるなんてダセェことはできねえよなと覚悟を決めた初見泉は「行くぜ、番外の牙」と言うと再び間合いを詰めようと動き、連続で放たれる柳葉竜胆の拳を避けて突き進んだ。

 

至近距離で柳葉竜胆の腕を掴んだ初見泉は、今度は俺の方が速いぜと思いながら初見流合気道の技である「叢雲三連」を繰り出したが受け止められてしまう。顔面の急所三点を連続で打ち抜く技の「叢雲三連」を柳葉竜胆に片手で受け止められてしまった初見泉。

 

ったく嫌になるぜ、受け止められちまうなんてなと考えていた初見泉に柳葉竜胆の攻撃が当たり始めていく。初見泉の見切りに対応し始めている柳葉竜胆の拳が当たる度に、身体の芯まで響くようなダメージを初見泉は受ける。

 

一方的になってきた戦いを見ていた乃木グループ会長乃木英樹は、まだだっ!泉にはまだ「あの技」があると勝負を諦めてはおらず、柳葉竜胆と初見泉が行う今回の拳願仕合に珍しく熱くなっていた乃木英樹。

 

放たれた柳葉竜胆の拳を避けて距離を詰めていき、柳葉竜胆の顎を手で掴み投げに入ろうとした初見泉は初見流合気道の技である「星落とし」を繰り出そうとするが、顎を掴んでいる側の腕を簡単にへし折った柳葉竜胆によって投げは中断させられてしまう。

 

技ではなく単純な力によって腕をへし折られた初見泉は、それでも戦いを止めることはない。誰が見ても既に勝負はついているとしても諦めていない初見泉は本気で柳葉竜胆に勝とうとしていて、それを感じ取っている柳葉竜胆も手を抜くことはなかった。

 

拳撃を叩き込む柳葉竜胆は油断することなく初見泉を少しずつ削っていき、攻撃をガードをしても効かされていた初見泉は、容赦ねえなあ滅多打ちだぜと思いながらも片腕だけで、どうやって戦うかを考えていく。

 

片腕での投げと打撃でいくしかねえな、使えるのが片腕でも絡めて極めることは不可能じゃねえが、こいつ相手じゃ無理だと判断した初見泉の判断は正しい。格上である柳葉竜胆を相手にしている初見泉は片腕だけで戦いを挑む。

 

柳葉竜胆の拳撃を喰らった瞬間に極限まで脱力してダメージを受け流した初見泉は、ここだ!と柳葉竜胆に近付いて打撃を繰り出す。それは受け止められてしまったが受け止められることを目的としていた打撃を囮として柳葉竜胆を投げようとした初見泉。

 

名も無き武術に臥王流から伝わった技である「柳」を用いて力の流れを変えた柳葉竜胆は逆に初見泉を投げ飛ばすと拳槌を振り下ろしていった。瞬時に地を転がって避けた初見泉の隣に叩きつけられた拳槌が地面を陥没させる。

 

立ち上がった初見泉は間合いを取り、息を深く吸うと仕合開始と同じく歩いて柳葉竜胆へ近付いていき、足を使って柳葉竜胆の体勢を崩そうとしたが、絶好調の初見泉ですらも崩すことができない柳葉竜胆の体勢。

 

初見泉が現在片腕しか使えないとしても柳葉竜胆の体勢を崩せなかったことは予想外であり、僅かな隙を見せてしまった初見泉に向けて柳葉竜胆の拳が迫る。顔面を狙った柳葉竜胆の拳を避けた初見泉だが、それは柳葉竜胆の予想通りの結果であった。

 

跳躍からのロシアンフックに似たその攻撃の目的は、面を避けても脛を斬ること。刀を使った「脛斬り」を素手に応用した技を使った柳葉竜胆は、軌道を変えた腕で初見泉の膝裏に腕を引っ掛けて倒すとマウントを取り、防御をさせない為に折れていない初見泉の腕を掴むと「金剛」を叩き込んだ。

 

「金剛」を喰らった初見泉の意識は途絶えており、遂に決着となった柳葉竜胆と初見泉の戦い。動くことのない初見泉を見た審判が勝負ありだと判断して柳葉竜胆に勝利を告げると拳願会会員達が歓声を上げていく。

 

「残念じゃったのう乃木君」と楽しげに乃木英樹へと話しかけた片原滅堂に「泉は、これで終わるような男ではありませんよ」と言った乃木英樹は初見泉が、誰よりも負けず嫌いであることを知っていて、1度の敗北で折れるような男ではないことも理解していた。

 

拳願仕合が終わって意識を取り戻した初見泉は様子を見にきた乃木英樹に「おやっさん、タバコあるか?」と聞く程度の余裕はあるようだったが、柳葉竜胆と実際に戦ってみて実力差を実感していたことは間違いないようだ。

 

渡したタバコをくわえた初見泉にライターを使って火をつけてやった乃木英樹は「泉、番外の牙の実力は、どの程度だ?」と気になっていたことを問う。タバコを無事な片手に持った初見泉は「番外の牙がこっちを殺さねえように手加減してたのは間違いねえな」と答える。

 

続けて「蹴りを使える機会があったのに使わなかったのも、こっちを殺さないように手心を加える余裕がある証拠だろうよ。拳による攻撃と投げしか使ってこなかったのは、蹴りを使えば俺を殺してしまうと番外の牙が考えていたってことだぜ、舐められたもんだ」と語った初見泉。

 

「まっ、ダセえのは、そんな本気じゃねえ番外の牙に負けた俺だけどな。おやっさん、今の俺じゃ番外の牙には勝てねえよ、それでもトーナメントを開催するつもりかい?」と真剣な顔で乃木英樹に聞いた初見泉に「ああ、それでも拳願絶命トーナメントを開催して会長になってみせるさ」と答えていた乃木英樹。

 

「とはいえ泉以外の駒も確実に必要になることは確かだな、トーナメントまでに強者を探してみるとするか」と言い出した乃木英樹へ「おいおい、クビにはならねえよな俺、この歳で無職は嫌だぜ」と言っていた初見泉は本気で焦っていたらしい。

 

拳願仕合を終えた柳葉竜胆に「今日も御苦労さんじゃったの竜胆」と話しかけた片原滅堂は「それで初見泉は、どうじゃったかのう」と戦ってみた感想を聞く。「拳願仕合で戦ってきた相手の中なら、実力的に上から数えた方が早い程度には上位である相手だったぜ」と答えた柳葉竜胆。

 

「初見泉は今まで戦ってきた相手の中でも5本の指に入る程度には強い相手だったことも間違いねぇな、それで、爺さんは何でそんなに楽しそうなんだ?」と今度は柳葉竜胆が片原滅堂に聞くと「いずれ、わしに挑んできそうな相手が現れたからじゃよ」と答えた片原滅堂は楽しげであった。

 

「確か乃木グループの乃木会長だったか、爺さんに目えつけられた可哀想な人は」と言うと柳葉竜胆は「自分に挑んでくる相手を欲しがってたからな爺さんは、よっぽど今の立場に飽きてんだな」と言って呆れたような顔をする。

 

「わしに挑む前から勝てないと諦めておる相手ばかりじゃったからのう、乃木君には遊び相手として期待しておるんじゃよ」と笑った片原滅堂。爺さんの遊び相手は大変だろうなと思った柳葉竜胆だったが、乃木会長は自分で望んでいたみたいだから俺が気にすることじゃねぇかと同情はしなかった。

 

初見泉との拳願仕合を終えて数日後の柳葉竜胆が休日を貰って街を歩いていると、片腕を骨折しているにも関わらず女性をナンパしていた初見泉を目撃。1度のアタックで失敗してもめげることなく次の女性に向かっていく初見泉。

 

女好きなんだなと思っていた柳葉竜胆は、ナンパも個人の自由だと考えて、初見泉のナンパを止めることなく離れようとしていたが、初見泉が奏流院紫音に胸ぐらを掴まれている場面を目撃して、ちょっと面白そうだから見ていようと留まることにしてみたらしい。

 

「よ、よお紫音久しぶり、いつ以来だっけ?」と震える声で言いながら柳葉竜胆と戦っていた時よりも大量に冷や汗を流す初見泉に向かって「テメーが闘技者デビューした時以来だよ」と言った奏流院紫音は胸ぐらを掴む手を緩めずに初見泉を睨み付ける。

 

「相変わらず女癖が悪いみてーだな、ええ、おい」と言う奏流院紫音に「い、いやあ、そんなことはないですよ」と雇用主である乃木英樹にも使っていない敬語を使っていた初見泉は奏流院紫音には弱いようで、いつもの調子ではなく大人しくなっていた。

 

「いいからちょっと来いや」と言ってきた奏流院紫音に連れられていきそうになっていた初見泉は、一部始終を見ていた柳葉竜胆に気付いて、助けてと目で訴えていたが、それを柳葉竜胆は無視したようだ。

 

その後奏流院紫音に連れられていった初見泉は、売られていく子牛のような目をしていたが、柳葉竜胆は助けるようなことはしない。完全に尻に敷かれているなとは思ったが怪我人を肉体的に痛めつけるようなことは流石にしないだろうと判断した柳葉竜胆。

 

まあ、精神的にはどうなるかはわからないが、初見泉を助ける義理も義務もないしなとあっさり見捨てた柳葉竜胆は街を歩いていく。その後の初見泉がどうなったかを知っている者は、奏流院紫音と初見泉本人だけだった。

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