だから俺は料理人だって言ってんだろ!   作:色々残念

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第5話、呉恵利央

片原滅堂が初めて拳願会の会員となった時からの長い付き合いであり、初代滅堂の牙である呉恵利央が、片原滅堂の豪邸にまで現れて将棋を指しに来たようだ。

 

古来より暗殺を生業としてきた殺人一族であり、金次第でどんな依頼も受ける傭兵集団として裏社会では知られている呉一族の頭首である呉恵利央。

 

片原滅堂と呉恵利央の出会いは、当時20歳だった呉恵利央が25歳である片原滅堂の殺しを引き受けたことが始まりであった。

 

かつて関東白井組若頭の木林太郎に雇われた呉恵利央は、関東白井組組長の白井龍から片原滅堂に渡された拳願会会員証を奪ってから殺すように依頼される。

 

敵わないと知りつつも呉恵利央に立ち向かった片原滅堂を痛めつけて拳願会会員証の在処を探そうとした呉恵利央に、自分から拳願会会員証を見せつけた片原滅堂。

 

ぶん殴られてボコボコの顔で「確信してるんだよ、俺は死なねぇってな」と言い放って笑う片原滅堂に「面白れぇ」と言った呉恵利央が片原滅堂の首を掴む。

 

あと少しで片原滅堂に死が訪れるであろうその時に止めに入った白井龍が、顔面を腫らして気絶した木林太郎を連れてきていた。

 

雇い主である木林太郎が捕まり、白井龍によって報酬が全額支払われた呉恵利央は矛を収めて片原滅堂の殺しを止めたようだ。

 

それから片原滅堂の闘技者となった呉恵利央は、江戸時代から続いている商人の裏格闘技であり、商人の代理となる闘技者同士の戦いで利権を争う拳願仕合で活躍していくことになる。

 

時には敗北も味わった呉恵利央は折れることなく立ち上がり続けていき、一度は抜けた呉一族の元へと戻って1300年もの間研鑽され続けてきた呉一族秘伝も身につけた呉恵利央。

 

呉一族の技術を全て習得した呉恵利央は開催された拳願絶命トーナメントで快進撃を続けていき、初代滅堂の牙として優勝した呉恵利央によって拳願会会長となった片原滅堂は長く会長の座につく。

 

闘技者である滅堂の牙は代替わりしていき、現在では4代目滅堂の牙、王森正道が闘技者となっており、5代目滅堂の牙に代替わりするまで4代目が守り続けていく滅堂の牙の座。

 

初代滅堂の牙である呉恵利央は長い付き合いである片原滅堂と向かい合って将棋を指しながら、5代目滅堂の牙が誰になるのかについて話していった。

 

「やはり加納アギトが5代目滅堂の牙になるか滅堂」と言いながら将棋の駒を前に動かした呉恵利央に「ほっほ、そうとは限らんぞい恵利央」と言うと駒を取った片原滅堂。

 

「ふむ、加納アギト以外に優れた存在がいるということかのう」と言った呉恵利央は、4代目滅堂の牙がスカウト組じゃったからな、新しく見つかったスカウト組かと考えていたようだ。

 

「そういえば恵利央には会わせたことは無かったのう、竜胆を呼び出してくれんか」と近くにいた護衛者に柳葉竜胆を呼び出しに行かせた片原滅堂は将棋盤に乗っている将棋の駒を動かす。

 

「ほれ、王手じゃぞ恵利央」と呉恵利央の王を狙う片原滅堂の将棋駒。「前より将棋が強くなっておらんか滅堂」と言って王を逃がしていく呉恵利央。

 

「呼びに行かせた竜胆とよく将棋を指すようになってのう、わしも少しは将棋の腕が上がったようじゃ」と言うと片原滅堂は、詰みが近いのうと盤面を見て思いながら駒を動かしていく。

 

「なんか用か爺さん」と言って片原滅堂と呉恵利央が将棋を指している部屋の扉を開けて入ってきた柳葉竜胆を見た呉恵利央は、年齢は若いが間違いなく強いと判断していた。

 

「よく来たのう竜胆、ほれ詰みじゃ恵利央」と柳葉竜胆を出迎えながら、将棋で呉恵利央の王にトドメを刺した片原滅堂は確実に将棋が強くなっていたらしい。

 

「なるほど、5代目滅堂の牙が決まっておらんのは加納アギトとこやつで決めかねておるからか」と納得して柳葉竜胆を静かに観察する呉恵利央。

 

「名前は柳葉竜胆じゃ」と柳葉竜胆を呉恵利央に紹介した片原滅堂は「ちなみに竜胆には料理人として働いてもらっておるからのう、護衛者ではないんじゃよ」と付け加える。

 

「料理人じゃと、スカウト組の護衛者ですらないのか」と驚いていた呉恵利央は、明らかに強いこやつを料理人として雇っておるのか滅堂、完全に雇い方を間違っておるじゃろうと思っていたようだ。

 

「竜胆、この爺は呉恵利央といってな、わしとは長い付き合いなんじゃよ」と言い出した片原滅堂に「わしより爺に爺と言われたくはないわい」と言った呉恵利央は嫌そうな顔を隠さない。

 

「よろしくな呉恵利央さん」と言った柳葉竜胆に「わしを呼ぶときは普通に爺さんなのに恵利央にはさん付けするんじゃな竜胆」と言う片原滅堂。

 

「爺さんって呼んでるから一応さんは付いてるぜ、爺さん」と言いながら笑った柳葉竜胆に「ほっほう、一本取られたのう」と笑う片原滅堂は、本当に楽しそうな顔をしていた。

 

「随分と仲が良いみたいじゃな」と言った呉恵利央は気安いやり取りができる相手ができて滅堂も嬉しいようじゃのうと片原滅堂の内心をよく理解していたようで、とても楽しげな柳葉竜胆と片原滅堂を見ていく。

 

「呉恵利央さんに俺を紹介する為に呼んで終わりって訳じゃなさそうだな爺さん」と言うと片原滅堂を見て、企んでいることを明かすように促す柳葉竜胆。

 

「やはり竜胆は鋭いのう、頭首の恵利央は一人で来た訳ではあるまい、呉一族の誰かを連れてきておるはずじゃな、竜胆の実力を見たいとは思わぬか恵利央」と片原滅堂は言い出す。

 

「確かに護衛として連れてきておる者はおるが、柳葉竜胆と呉一族を戦わせてみろと言っておるのか滅堂」と言って片原滅堂を鋭い眼差しで見る呉恵利央は呉一族頭首としての顔をしていた。

 

「もちろん報酬は、しっかりと支払うぞい恵利央、それならどうじゃ」と言いながら報酬の金額が書かれた小切手を呉恵利央に見せていく片原滅堂は楽しげだ。

 

「おいおい爺さん俺の意思を無視して話を進めんなよ、俺は、やるとは一度も言ってねぇぞ」と嫌そうな顔を隠すことはない柳葉竜胆は、どう見てもやる気がない。

 

「竜胆が欲しがっておった食材とスパイスが見つかったんじゃが、それが届くかは竜胆がこの話を受けるか次第で決まるじゃろうな」と言い切った片原滅堂。

 

「仕方ねぇな、やれば良いんだろやれば」と諦めた柳葉竜胆は「それで、俺は誰と戦えば良いんだ」と言って準備運動を始めていき身体をほぐしていく。

 

「しばし待て柳葉竜胆、今日連れてきておったのは確か堀雄じゃったな」と言った呉恵利央が携帯電話で待機している護衛である呉堀雄を呼び出した。

 

「頭首、戦ってもらいたい相手がいるとは随分と突然ですな」と言いながら部屋に入ってきた呉堀雄は柳葉竜胆を見て、なるほど彼が戦う相手かと理解する。

 

「それでは存分に竜胆と堀雄君が戦えるように広い場所にまで移動しようかのう」と言った片原滅堂を先頭に今現在いる部屋から移動していく面々。

 

屈強な護衛者達も引き連れた片原滅堂の後ろを歩く呉恵利央と呉堀雄に並んで歩いていく柳葉竜胆は戦う相手である呉堀雄のことをよく見ていて、並みの護衛者よりも強いことは間違いないなと判断していたようだ。

 

大勢が居てもスペースが余る広い一室で対峙する柳葉竜胆と呉堀雄は互いに構えを取り、それだけで互いの実力の一端を感じ取ることになった両者は、まだ動かない。

 

最初に動いたのは呉堀雄からになったようで、間合いを詰めて拳を振るう呉堀雄の拳を捌いた柳葉竜胆は、一旦距離を離れると自分から攻めていく。

 

呉堀雄の腰に肩から体当たりをして、体当たりした瞬間利き腕ではない左腕で朽木倒しの要領で呉堀雄のももを抱え、それと同時に利き腕の右腕で45度上方に向かって掌底打ちを放つ。

 

顔の位置を確認する必要はなく、見なくとも45度上方にある顔におもいっきり掌底を突き上げる技は、柳葉竜胆の並外れた腕力によって呉堀雄を容易く吹き飛ばしていった。

 

腰に体当たりしてから掌底が顎に当たるまでの時間0.3秒、人間の標準反応速度0.2秒、限界反応速度0.1秒。

 

太ももを掴む予備動作に惑わされ対処を間違えた呉堀雄は拳で反撃を試みようとしたが、それで掌底への反応が遅れたらしい。

 

呉堀雄に一撃を喰らわせたタックル掌底、掌底突き上げ投げとも言われる卜辻というステゴロの技も柳葉竜胆が学んだ名もなき武術には技として含まれていたようだ。

 

吹き飛んだ呉堀雄は呉一族の人間であり、耐久力は並みの人間を超えているようで、柳葉竜胆の卜辻を喰らっても立ち上がれていたが思っていたよりも威力がある攻撃に驚いていた呉堀雄。

 

両者ともまだ本気を出していない状態ではあるが、互いが実力者であると理解していた柳葉竜胆と呉堀雄の2人。

 

頑丈だから手加減する必要は無さそうだと思った柳葉竜胆は手加減を緩めていき、弾かれたかのように一瞬で間合いを詰める。

 

柳葉竜胆に誘い込まれていることは理解できていたが開いている柳葉竜胆の脇腹に拳を叩き込んだ呉堀雄は、打ち込んだ感触で全くダメージになっていないことを悟っていた。

 

柳葉竜胆のアバラは甲羅のように固く、骨太で肋骨が1枚の板であるかのように厚みがある体形であり、それは1枚アバラと呼ばれているようだ。

 

呉堀雄が脇腹に拳を叩き込んでから、間をおかずに今度は柳葉竜胆が呉堀雄の心臓を拳で押し込む金剛という技を放つ。

 

柳葉竜胆の金剛を喰らった呉堀雄は一撃で失神しており、倒れ込んで動くことはない呉堀雄を見て勝負ありじゃなと思った呉恵利央は「そこまで」と言って戦いを終わらせたらしい。

 

「どうじゃった恵利央」と聞いた片原滅堂に「柳葉竜胆の実力は想像以上じゃな、一撃で鬼牛の異名を持つ堀雄が敗れるとはのう」と答えた呉恵利央。

 

「勝ったぜ、これで良いんだろ爺さん」と言った柳葉竜胆は勝利を喜ぶことはなく冷静であり、とても落ち着いて自然体でいる。

 

やはり竜胆は強いのうと思った片原滅堂は、さて、今度はアギトと竜胆を戦わせてみるのも面白そうじゃなと考えて、とても楽しそうに笑っていた。

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