だから俺は料理人だって言ってんだろ!   作:色々残念

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第6話、滅堂の牙

5代目滅堂の牙候補者達の中で、最強である加納アギトこそが5代目滅堂の牙に近い存在だと言えることは間違いない。

 

しかし加納アギトが5代目滅堂の牙候補になる前に、5代目滅堂の牙候補者達を倒していた柳葉竜胆のことを片原滅堂と護衛者達は忘れてはいなかった。

 

あくまでも料理人を名乗っている柳葉竜胆は5代目滅堂の牙には興味はなく、5代目滅堂の牙となるつもりはないようだが、柳葉竜胆の実力は誰もが認めている。

 

現在の護衛者の中だけから選ぶなら加納アギトで決まりだが、かつて実力を示した柳葉竜胆の存在を忘れることは片原滅堂にも護衛者達にもできないようだ。

 

現在5代目滅堂の牙の選定は、加納アギトと柳葉竜胆の2人の最有力候補者がいる状態となっているらしく、2人の実力を知っている者達は、どちらが選ばれてもおかしくはないと考えていた。

 

加納アギトと柳葉竜胆を戦わせてみたいと思っている片原滅堂は、両者を全力で戦わせてみて、戦いに勝った方に5代目滅堂の牙を選ぶ権利を与えてみようかと考えていたらしい。

 

片原滅堂が命じれば従うであろう加納アギトは問題ないが、加納アギトと戦えと片原滅堂に言われても自分は料理人だと思っている柳葉竜胆が素直に従うことはないだろう。

 

基本的に戦う必要がなければ戦う気が全くない竜胆をアギトと戦わせるには、料理人として竜胆が欲しがっている物を用意する必要があると考えていた片原滅堂は動いていく。

 

とりあえず柳葉竜胆が欲しがっている物を探ることから始めた片原滅堂は、直接聞くと警戒されてしまうので自由に動かせる人間を使って料理人として働いている柳葉竜胆から情報を聞き出す。

 

柳葉竜胆と同じ「中」出身で片原滅堂直属諜報員となった串田凛が聞き出した情報によると柳葉竜胆は、頑丈で切れ味の良い包丁が欲しいと言っていたようで、それ以外に欲しい物は特にないそうだ。

 

「中」の人間があまり好きではない串田凛にとって「中」の人間は身勝手で、後先考えず暴力で全てを解決しようとする死にたがりという連中ばっかりだったが柳葉竜胆は違っていたらしい。

 

本当に必要になった時だけしか暴力で解決しようとしない柳葉竜胆は基本的には穏やかであり、他の「中」出身者と比べるとかなりまともな人間であると感じていた串田凛。

 

無法地帯である「中」出身にしては柳葉竜胆が、とても珍しい存在だと思っていてもしっかりと仕事をする串田凛は自分を雇っている片原滅堂に柳葉竜胆が欲しがっている物を報告する。

 

「よくやってくれたの凛ちゃん」と串田凛に感謝をした片原滅堂は直属諜報員である串田凛に特別ボーナスを渡して、柳葉竜胆の欲しがっていた物を用意させるように部下に命じていった。

 

戦うには充分なスペースがある片原滅堂の豪邸の一室に呼び出された柳葉竜胆は、このパターンは俺にとっては厄介事の予感がするなと考えていたようだ。

 

柳葉竜胆の予感は的中していたようで、部屋の中には片原滅堂と4代目滅堂の牙、王森正道に護衛者の鷹山ミノルと加納アギトの姿があり、加納アギトは既に戦闘用スーツを着込んでいる。

 

「予想はつくが、俺に何をさせるつもりだ爺さん」と聞いた柳葉竜胆に「これから竜胆にはアギトと戦ってもらおうかと思ってのう、戦って勝った方に5代目滅堂の牙を選ぶ権利を与えようかと考えておる」と答えた片原滅堂。

 

「そういえば俺と同じ「中」出身者の嬢ちゃんが料理人として欲しい物がないか俺に聞きにきたが、多分爺さんが知りたいことを知る為に嬢ちゃんを送り込んできたんだよな」と確信を持って言った柳葉竜胆は片原滅堂の狙いには気付いていたらしい。

 

「竜胆が欲しがっておる物を用意する準備はできておるからのう、あとは竜胆がアギトと戦ってくれるなら特注で包丁を頼むだけじゃな」と言った片原滅堂は、あとは竜胆が決めることじゃと考えて答えを待つ。

 

「わかった、やりゃ良いんだろ、爺さん、やってやるよ、その代わり、頑丈で切れ味の良い包丁を頼むぜ」と言うと柳葉竜胆が静かに上着を脱いでいった。

 

料理人として働いていても鍛練を疎かにしたことはない柳葉竜胆の身体は鍛え上げられていて、同年代とは比べ物にならないほど厚みがあり、とても屈強な肉体を持っている柳葉竜胆を見て、加納アギトは獰猛に笑う。

 

互いに構えを取って対峙する柳葉竜胆と加納アギトの間に近付いた4代目滅堂の牙、王森正道が戦いの始まりを決める合図を務めることになり、伸ばした手を手刀のように振り下ろし「始め!」と叫んだ王森正道。

 

素早く下がった4代目滅堂の牙、王森正道の前で5代目滅堂の牙を決める為に行われていく柳葉竜胆と加納アギトの凄まじい戦いが始まっていく。

 

連続で打撃を放つ加納アギトの攻撃を捌いて、加納アギトの腕を掴んだ柳葉竜胆は投げを繰り出すと今度は倒れた加納アギトの腕を素早く関節技で極めにいった。

 

柳葉竜胆の関節技から逃れた加納アギトは、立ち上がると凄まじい速度で中段の廻し蹴りを放ったが柳葉竜胆に片手で受け止められ、軽々と128キロはある加納アギトを柳葉竜胆は片手の腕力だけで振り回して投げ飛ばす。

 

繊細な技術と豪快な力が同居しているとはな、面白い、面白いぞ柳葉竜胆と楽しそうな加納アギトは獰猛な笑みを浮かべながら柳葉竜胆に襲いかかっていき、柳葉竜胆から反撃の拳を喰らったようだ。

 

柳葉竜胆の重く素早いジャブが連続で加納アギトに叩き込まれていくと記憶が飛んでいた加納アギトは、戦いで初めて記憶が飛んでいたことで戦っている柳葉竜胆を素晴らしいと内心で褒める。

 

間合いを詰めてフックを放った柳葉竜胆の動きに合わせて回転し、打撃の衝撃を分散させた加納アギトは「俺」の全身全霊を以て、引導を渡してやると考えていた。

 

「柳葉竜胆、お前の武術は異質だな、だが複数の武術が組み合わされていることは理解できる、練り上げられたその武は見事だが、勝つのは「俺」だ」と言い放った加納アギト。

 

「一緒に畑作業やってる時は無表情なのに、戦ってる時だけは、そうやって物凄く楽しそうに笑うんだなお前は」と戦いながら加納アギトに言った柳葉竜胆。

 

戦っている最中に凄まじい速度で進化していく加納アギトは、戦えば戦うだけ間違いなく強くなっていき、加納アギトのその進化は終わることはない。

 

柳葉竜胆との戦いの中でも進化していった加納アギトは、放たれる柳葉竜胆のジャブの打ち終わりを抑えようとしたが、動きが途中で変わりフェイントフックに切り替わった柳葉竜胆の攻撃。

 

間違いなく加納アギトは進化をしているが柳葉竜胆の武術には引き出しが多く、進化による適応が追い付いていないようで、まともに攻撃を喰らってしまう加納アギトは、柳葉竜胆の底が見えんと驚いていた。

 

間合いゼロで放つ肘打ちの金剛を映像記録で見て知っていた加納アギトは、腕を使ってそれを防いだが、その為に脇腹のガードが開いてしまっていたようで、その隙を逃がすことはない柳葉竜胆が鉤突きを放つ。

 

今回は脇腹を狙った鉤突きから始まることになる凄まじい連打の技を、柳葉竜胆が学んだ武術では煉獄と呼ぶ。

 

カッティング、リーディング、ガーディング、パリー、ステッピング、ダッキング、スウェーバック等のあらゆる防御を予測して作られた技である煉獄。

 

特定の間で特定の攻撃をしかけてコレしか避ける手段がなかったという攻撃を意図的にしかけることで、避け方を予測することは可能であり、反撃する機会を与えずに特定の間で特定の攻撃をしかける連打こそが煉獄である。

 

加納アギトの脇腹にめり込んだ鉤突きから始まった煉獄は、側頭部の肘打ち、顔面と金的を狙った両手突きに続いて、首への手刀、鳩尾への貫手に流れるように連打を放つ柳葉竜胆。

 

下段廻し蹴り、中段廻し蹴り、下段足刀、踏み砕き、上段足刀、左下段前蹴り、右背足蹴り上げ、右中段前蹴り、左中段膝蹴り、右上段蹴りと放たれる連打が止まることはない。

 

煉獄とは5手ずつの技の7種類の組合せに左右逆の7種類を合わせた14種類から相手の状態に合わせて放つ技を選んで、体力の続く限り連打を打ち続ける技。

 

凄まじい威力で放たれる連打は10分以上打ち続けられており、耐えていた加納アギトも立ったまま気絶していたようで、4代目滅堂の牙、王森正道がそれに気付いて止めに入った。

 

倒れることすらできない凄まじい連打である煉獄が、これ以上の時間続いていたら加納アギトは死んでいたかもしれない。

 

勝者となって5代目滅堂の牙を決める権利を得た柳葉竜胆は、あっさりと「じゃあ加納アギトが5代目滅堂の牙決定な」と決めて「包丁頼んだぜ爺さん」と言うと去っていく。

 

納得がいかないのか柳葉竜胆を追いかけて「何故お前が牙にならない竜胆」と問いかけた鷹山ミノルに「俺は料理人でいられるなら、それだけで充分だからだよ」と答える柳葉竜胆。

 

「まあ、竜胆が牙にならないとは思っておったが、アギトを倒すとは並みではないのう竜胆は」と言った片原滅堂は楽しげに笑っており、面白いものが見れて喜んでいたようだ。

 

「御前、本当に竜胆を5代目の牙にしなくて良かったのですか」と聞いた4代目滅堂の牙、王森正道に「構わん構わん、アギトの方がやる気があるじゃろうて」と答えた片原滅堂は気にしてはいない。

 

「それに牙という立場で竜胆を縛るのもつまらんからのう、竜胆は自由にやらせる方が色々と面白そうじゃ」と言って片原滅堂は「さて、次はどうやって竜胆と遊ぼうかのう」と本当に楽しそうな顔で笑った。

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