アヴェンジャー ラグナ=ザ=ブラッドエッジ 作:Type S
水面を揺蕩うような微睡みの中、意識が浮上してくる
痛む頭を押さえながら目を開ける
———そこには一面の青い景色があった。
「ここは……何処だ?」
見渡しても果ての見えない深蒼の空間はまるで水中のようだと思ったが
遠くまで伸びていく帯の様な紋様がそれを否定している
紋様が輝き、この青い空間をさらに鮮やかに映し出し
身に着けている赤いコートも青い光に照らされていた
身を包む大量の魔素と強く感じる『蒼』の気配で気がついた
俺はこの空間を知っている
「まさか、ここは『境界』の中か!」
境界———『窯』の先にある魔素に満ちた空間
触れればあらゆる知識を手に入れることができるが、自我や肉体が崩壊していく……らしい
何故か未だ意識を保っていられるが、その成れの果てがどうなるかを知っている
いつまでもここにいるのは危険だ
「早く脱出しねぇと……!」
———脱出する? 何処へ?
『境界』とその『外』があるという知識はある
しかし、どう記憶を探っても『境界』に落ちる前の記憶がない
———俺は今まで何をしていた?
それどころか自らの名前さえも思い出せない
———待て、俺は何を忘れていて、何を憶えているんだ?
記憶を遡ろうとしたその瞬間
「———告げる」
少女の声が響き、それと同時に頭の中に大量の情報が流れ込んできた
「ガッ……ぐおおおおおおおおお!」
やってきた強烈な頭痛に頭を抱えて蹲る
「———告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
———日本……冬木…………聖杯?
流れ込んできた情報のせいか、視界が明滅し体の感覚がなくなっていく
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
『蒼』の気配が遠ざかっていく
その時初めて体が落下していることに気付いた
———いや、これはどこかに引っ張られているのか?
ますます加速していく身体に、時間が引き伸ばされる錯覚を覚えながら
流れ込む情報と響く声が思考能力を奪っていく
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
「やべぇ……意識が」
あやふやになっていく感覚の中
遠のいていく声にようやく意識が向き、
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ———!」
その少女の声に聞き覚えがあるような気がした
——————————————————————————————————————————————
「なんでよおおおおお!」
会心の出来の召喚に満足するも周囲に影も形もなく、
音がした地上に向かって遠坂凛は階段を駆け上がった
壊れたドアを蹴破り、めちゃくちゃになった居間の中にその男はいた
まず目に入ったのは燃えるような赤いコート
次に隣にある幅広の大剣
そして
「あ?」
こちらを射抜く左右色違いの瞳だった