庭園水晶   作:moon

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静謐
第一部ディパン 邂逅


15歳になって間もなく、初陣に出た。

勝利を得、戦後処理が始まると、一人で戦場を歩いた。

戦いの後には何が残のか、自分の目で見たかったから。

供はいない。嫡子たる王子が三人いるから

庶子の自分を気遣う者などディパンには居ないのだ。

陣からあまり離れていない場所に一本の大木を見つけた。

 

血の匂いが立ち込め、薄暗くなった中、そこを目指しながら歩き始めた。

 

しばらく歩くと真っ直ぐに立つ人影と、それに重なる光が視界に入ってきた。

重なる光で女性だとは判ったが、横顔は黄昏色に溶け込んでよく見えない。

胸に両手をあて、うつむいて微動だにしないシルエットは

一体、誰なのか確かめようと近づいた。

 

彼女の前には息絶えた戦士が横たわっているようだ。

まさか!「戦乙女?」声が出ていた。

胸に当てていた手の中の光が

彼女の中に溶け込んでいく様子をその場で見つめる。

 

「私が見えるのか。」彼女がつぶやく。

「貴女は戦乙女なのか?」

「シルメリアだ。」

言うと、飾り羽根の付いた額飾りを頭から取り、こちらに向き直る。

「私が見えるという事は、エインフェリアの資質ありということだな。

ディパンの次代では、無理からぬか。」

 

何を言っているんだ?次代?資質??

「エインフェリアになるのか?」

自分でもひどく冷静に声が出た。

くすり、とシルメリアが笑った様な気がした。

「名は?」シルメリアは自分の方に向かってゆっくりと歩きながら問いかけてくる。

「ブラムス。」名乗りながら、前方に目を凝らす。

次第に姿が見えてきた。

蒼穹の鎧は晴れ渡った天空だ。その天空にかかる黄金の髪は太陽か。

瞳は・・・緑色だ。大地を覆う命の色。

 

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選定された魂は、現世で最後にこの世ならぬものを見る。

美しく、荘厳な存在を。

古い詩の一節が脳裏にうかぶ。

 

「ブラムス」戦乙女の透明な声を聞いた瞬間、

ぞくり、と鳥肌が立ち、捕まった、と自分の中で誰かが呟くのを聞いた。

次は捕らえる、必ず。激しい感情は、一体何なのか、誰のものなのか。

不思議な感覚が一瞬の内に体の中を駆け巡った。

 

「自分次第だ。いくら資質があっても、輝く魂とならねば意味が無い。」

シルメリアは自分の前に立っていた。

「今は、まだ連れて行けぬな。

人として、その時、その時を精一杯生きろ。

嬉しい事や哀しい事が、沢山お前に降りかかるだろう。

色々な感情を、時には一人で受け止め、時には他の者と分かち合え。

強い自分も、弱い自分も受け止められる者となれば、逝く時に魂が輝く。

その光が戦乙女を呼ぶ。」

 

「私が逝く時、シルメリアを呼んだら?」視線を外さずに訊いた。

微笑みながらシルメリアは私の頬に右手で触れた。

私より頭一つ分、背が高いんだな。

自分の目の前にいる彼女を見ながら、なんとなく思った。

 

シルメリアの額が自分の額に重なる。

「ブラムスが逝く時、戦乙女が私であったなら、会いに来よう。」

 

大切な、約束の時。

その時が一瞬なのか、永遠だったのか、当時はわからなかった。

 

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