庭園水晶   作:moon

11 / 20
庭園水晶
皆既食


ほんの僅かな変化。

足を組み、肘を付いたブラムスは閉じた瞼の下でそれを見た。

竜玉が奪われた。崩壊が始まる。

「時が至ったか。」幾星霜の闇を重ねた声が呟いた。

不死者王の誘いに運命の女神が返事をする。

豪奢な天井で冷たい光を放っていた結晶はそのまま天井を滑り出した。

玉座の横の天空で止まった次の瞬間、分厚い床にめり込んだ。

轟音と衝撃を凝った闇が抱く。

玉座の王は闇で真紅の印を刻んだ。

 

日中にありながら暗雲が島の上空を侵食し始めた。

 

人間界に蠢く数多の生物。生を持たぬ存在。

別に守るつもりは無い。ただ、城が人間界にある。

活動拠点が人間界故に破壊は望まない。

シルメリアも人間界の破壊は望まない。

死の闇の中に在って生命を纏う戦乙女。

蒼穹の鎧は晴れ渡った天空。その天空にかかる黄金の髪は太陽。

瞳は大地を覆う命の色。

運命の三姉妹の末は上の二人より激しい。

太陽の様に全てを焼き尽くし、自分自身さえ焼き尽くす。

自身が灰塵と帰す前に冷冽な結晶にその身を委ねたのは運命のいたずらか。

人間は上手い喩えをしたものだ。

前方を見る真紅の双眸は古の筆跡を闇に見る。

 

----------

 

神は永遠の流れの中に在り、人の輪は閉ざされた。

神は知る。

人は知らぬ。

永遠の時の流れに溺れる事を赦されぬ人。

生き、産み、育て、そして還る。

止まる事を忘れた輪廻の輪。

 

流れる時を知る人は誰ぞ?

朝と昼と夜の女神に選ばれし人ぞのみ知る。

姉妹の持つ剣の色や如何に?

人は夕刻の空と鑑みる。

交わる事を拒む故に並び立つ。

時が運命と共に互いを抱く刹那。

 

選定された魂は、現世で最後にこの世ならぬものを見る。

美しく、荘厳な存在を。

 

----------

 

玉座の横に在る運命の女神。

その髪と同じ色の太陽は暗雲の下で日食を始めた。

暗雲は雨雲となる。

命の水が乞われ城を訪れる。

結晶が強く、弱く光りだした。

 

夜が孤城を支配する。

城の竜達が汚れた翼を拡げ、城の周りを飛び交う。

醜い神族が命の歌を歌う。

歌うことを捨てた竜は翼と共に歌う。

腐った職人は相変わらず城に手を入れている。

ラム・ガーディアンは城を守る。

王は我等を統治しない。

だが、我等の王は不死者王のみ。

不死者王は我等に亡失した生の波動をもたらす。

玉座の横の結晶がそれを放つ。

四界に於いて誰がその様な事が出来る?

我等の王のみ。

王は我等を統治してはくれぬ。

それでもいい、我等の王は不死者王ブラムス唯一人。

 

真紅の双眸と瞼に覆われた緑の双眸は前を見る。

「お前が望んだ事だ、シルメリア。」

明滅する結晶は何も言わない。

ただ、その光が静かにブラムスを覆う。

闇より暗い玉座の間で二人は静かにその時を待つ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告