不死者王が一方的に与える意図的な優しさと残酷な甘さが私をおかしくする。
城からこの窓から見える紅い月が私を狂わせる。
抗うにはあまりにも甘美で魅惑的な戒めに雁字搦めの私は、神族でも人間の女でもなく、ただの雌にされてしまう。
ドロドロに溶けた理性をかき集めた途端に聞こえた自分の嬌声。あれられもないそれに耳を覆いたくなる。
なのに両手首を寝台に押し付けられているから耳を塞ぐことが出来ない。
必死でかき集めたなけなしの理性が、倫理に背いたこの行為を自分が心のどこかで求めていた可能性を突きつける。
否定したくてもぼんやりとした頭がそれを拒んだ。
不死者王に心も体も穿たれて、翻弄される。
私が全てを手放したら、正気の欠片を失くしたら、今私を組敷く人物は私に対して途端に興味を失うだろう。
魚が溺れまいと飛び跳ねる様に、私の身体は仰け反り寝台に沈む。
背骨を何かが蠢きながら這い上り、我慢しきれなかった抑えられなかった声が喉から迸る。
腰が逃げを打つけれど、圧し掛かる不死者王の身体がそれを赦してはくれない。不死者王の身体は密着せずに、僅かな自由を私に与える。
ほんの少し利く自由の中でもがく様は、淫らに乱れて自ら腰を振っているようで。
もっと、もっと、もっとと。
お前が自ら動いて善がっているのだと、膝を立てて体を捩り、別の場所に触れて欲しいと強請るのだと。
身体がそう言っているのだと、不死者王に思い知らされる。
幾度となく高みへと持ち上げられ、そして容赦なく堕とされた。
狂ってしまえ。
正気の欠片を捨ててしまえば、快楽に溺れてしまえば、劣情だけを求めたならば、私を見下ろす不死者王はすぐさま見向きもしなくなる。
そうすれば、甘やかな苦痛から解放される。
溶けた思考で思い至ると、心の底より深い場所が小さく痛んだ。
私は。
気づきたくは、なかった―――――
「溺れてしまえば、楽になれるぞ」
窓から見える月よりも赤くて深い真紅の双眸が、下腹部をぞくぞくさせる低い声が、私を狂わせてはくれない。否が応にも正気に留める。
「……ぃ…や…」
必死に口を開いて何とか拒否をした。
不意に空気が柔らかくなる。
でも、それはほんのわずかな間で。
「だから私はお前を気に入っているのだ」
低い声が皮膚をぞくりと撫でる。
次の瞬間には逃れようもない快楽が私の身体に覆いかぶさった。
闇に君臨する王の背に手を回せることは出来ないから、だからせめて同じ色をしたあの月に触れたいと。
薄っすらと汗が覆う腕を伸ばして。
喘ぐ私の手と紅い月が重なった。