雨の中の平原にシルメリアは立っていた。
戦いが終わり、呼び出したエインフェリア達を自分の中に呼び戻す。
足元には、魔術師数人と剣士が転がり、
離れた所にも、魔術師と弓闘士が倒れている。
シルメリアの両手は、紅い竜玉を支えている。
あちこちに流転するドラゴンオーブをやっとの思いで探し当てた。
オーブは、常に秘されていなければならない。苦労するはずだ。
だが、最後の在り処を突き止めた時、
持ち出した理由に、愕然とした。
魔術師達が持ち出していたのだ。
人間界を支える至宝を、己の欲の為だけに。
オーディン様は、この事を危惧されたのか?
いや、それだけではない筈だ。
オーブを見ながら、シルメリアは思案を巡らす。
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「ドラゴンオーブの行方を探し当てよ。」
オーディンの命令。それは何を意味しているのか。
何か、ある。頭の中で警鐘が鳴る。
「ですが」と口を開いた戦乙女の質問を、オーディンは片手で煩わしそうに遮る。
「エインフェリアの刷新も同時に行う。
解放を求める者、シルメリアが解放したい者を連れて行け。」
「・・・承知致しました。」返事をすると、シルメリアは一礼して退出した。
戦乙女が退出した部屋で、主神とその腹心が会話をする。
「よろしいのですか、オーディン様。」
「シルメリアが、適任だ。」
「ですが。」
「私への忠誠を試す、いい機会だ。」
あの脱走劇の後も、シルメリアは当代の戦乙女としてヴァルハラにいる。
オーディンによる見せしめか。
「前代未聞の事態を引き起こしおって。」
「エインフェリア一人御せぬとは。」「無様な戦乙女だな。」
「上二人が見たら、呆れ果てよう。」
彼女を快く思わない者達、
口さがない神族達の言葉が、事あるごとにシルメリアに突き刺さる。
シルメリアは、今迄通り振る舞い、主神の命を遂行していた。
「少しは、申し訳なさそうにすれば、可愛げもあろうに。」
廊下ですれ違った神族の一人が、吐き捨てる様に言った。
ドラゴンオーブの探索。
当代の戦乙女としての、おそらく最後の命だ。
これが終われば、転生する。当分、戦乙女として王に呼ばれる事は無いだろう。
ひょっとすると、永遠に戦乙女としての自分は無いかも知れんな。
だが、オーブ探索とは。我が主神は、何を考えているのだ。
シルメリアは、オーディンの真意を計りかねていた。
今は、何も考えまい。
とにかく人間界ミッドガルドに降りてオーブを探し当てる事が先決だ。
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雨が降る。
ドラゴンオーブの紅い胎動を見ていたシルメリアは我に返った。
とにかく、これを在るべき場所へと安置しなければ。
それで自分に下されたの最後の命令も終わる。
そう思って踵を返した瞬間、シルメリアの背後に雷が落ちた。
「オーブを神界へ持ち帰れ。」オーディンの冷たい声。
今、何と聞こえた?オーブを??
「ですが!オーブが失われると、人間界が崩壊します!!」
「私に意見するのか?」
落ちる雷と共に、オーディンの声が響く。
「しかし!」
「主神の命に、逆らうのか?小賢しいぞ、シルメリア。」
複数の雷と共に、冷徹な声が轟く。
「たかが、下級神が、大層に主神に意見するとはな。」
侮蔑は雨と共にシルメリアを叩く。
「解放と、オブジェクトリーディングの能力が無ければ、
戦乙女などと持ち上げられる事も無かっただろうに。」
シルメリアは硬直した。
「選べ。私の命に従うか、私に逆らってオーブ隠匿するか。」
嘲笑を含んだオーディンの声が聞こえた。
雨、雨、雨、そして雨。
暗い空を閃光が走る。
彫像の様に立つシルメリアの顔を、雨の筋が幾本も伝う。
額を抜け、頬を滑り、顎から落ちて地面に還る。
「オーディン様。」
「フレイ、私は言っただろう?忠誠を試す、いい機会だと。」
「オーブがこちらに来ると、人間界が・・・。」
「シルメリアは、餌だ。」
オーディンの酷薄な笑み。
「人間界からオーブが失われる事を好しとしない、
紅い眼をした猛獣を誘き出す為のな。」
フレイが更に問う。
「不死者王を?」
「あれ程の力を持つ者を、放ってはおけぬよ。竜玉の代わりとする。」
「シルメリアは、どうなさるおつもりですか?」
「まだ利用価値はある。当分、転生させておけばいい。
使う機会が無ければ、永遠にな。」
ヴァルハラの意思は、今、示された。
闇の中で、低い声が呟いた。
「お前では、支えられまい。」人間界も、お前自身も。
人影は、椅子からゆっくり立ち上がる。
不意に現れた暗い焔が王を覆い、
ふっ、と消えた。