庭園水晶   作:moon

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第三部ミッドガルド 竜玉

雨の中の平原にシルメリアは立っていた。

戦いが終わり、呼び出したエインフェリア達を自分の中に呼び戻す。

足元には、魔術師数人と剣士が転がり、

離れた所にも、魔術師と弓闘士が倒れている。

シルメリアの両手は、紅い竜玉を支えている。

 

あちこちに流転するドラゴンオーブをやっとの思いで探し当てた。

オーブは、常に秘されていなければならない。苦労するはずだ。

だが、最後の在り処を突き止めた時、

持ち出した理由に、愕然とした。

魔術師達が持ち出していたのだ。

人間界を支える至宝を、己の欲の為だけに。

 

オーディン様は、この事を危惧されたのか?

いや、それだけではない筈だ。

オーブを見ながら、シルメリアは思案を巡らす。

 

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「ドラゴンオーブの行方を探し当てよ。」

オーディンの命令。それは何を意味しているのか。

何か、ある。頭の中で警鐘が鳴る。

「ですが」と口を開いた戦乙女の質問を、オーディンは片手で煩わしそうに遮る。

「エインフェリアの刷新も同時に行う。

解放を求める者、シルメリアが解放したい者を連れて行け。」

「・・・承知致しました。」返事をすると、シルメリアは一礼して退出した。

 

戦乙女が退出した部屋で、主神とその腹心が会話をする。

「よろしいのですか、オーディン様。」

「シルメリアが、適任だ。」

「ですが。」

「私への忠誠を試す、いい機会だ。」

 

あの脱走劇の後も、シルメリアは当代の戦乙女としてヴァルハラにいる。

オーディンによる見せしめか。

「前代未聞の事態を引き起こしおって。」

「エインフェリア一人御せぬとは。」「無様な戦乙女だな。」

「上二人が見たら、呆れ果てよう。」

彼女を快く思わない者達、

口さがない神族達の言葉が、事あるごとにシルメリアに突き刺さる。

シルメリアは、今迄通り振る舞い、主神の命を遂行していた。

「少しは、申し訳なさそうにすれば、可愛げもあろうに。」

廊下ですれ違った神族の一人が、吐き捨てる様に言った。

 

ドラゴンオーブの探索。

当代の戦乙女としての、おそらく最後の命だ。

これが終われば、転生する。当分、戦乙女として王に呼ばれる事は無いだろう。

ひょっとすると、永遠に戦乙女としての自分は無いかも知れんな。

だが、オーブ探索とは。我が主神は、何を考えているのだ。

シルメリアは、オーディンの真意を計りかねていた。

今は、何も考えまい。

とにかく人間界ミッドガルドに降りてオーブを探し当てる事が先決だ。

 

----------

 

雨が降る。

 

ドラゴンオーブの紅い胎動を見ていたシルメリアは我に返った。

とにかく、これを在るべき場所へと安置しなければ。

それで自分に下されたの最後の命令も終わる。

そう思って踵を返した瞬間、シルメリアの背後に雷が落ちた。

 

「オーブを神界へ持ち帰れ。」オーディンの冷たい声。

今、何と聞こえた?オーブを??

「ですが!オーブが失われると、人間界が崩壊します!!」

「私に意見するのか?」

落ちる雷と共に、オーディンの声が響く。

「しかし!」

「主神の命に、逆らうのか?小賢しいぞ、シルメリア。」

複数の雷と共に、冷徹な声が轟く。

「たかが、下級神が、大層に主神に意見するとはな。」

侮蔑は雨と共にシルメリアを叩く。

「解放と、オブジェクトリーディングの能力が無ければ、

戦乙女などと持ち上げられる事も無かっただろうに。」

シルメリアは硬直した。

「選べ。私の命に従うか、私に逆らってオーブ隠匿するか。」

嘲笑を含んだオーディンの声が聞こえた。

 

雨、雨、雨、そして雨。

暗い空を閃光が走る。

彫像の様に立つシルメリアの顔を、雨の筋が幾本も伝う。

額を抜け、頬を滑り、顎から落ちて地面に還る。

 

「オーディン様。」

「フレイ、私は言っただろう?忠誠を試す、いい機会だと。」

「オーブがこちらに来ると、人間界が・・・。」

「シルメリアは、餌だ。」

オーディンの酷薄な笑み。

「人間界からオーブが失われる事を好しとしない、

紅い眼をした猛獣を誘き出す為のな。」

フレイが更に問う。

「不死者王を?」

「あれ程の力を持つ者を、放ってはおけぬよ。竜玉の代わりとする。」

「シルメリアは、どうなさるおつもりですか?」

「まだ利用価値はある。当分、転生させておけばいい。

使う機会が無ければ、永遠にな。」

ヴァルハラの意思は、今、示された。

 

闇の中で、低い声が呟いた。

「お前では、支えられまい。」人間界も、お前自身も。

人影は、椅子からゆっくり立ち上がる。

不意に現れた暗い焔が王を覆い、

ふっ、と消えた。

 

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