庭園水晶   作:moon

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第三部ミッドガルド 閃光

シルメリアは、立ったまま、動けなかった。

オーディンの自分に対する意思表示。

「王呼の秘法」に似た「解放」を行える自分。

主神は目障りなのだ、自分が。解かっていた。

だが、神族として、神界の掟は遵守してきた。

自分が納得いかない命令も、遂行した。

全ては我が主神の為。

その主神は、自分の思いを忠誠を測る道具にした。

道具。私は利用価値があるから使役されている。

「たかが、下級神が、大層に主神に意見するとはな。」

「解放と、オブジェクトリーディングの能力が無ければ、

戦乙女などと持ち上げられる事も無かっただろうに。」

オーディンの言葉が、頭の中でがんがん鳴り響く。

足元から、自分の存在が壊れていく。

掌にオーブの胎動を感じた。これが失われれば、人間界は崩壊する。

早くしなければ。でも、身体が動かない。

 

「寄越せ。」シルメリアの後ろで、低い声がした。

のろのろと、シルメリアの顔は、後ろを向く。

暗い焔が消え、不死者王が姿を現す。

竜玉と同じ紅。闇の胎動を秘めた両眼。

言葉を、声を出そうとして息を吸う。

声が出ない。

「なんて表情をしている。」ゆっくりブラムスが歩み寄る。

崩れそうなシルメリアの後ろに立ち、掌で緑の瞳を覆う。

頭ごと胸に抱え込み、もう一方でオーブを支えようとする。

「悪いようにはせんよ。」頭上で声がする。

シルメリアの肩が上下し、呼吸が荒くなる。

温かい雫がブラムスの掌を濡らす。

雫はシルメリアの頬を伝い、噛みしめた唇の横を通り、

幾筋の雨と交わり、顎からぽたぽたと落ちていく。

剣を握る手で、ブラムスの腕を掴む。崩れまいとして。

「お前の選択は、間違っていない。」

シルメリアの視界を覆う手がそう言った。

 

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オーブの支えは、ブラムスに移った。

「仕掛けるぞ、シルメリア。」

濡れたシルメリアの頭に顔を埋めた不死者王は

優しい声でとんでもない事をシルメリアに告げた。

返事の代わりにシルメリアはブラムスの腕を掴んだ手に力を込めた。

今は、自分の感傷よりも、オーブだ。奪われる訳にはいかない。

ブラムスの気配が笑った。応えるお前もお前だ、と。

 

「無様だな、オーディン。」重厚な声が地を這う。二人のすぐそばで雷が落ちた。

「何と言った。不死者王。」冷徹な声が答える。

「無様だと言った。ドラゴンオーブ欲しさに、人間界に干渉するとは。

あの魔術師達も、貴様の策だろう?」

「オーブが人間界に在ると、人間どもは利用しようとする。

だからヴァルハラで保管する。その為だ。」

「それを人間や下級神の力を借りなければ出来ない貴様は

無様以外の何者でもない。」あからさまな挑発。

相手を挑発しながら、不死者王は、竜玉の転送先を固定する。

慎重に、細心の注意を払って。

そうしないと、オーブの波動を確実に追跡される。

 

雷鳴と共に、いらつくオーディンの声が鳴り響く。

「私が出るまでも無い。」雷は落ちない。怒りを抑えているのか。

「そうだな、貴様が出ると碌な事にならぬ。不死者王と気付かず、

エインフェリアを神界から逃してしまった様にな。」

不敵な笑みを浮かべながら、不死者王は平気で逆鱗に触れる。

いや、触れるどころか、鋭い爪で容赦なく切り裂いている様なものだ。

 

オーディンが味わった屈辱。

人間に転生していた不死者王を、それと知らずにエインフェリアとして召喚した。

そのエインフェリアが神界から脱走した。

自分の一閃を利用して。

ヴァルハラを治める神の瞳が怒りで燃える。

「おのれぇ・・・・」歯の間から呻く声が洩れる。

「貴様が下級神の間違いではないのか?」

仕上げに不死者王は爪を突きたてた。

「赦さんぞ!不死者王!!オーブの代用品の分際で!!!」

挑発に乗せられて、オーディンは思惑まで口にした。

 

そういうことか。

ブラムスの手が離れていく中、シルメリアは全てを知った。

不死者王をオーブの代わりとする。その底にあるもの。

オーディンは不死者王に不覚を取ったことが認められないのだ。

歪んだ復讐だ。オーディンが、自身が味わった屈辱への。

歪み?そう、人間界も歪みが再び起きている。

自分が、エインフェリアのブラムスと共にいた時よりも。

シルメリアは自分の横を抜けていくブラムスの手を鋭い爪ごと握った。

だから、不死者王は転生していたのか。

歪みの修復を図る為に。

「そういうお前を、私は気に入っている。」

前方を睨むシルメリアに、その声は

上空のオーディンの一閃と共に降ってきた。

 

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ヴァルハラから放たれた一閃は唸りを上げ猛烈な勢いで向かってくる。

「来た。」二人は同時に小さく叫ぶ。

挑発の間、オーブの転送先を固定したブラムスが、オーブの転送を始めた。

オーディンは、ブラムスが転送先を固定し、転送するのを待っていた。

転送先を歪める事で、オーブを手にするつもりだったのだ。

だから不死者王が現れた時、手を出さなかった。

不死者王は、転送先を悟られない為に、オーディンを挑発した。

そして竜玉の転送を行う時を、混乱の中と定めた。

オーブを追跡させない為に。

相手はヴァルハラを統べる主神だ。安全策はいくらあっても邪魔にならない。

 

「しまった!!」フレイが叫んだ。

「遅い!!」ブラムスの背後に廻り、シルメリアの放つ輝く槍が閃光を割る。

守護陣を敷く。転送が終わるまで、邪魔はさせない。

「貴様等、消し去ってくれる!!」

オーディンの掌が更に光を放つ。

 

畳み掛けるように一直線に頭上に落ちてくる一閃。

守護陣を敷いているから、シルメリアは動けない。

「させるか!」

先程の衝撃で歪んだ空間と力場、挙句の果てに不死者王の波動まで利用して

無理矢理に軌道を自分の頭上から前方へと捻じ曲げる。

無理な方向転換で、多少なりとも力を殺ごうという

戦乙女の冷静な計算と共に。

 

「私にも、意地がある!」

剣を抜き、その腹で一閃を受け止め、守護陣を支え、不死者王を守る。

背後の気配を窺う。転送はあと少しで終わりそうだ。

「悪いようにはせぬよ。」とブラムスは言った。

私の身体は、それまで持てばいい。

「生意気な下級神が!!」

解かっている。今更だ。

だが、下級神といえど、守りたいものがある。

「・・・ディン」呻くシルメリア。

神が、人間界の先行きを案じて、何が悪い。

「オーディン!!!!」

叫びと共に、シルメリアは剣を薙ぎ払い、

受け止めていたオーディンの力を跳ね返した。

「逆らうか!この私に!!」

主神は己が手を高くかざした。

「オーディン様!」フレイの叫び。

 

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