灰色の街   作:やーわは

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気まぐれに初投稿でヤンス。よろしくでヤンス。


機械の青年

 

何時もより少し長めに思考に耽っていると、突然自分の被っているフードが、何の前触れもなく吹いてきた風と共に頬を撫でる。

 

ふと顔を重苦しく持ち上げて、暗くくすんだ空を見やる。今のご時世、綺麗な星空なんて見えやしないってのに、時折こうしてお空を見上げてしまうのは、最早軽い現実逃避なのかもしれない。いや、もしかしたらもう手遅れなのかもしれないけど。そんな中、切り立った小さな崖の上の頂上で座りながら静かに瞼を閉じていると…まるで走馬灯のように電子頭脳がフラッシュバックを起こす。忌まわしい、あの”静かな厄災"の記憶が…世界が"色落ち"てしまったあの日の、振り返りたくもない思い出が。

お世辞にも良いとは言えない自分の頭の中を、駆け巡っていくのであった。

 

 

 

 

「あぁ、いつから……こうなったんだっけか」

 

思わず、言葉が漏れる。

 

もしもこれが趣味嗜好の極端に歪んだ奴の夢なら、早く覚めてほしかったんだけど、現実はそうとも行かなくて。

 

ーーーーとても気だるげで……あと数分くらいは眠りにつきたい自分を、理不尽に照らした陽光もーーーー

 

ーーーー恨めしいと思いながら、キッと睨んだあの空模様もーーーー

 

ーーーーお世辞にも整ったなんて言えない歪んだ顔を、満遍なく視界いっっっぱいに広げやがった、小さくて綺麗なあの川もーーーー

 

憎たらしいほど自分を囲んでいた、その美しい景色は今やーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーどこまでも霞んだ、空中にぼんやりと浮かび上がる灰色の街に呑み込まれてしまっていた。不気味な霧と、灰色の中に建ち並ぶ暗い街並み。それに続くかのように降り注ぐ雨。

すべて、その全てが忌まわしい。憎たらしい。妬ましい。

 

多分…どこにでもいるちっぽけな凡人である僕の、浅ましいちんけなお願い事が、この世界か、宇宙か、或いはそれ以外のどっかしらにいるであろう……"カミサマ"、とやらに届いてしまったのかもしれない。

 

けどさぁカミサマ……。一体誰がーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界の存在自体を灰色に変えろ……何て言ったのさ。全然違うんだよ、このクソ野郎。」

 

いや、ホントに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記録No.001 ファイル名:("すべて"の終わり)

発生年 西暦2999年 発生時刻 12月31日 午後11時59分

 

ーー丁度新しい年の節目を迎えようとしていたその日、その世界に、嘲笑うかのようにソレは来た。どこまでも灰色な「霧の街」と、無造作に、かつ無機質に降りしきる「雨達」が。霧は全てを呑み込み、雨は「色」を奪っていった。たとえその「色」の持ち主が人であろうが、モノであろうが関係なく。結果として、呑み込まれた場所·地域はそこに住んでいた住民ごと跡形もなく消滅。かつて人の営みが盛んに行われていたであろう風景はそのすべてが掻き消え、当たり前のように行われてきた日常の繰り返しは、人類の命脈と共に途絶えた。その後、生き残った人類の大半は、機械の身体に自身を乗り替え、それを代替とすることで、ひっそりと生きていく事を選んだ。今や、外に出て行くのは観察者達"のみ"である。

 

 

 

 

ー記録終了ー

報告日6月7日

ー観察者:アギアー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?通信?」

 

パタリと、自分が持ち歩く観察報告ファイルを閉じる。人々の日常が壊れてから大分経ったけど、相も変わらずこの灰色に染まった世界は、全く持って変わりやしない。既に朧気な、まだヒトの身体をもっていたあの頃を思い出して、自慢の恨み言を空に吐きながら報告書を入力していたのがいけなかったのだろうか。右耳に着けたコンソールへと通信が入る。……この通信回路はたしか…………アイツかぁ。

 

 

 

「もーしもーし!勤務中に悪口を吐くのは頂けないなぁ?ア·ギ·ア·君?」

 

 

 

…………ったく。本当なら今すぐ迅速に、ソレはもう脱兎のごとく回線を遮断したいのだが、今は生憎そうもいかない。ホントに、ほんっっっっっとに嫌だけど、コンソールに指を置いて応答する。アイツは一度通信を繋げたら最後、自分の話が終わるまで止まらないのだ。自分の擬似指紋をコンソールに備わったセンサーが感知、ロックが解除されたことで、相手との通信が繋がる。

 

 

「別に悪口じゃない。唯唯気に食わない事を吐き出してただけさ。今日も今日とて大層お綺麗なお空に向かってね?」

 

 

「それを世間一般では悪口とか愚痴って言うんだけど……まぁ良いわ。早く戻ってきて頂戴ね。くれぐれも"灰色の街"には近寄らないで」

 

 

「了解、彩」

 

 

「んもぅっ!今はプライベートじゃないんだから、名前はちゃんとコードネームで呼んで!!そうするようにってあれ程昔から何度も何度も言ってーー

 

 

「分かった分かった」

 

 

名前か……。今じゃ持ってる人が絶滅危惧種なんだから、別に一言二言呟いたって文句ないだろうに。でもまぁ、わざわざこちら側に通信までして突っ掛かってきたんだ。腹いせに名前でも読んでやろうという僕の巧妙(笑)な作戦は功を成したから良しとしよう。アイツも……彩も、それには気が付かなかったみたいだしね。しめしめ。「それじゃあ、また基地で」、と言って、まだ通信の向こうで何か言っている彩との通信を一旦切ると、軽い特殊素材で構成された身体を重力に逆らって持ち上げる。さて、それじゃぁーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るとしますかね。我が家に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦3322年。あの静かな厄災から約数百年後。救いどころか、その概念すらも木っ端微塵に砕け散ったこの世界で、観察者アギアは今日も己が身と運命を多少恨みながら、灰色に染まった地面を歩いて崖を降りていく。

頼りない体温計算で導かれた数値を見て、「少し肌寒い」……と、そう感じながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーアギア帰還中の頃

アンデルセン基地 通信指令室 ーーーー

 

 

 

「ちょっとアギア!?」

 

ピッ、と。通信を切る音がした。まだ言いたい事はいっぱいあったっていうのに、これじゃあ帰還してくるまでお預けじゃないの……!!

 

……いやまぁ、昔からあんな調子何だけどね。今更言ったところで後の祭りか。でも、勤務中くらいは普段から呼びあっている名前じゃなくて、コードネームで呼んでほしい。別に私とアギアの中で結ばれた特別な誓いだとか契りとかでも何でもなく、この基地内でそう義務付けられているのだ。所謂……規則って奴?だから、どうにかして本名で呼ぶ癖を直そうと前々から頑張ってはいるのだが、これがまぁ中々上手く行かない。

 

「どうかしたの?」

 

ふと、声のした方向へ少し首を傾ける。そこにいたのは、私と同じオペレーター兼先輩の

 

「あぁ、シズナ先輩。いや、その、えぇと。」

 

「彼の事よね?また言い合っていたんでしょうけど……」

 

「いや、また私の事を本名で呼んできたんで。いい加減、コードネームで呼んでほしいんですよ。何時も何時も言っているのに聞かなくて…。しかも彼、それを言っている途中で切るんですもん!」

 

「それくらい、別に良いんじゃないかしら?」

 

えぇ……先輩まで何を。

 

「これは私の持論なんだけどね?今のご時世、名前を持っているっていうのはそれだけで価値があるものなの。ましてやそれがしっかりと生前の意識をダウンロードした機体なら尚更よ。今じゃ生身の身体に取って代わった機体を持っていても、擬似的に備わった人格や性格で生活·活動するのが当たり前。

そんな中で、自分が生きていた頃の記憶、人格、性格を引き継いで活動出来るのは、それ自体が立派な"ステータス"になるのよ」

 

 

「それは……そうかもですけど」

 

「だからこそお互いをコードネームではなく元々持っている本名で呼び会う。それで良いんじゃないかしら。味気ない無機質な仮初めの名前より、生まれた時につけられた本当の名前の方がずっと良いに決まってるわ。その方が、より生き残れる気がしない?それに彼だって、自分を本名で呼ぶことは許さない…なんて考え方はしないはずよ?何ならコードネームで互いを呼び合うっていうルール。あれってそもそも貴方達二人みたいに、”自分の意識“を明確に持っていたりはしない、或いは持ちたくても持つ事が出来ない人達向けに作られたみたいなものなんだから」

 

 

「え、そうだったんですか?」

 

それは初耳だ。てっきり全体……つまり私とアギアも当然含まれると思っていたから。でも、オペレーター以前にこの基地内では古参のシズナ先輩が言うんだったら、そうなのかもしれない。思い返せば、私がオペレーターとして此処に配属される前から、コードネーム呼びのルールは有ったみたいだし。しかし、アギアの本名ねぇ……。別に呼んでもいいけど。

そう思った刹那ーーーーーーーーガチャン。

 

 

重い扉が開く音。次いで、小気味良く機械アナウンスが室内に響き渡る。

『お帰りなさいませ。観察者アギア様』ーーーーどうやら、彼が帰還したらしい。

 

 

「あら…どうやらアギアが帰ってきたみたいね?」

 

「えぇ、そうみたいです。今からアイツに会いに行って手当たり次第に文句垂れてやりますよ!!もうアギアのバカ!すかたん!」

 

「ふふふ、何時まで経っても若いのね。じゃあ…これを持って行きなさい」

 

そう言って先輩が渡してくれたのは…………鍵?

 

「それ、もしもの時の為に本人の部屋番号が刻まれた予備のスペアキーなんだけど……きっとちょっとやそっとじゃあ収まらないんでしょ?それを使って、久しぶりに長話でもしてきたらどう?」

 

……先輩。

 

「…ありがとうございます。じゃあ私、行ってきますね!」

 

「気を付けて頂戴ね」

 

そう言ってシズナは、まるで子を持つ母の様に、柔らかな笑みを彩へと向けて浮かべる。その笑顔に見送られ、彩は彼の居る場所へと、元気よく駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が帰ってきた、音がしたーー




楽しかった。
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