(何か、長ったらしい夢から覚めた気分だ。)
そう一人心の中でごちながら、微睡みの中で瞳を開ける。
重い身体を起こして近くの窓際から外を見やれば、何時も通りの空模様。
いい加減、この抜け落ちた安っぽい景色が変わる日は来るのだろうか、なんつってね。どうせ考えた所で時間の無駄だ。隣の彩は…相変わらず熟睡してるし、運悪く外はまだ暗い。どうやら僕は、少しばかり早い時間に起きてしまったらしい。解せぬ。
いやはやもう少し寝ていられれば、丁度良い時間に起きる事が出来たのかもしれないのに。だがしかし、目覚めてしまったものは仕方がない。そう考えると、まだ小さな寝息を立てている彩を起こさない様に、ゆっくりとベッドから抜ける。次にドアの鍵を開けて、しんと静まり返っている廊下へ。
「……」
分かってはいたけど、勿論廊下には僕以外誰もいない。そのまま静かな渡り廊下を歩いていると、一応明かりがついた部屋もちらほら見かけられる。おそらくあれは…報告データがまだ入力し終わっていない、活動し始めの観察者達だろう。僕も最初の頃はあんな感じで、何時も期限やら、時間とやらにギリギリだったっけなぁ。まぁとにかく、僕以外で他に起きている機体は、その観察者達以外には居ないようだった。となれば、折角だしあそこに行って見ようかな。暫く冷たい空気の廊下を歩いて行って、突き当たりを左の方へ曲がれば、"観賞室"という部屋に辿り着く。中に入室して、上を見上げながら一言。
「"gravitysystem"…起動」
瞬間、パスワードが解除され、自分の周囲を色とりどりの輝きが取り囲んで行く。身体から…いや、もっと正確に言うと"室内の空間そのもの"が重力を一時的に無くして、ボディがゆっくりと空中へと浮かび上がって行く。これぞ、自分の密かな楽しみでもある無重力記憶観賞だ。記憶と言っても、それは自分の記憶でもなければ、それ以外…つまり他人の記憶でもない。これはかつて、栄華を極めていた全盛期時代の人類と、その歴史……それを記憶資料として保存した物である。必要とあらばこうして観賞する事も可能なのだ。それが、この観賞室の一番の特徴とも言える(というかこれしか機能がない)。自分は時折この部屋に入って、ヒトがヒトであった頃の映像を空間に漂いながら見るのが好きだ。そこに特に深い理由なんてものはないんだけれど、不思議と観賞室で感傷(わざとじゃないよ)に入り浸ってしまう程度には、自分はこれの虜らしい。
その後、観賞室で資料映像を小一時間程堪能した後、もうそろそろ他の機体達も目覚める頃なので退室する事に。まだ若干暗いけど、自分が起きた時に比べたら見違えるくらいに明るくなった廊下を歩いて、来た道を戻って行くのであった。……尚、部屋に入るや否や、リスのように頬を膨らませた彩にピーピーと喚かれたのは秘密である。
「え、依頼ですか?こんな朝っぱらから?」
プリプリしている彩をなだめつつ、通信指令室に居るシズナさんに挨拶しに行くと、どうやら急に依頼が来た事、追加でそれに伴う任務が自分に下された事を報告された。シズナさん曰く、此処から東の方向へ2500キロ程度離れた場所から、突如として信号弾が撃たれたらしい。今までになかった突然の信号弾の打ち上げに不信感を抱いた上層部は、この行動を起こした者·
組織が敵である可能性も捨てきれない為、観察者の派遣を決定。そこでこの基地周辺一帯のエリアを踏破している自分に、そのお役目が回ってきたとの事。もう話を聞くだけでめんどくさい。
「かなり危険が伴う任務になるけれど、生憎この基地でこの依頼を預けられるのは貴方しか居ないわ。頼めるかしら?」
……こんなんじゃあ、断ろうにも断れないじゃないか。
身体が機械になっても、ヒトの心はまだ無常ではないって信じたかったんだけど。
「どうせ選択肢なんて有って無いような物でしょう?やりますよ。ですが、距離が距離です。"ワープ"を使わせて下さい」
「勿論良いわよ」
即答、か。どうやら本格的にイレギュラーな事態らしい。普段こなしている依頼や任務であれば、ここまで返事は早くない。あの何時も落ち着いているシズナさんでさえ、ここまで不安になるレベルだと言うのなら、こっちもこっちで少々本気を出させて貰うとしよう。折角の朝のびタイムを邪魔した罪は重いぞ?何処の馬の骨とも知らぬ者共よ。そう心の中で一人吐露した後、目的の場所へ向かう為に準備を進めた。
短い方が読みやすいかも知れないなぁ。内容によるんだろうけど、長ったらしいと読む人にとっては読みづらくなるかも。
~唐突な設定紹介~
主人公アギア含めた観察者達は、文字通り観察がお仕事な訳なのですよ。ただ、いざという時に自分の身を自分で守れるよう、戦闘システムを機体に組み込んでいるんですね。その効果には差があるものの、観察の目的で外へ出て行く度にスキルアップ的な感じで磨かれていくので、観察者達の基礎的な戦闘力は非常に高い方なんです。なのでアンデルセン基地でも古参の部類に入るアギアやシズナさんに至ってはもうえげつないのなんの。(ちなみに彩は"観察者基準で見ると"平均的。でも影でひっそりと戦闘シュミレーションをしている為、普通に強い。っていうか全体的に強い機体が多い観察者達の基準なんて宛にならないのが真実である)※唯一弱いと言えるのはまだ駆け出しの観察者達くらいです