ヘルマプロディートスの恋   作:鏡秋雪

22 / 32
第22話 終わりの日 【コートニー9】

 7月25日。季節は夏。もう、シャレにならないほど暑くなってきた。フィールドを歩いているだけで気が遠くなるほどだ。だが、主街区などの建物の中は自動で適温に調節されているのは茅場に感謝したくなる数少ない設定の一つだ。

 現在の最前線は第66層。迷宮区探索は順調に進んでいる。今週中にこの層も突破できるはずだ。

 今日の迷宮区探索を終え、みんなとブリーフィングルームでみんなとおしゃべりに興じていた僕はアスナに肩を叩かれ、ギルドハウスの幹部会議室に呼び出された。

「なに? どうしたの?」

 いつになく、暗い表情のアスナに僕は不安になって尋ねた。

「中で話すわ」

 アスナは厳しい表情のまま幹部会議室の扉をノックして中に入った。「失礼します」

「失礼します」

 僕もアスナの後ろについて中に入った。

 幹部会議室は塔の1フロアを使った広い部屋だ。全面ガラス張りで半円形の机の背後には血盟騎士団のギルド旗が掲げられてる。

 主にパーティーリーダーしか入室しないので僕はここに来るだけでなんだか緊張する。半円形の机の中央にヒースクリフが座り、ゴドフリーやプッチーニ、アカギなどのパーティーリーダーが脇を固めていた。

 みんな悲しげな表情をしている。

 僕が原因でこんな事になっているのだろうか?

「な、なんなの?」

 訳が分からなくなって、僕はアスナの手を取って尋ねた。

「昨晩、クリシュナさんが亡くなったの」

 悔しそうに顔をゆがめながらアスナは僕から視線をそらした。

「そんな……なんで!」

 僕はアスナの肩を掴んで大声をあげてしまった。

「わたしから説明しよう」

 アスナの代わりにヒースクリフがゆっくりと手を顔の前で組みながら言った。「聖竜連合が中心となってラフィンコフィン討伐のための準備を進めているのは知ってると思う」

「はい」

 僕はアスナからヒースクリフに視線を移した。ヒースクリフの机の上に映像記録結晶が転がっているのが目に入った。

「同時に職人クラスの人たちはラフィンコフィンとの講和のために動いていたのだ」

「そんな、話が通じるはずが……」

 僕は思わずつぶやいた。

 ラフィンコフィンは殺人を楽しんでやっている。そういう相手にどういう妥協点があるというのだろうか。毎日一人のいけにえを差し出すとでも言うのか。いや、もしそんな事をしても彼らは満足しないだろう。死にたくない。その思いでもがき苦しむ姿を楽しんで最終的に命を奪う事に快感を得ているような連中だ。

 プレーヤー同士の足の引っ張り合いなどしたくない僕たちと自らの快楽のために殺人を犯している彼らの間に落としどころなんて生まれる可能性はないはずだ。

「ラフィンコフィンは話し合いに応じると回答し、交渉のために職人クラスの代表が向かったのだ」

「まさか、それにクリシュナさんが!」

 絶望で目の前が真っ暗になった。

 沈痛な表情でヒースクリフは僕の言葉に頷いて言葉を続けた。

「彼らはクリシュナ氏を捕え、殺害した。そして『一切の妥協はありえない』というメッセージと共にこの映像結晶を我々に送りつけてきたのだ」

「やめてください!」

 ヒースクリフが映像結晶の再生を始めようとした時、アスナが鋭い声で制した。そして、唇をかみしめながら僕の肩を叩いた。「コーは見ない方がいいわ。ひどすぎるから……」

 クリシュナの仇を討ちたい。そんな激しい衝動に僕は駆られ、拳を握りしめ奥歯をかみしめた。

 だが、まだ僕たちはラフィンコフィンのアジトも発見していないのだ。情報屋が血眼になって探しているがいまだに有効な情報が得られていない。ラフィンコフィンの構成員は30人前後だと思われているが、それだけの人数が隠れる建物を一つ一つ当たったがアジトは見つからなかった。現在は各層の完全マッピング作業に入っている。

 このデスゲームクリアのため攻略組はメインの迷宮区やレべリングする狩場以外行かないし、中層ゾーンのプレーヤーもおいしいサブダンジョンを中心に行動しているし、職人クラスも素材が集められる場所にしか行かない。どうしても各層に誰も行った事がない未踏破地域が存在しているのだ。ラフィンコフィンのアジトは未踏破地域の安全地帯にあると結論づけられたが、現実問題としてこのアインクラッドは広大過ぎた。

 第1層の広さは半径10キロもあるのだ。それが66層。上に行くほど狭くなるとは言え計算すると大阪府より広いのだ。それを十数人で未踏破地域を埋めていくという気が遠くなる作業に今、突入している。

「ルーシーはこの事を?」

 僕は悔しさでひび割れた声でアスナに尋ねた。

「まだ、伝えていないわ。けれど、あの二人は結婚してたから……。何があったか、ルーシーレイさんはもう分かってると思う」

 結婚すると、二人のアイテムストレージは共通化される。そして、結婚相手が死亡した瞬間、アイテムストレージは一人分の容量となりあふれた分は足元にドロップする。

 僕は踵を返すと幹部会議室から飛び出した。後ろからアスナの呼ぶ声が聞こえたが僕はそれを振り切った。

 ルーシーに会っても何ができるか分からない。いや、何もできないだろう。けれども、僕は一刻も早く彼女に会いたかった。すっかり日が落ちたグランザムの街を僕は転移門へ走った。

 

 ルーシーとクリシュナのプライベートハウスは第49層ミュージェンにある。石造りの2階建てで屋上に設置された風車がとてもおしゃれで特徴的な家だった。

 その家に近づくと物悲しい子守唄が聞こえ、僕は足を止めた。澄んだ美しい声が優しい旋律を奏で周囲の空間さえも浄化するようだった。

 ゆっくりと近づくと、ルーシーは店先のポーチに置かれた揺り椅子をゆっくりと揺らし音声記録結晶を愛おしく撫でていた。

「ルーシー」

 僕は恐る恐る声をかけた。

「コートニーちゃん。いらっしゃい」

 ルーシーは音声記録結晶をポケットにしまい込むと明るい笑顔で立ち上がった。クリシュナは実は生きているのではないかという疑念が僕の中に湧きあがった。

「ルーシー。今日もお店をやってたの?」

「その顔じゃあ、あの人の事、知ってるのね」

 ルーシーは寂しく微笑んで扉を開けた。「お茶をごちそうするわ。どうぞ」

 ルーシーに手招かれて僕は店の中に入った。

「いらっしゃいませ。ゆっくりご覧くださいませ」

 NPCの売り子が明るい笑顔で挨拶をしてきた。

 中はいつもと変わらない風景だったが、風車で動いている機織り機が糸もないのにむなしく音を立てていた。

「あら。いけない」

 ルーシーはあわてて機織り機の動力を止めた。そして、奥の応接セットを指し示した。「ごめんなさいね。2階はすごい散らかっちゃってるから。あちらに座って」

 僕は言われるまま席に座った。

 何を言えばいいのだろう。勢いだけでここまで来てしまったけれど、どうしたらいいかまったく思いつかない。

「どうぞ」

 ルーシーはそんな僕に気を遣うようにそっと紅茶を差し出してきた。

「今日も普通に仕事したの?」

 僕は何を言っているんだろう。こんな話題のチョイスは最悪だ。

「あの人がね。そうしろって言うのよ。ほんと、我がままなのよ」

 ルーシーは小さく笑いながら、僕の斜め前に座った。「音声結晶まで用意してたって事はこうなる事を予測してたのよね。それなのに、あたしには『大丈夫』の一点張りで……」

 ルーシーの頬に一筋の光が流れた。

 やはり、あの音声記録結晶はクリシュナの遺言が吹き込まれていたのだ。

「男って嘘つきだよね。コートニーちゃんも騙されないようにね」

 ルーシーの泣き笑いの顔が僕の心を締め付けた。こんな顔をさせるためにここに来たわけじゃないのに。

「ごめんなさい」

 僕はうつむいて目の前に置かれた紅茶を見つめた。何もしてあげられない自分が情けなく、勝手にあふれ出た涙が視界を歪ませた。

「来てくれてありがとう。あなたが一番乗りよ」

 ルーシーは僕の肩を優しく叩いた。「きっと、他の人はあたしになんて言おうかって悩んでるのね。あたしはあなたみたいに考える前に行動できる人って好きよ。あの人もそうだった」

「ルーシー……」

 慰めに来たはずなのに逆に慰められてしまった。

「『俺の行動は海に投げ入れた小石かも知れない。けど、この小さな石が起こす波紋がいつか世界を変えてくれる』なんてかっこいい事を言ってたわ。けど……」

 ルーシーは言葉を止めて唇をかみしめた。「そんな事より、生きてほしかった! 一緒にいてほしかった!」

 ルーシーは堰を切ったように号泣した。

 僕はとっさにルーシーの手を温めるように包んだ。彼女はその手にすがりつくようにして泣き続けた。

 

 長い時間、ルーシーは泣き続けた。ようやく落ち着いた時、店の扉が開いた。

「いらっしゃいませ。ゆっくりご覧くださいませ」

 場違いに明るいNPCの声が店内に響いた。

 僕たちはあわてて涙をぬぐうと立ち上がって来客者へ目を向けた。

「こんばんわ」

 20代前半の長い黒髪を二つに束ねた美しい女性が寂しげな笑顔を浮かべて入ってきた。

「アシュレイさん……」

 僕が声をかけると彼女は小さく手を振った。

「コートニーちゃん、来てくれてたんだ。ありがとう」

 アシュレイはそう言いながらゆっくりと優雅に歩いてきた。そして、優しく僕の肩に手を乗せた。「ごめんなさい。ちょっと、ルーシーと二人で話してもいいかしら?」

 僕はどうしていいか分からず、ルーシーに目を向けた。

「コートニーちゃん。ごめんね。ちょっと、アシュレイと打ち合わせをしなきゃいけなくて」

 ルーシーは僕の頭を撫でた。「ありがとね。元気を分けてもらったよ」

「うん……」

 僕は小さく頷いた。「それじゃ、またね」

「うん。来てくれて本当にありがとう。」

 ルーシーとアシュレイが僕に手を振った。僕も手を振りかえして店を出た。

 

 僕は転移門前広場のベンチに座った。12月に設置されていた巨大なクリスマスツリーは撤去されて、広大な跡地になっていた。

 かつてあったクリスマスツリーを思い浮かべながら見上げると、思わずため息がもれた。

 子ども扱いされた……。直感でそう分かった。確かに僕はあの二人に比べたら子供だ。ルーシーの悲しみを分かち合おうなんて大それた事までは考えなかったが、僕は寄りそう事もできないのだろうか。自分の力不足を感じた。

「コー」

 優しいジークの声が聞こえ、僕は立ち上がって振り向いた。

 そこにはヴィクトリアに騎乗したジークがいた。

「ルーシーレイさんは?」

 ジークはヴィクトリアから降りて僕の前に立った。

「今、アシュレイさんが慰めてる」

 僕はすがるようにジークの左腕を抱いた。「なんか、自分が嫌だ」

「どうしたの?」

 ジークが驚いて戸惑いの声をあげた。

「アシュレイさんより先に行ったけど、僕はルーシーに何もしてあげられなかった」

 僕はジークを見上げながら言った。「こんな風に考えてる自分が嫌だ。僕なんて大した人間じゃないのに。実際、何もできなかったのに」

「今日はコーの方が考えすぎてるね」

 ジークはそう言って僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。「コーはコーにしかできない事をやったと思うし、コーの気持ちはちゃんとルーシーレイさんに伝わったと思うよ。それに、ルーシーレイさんとアシュレイさんは仲がとてもいいし……」

「それはそうなんだけどさ」

 ジークに優しく諭されてもモヤモヤとしたものがまだ僕の頭の中に渦巻いていた。

「帰ろう。私でよければコーの気持ち、全部聞くよ」

 ジークは優しく微笑みかけて肩を抱き寄せてくれた。

「うん、ありがとう」

 僕はジークに促されて、ヴィクトリアに騎乗すると一緒に帰途についた。

 ただ、話を聞いてくれるという一言だけなのに、心を温められたのは僕にとって驚きだった。いつも僕はジークが考えこんでいると何かしら結論を押し付けている。けれども、こういうふうに結論を押し付けずにすべてを受け止めてくれるジークの懐の深さは素晴らしいと思った。

(ジークってすごい男だな)

 僕はヴィクトリアに揺られながらジークの背中を抱きしめた。

 ジークがいてくれて本当に良かった。とても頼りがいのある大きな背中に僕は身体を預けた。

 

 

 

 クリシュナが亡くなってから二週間が経った。攻略は第66層のボスを倒し、現在第67層迷宮区のマッピング作業に入っている。

 僕はルーシーが後追い自殺をしないかと心配をして何度か店を訪れてみたが、彼女は気丈に振る舞っていた。

「このゲームがクリアされて現実に戻るまで、本当に死んじゃってるのかなんてわかんないからね~」

 僕が心配そうに見つめるとルーシーは微笑みながら言った。「あたしはもう大丈夫。だから、この世界を早く終わらせて。コートニーちゃん」

 パンと肩を叩くように掴まれ、強引に回れ右をさせられた。

「うん。精一杯やるよ」

 と、僕が答えると後ろからルーシーに抱きしめられた。

「何回も来てくれてありがとう。ほんと、感謝してる」

 そう耳元で囁かれた後、ポンと背中を押しだされた。「彼が待ってるよ」

「また来るね」

 店の出口で振り向いて僕は言った。

「今度は服も買ってよね」

 ルーシーは首を可愛らしく傾けて手を振って見送ってくれた。

 

 その日の夜8時、僕とジークは自宅でディナーをとっていた。

 短い神様への感謝の祈りの後、ジークがシチューを口にしてどんな表情をするのか、僕は固唾をのんで見守った。

「だいぶ、腕があがったんじゃない?」

 僕特製シチューを口にしながらジークは微笑んだ。

「でしょー」

 僕はほっとして笑いながらジャガイモのようなものをほおばった。

 先週、僕はレベル80になって増えたスキル枠に料理を追加して、目下アスナのもとで絶賛修行中だ。

 アスナのおかげで余計な手探りなしに最短コースでスキル上げができている。ただ、半端なく……それこそ湯水のようにお金を消費している。もちろん、ジークの許可を貰ってある。おかげでアスナに誘われているセルムブルグヘの引っ越しは夢となってしまったが、お互いの装備の更新以外にお金を使うようなことがなくなったのでこんな贅沢ができるようになった。

 そんな時、アスナからメールが入った。

 僕がそのメールを開こうと手を伸ばすのと同時にジークも同じ動作をしていた。

「ジークもアスナから?」

「うん」

「なんだろうね。こんな時間に」

 僕は微笑みながらメールを開いた。

 

『お疲れ様です。

 本日、24時にギルドハウス幹部会議室に集合するように。

 この事は他のギルドメンバーはもちろんフレンドにも一切、他言しない事。

                                 以上。』

 

 僕はこのメールを読んで、しばらく考えた。『他言しない事』の中にジークは含まれるのだろうか?

「えっと……」

 ジークも戸惑いの声をあげて頭をかいた。

「一緒にいこ?」

 僕はすぐに考えを整理してジークに言った。

「あ、うん」

 ジークはまだ戸惑ったままだった。

「多分、一緒のメールだよ。大丈夫」

「なんでそう思うの?」

「だって、一緒にいる時間が一番多い僕たちに同時に送ってきたんだよ。どちらかに秘密にするなら時間をずらさなきゃならないってすぐにわかるじゃん」

「それもそうか」

 ジークはクスリと笑って食事を再開した。「なにがあるんだろうね?」

「ラフコフがらみかな。あと、可能性はめちゃくちゃ低いけど新しいクエストが見つかったとか」

「じゃあ、食事が終わったら、仮眠しようかな」

「ジークは夜に弱いもんね」

 からかうように僕は笑った。ジークはベータテストの時から徹夜でゲームができない男だった。僕とアスナの徹夜のレベル上げについてこれなくて、僕たちが戦ってるそばで寝ている事なんてしょっちゅうだ。

「生活のリズムがしっかりしてるって事だよ」

 ジークは息を一つ吐いて、一気にシチューをたいらげて両手を合わせた。「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

 僕はにっこりと微笑みかけて食器を片づけ始めると、ジークも一緒に片づけてくれた。

 

 僕が寝室に入るとすでにジークはベッドに横になっていた。

 この家に引っ越してきた当日、僕たちのベッドは別々のセミダブルサイズを買った。最初に設置した時は1メートルほど離して設置していたが、サプライズプロポーズがあってからそのベッドを寝室の中央でぴったりと合わせてワイドキングサイズのように使っている。ちゃんとしたワイドキングサイズのベッドを買えばいいのかもしれないが、不自由ないのでそのままにしている。

「タイマーは何時にセットした? 11時半でいい?」

 僕はジークの隣にもぐりこみながら尋ねた。さすがに夏なので布団ではなく、タオルケットだ。

「そうだね」

 ジークは仰向けのままメニュー操作をしてタイマーをセットした。

 僕もその隣で11時半にタイマーをセットすると、いつものようにジークの枕によってできている首とベッドの隙間に右腕を通した。

「仮眠だよ?」

 ジークが怪訝そうにこちらに寝返りをうった。

「うん。仮眠」

 僕はクスリと笑って、こちらを向いてきたジークに左腕を乗せて緩やかに彼の頭を抱いた。

「これじゃあ、熟睡しちゃいそうだよ」

 ジークは微笑みながら目を閉じた。

「僕が起こしてあげるよ」

 僕の胸の中で赤ん坊のように左親指を唇に押しあてながら眠り始めるジークがとても愛おしく感じた。いつもはとても男らしいのに時々見せる仕草が女の子のようで可愛らしい。きっと育ちがいいのだろう。

 ジークの頭を優しく撫でながら満たされた気持ちになって、僕は緩やかに眠りに落ちていった。

 

 

 

 日付が変わる10分前。僕とジークは幹部会議室に入った。中ではアスナ、ヒースクリフ、プッチーニが幹部席に座り、セルバンテスは行儀悪くプッチーニの前の机に腰かけていた。

「何かあったの?」

 僕はヒースクリフの隣に座っているアスナに声をかけた。

「ええ。みんなが揃ったら話します」

 アスナの副団長モードの語り口で僕は気を引き締めた。

 しばらくして、マティアスとマリオ。そして、ゴドフリーとアランが部屋に入ってきた。ゴドフリーとアランの表情は今まで見たことがないほど硬いものだった。

「全員そろったわね。急に呼び出してごめんなさい。みんな来て」

 アスナが立ち上がって部屋の中央に出た。全員が彼女にならって部屋の中央に集まった。「これからお話しする事は機密事項よ。聞いたら今日の日の出までここから出る事もメールする事も禁じます。その覚悟がある人だけ残って」

 アスナは全員を見渡した。

 もちろん、誰も出て行こうとはしなかった。

「ラフコフのアジトが見つかったわ。今から攻略組で討伐隊を編成します」

 アスナのその言葉にどよめきが起こった。「もちろん、彼らが抵抗してきた場合、彼らのヒットポイントを全損させることもあるかも知れない。それが嫌だという者はここに残ってくれていいわ。ただし情報漏えい防止のため、日の出までここから出ない事。メールも禁止」

 アスナはゆっくりと全員を見渡した。

「団長はここに残るわ。遠慮しなくていいのよ。残ったからと言って誰も責めないわ」

 そのアスナの言葉に全員がヒースクリフを見た。

「団長! 本当ですか?」

 ゴドフリーが問い詰めるように一歩前に出た。

「事実だ」

 ヒースクリフは簡潔に答えた。

「なぜですか?」

「オレンジネームとは言え、相手を殺すことは正しい事かね? 私はそういう考えに組みする事が出来ない。臆病者と笑ってくれても構わんよ」

 ヒースクリフは自嘲気味に肩をすくめて言った。

「そういう事だから、団長はここに残ります。だから、残りたい人は残ってくれて構わないわ。最悪の場合、私たちはオレンジネームとは言え人間を殺すことになるのかも知れないんだから」

 アスナはゴドフリーとヒースクリフの間に割り込んだ。

「俺、残ります」

 遠慮がちに手を挙げたのはセルバンテスだった。いつものおどけた表情ではなく厳しい表情だった。

「いいわ。他の人もいいのよ」

「俺も残ります」

 マティアスが手を挙げた。

「うん」

 アスナは頷いて了承した。そして、しばらく間を置いた。「――他はいいのね?」

 この場に残る3人以外がアスナの言葉に頷いた。

 アスナは頷いて回廊結晶を取り出した。

「ちょっと待って」

 僕はアスナを止めた。

「どうしたの?」

「ヴィクトリアも連れてっていいかな。ラフコフを追う時に役に立つと思う」

「そうね。わかったわ。それじゃ、ここに連れてきてくれる?」

「うん」

 アスナに返事をした後、僕は右隣のジークに声をかけた。「ジーク」

「うん」

 僕とジークはギルドハウス1階に待たせているヴィクトリアの所に向かおうとすると、アスナが「待って」と声をかけてきた。

「え?」

「ごめんなさい。疑うわけじゃないけど、コーはここに残って。わたしがジークリードさんと一緒に行くわ」

「わかった」

 僕はジークの左腕を放した。

 もう、作戦は始まっているのだ。アスナは僕たちから機密が漏れるとは思っていない。ただ、ここで僕たちを外に出して、万が一ラフコフ討伐作戦が誰かから漏れた場合、僕たちが疑われてしまう。アスナはそれを心配してくれたのだ。

「損な役回りをなさいますな」

 ジークとアスナが出て行った後、ゴドフリーがヒースクリフにニヤリと笑いかけた。

「いやいや。私は他人を殺す勇気がない臆病者さ」

 ヒースクリフは自分の席に座りながら答えた。「君たちの無事をここで祈っているよ」

 しばらくして、ジークとアスナがヴィクトリアを連れてきた。

「コリドーオープン」

 アスナが部屋の中で回廊結晶を使った。

 光の門をくぐった先は聖竜連合のギルドハウス内部の中庭だった。四方にかがり火がたかれていてその一角だけが昼間のように明るかった。

 聖竜連合のギルドハウスは血盟騎士団のギルドハウスの一つ上の階層にある。ハウスというより、城塞と呼んだ方がいい建物だ。今は見えないが日中であれば銀の地に青いドラゴンが描かれたギルド旗が白亜の尖塔群に翻っているはずだ。

 ざっと見ただけで150人以上が集まっているようだった。フロアボス攻略並みの人数だ。いつもの攻略組の面々以外に情報屋の顔もあった。

 僕は周りを見渡した時、ほんのわずかに違和感を感じる人がいた。情報屋の一人だろうか。この雰囲気にのまれているのだろうか? ちょっとおどおどしている。

「強襲部隊は最終ミーティングを始める。こちらに来てくれ!」

 パンパンと手を叩く音と良く通る声が中庭に響いた。「後方部隊はシュミットの方に集まってくれ!」

 どうやら、今回の指揮は聖竜連合が執るらしい。元々、聖竜連合はラフィンコフィン討伐に熱心だったから当然なのかもしれないが、強襲部隊も後方部隊も聖竜連合が指揮を執るのはいかがなものだろうか。

 そんな事を考えながら僕はジークの腕を引っ張って強襲部隊の方へ歩き始めた。

「あ、コー」

 僕はアスナに肩を引っ張られて止められた。

「何?」

「コーとジークリードさんは後方部隊」

 アスナは厳しい表情でシュミットの方を指差した。

「なんで!」

「理由は2つあるわ」

 アスナは指を2本立てて、僕の前に突きつけた。「一つ目は、強襲部隊のサブリーダーは私なの。後方部隊のサブリーダーも血盟騎士団から出さなきゃいけないのよ。二つ目は後方部隊はラフコフの逃げ場をふさぐ大事な仕事よ。この間、わたしとキリト君の追尾をしたじゃない。その力を生かしてほしいのよ」

「行かなきゃだめ?」

「だーめ」

 アスナははにかむように笑って、僕の耳元に顔を近づけて囁いた。「それに、コーを人殺しにしたくない」

「アスナ……。それはひどいよ」

 僕だけ安全な場所に移しておいて、アスナ自身は危険に身を晒し人殺しのリスクを負うのだ。そんなのは認められなかった。

「わたしのわがままっていうのは分かってる。けど、お願い……わたしに剣を振るう理由を頂戴」

「理由?」

「うん。わたしはコーを人殺しにしないために今日、剣を振る。そう思えばわたしは強くなれるから」

 アスナは僕の両肩に手を置いて、いつもと違う寂しげな微笑みを浮かべた。

 その微笑みで僕は理解した。アスナは人を殺してしまうかも知れないこの作戦に本当は参加したくなかったのだ。

「アスナ。本当は人殺しが嫌なんでしょ? それなら、僕がアスナの代わりに強襲部隊のサブリーダーをやる」

「それは駄目。これは私の責任。ここで逃げたら自分が許せなくなるもの」

 アスナは僕を叱りつけるように睨みつけた。アスナの責任感はとても強い。ここで翻意させることは無理だろう。

「わかった……」

 僕は両肩に乗せられたアスナの手に自分の手を重ねて、彼女をみつめた。「もし、アスナが他人を殺してもその罪は僕が一緒に背負う。絶対、アスナだけを悪者にしない」

「ありがとう」

 アスナはにっこり笑った後、僕の額を指でつついた。「コーって男っぽい時あるよね。今の告白っぽかったよ。ドキドキしちゃったよ」

「アスナ!」

 思ってもないアスナの言葉に僕はドキリとした。これが女の勘といった奴だろうか。

「冗談! それじゃ、お願いね!」

 アスナはアハハと笑って小鳥のように身を翻すと強襲部隊の集団へ走って行った。

「コー。私たちも行かなきゃ」

 ジークが僕の右肩を叩いて促した。

「うん」

 

 シュミットが指揮する後方部隊は情報屋を中心に80人ほどが集まっていた。

「これで全員かな? 作戦を伝える」

 シュミットが仮設置された机の上に≪ミラージュ・スフィア≫を展開して説明を始めた。

 後方部隊の役割は逃亡を図るラフィンコフィンのメンバーを捕捉、確保、あるいは撃滅する事。

 そのために各層の転移門に人を張り付けラフィンコフィンのメンバーが転移してきた場合司令部に連絡し、追尾する。

 司令部には僕たちをはじめとする実戦部隊10人が待機。連絡が入った場合、転移結晶を使って急行する手はずになっていた。

「何か質問は?」

「えっと……」

 僕は手を挙げて、シュミットが頷くのを確認して言葉を続けた。「今までの調査でラフコフの拠点に使われてる場所も分かってるでしょ? そこにも見張りを置いたらどうかな?」

「アルゴ」

 シュミットはアルゴの方を見た。

「そうだナ。そういう場所は4か所確認されていル。見張りをつけて、その場所の回廊結晶も用意しておいた方がいいかもナ」

 アルゴはミラージュ・スフィアを操作して4つのポイントを示した。

「分かった。作戦を一部修正する」

 シュミットは頷いて隣に控えている聖竜連合のメンバーに声をかけて回廊結晶を用意させた。そして、新たな作業の割り振りを指示すると腕組みをして貧乏ゆすりを始めた。

「ねえ。アルゴさん」

 僕はアルゴの耳元で囁きながら、先ほど気になった一人の情報屋を指差した。「あの人。誰?」

「ン? あれはサーベイだナ。各層完全マッピングに参加してもらってる一人ダ」

 アルゴはそう言った後、ニヤリと笑った。「200コルダ」

「お金とるの?」

 僕はクスリと笑った。

「冗談ダ」

 そう言った後、アルゴは首を傾げた。「気になるのカ?」

「いや、なんでもない」

 微妙な違和感しか感じていないのだから、これ以上詮索するのもはばかられた。僕は首を振って「ありがとう」とだけアルゴに言った。

 

 

 その後、深夜3時にラフィンコフィン討伐隊が出発した。同時に後方部隊も各転移門に向かって出発し、中庭には後方部隊の実戦部隊10名だけが残された。

 急に寂しくなった中庭を眺めながら僕は所在なく歩き回った。

 しばらく歩き回っていると、ジークが僕を見てニヤニヤ笑っているのが分かった。僕は彼に近づいて睨みつけた。

「何笑ってんの?」

「コーって、ホント、落ち着きないよね」

 ジークは我慢できなくなったようで、クスクスと声を出して笑い始めた。

「こういう性分なんだからしょうがないでしょ!」

「後方部隊のサブリーダーなんだから、シュミットさんみたくじっとしてたら?」

 僕はそう言われてシュミットに目を向けた。

 僕は確かに落ち着きないかもしれないけれど、シュミットだって貧乏ゆすりをしてるじゃないか。

「貧乏ゆすりをしてるじゃない。僕もああすればいいの?」

 さすがに普通に声に出すと周りに聞こえるかもしれないので、ジークの耳元で囁いた。

「いいんじゃなーい?」

「もう」

 僕は鼻を鳴らしてシュミットの真似をして貧乏ゆすりをしてみた。

 ジークも微笑みながら貧乏ゆすりをして見せたので、お互いに顔を見合わせて笑った。

「そういえばさ。よく、ラフコフのアジトが見つかったよね」

「ああ、ラフコフの内通者が出たらしいよ」

「そうなの?」

「ああ、事実だ」

 と、いきなり背後から男の声がしたので僕は驚いて、ジークに飛びついて振り向いた。声の主は運動部キャプテンといった雰囲気の男――シュミットだった。

「びっくりしたー」

「傷つくなあ」

 シュミットは首をすくめた。

「ラフコフの内通者の情報って罠じゃないの?」

 僕は仕返しに嫌味っぽく尋ねた。

「それは大丈夫だ。密告があってから我々は1週間内偵を進めてきたんだ」

 シュミットは角ばった顎に手をやりながら言った。「それに、密告に来てからずっと彼をここで保護してるし、今日の作戦も彼に伝えてない」

「それにしても、いきなり密告に来るなんて……」

「あの職人クラスの代表者を殺した事件があっただろ。あれで嫌気がさしたらしい」

 そのシュミットの言葉に僕は息を飲んだ。「捕らわれた彼が殺される前にいろいろ言葉を交わしたそうだ。それで改心したらしいぜ」

 もし、この作戦が成功したなら、クリシュナの死は無駄ではなかったという事になる。クリシュナの投じた小石が起こした波紋は確かに一人の人間を動かし、この世界を動かそうとしているのだ。

「そうだったんだ……。絶対、成功させたいね。この作戦」

 僕は思わず神に祈るように両手を組んで瞑目した。

「ああ。そうだな」

 力強くシュミットが答えた。

 その時、アルゴからメッセージが入った。シュミットにもメールが入ったようだ。僕とシュミットはお互いを見ながらメールを開いた。

 

『討伐計画が漏れている。ラフコフは罠を張って待ち構えている!』

 

「なっ!」

 シュミットは絶句した。「どういうことだ!」

「詮索は後! 討伐隊にメッセージを送って! アジト近くのコリドーを開いて!」

 僕はジークやシュミットを指差しながら指示を出した。

「分かった!」

 ジークはメッセージを打ちはじめ、シュミットは回廊結晶を取り出した。

「メッセージは送ったけど、もう交戦してるかも」

 ジークの言葉に僕は頷いた。討伐隊が出発してからかなり時間が経っている。確かにもう手遅れかもしれない。

「全員、集まれ! 援軍に向かうぞ!」

 シュミットは残りの実戦部隊に声をかけた。「コリドーオープン!」

「ヴィクトリア!」

 ジークはヴィクトリアを呼び寄せ、たちまち馬上の人になった。僕もジークの手をとり、ヴィクトリアに騎乗した。

「私たちは先に行くよ!」

 ジークはシュミットに叫びながら回廊結晶によって作られた光の門をくぐった。

「頼む!」

 シュミットの声を残して、僕たちは駆けた。

 

 

 

 ラフィンコフィンのアジトは第4層の外周近くの小さな洞窟型ダンジョンだった。デザイナーが作って忘れてしまったのか、マップ自動生成プログラムによって作られたのかは分からないが、まさにアインクラッドで忘れ去られた空間だった。

 ヴィクトリアの走行スピードはどんなプレーヤーよりも速い。今はこのスピードに賭けるしかない。

 回廊を抜けて2分としないうちにダンジョンの入り口が見えてきた。僕たちは交戦に備えて対毒ポーションとハイポーションを飲んだ。

 ダンジョンに突入してすぐ、僕の索敵スキルに20人ぐらいの反応が現れた。

「ジーク。この先にすぐいる。5人が10人以上に囲まれてる」

 僕は炸裂弾を握りながらジークに伝えた。

「分かった」

 ダンジョンの通路がやや広くなった場所にその集団がいた。囲まれている5人のカーソルは緑で、和風の赤鎧で統一された集団だった。間違いない。あれは風林火山。そして、それを取り巻いているのがオレンジカーソルのラフィンコフィンだ。

 風林火山のメンバーのヒットポイント表示はすでに黄色や赤色に染まっている危機的状況だった。しかも彼ら全員に麻痺を意味するマーカーが不気味に点滅していた。

「助けるよ」

 ジークは力強く言った。

「もちろん!」

 僕は炸裂弾を投擲スキルで輝かせて≪メテオシャワー≫を放った。

 ラフィンコフィンメンバーすべてにメテオシャワーの洗礼が浴びせられた。

「ひるむな! これは見かけだけだ」

 ラフィンコフィンの奴らからそういう声が聞こえた。確かにメテオシャワーは見かけ倒しと言っていい。ダメージエフェクトは全身を包むほど派手だがダメージはほとんど発生しないのだから。

(あの声……)

 聞き覚えがある。大みそかの夜に行われた大虐殺の模様が記録された映像結晶を僕は一度アルゴから見せてもらったことがある。その冒頭でフードを目深にかぶった男の声……。

『イッツ・ショウ・タイム!』

(この中にPoHがいる!)

 僕の頭の中で火花が散った。クリシュナの仇をとる千載一遇のチャンスだ。

「コーとヴィクトリアはみんなの回復を!」

 ジークはヴィクトリアでラフィンコフィンの包囲を蹴散らして飛び降りると、ラフィンコフィンのメンバーを盾で突き飛ばし剣で薙ぎ払った。

 ヴィクトリアがジークの命令を了承するいななぎをあげて、クラインの麻痺状態を回復させた。僕もヴィクトリアからクラインのそばに飛び降りた。

「ヒール!」

 僕の声で回復結晶が砕けクラインを回復させる。レッド状態だった彼のヒットポイントバーがたちまち緑へ回復した。

「すまねぇ」

「他の人の回復を!」

 僕は言い捨てて、次にヴィクトリアが解毒したテンキュウを回復結晶で回復させた。

「ありがとう」

 テンキュウの笑顔がたちまち凍りついた。「ジークリードさんが危ない!」

 僕はテンキュウの視線の先へ目を向けた。

 ジークがラフィンコフィン二人と切り結んでいる。すでにヒットポイントはイエローになりつつあった。ジークの背後にいる5人が短剣を今まさに投げようとしていた。その中の一人はラフィンコフィンの幹部、ジョニー・ブラックではないか!

 僕は回復結晶を手にジークの背中に飛び込んだ。自分でも信じられないスピードだった。周りから見たらまるで僕がテレポートでも使ったように見えたかもしれない。

「ヒール!」

 回復結晶が砕け散りジークのヒットポイントが全快になった。

 同時に僕の背中に複数の衝撃が走った。ジョニー・ブラックたちが放った短剣なのだろう。僕はジークと違って装甲はそれほど厚くない。たちまちヒットポイントがイエローまで落ち込んだ。

「ジークの背中は僕が守るよ。勝負はこれから!」

 僕はジークにそう声をかけて振り返った。

 目の前に茶色のフード姿の男が忽然と現れ無造作に巨大な中華包丁をソードスキルで輝かせて振るった。突然すぎてガードも間に合わなかった。

「う……そ……」

 巨大な中華包丁はPoH愛用の友斬包丁だ。それによる衝撃が首を走り、視界がぐるぐると回転した。

 何が起こったのだろう。

 僕の視線は衝撃と共に地面すれすれに堕ち、視界の隅で血盟騎士団の制服をまとった僕の身体が細かいポリゴンとなって砕け散った。

(なんなの?)

 事態がまったく飲み込めない。

「コー!」

 ジークの叫び声がなぜか遠い。ものすごく高い所から僕を見下ろしている。

(そうか、僕は今、首だけなんだ……)

「さすが、ヘッドぉ~。血盟騎士団の幹部様ゲットぉ」

 妙に浮ついた声はジョニー・ブラックだろうか。

「ふっ。黒毛のほうか。どうせなら栗毛の閃光様を殺りたかったぜ」

 PoHの渋い声が聞こえ、やっと自分の絶望的状況が理解できた。

(僕は死ぬんだ……)

「ごめんね。ジーク」

 僕の目に涙があふれてきて、もうジークの顔が判別できなくなった。

「うわあああああああああああ!」

 ジークの叫び声が聞こえた。今までに聞いたことがない悲しい絶叫だった。「ヴィクトリア! こいつらを殺せ!」

 僕の視界が涙で歪む中、視界の隅ではっきりと表示されている自分のヒットポイントバーがみるみるうちにその幅を狭めていった。

 

 さよなら。ジーク。どうか、君だけはこの狂った世界を生き延びて現実世界へ帰って。

 

 視界全体がヒットポイントの危機状態を知らせるためマゼンタ色のフィルターがかかったように赤く染まる。

 

 ジーク。死なないで。

 

 遂に視界が暗転した。もうジークの絶叫と剣と剣が激しく切り結ぶ金属音しか聞こえない。

 そして、簡潔な赤いフォントによる宣告とビープ音。

 

≪You are dead≫

 

 もう、なにも見えない。聞こえない。

 ひどいよ神様。これがずっとジークを騙してきた僕に対する罰ですか? けれど、どうかジークだけは助けて。ジークを守って。ジークだけは……。

 僕は暗闇の中ただそれだけを祈った。




うう。悲劇にすると評価下がるんだよね(ガクブル)
次の話まで評価は待ってね(ぉぃ)

今回、推敲もろくにせずにアップしてます。あちこちに誤字脱字、文法の間違い、くどい表現などがあるかもしれません。何度か読んで直していくつもりですが、お気づきの点がございましたら、ご指摘くださいませ。
それはともかく、起承転結の『転』までやってまいりました。世界が崩壊するほどの転ではありませんので、ご安心下さい。
アインクラッドの残りカレンダーはあと3か月です。残りわずかになってきましたが、これからもよろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。