サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
第1話 えっ、もうそんなに? 早すぎない?
転生と言うものがある。
宗教的な意味合いの方ではなく、創作小説などでよく起こる転生の方だ。何らかの形で不幸にも命を落とした者が、神様みたいな人に人生をやり直してみないかと言われたり、はたまた気付いたら前世の記憶を持った状態で生まれ変わっていたりなど、実に色々な形の転生が存在する。
そんな数多くある転生だが、必ずと言っていいほど存在する共通点がある。それはずばり、チートだ。作品によっては転生特典、恩恵と呼び方は様々だが、それら全てを総称してチートと呼ばれている。
それらは絶対的な力だったり、転生した人にしか扱えない特別な武器や技だったりと、とにかく転生した先の世界では考えられない常識外れの能力、才能を意味する。
そして、ここにいる人物もまた、その世界の中ではチートと呼ぶに値する力を秘めて生まれ変わった転生者だ。
「本当に転生なんて存在するんだ。いざ自分がなってみると、何というかこう、感慨深いものがあるような、無いような……」
この転生者、今はどこからどう見ても4歳くらいの少年だが、前の世界では元気溢れる若者だった。
この人がどんな経緯で命を落としてこの世界に生まれてきたのか。転生した今とはなってはどうでもいい話だし、そもそも死んだ時と転生してきた時の記憶なんて残っていない。命を落とす前後の記憶を除いた、それ以外の前世の記憶を持って今いる世界に生まれてきたのだ。
「しかもここ、前に住んでいた所とは似ても似つかない世界だ。間違いない」
少年がそう断言するのも無理はない。
ぱっと見では前の世界とそんなに変わりはないし、なんならこの少年が生まれた場所は同じ日本だ。転生していながら生まれ故郷が一緒だなんて、とんでもない確率だとしか言いようがない。だが、それでも前世とは全くと言っていいほど違う世界だというのには理由がある。
この世界には、前世には無かった特殊能力なるものが存在し、世界の総人口の約8割が何らかの能力を持って生まれているからだ。世間ではその力を『個性』と呼び、その『個性』が今の社会の根幹を担っているといっても過言では無かった。
しかもこの世界、前世では漫画やアニメの中の存在でしかなかったヒーローという職業が存在し、個性を悪用して暴れ回る犯罪者、
さて、そんな個性が存在する世界にやってきた少年だが、ここで1つ気になる事があるだろう。
少年はどんな個性を持っているのかという疑問だ。
先程も言った通り、少年はこの世界ではチートと呼ぶに相応しい力を秘めているわけだが、一体どんな出鱈目な個性を持って生まれたのか気になるところだろう。
だが、非常に残念な事に、少年に個性はない。所謂『無個性』と呼ばれる者であり、この個性社会においては差別や偏見の対象として見られている人々に分類される。では先程言った事は嘘だったのか? そう聞かれれば、その答えはNOだ。
個性は持たないで生まれた少年。そう、個性
では何を持っているのか。それは少年の姿を見れば何となく察しがつく。
「お尻のちょっと上に尻尾らしきものが生えてる。しかもこの尻尾、やけに見覚えがある尻尾だ。というか、鏡に映っているこの顔。これってどこからどう見ても……」
少年の言う通り、尾骶骨からは細く、それでいて丈夫な尻尾が生えており、しかも鏡に映る姿には見覚えがあった。というか、見間違えるはずがなかった。
「この顔、ドラゴンボールに出てくる孫悟空の顔にそっくりなんだが……どういう事だ?」
少年の顔は、前世では超有名な漫画であるドラゴンボールに出てくる主人公、孫悟空の顔にそっくりなのだ。もうここまで説明すれば、少年の正体が何なのか分かるだろう。
そう、少年はサイヤ人なのだ。しかも純粋な。
なぜ純粋と言えるのか? その理由は簡単。少年は近い内に知る事になるが、少年の住んでいる家の地下深くには彼の両親が仕事でよく使う研究所があり、その研究所の更に奥の部屋に、人1人が入れる大きさの球体が厳重に保管されている。
この球体、あの有名な1人用のポッドである。某伝説の超サイヤ人が中に入った父親ごとペシャンコにした事でも有名なあのポッドだ。
そんなポッドが存在している。これがどういう事を意味するか。
少年は送り込まれてきた存在、言わば異星人なのだ。この地球を侵略して何十年後かに高く売る事を目的として。だが、少年を送り込んだ者達の意図はこの時点で潰えてしまった。送り込まれた少年が、前世の記憶と穏やかな心を持ったサイヤ人だったからだ。
ちなみに、少年は確かに孫悟空と同じ顔をしているが、決して孫悟空というわけでは無い。ポッドで送られてきたという事は、少年は下級戦士のサイヤ人だという事を意味するが、下級戦士は同じ顔をした者が沢山いるという特徴がある。つまり、少年の顔が孫悟空とそっくりなのは至極当然とも言える。
以上の理由から、少年は純粋なサイヤ人である。彼を育てている両親も、当然の如く彼の生みの親ではない。若かりし頃に世界中を旅していた途中、とある国の山奥で、偶然ポッドから出てきて泣いていた少年を見つけて保護し、秘密裏にポッドごと家に持ち帰ったのだ。
そして、ポッドは家の地下研究所の最奥に保管し、一緒に連れ帰った少年は、まるで実の息子の様にひたすら可愛がって育てているのだ。彼を拾ってくれた両親がとても良い人だったのは非常に幸運と言えるだろう。
先程も言ったように、少年は個性を持っていない。この星に生まれてきた人間ではないので、個性なんぞ最初から持っているはずもない。
だが少年はサイヤ人だ。全宇宙最強の戦闘民族と謳われ、何百何千という星々を侵略してきた歴史を持つ生粋の戦闘オタクなのだ。継続して修行を積み重ね、怒りの感情をコントロールできるようになれば、超サイヤ人にもなれる可能性を多分に秘めているのだ。
こうして、自身をサイヤ人だと直感的に理解した少年は小さな声で呟いた。
「修行、頑張ってみるか。せっかくこの体で生まれたんだし、どこまで強くなれるのか気になる。……重力室とか、頼めば造ってもらえたりするかな? 技術的に出来るかどうかは置いといて」
こうして、少年の修行の日々が始まった。
あれから月日は流れ、修行を頑張ると決めた日から10年以上の時が経った。
現在の少年の歳は15歳。修行云々の前に学生である彼の日常は、当然の如く受験勉強に染まっている。
とはいえ、前世から勉強は嫌いではなかった上に、今の両親の影響もあって物を造る事が強くなる事と同じくらい好きになっている彼にとって、理数系の教科を筆頭に成績は常にトップクラスだ。故に、受験勉強で苦しむような状況には陥っていない。
そんな彼だが、この10年の間で色々な事があった。
修行を頑張ると決心したあの日以降、基本的なトレーニングを繰り返し行うようにしたのだが、始めたばかりの頃は成長幅が今一つだった。着実に強くなっているのは分かっていたが、それでもだった。
そこで、亀仙流の修行の様にとはいかないが、年端も行かない少年がやったらまずオーバーワークで死んでしまう程の修行を決行した。どんな事をしたのかは敢えて触れないでおこう。
だが、流石サイヤ人の体というべきか、普通の人なら倒れて動けなくなってしまうような厳しすぎる修行にも難なく対応出来た。出来てしまった。そこで油断したのがいけなかった。
彼が5歳の時、両親に頼んで造ってもらった重力室が完成した。両親は色々な分野で世界中に事業展開している巨大企業を経営する一家であり、それと同時にブリーフ博士の様な天才科学者でもあった。ちなみに、企業の名は『カプセルコーポレーション』。どんな偶然なんだと言いたい。実際、企業名を知った少年は声高になんでやねんとツッコんだ。
大層な肩書を持つ両親だが、大切に育てている息子の頼みを無下にする事などなく、なんと地下室に保管してあったポッドの仕組みを解明し、その技術を応用して僅か1年足らずで十分な広さを持つ重力室を完成させてしまった。これには少年も驚きを通り越して乾いた笑いしか出なかった。
こうして完成した重力室だが、今までの修行を難なくこなして慢心しきっていた少年は、何を血迷ったのか初っ端から50倍の重力で修行しようとしたのだ。あの悟空でさえ、最初の頃は10倍の重力に苦戦していたにも拘わらずだ。はっきり言って、馬鹿としか言いようがない。
当然の如く少年は死にかけた。事態を察知して慌てて駆け付けた両親が緊急停止ボタンを押さなければ、少年は潰れたザクロの様になっていただろう。助けてくれた両親には感謝しかない。
とはいえ、全身複雑骨折以上の重症を負った少年はしばらく入院する事になった。サイヤ人特有の驚異的な生命力と回復力のおかげで後遺症こそ残らなかったものの、痛い思いをした事で身の丈を知った彼は、長い入院生活の中で2度とこんな目に遭って堪るかと心に誓った。長い入院生活を終えて家に戻った彼は、それからも懲りずに重力室を使い続けたが。
両親は前回の事を省みて、彼が重力室を使う事に対してあまり良しとしなかった。だが、彼が自身の丈にあった重力下で慎重に修行する姿を見て、大怪我を負わない範囲であれば好きに使って良いと許可を出した。本当は心配で堪らなかったが、それでも頑張る息子をそっと見守る道を選択した彼の両親は本当に良い人だと言えよう。
こうして再び重力室を使い始めた彼は、まず10倍の重力下で修行を開始した。怪我はしなかったものの、一歩歩くだけでもかなりの重労働だった。まず10倍の重力下で死なないどころか怪我しないだけでも凄い事だが、サイヤ人の彼としては死活問題だ。自身のプライド的に、いつまでも動くだけで精一杯なのは許せなかったのだ。
だから彼は頑張った。来る日も来る日も部屋の中でトレーニングを積み重ねた。げに恐ろしきは狂気ともいえる彼の精神力だ。高重力下で日々過ごしていれば、普通は精神が持たない。間違いなくどこかで病んでしまう。しかし彼は修行を続けた。高重力の環境に体が慣れるまで何年も掛けて。それも全ては、自分はどこまで強くなれるのかという好奇心を満たすために。
最初の1年で10倍に適応した。もはや10倍の重力ではなんとも思わなくなった程度には縦横無尽に動けるようになっていた。10倍に慣れたので、今度は20倍の重力に挑戦した。今までの倍の重力なので苦労はしたが、この1年間で高重力の環境に適応するコツを掴んでいた彼は、1年も経たずに20倍の重力に適応した。
こうして20倍、30倍、40倍と、どんどん掛ける重力の値を増やしていった少年は、10年以上経った現在、なんと最大450倍の重力の中で動けるまでに成長した。といっても、今の重力装置が出せる倍率が450倍までだから最大450倍と言っているだけで、本当はどこまで耐えられるのか本人ですら把握出来ていない。
もうこの時点で、周りと比べて規格外の域にまで達した彼だが、10年にも及ぶ彼の修行の成果はこれだけでは終わらない。
まず始めに、気のコントロールがある程度出来るようになった。これにより、状況に合わせて自身の戦闘力を変化させる事が可能となる。更に言えば、ドラゴンボールに出てくるほぼ全ての気功術の類が使えたり相手の気を探ったりも出来る。瞬間移動のような特殊な技も例外ではない。
何故誰かに教わったわけでも無いのに気を扱えるようになっているのか? それは彼自身もよく分かっていない。毎日重力室で修行してコツコツ戦闘力を上げていたら、それに付随していつの間にか出来るようになっていたとしか答えようがないからだ。
そしてもう1つ。こちらが彼の修行の成果の真骨頂とも言えるものだが、なんと超サイヤ人に変身出来るようになった。
今から2年ほど前、彼が初めて450倍の重力に挑戦しようした時の事だった。当時250倍の重力にようやく慣れたばかりだった彼は、一気に最大値の450倍に挑戦してみようと考えた。特に理由なんてない、唐突で衝動的で考え無しな行動だった。人生2度目の無茶ぶりなのだが、彼はどうしても450倍の重力を1度体感してみたかったのだ。
だが、案の定と言うべきか、彼の体はまだ450倍に耐えられるレベルではなかった。それまで10倍ずつ増やしながら修行していた彼では、1.8倍も上の重力の環境の変化に付いて行けなかったのだ。
彼はすぐに地に伏せた。この時、両親は長期出張で家を留守にしており、また使用人達もほとんどが出払っていたので、助けを呼んでも無駄な状況だった。彼が大怪我を負い、地に伏せたまま永久に眠ってしまう羽目になるのは時間の問題だった。指1本たりとも動かせない状況で、彼は思った。
こんなしょうもない事で死んでしまうのか。こんな呆気なく終わってしまうのか。ある程度予想はしていたが、まさか緊急停止ボタンを押す事すら出来ないだなんて思ってもみなかった、と。
全て自分が招いた災難。誰かを責める事も出来ない、完全に自業自得な状況だとはいえ、ここまで何も出来ない自分自身に憤った。ようやく250倍の重力にも慣れてきたのに、お前はまだまだ弱いと言われたような気分だった。穏やかな心を持ちながら、その一方でサイヤ人としてのプライドも持ち合わせている彼にとっては、とても大きな衝撃だった。
その時だった。そんなのは嫌だ。自分がどこまで強くなれるのか、まだ知りたい、知ってみたい。限界を超えて強くなりたい。だからこの程度の事で何も出来なくなってしまう自分は嫌だ! そんな自問自答の末に沸いて出てきた自分自身への怒りが、彼の中で膨らみ続け、それが遂に力となって爆発した。
そして、気が付いたら体が軽くなっていた。今までになかった高揚感と、体の奥底からどんどん湧き上がってくる力が彼にあった。金髪碧眼となり、黄金色の炎のようなものが体全体を覆っていた。こうして彼は超サイヤ人に変身出来るようになった。
10代の時点でここまで成長出来たのは、もはや奇跡としか言いようがない。とはいえ、原作の孫悟飯は10歳前後、孫悟天に至っては7歳の時点で超サイヤ人に変身出来るようになっているので、漫画の中の存在といえど、上には上がいるという事を忘れてはいけない。
そんな出来事がこの10年の間に起こった。
現在彼は15歳。先程も言ったように、どの高校に進学するかを考える受験生なのだ。しかし、元々勉強が出来る人なので成績で困るような事は決して無い。家で破茶滅茶な行動を取っている分、学校で問題行動を起こしたという事は無く、内申もかなり良好だ。だが、それは外面が良いだけともいう。
それが良いのかどうかはさて置いて、少年は悩んだ。高校をどこにするか。希望が特にあるわけでは無い。大好きな修行も物造りも、全て家の中で解決してしまうのだ。
そもそも、世界でも有数の巨大企業のトップが、腕に縒りを掛けて整えた修行場所と最新鋭の設備を備えた工房がセットになっている家なのだ。これよりも良環境の高校があるならそこへ行く価値はあるが、残念ながら日本国内にそんな高校は存在しない。
ならば海外に行くかと聞かれれば、この選択肢もそこまで乗り気ではない。本人は修行と物造りを同時並行でやりたいのだ。だがそれは、先程も言ったように家で全て解決してしまう。海外に行くと、それらの両立が日本にいるよりも難しくなってしまう。I・アイランドに行く事も考えたが、あそこは行こうと思えばいつでも行けるし、本格的にあの島に引っ越したら隔離されてしまうので、すぐに選択肢から切り捨てた。
そう、ぶっちゃけると少年は、家から出たくなかったのだ。出来るだけ家から離れたくないというのがより正確な表現だが。
このような理由から、彼の進路決めは難航した。選択肢が多い人ほど進路決めに時間が掛かるというが、その中でも彼はギリギリまで粘った。
担任の教師からは、成績も良いし個性も悪くないから、雄英高校のヒーロー科に行くのはどうかと薦められた。だが、彼はヒーローになる気など毛頭なかった。
空前のヒーローブームとなっている今の社会では、成績が良くて実力があるなら、まずヒーローを目指す事が一般常識となっている。それは彼も理解しているのだが、どうしてもヒーローになろうとは思えなかったのだ。
別にヒーローが嫌いというわけでは無い。人々を笑顔で救い、体を張って敵を倒し、安心感を与える彼らの事は素直に尊敬しているし、彼らがいるからこそ街の治安は一定に保たれているという事も理解している。
だが、彼はヒーローになった自分の姿というものをどうしても想像できなかった。自分は正義のヒーローというわけでは無いし、強くなる事が必ずしもヒーローになる事と同義でも無い。そもそもヒーローになったら自分のやりたい事から余計に遠ざかってしまう。そう思っているのだ。
しかし、だからといって、他に希望があるのかと聞かれれば、無いと答えるしかない。
「だったら尚更、出来るだけ良い高校に行くべきなんじゃないのか? 正直なところ、お前の成績と個性で雄英のヒーロー科に行かないのはかなり勿体ない。今時ヒーローになる気はないとか言ってる生徒は、俺のクラスじゃお前1人だけだぞ」
「確かにそれはそうなんですけど……。でもやっぱりヒーローになろうとは思えませんね」
「それでも雄英が良いと思うけどな。お前の家とそんなに距離が離れているわけでもないから、通学の便も悪くない。それに、あそこは国立最難関高校だ。ヒーロー科でなくとも、あそこを卒業すればそれだけ将来の選択肢が広まる。まあ、お前に限っては今の時点で将来が約束されたも同然なんだけどな。とにかく、進路決めは後悔の無いようにな」
「はーい、分かりました」
「はいは伸ばさない」
「はい」
その日、担任からの言葉を受けて、彼は考えた。
確かに自分は、どこの高校に行くか希望があるわけではない。だからといって、高校を適当に選んだら、それはそれで後悔するだろう。だったら担任の言う通り、出来るだけ良い高校に行くべきだと。
そうなってくると、やはり行き先は雄英高校に絞られてくる。家から遠すぎるわけでもないし、学歴としても申し分ないからだ。しかし何度も言うが、彼はヒーローになる気など全くない。それだけは御免なのだ。
だから彼は考えた。考えて考えて考えて、ひたすら考え続けたその結果。
彼は雄英高校に行く事を決めた。
そう、雄英高校サポート科に行く事を。
読んでみて、思い思いの評価をして頂ければ幸いです。
主人公は送り込まれたサイヤ人だと言いましたが、フリーザとかベジータとか孫悟空とか、そのような本家ドラゴンボールのキャラが出てきたりはしません。というか、作者の文章力だとそこまで話を整理出来ないので無理です。なのでこの話は、ヒロアカの世界にやってきたサイヤ人の物語とだけ認識してお楽しみください。