サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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これ含めてあと2話で体育祭終わりです……多分。
新年度始まった時のごたごたで書ける時間があまり確保出来ず、その期間分だけ投稿が遅れました。すみません。3割くらいスマホで書いたけど凄く書き辛かった……。


第10話 4分33秒

 雄英体育祭1年ステージ最終種目、準決勝第1試合の興奮もようやく収まった。とはいえその戦いは人々の記憶に深く刻まれ、今後しばらくはその話題が上がる事を彼はまだ知らない。

 

 そして15分間の休憩もあっという間に過ぎ去り、もう1人の決勝戦進出者を決める第2試合が始まる。自身の席に戻った彼はその様子を観戦していなかった。

 

 

「お疲れ様です! 先程の試合、凄かったですよ!」

 

『準決勝第2試合、爆豪と常闇の戦いが今、スタートだぁー!!』

 

 

 意気揚々と話し掛けてきたので彼は両手を上げて発目に向き合い、言葉の代わりにハイタッチで返す。

 

 ノリが良い発目は当然の如くハイタッチしてくれ、続けてウィンクとサムズアップもそこへ追加する。サポート科としてアイテムの紹介も欠かせないが、何より今日は年に1度の祭り事。楽しまないと損だ。よって、彼らは彼らなりにこの体育祭を楽しんでいた。

 

 

「あなたが強いのはもう周知の事実でしたけど、まさか轟さんが最後に見せたあの大爆発まで相殺するとは予想外でした。益々興味が湧いてきます。今度私の実験に付き合って頂いてもよろしいですか? あなたの体について色々調べたくて」

 

『おっと? これは一体どういう事だ!? 常闇がここでまさかの防衛に入ったぞ! 八百万、芦戸の2人を瞬殺して勝ち上がってきたのに、爆豪相手に攻撃出来てねーじゃん! どうなってんだ!?』

 

 

 発目相手に色々調べたいと言われると、何だか嫌な予感がして堪らない。変な薬品でも打ち込まれそうな雰囲気があるため警戒心が高まってしまう。

 

 一体何をするつもりなのか、それくらいは確認しなければならない。彼自身もそうだが、発目もやると言ったらやる性格なのだ。平気でとんでもない事をしでかす可能性は十分にある。彼も人の事を言える性格ではないが。

 

 

「何を想像しているのか把握しかねますが、そこまで物騒な事はしませんよ。ちょっと爆弾とか薬品とかぶつけたり、私が開発したベイビーの実験台になってもらったりするだけですから。変な物を体内に打ち込むなんて危険な事はしないので、そこら辺は心配しなくて大丈夫です」

 

『まだまだ続く! 爆豪のラッシュが止まらない! 無敵に近い個性で勝ち上がってきた常闇が未だ反撃すら出来ていないなんて! 防戦一辺倒だぁー!』

 

 

 なるほど、そんな事だったのか。それなら何も問題無い。変な薬品を体内に打ち込まれるなんて危険な事に比べれば、発目がやろうとしている実験は安心安全。それくらいなら時間がある時にいくらでも付き合ってあげよう。御安い御用だ。彼は快く承諾した。

 

 その返答を聞いて深い笑みを浮かべる発目。それにつられて彼も思わず口角が吊り上がる。

 

 結果、突如不気味な笑みを浮かべる2人に周りのクラスメイトが視線を四方八方に逸らし、少しだけ2人から距離を取った。

 

 

『おおっ! 爆豪の奴、華麗に攻撃を避けて常闇の裏を取り、すかさず爆破ぁー! ……って、おいおい、煙幕で全然様子が見えねえぞ。どうなってんだ? ええ?』

 

 

 しかし、発目が実験に付き合わせるというのであれば、こちらも何かあった時は発目に手を貸してもらおう。実験に付き合うのだから、これくらいの頼みは聞いてくれても良いはずだ。お互い助け合いの精神だと思ってほしい。

 

 

「ええ、言われなくとも分かってますよ。あなたも、もし私の手を借りたい時があれば遠慮なく申し出て下さい。その時は色々してあげますから」

 

『おっ、やっと煙が晴れてきたな! ええと、これは……あっ、常闇が爆豪に取り押さえられてる! いつの間に! つーか爆豪は片手で何やってんだ? 細かい爆破なんか繰り返して』

 

 

 実に頼もしい、これからのサポートライフが楽しみだ。いつでも作業に取り掛かれるよう、彼はこの体育祭が終わったらどんな物を作っていこうか考えを巡らせる。

 

 本当はこれからの決勝戦でどうアイテム紹介を成功させるかに集中すべきなのだが、どうしても今後何を作ろうかなと考えを巡らせ、没頭してしまう。1つの事に集中すると、忽ち自分の世界に入ってしまうのが彼や発目の悪癖である。

 

 

『常闇降参! 勝者は爆豪に決定! これで決勝に進む2人が出揃ったぁー! 30分間の休憩を取ったらいよいよお待ちかね、決勝戦の開幕だぜ!』

 

「それで、これからどんな物を作っていくつもりで……っと、話している内に試合が終わったみたいですね。じゃあこの話はまた今度って事で、今は決勝頑張ってください」

 

 

 これからの事に考えを巡らせていたら試合が終わっていたので、発目の言う通りに控え室へ向かうとしよう。ポケットにホイポイカプセルが入っている事を確かめ、水分補給もしっかり済ませ、靴紐を固く結び直して準備万端、出発だ。彼は席を立った。

 

 観客達が束の間の休憩に入る中、彼は真っ直ぐ控え室へ向かう。すれ違う人達からの注目が自然と集まるが、彼は一切気にしない。

 

 そんな中、彼を鬼の形相で睨む者がいた。

 

 

(あの野郎、最後までこっちを見ていなかった……! 俺は眼中にねえってか? クソがっ!)

 

 

 試合中、隙を見て彼を観察していた爆豪は、終始発目との雑談に没頭していた彼の態度に苛立ちを募らせていくのだった。

 

 

 


 

 

 

 試合開始時間になるまで控え室で待機していると、突然誰かがドアを開けて入ってきた。

 

 

「あ? なんでてめぇがここに……って、ここ2番の控え室か! 反対側かよクソが!」

 

 

 入ってきたのは爆豪だった。どうやら入る控え室を間違えてしまったらしい。何故キレたのかは分からないが、気にしてもしょうがないので物思いに耽る。

 

 だが、様子を黙って見守っていたら、爆豪が彼に詰め寄ってきた。その顔は怒りに満ち満ちており、すぐにでも攻撃してきそうな勢いだ。

 

 一体どうしたのだろうと思っていると、爆豪は彼が座っている椅子の隣に立ち、右手をバンッと勢い良くテーブルに叩き付けて言った。

 

 

「部屋間違えたのは俺だけどよぉ……決勝相手にその態度はどうなんだよ? あぁ? 余所見してんじゃねえよ尻尾野郎が!」

 

 

 叩き付けた右手から爆発が起こった。テーブルの表面が焼け焦げるが、爆豪は意に介さず更に続ける。

 

 

「今までの戦い、見せてもらった。てめぇ随分とまあ調子に乗ってるじゃねえか。さっきも俺が戦っていた傍らでぺちゃくちゃ喋ってばっかでよ。なあ、おい……」

 

 

 突然キレたかと思えば、どこか説教臭い事を言い始めた。この爆豪勝己という男、ベクトルは全く違うが発目ばりに変わってて不思議な人だ。

 

 最初は本当にこんな奴がヒーロー科で大丈夫なのかと思ったが、ここまで来ると一周回って微笑ましく思えてくるのは何故だろう。現在進行形でこちらを睨んでいるが、全く恐怖とかが感じられない。

 

 というか、今さっき『尻尾野郎』と言われた気がしたが、もしかしなくてもあだ名だろうか? ネーミングセンスは微妙のようだ。

 

 

「……何だよその目は? そんな目で見てくんじゃねえよクソが! イラつくんだよてめぇ!」

 

 

 反抗期の子供を優しく見守る親の様な目で見ていると、爆豪の顔が更に怒りで歪んだ。この表情の変化は見ていて面白い。工夫次第でもっとどうにか出来そうだ。

 

 いかにして爆豪の表情を変化させるかゲーム感覚で考えていたら、その思考を遮るように大声が部屋中に響いた。

 

 

「調子乗ってんのも今の内だ、騎馬戦での借りを返してやる! だから全力で来やがれ! てめぇの全力を、俺にぶつけて来い! それを俺が、上から捩じ伏せてやる!」

 

 

 そう言うと爆豪は部屋を出て行った。純粋に入る部屋を間違えただけが、まさかキレながら詰め寄られ、最後は大声で宣戦布告されるとは思わなかった。こんな体験は中々出来ないだろう。

 

 ある意味敵に遭遇するよりもレアな境遇に巡り合わせてくれた爆豪には、試合が終わった後で感謝の意を伝えよう。試合前に貴重な体験が出来たお礼だ。それくらいはして当然だろう。

 

 試合直前、苛立ちが募っていく爆豪とは裏腹に、どやされた彼の機嫌は何故か良くなる一方だった。

 

 

 


 

 

 

『──長かったこの雄英体育祭、それもいよいよ終わりが近付いてきた。さあリスナーのお前ら、フィナーレの開幕だ! 天辺を決める戦いが今、始まるぞぉー!!』

 

 

 30分間の休憩もあっという間に経過し、いよいよ決勝戦の時間がやってきた。

 

 ステージに上がった彼の相手は、闘争心を剝き出しにして不敵な笑みを浮かべる爆豪勝己。既にその両手からは煙が漏れ出ている。戦う準備は万端である証拠だ。

 

 一方の彼は、先程の控え室でのやり取りからどこか上機嫌だ。強者の余裕か、或いは別の理由からか。爆豪と同じくその表情は明るい。ただし、闘争心から来る笑いではなく、どこか得体の知れない恐怖を与える様な笑みだ。それに気付けている者が、この会場内に果たして何人いるだろうか。

 

 プレゼントマイクの興奮と共に、会場のあちこちから歓声が沸き起こる。皆、待ちに待った決勝戦が楽しみで仕方ないのだ。その興奮は会場のみならず、全国にも波及している。

 

 そんな中、遂にその時はやってきた。

 

 

『そこから見ろ! 向こうから見ろ! 体育祭最後の試合が今……!』

 

 

 爆豪がグッと腰を低く落とし、前傾姿勢になる。

 

 

『レディー……スタァァァァート!!』

 

 

 決勝の合図が出た。

 

 瞬間、開始のゴングを掻き消すような爆音と共に、爆豪が彼に飛びかかる。

 

 彼との距離を一気に詰めると、右掌に凶悪な花火を携え、言葉と共に振り下ろす。

 

 

「食らえッ!」

 

 

 ステージの表面は一瞬にして焼け焦げ、抉られ、轟音と熱波が周囲にも撒き散らされる。

 

 同じヒーロー科の生徒でも、真面に食らえば大火傷どころか皮膚が爛れるほどの爆破。いや、人によっては意識不明の重体もあり得る。そう思えるくらい暴力的だ。

 

 今の爆破だけでも並の相手なら十分だろう。だが、爆豪はそこで止まる人間ではない。

 

 

「まだだ! もっと行くぞオラァ!」

 

 

 間髪入れず追加の爆撃を食らわせる。切島戦で見せた絨毯爆撃をもう1度ここで炸裂させたのだ。

 

 爆破による衝撃と爆風でステージがどんどん削られ、粉塵が巻き起こり、周囲一帯の空間が黒く塗り潰される。

 

 どこからどう見てもオーバーキルな攻撃の嵐に、プレゼントマイク達も思わず叫ぶ。

 

 

『初っ端から飛ばしていく爆豪! 凶悪な笑みと共に凶悪な爆破を連続で食らわせていく! つーかもう最初の1発だけでも十分じゃね? 明らかにオーバーキルだろこれ! やり過ぎだ! ……って、言いたい所だが……』

 

『そうとは言い切れない奴が相手だからな。他の奴らならいざ知らず、あいつに限って今のでやられているとはどうにも……』

 

 

 これまでの戦いを見て流石に学習してきたのか、今の爆発で決着が付いたとは2人共、そして観客達も思わなかった。

 

 それは爆豪もまた然り。連続で爆破を食らわせ続けていたが、突如攻撃の手を止め、爆破で後方に飛んで距離を取る。

 

 キッと前方を睨み付け、いつでも爆破を繰り出せるように油断なく身構える。その視線の先には──。

 

 

「……まあ、この程度でくたばるタマじゃねえわな」

 

 

 粉塵が晴れたその中央には、煙たそうに咳き込みながら服に付着した土埃を払う彼の姿があった。当然の如く無傷だ。掠り傷一つ付いていない。

 

 何となく分かっていたとはいえ普通では考えられない結果に、観客達は信じられないものを見る目で彼に注目する。プレゼントマイクに至っては顎が外れそうなほど口が開いていた。

 

 そして、そんな結果に誰よりも苛立ちを覚えたのが爆豪である。いくら今の攻撃で倒れないと分かっていても、流石に何かしらの影響はあるだろうと踏んでいた。だが実際はそうならず、相手はただ煙たそうに埃を払っているだけ。これで怒らないわけがない。

 

 

「こんなんで勝てるとは思ってねえけどよぉ……その舐め腐った態度はどうにかなんねえのか? あぁ? ぶっ殺すぞてめぇ!」

 

 

 衆目がある前で宣った殺害宣言に、埃を払っていた彼は一瞬ビクリと肩を震わせる。爆豪の怒りに恐れを成したからではない。公衆の面前でそんな粗野な言動を口にして、果たして大丈夫なのだろうかと不安に感じたからだ。流石に人前での言動には気を付けたほうが良い。

 

 だが、体育祭開始前に行った選手宣誓の時点で既に手遅れだった事を思い出し、今感じた不安を即行で捨て去る。この間僅か0.1秒未満。

 

 その2秒後、再び爆豪が攻撃を開始する。

 

 

「さっきなんで反撃しなかった!? お前のパワーならもっとどうにか出来ただろうが!」

 

 

 そして、怒りのままに叫びながら爆破を彼にお見舞いする。心なしか先程よりも威力が上がっているように見えるのは気のせいか。

 

 そんな疑問を抱きつつも、彼は攻撃する素振りを一切見せず、ただただ爆豪の攻撃を受けるのみ。避ける行動すら起こさず、その場に立ち尽くすだけだ。その様子が、爆豪の神経を更に逆撫でする。

 

 

「てめぇ、人を虚仮にするのも大概にしろよ! 俺じゃあ力不足だってか!? あぁ!?」

 

 

 爆豪の怒りの叫びに呼応しているのか、爆破の威力がもっと上昇した。やはり気のせいではなく、時間経過と共に爆破の威力、性能が徐々に上がっている。

 

 それに加えて爆豪が持つ戦闘センスの高さだ。先程の動きだけでも良く分かる。あの攻撃の1つ1つにどれほどの技術と動きの緻密さが詰め込まれているか。あれは、俗に言う天才という奴だ。

 

 立て続けに攻撃される中、彼はそう思った。

 

 そんな事を考えている間に、爆豪の叫びは最高潮に達する。

 

 

「俺が取るのは完膚なきまでの1位なんだよ! 舐めプのクソカスに勝っても意味ねえんだよ! 勝つつもりもねえなら俺の前に立つな! なんでここに立っとんだクソが!」

 

 

 もちろん、自作のアイテムをアピールするためである。体育祭が始まる前からの揺るぎない目的だ。正直言って勝ち負けは二の次で、アイテムを大々的に宣伝すれば、個人的にはそれで目的達成。それ以上参加する意味も無くなる。

 

 だからこの試合の中で何としてでもアイテムのアピールが出来ないか模索しているのだが……爆破の威力が予想以上に強すぎて、せっかく作ったカプセルも木っ端微塵になる可能性が高い。

 

 彼が先程から一歩も動く素振りを見せないのは、相手に余裕を見せつけるためではなく、どうやって目的を達成しようか頭の片隅で考え続け、集中していたからだ。

 

 爆豪に何故? と聞かれたので、彼は自身の目的を正直に答えた。隠す理由もなく、バレてもやる事は変わらないためである。

 

 案の定、爆豪は怒った。性格から考えて、予想通りの結果だ。

 

 

「アイテムのアピールだと? ……ふざけてんのかてめぇ! いい加減にしろよ! なぁおい!? どんだけ人を虚仮にすれば気が済むんだ!」

 

 

 ふざけてなどいない、大真面目である。大真面目に、真剣に、本気で、彼はその目標を達成しようと奔走しているのだ。そうでなければ一体何のために、2週間も徹夜漬けでホイポイカプセルを作ったのか分からなくなってしまう。

 

 本気で戦ってほしいという譲れない気持ちが爆豪にあるように、彼にもまた譲れない気持ちがあるのだ。お互いに譲れないものがあって、それが見事に噛み合っていない。今の状況はそれだけの事だ。ただそれだけの事なのだ。

 

 よって爆豪が何をどう言おうと、彼は掲げた目標を取り下げるつもりはない。

 

 

「そうかよ……てめぇの言い分はよぉく分かった。戦う気がねえって言うなら、俺がその気にさせてやんよ。下手な事言わなきゃ良かったって後悔させてやる……!」

 

 

 怒りに震える声でそう言った爆豪は、先程より機敏に、よりパワフルに動き周り、彼に直接爆撃を食らわせる。攻撃の度にステージが吹き飛んで凸凹になり、場外を示す白線も徐々に消えかけていく。

 

 それでも彼の体に傷が付く事はなく、依然として平然と突っ立っている。爆撃なんて最初から無かったとでも言うかの如く、着ている服も綺麗なままだ。

 

 そんな最中、彼は考えていた。このまま待ち続けてもアイテム紹介を出来る隙が生まれないから、どうにかしてその隙を作らねば、と。

 

 爆豪を程良く疲れさせた後で……なんて最初は考えていたが、地の果てまで追いかけて来そうな程の執着を見せる爆豪が、疲れた程度で果たして動きを止めるのだろうか。否、時間が経てば経つほど面倒になるに違いない。

 

 拘束してから……なんて事も考えたが、その場合爆豪は大声で騒ぐだろう。アイテムの説明中にそんな事をされたら、聴衆の気が散ってしまう。よって拘束するのは止めた。

 

 取れる手段は限られてくる。この場合、考え得る最良の手段はあれくらいだろう。そうと決まれば早速行動だ。

 

 今まで攻撃を受けてばかりだった彼は、唐突にその場から姿を消した。

 

 

「ッ!? 消えた!? どこだ!」

 

 

 これに驚いたのは爆豪だ。彼が目の前で消えたので、攻撃を止めて辺りを見回す。

 

 ようやくその気になったか……と、爆豪は僅かに口角を上げたが、その予想は外れだ。今の彼が爆豪の期待に応えるなんて事はない。

 

 案の定、いきなり姿を消した彼は超速で爆豪の背後に立つと、暴れても問題ないようにがっちりと爆豪の胴体を掴んで持ち上げた。

 

 

「なっ!? てめぇいつの間に!? は、離せこの野郎!」

 

 

 拘束された爆豪が抵抗して爆破を至近距離から食らわせるが、いくら当ててもびくともしなかった。爆破を食らっている彼の表情が苦痛に歪む事はない。

 

 見事拘束する事に成功した彼は爆豪を高々と持ち上げて振りかぶると、その視線を青空に向ける。

 

 今から爆豪には、1人で快適な空の旅を楽しんできてほしい。彼はそう告げると両腕に気を込めた。

 

 

「……はっ? お前、いきなり何を言ってええええええええーッッ!?」

 

 

 ぶつけられた疑問に耳を貸す事なく、彼は空に向かって思い切り爆豪を投げ飛ばした。あの様子だと力を込め過ぎて怪我をさせたなんて事にはなっていないだろう。掴む力の調整が上手く出来たので、彼はほっと胸を撫で下ろした。

 

 そして、投げ飛ばされた勢いで会場の外を出て、やがて姿が見えなくなるまで飛んで行った爆豪を見届けると、彼はくるりと振り向きポケットから小型マイクを取り出す。

 

 あまりの奇行にシンと会場内が静まる中、最初に口を開いたのはプレゼントマイクだった。

 

 

『……あ、えっと、その……いきなり爆豪が投げ飛ばされて見えなくなっちゃった、けど……これは一体……なんで?』

 

 

 気を探った感じ、爆豪が今いる位置から考えて、ここに戻ってくるまで最低でも5分弱は掛かるだろう。5分もあれば充分。その間にアイテムのアピールを終わらせる。気分は爆発寸前のナメック星でフリーザと戦う孫悟空だ。

 

 プレゼントマイクの質問を華麗にスルーして、手にした小型マイク越しに彼は言った。

 

 諸事情により爆豪が1人で空の旅に行ってしまったので、ここに戻ってくるまでの間、サポート科として自作したアイテムの一覧を御紹介しましょう、と。同時に彼は、ポケットからホイポイカプセルを取り出した。

 

 

『えっ? いや、あの、諸事情によりって、爆豪を投げ飛ばしたのお前じゃん? ……えっ、なに? もしかしてここで発目と同じ事するの? 決勝戦で? このタイミングで!?』

 

 

 もちのろんである。そもそも彼の目的は最初から自作したアイテムを観客にアピールする事なのだ。今までは様々な事象が重なって出来なかっただけで、目的を達成したらその時点で彼の体育祭は終わる。そして、その時が今なのだ。ただそれだけの事である。

 

 さあ、説明は済んだ。爆豪がここへ戻ってくる前に、急いで目的を達成させたい。タイムリミットまであと5分。早く本題へ移ろう。

 

 彼は手にしたホイポイカプセルを手に持つと、実演も兼ねて観客全員にアピールを始めた。彼に吠えるプレゼントマイクの声を無視しながら。

 

 

『ちょいちょいちょい、ちょっと待てええええー! 本当に始めちゃったよ! えっ、マジでやる気なの? 嘘でしょ? というか手に持ってるそれ何なの? 小型のカプセルに見えるけど……って、はあっ!? カプセルから車とバイクと一軒家が出てきたんだけど!? 中身どうなってんの!? 物理法則無視してねーか!? ……って、そうじゃねええええー!!』

 

 

 騒がれたら聴衆の気が散るからと思って爆豪を遠くまで投げ飛ばしたが、プレゼントマイクにこうも騒がれてしまっては意味が無い。彼が爆豪にやった事はある意味無駄骨になってしまった。

 

 それでもと思い、少し静かにしてほしいとプレゼントマイクを注意する。

 

 

『いやいや、いやいやいや! それどころじゃないのよ! お前、準決勝は轟とあんなに感動的な戦いを見せてくれたっていうのに、決勝でそれやるとかどうなの!? 準決勝のあれは全部まやかしだったの!? 幻覚だったの!? そんなの嫌だよ! 準決勝のあの感動を返してくれぇー!』

 

 

 今更そんな事を言われても、もうここまで来たら後には引き返せないし、引き返すつもりもない。それだけの覚悟を持って今ここにいるのだから、邪魔はなるべくしないでほしい。少なくとも爆豪が戻ってくるまでは。

 

 彼は騒ぐプレゼントマイクの叫び声をBGMに、ホイポイカプセルの説明を再開した。会場内の反応は2通りで、このカオスな状況に戸惑いを見せる者が半分、彼が使って見せたホイポイカプセルに早速釘付けになっている者が半分だ。

 

 掴みは上々、このまま突っ走ろう。彼は、今日のために作成した2週間の努力の結晶について皆に熱弁する。

 

 

『鬼! 鬼だよあんた! 準決勝まではめちゃくちゃ面白い奴だと思ってたけど、今のでガラッと印象変わったよ! 爆豪投げ飛ばして自分はやりたい事やるって鬼畜の所業だよ! いや、鬼畜なんて生温いもんじゃねえ……悪魔だ、悪魔だよお前! 悪魔の所業だよ!』

 

 

 ちょっと待て、その名は駄目だ。彼は説明を一旦止めて、プレゼントマイクに抗議した。

 

 別に、悪魔と言われた事自体に腹が立ったわけではない。『悪魔』という二つ名は既に別の者が持っているからである。

 

 この『悪魔』という二つ名は、見る者全員に絶望を与えた某伝説の超サイヤ人にのみ名乗る事が許されている特別な名なのだ。矮小で身勝手な下級サイヤ人如きの自分が安易に名乗って良い名ではない。繰り返し言うが『悪魔』は特別な名だ。誰彼構わず名乗って良いほど安っぽいものではない。

 

 自分に二つ名を付けるなら悪魔ではなく鬼畜の方に訂正してほしいと抗議した彼は、いつもの調子に戻って説明の続きを始めた。

 

 思わぬ抗議にポカンと口を開けるプレゼントマイクだったが、すぐに動き出し、またしても彼に吠える。

 

 

『いや、訂正する箇所そこじゃねええええええーッッ!!』

 

 

 最終的に、ホイポイカプセルの説明は4分33秒で終わった──。

 

 

 


 

 

 

 アピールタイムは満足のいく結果に終わり、実演のために出したエアカー、エアバイク、一軒家をホイポイカプセルの中にしまってポケットの中に突っ込む。その様子に、ツッコミばかりしていたプレゼントマイクが感嘆の溜め息を吐いた。

 

 

『いやー……一通り説明聴いたけど、あんたマジでとんでもないもん作ったんだな。ホイポイカプセルだっけ? それ市場に出回ったら物流が変わるぞ、色んな意味で。販売開始はいつからなんだ? 言い値で買うぜ』

 

『おいお前、あんだけ騒いでたのにもう丸め込まれて……いや、やっぱり何でもない』

 

 

 ホイポイカプセルの利便性に魅せられて丸め込まれたプレゼントマイクに、相澤が何かを言おうとして止める。包帯だらけで表情は見えないはずなのに、どこか呆れた雰囲気を醸し出していた。

 

 そんな2人のやり取りを横目に、ホイポイカプセルを全て片付け終えた彼は周囲に目を向ける。観客もプレゼントマイクと同じ様な反応で、サポート会社の関係者に至っては、何やら真剣な顔で話し合っていた。

 

 もちろん、ホイポイカプセルはカプセルコーポレーション製の商品として今後売り出す予定だ。あの様子だと間違いなく商談が弾むだろう。今からその時が楽しみだ。

 

 そのためにも商標登録を早期に済ませる必要がある。通常審査だと1年近く掛かるので、早期審査で登録に掛かる期間を大幅に短縮するつもりだ。あれなら2ヶ月程度で登録が完了する。早期審査を行うに必要な条件は満たしているので問題ないだろう。国内のみならず、国際登録も当然行う予定だ。

 

 という感じで、今後の活動予定について考えを巡らしていたが、段々とこちらに近付いてくる気を感じ取り、彼は空を見上げた。

 

 様子が一変した彼に気付いたのか、観客も1人、また1人と空を見上げた。ほとんどの人がホイポイカプセルのインパクトで忘れかけていたが、今は雄英体育祭決勝戦の時間。戦いの時間なのだ。

 

 そう、遥か空の向こうから、般若の如き怒りの表情を浮かべて会場に戻って来る生徒が1人いた。

 

 注目が集まる中、その影はポツリと現れ、やがて人の形を成して徐々に大きくなっていく。爆音や雄叫びと共に。

 

 

『あっ、やっと見えた! 色々あったけどようやく決勝再開だな! というか、なんか叫んでね?』

 

『まあ、叫びたくなる気持ちも分かるが……これは……』

 

 

 2人の呟く声が響くが、それを掻き消すほどの大声が全員の耳に入る。

 

 

「オラァァァァァァー!!」

 

 

 はっきりと姿が見えるまで戻ってきた爆豪は、その雄叫びと共に、両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、反動で錐揉み回転しながら身構える彼に向かって突撃する。

 

 爆焔を噴き上げながら落下していくその姿は、まさに人間ミサイル。

 

 そしてお互いがぶつかるギリギリの所で、爆豪は彼に向けて両手を突き出し、力の限り叫んだ。

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォォォォーッッ!!」

 

 

 爆豪の超必殺技が彼に命中した。

 

 

 




場外に出ても、地面に足が着かなければセーフなんじゃね? と思い、爆豪を遠くに投げ飛ばすという展開にしました。本当はどうか分かりません。ドラゴンボールの天下一武道会を参考にした私の完全な独断と偏見です。ヒロアカ原作にそのようなルールは明記されていません。
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