サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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これにて体育祭編は終わりです。さて、ここからどうしていこうか……。


第11話 良い雰囲気で終わりそうな時ほど、ハプニングって起こるよね

 ──遡る事5分前。

 

 彼によって会場の外に投げ飛ばされた爆豪は、遥か上空を猛スピードで飛んでいた。

 

 

「おおおおおおクソがああああああッッ!!」

 

 

 抵抗しようと進行方向とは逆方向へ爆破を繰り返すも、勢いは収まる事を知らず、会場からどんどん突き放されていく。

 

 

(こんだけ爆破で抵抗してるっつーのに、全然止まらねえ! なんてパワーしてやがるんだあいつは! この圧倒的なまでの力、まるで……!)

 

 

 爆破を繰り返す中、桁違いの力をその身に受けた事で、爆豪はサポート科である彼をとある人物と重ねた。ヒーローを目指す切っ掛けとなった、今でも憧れを抱くあのヒーローと。

 

 だが、そんな事は今考えるべきではないと意識を切り替え、この後どう対処すべきかに集中する。

 

 やがて爆破による抵抗が効いてきたのか、投げ飛ばされた時の勢いは徐々に失われ、遂には空中でその場に留まる事に成功した。結構な距離を移動したのに、それでも雄英の敷地から出ていないのは流石と言うべきか。雄英高校の敷地面積がいかに広大かが窺える。

 

 空中で留まった爆豪は、遠く離れた会場へ鋭い視線を向けながら、沸々と煮え滾る怒りを口にした。

 

 

「あの野郎、よくも……ぶっ殺す!」

 

 

 短く発したその言葉と共に、特大の火花を撒き散らしながら会場へ戻る。

 

 汗を掻けば掻くほど爆破の威力が増していく個性は、何度も使っていく内に急成長し、かつてない火力を叩き出していた。もはや彼との試合で最初に見せた爆撃とは比にならない。

 

 会場へ戻る最中、着いたらまず最大火力を彼にぶつけようと心に決めて飛んできた道を辿っていく。

 

 こうして飛び続ける事5分弱、やっとの思いで会場に戻って来た爆豪は、腕の疲労を無視して彼に突撃した。怒りのままに雄叫びを上げて。

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォォォォーッッ!!」

 

 

 そして現在に至る──。

 

 

 


 

 

 

 戻って来て早々に爆豪の超必殺技を食らった彼は、相変わらずその場に立ち尽くしたまま目の前の相手を見据えた。

 

 ここまで全速力で飛んできたのだろう、痛そうに腕を抑え、大量の汗を掻きながら、短い息を絶え間なく吐いている。それでも闘志はまだまだ健在のようで、油断なくこちらを睨め付けていた。

 

 

『遥か彼方に投げ飛ばされて早数分、やっと戻ってきたと思ったら、麗日戦で見せた特大火力をぶつけやがった! 勢いと回転も加わってまさに人間榴弾! ヤバすぎる! ……って言いたかったけど、今のをモロに受けても平気って、それってどうなん? あいつの体どうなってんの? こんな事言うのもあれだけど、これ爆豪に勝ち目あるの?』

 

『さあな、これからどうなるかはまだ分からん。だが、あのイカれた耐久力もそうだが、桁外れのパワーにスピード、更には安定した飛行能力。勝ちに行くならそれらを全部、爆豪は攻略する必要がある』

 

『……改めて聞くと、本当にとんでも性能だな。何というかこう、強いよね。ただひたすらに強いって感じ。そんな奴がなんでサポート科にいるのって思うけど』

 

 

 スピーカーから響いてくる2人の声を聞き取りつつも、彼は爆豪から片時も目を離さない。

 

 対して、今までの戦いでかなりの体力を使ったであろう爆豪は、最大火力の必殺を食らってもなお平然としている彼に、疲労で震える体を抑え込みつつ怒りの声を上げる。

 

 

「……てめぇ、さっきはよくもあんな事してくれやがったなぁ。おかげでこちとら大量に汗を掻いて更に爆破の威力が上がったぞ! ……あ? 何が言いたいかって?」

 

 

 いきなり会場の外に投げ飛ばされてやはりというべきか、爆豪はちゃんと怒っていた。しかも皮肉まで言うほどに。そして、この後に続く言葉が何となく予想出来てしまうのは、彼が爆豪の行動パターンに大分慣れてきた証拠だろう。

 

 

「てめぇを……ぶっ殺す」

 

 

 やはり想像通りだった。絶対に『殺す』という単語を使ってくると思っていた。既に分かっていた。予想が見事に的中し、彼は心の中でガッツポーズを取った。

 

 そんな事を考えている内に、爆豪はすかさず爆破の衝撃で飛び上がって彼に接近する。

 

 

「オラァァァァーッ!!」

 

 

 頭上からハンマーを振り下ろすような動作で両腕を振り下ろし、その勢いで顔面に爆破を1回。すかさず彼の頭部を直接掴み、ゼロ距離からの爆破を更に複数回。隙を見せない二段攻撃で揺さぶりをかけようとする。

 

 だが、爆破を顔面に食らっても彼は無傷のままで、煙たそうに咳き込んでるだけ。戦い始めの時となんの変化もない。その様子を見て、反撃される前に爆豪は距離を取った。

 

 

「クソが……どうなってんだよてめぇの体」

 

 

 先程食らわせた必殺技も彼には全然通用せず、顔面に爆破を繰り返しても煙たがれるだけでダメージは全くない。彼からの反撃は一切ないのに、戦いを続ければ続けるほど彼我の戦闘力差が如実に表れていく。

 

 爆豪もその事実に薄々勘付いてはいたが、心の奥底で認めたくない自分がいた。まさか、今の実力ではどう足掻いても勝てない存在が同じ学年に、ましてやヒーロー科でも普通科でもなくサポート科にいるなんて誰が想像出来ようか。

 

 そして何よりも、オールマイトが勝つ姿に憧れて、最後には必ず勝つヒーローを目指す爆豪自身、『絶対に勝てない』なんて考えを持つわけにはいかなかった。もし認めてしまったら、それは爆豪にとって完全敗北を意味する。だからこそ闘志を燃やし続け、たとえ無駄だと分かっていても攻撃の手を止めなかった。

 

 そのはずだった。しかし、最初の時と状況が全く変化していない現実を嫌でも目の当たりした事で、流石の爆豪も思わず苦笑いを浮かべた。

 

 そんな爆豪の心情など知る由もない彼は、何を思ったのか突然背を向け、場外に向かって歩き出した。その行動に一瞬呆気に取られる爆豪だったが、すぐに気を取り直して彼に怒号を飛ばす。

 

 

「おいてめぇ! なんで俺に背を向けて歩き出してんだ! 馬鹿にしてんのか!」

 

 

 その疑問に彼は歩みを止めて振り返り、はっきりと答えた。

 

 アイテムを大々的に披露するという1番の目的を果たしたので、もうこれ以上体育祭に参加する意義がなくなった。だから自ら場外に出て早く体育祭を終わらせよう、と。

 

 彼が言い放ったあまりにも酷い返答は、爆豪の逆鱗に触れた。

 

 

「……て、てめぇ! どこまで性根が腐ってやがるんだ! どこまで俺()を侮辱すれば気が済むんだ! あぁ!?」

 

 

 性根が腐っているとは言うが、爆豪も選手宣誓であんな発言をした以上お互い様だろう。選手宣誓での優勝宣言は相手を貶すためではなく、自分自身を追い込んで鼓舞するためだというのは察しが付くが、それでもだ。どうしても粗野な言動が目立ってしまう。

 

 とはいえ、爆豪の本質はそこまで酷いものではないという事は分かっている。さらりと「俺」ではなく「俺達」と言ったり、騎馬戦の時にチームの力を信頼してB組から鉢巻を奪い返したり、麗日戦では相手の実力を認めて正々堂々と全力で戦っていたりと、良く探せば至る所でさりげない信頼をクラスメイトに寄せているのだ。そんな爆豪と酷さ対決をすれば、勝つのは間違いなくこちらだろう。

 

 

「あっ!? 待てやてめぇ! 無視すんな!」

 

 

 彼はそう思いながらも引き止めようとする爆豪の言葉を無視し、再び場外へ歩を進め……ようとして、数歩進んだ所ではたと立ち止まった。

 

 爆豪の静止に正直に従ったわけではない。ただ、先ほど爆豪を投げ飛ばした時にプレゼントマイクに言われた事をふと思い出したのだ。『爆豪を投げ飛ばして自分はやりたい事やるって鬼畜の所業だ』と言われた事を。

 

 ここで自ら負けるのは簡単だ。場外に出れば良いし、何よりこれ以上試合を続ける意義が彼にはない。それは変わらない。だが、自分はやりたい放題やっておきながら相手の要望に応えずとんずらするのは、それは幾ら何でも不義理ではないのか? そんな事を思った。あの発目でさえ、基本的には自分本位な行動ばかり取るが、発明絡みの約束事は守るし最低限の義理は通す。

 

 そして彼自身、これまでの試合で骨抜や轟の期待に応えてきた事実がある。これで爆豪だけ仲間外れはあんまりな話だろう。流石に爆豪が可哀想だ。

 

 彼はくるりと振り返り、爆豪と向かい合った。ほんのちょっとだけ思い直した結果だった。

 

 

「ッ!! ……はっ、やっとその気になったかよ」

 

 

 前言撤回、試合を続行する意思を汲み取った爆豪は、一瞬ホッとした顔を浮かべ、そしてすぐさま臨戦態勢に入った。

 

 

『場外まで歩こうとしてて一瞬ヒヤッとしたけど、どうやら試合を続ける気になったみたいだな! 爆豪の引き止めが通じたかぁー!?』

 

『そんな感じには見えなかったが……まあ良いか』

 

 

 実況の2人と観客達の歓声が盛り上がりを見せる中、爆豪が大声を張り上げる。その表情はどこか嬉しそうだった。

 

 

「行くぜ! 今度こそがっかりさせんなよ!」

 

 

 爆豪の掛け声に、いつでも掛かって来いという意図を込めて腰を落とし、身構える。

 

 それにしても、相手は度重なる連戦で既に疲労が蓄積し、本当はかなり無理をしているはずにも拘わらず、まだ戦う気満々なのは驚愕に値する。

 

 スタミナがあるから、という理由だけではもはや説明が付かない。それももちろんあるだろうが、それだけが動ける理由ではないだろう。他のヒーロー科の生徒なら個性の使い過ぎでとっくの昔に倒れている。

 

 あるのは執念。勝利に対する異常なまでの執念。恐らく今の爆豪の体を突き動かしているのはそれだ。それでもただの勝利ではなく、完膚なきまでの勝利だ。その覚悟は生半可な意思では保てない。

 

 たとえどんなに自分が不利な状況に立たされたとしても、それでも常に完璧な勝者であろうとする。相手が誰であろうと全身全霊を賭けて勝ちに行く。これが爆豪勝己という男なのかもしれない。今までの会話や戦いを振り返り、彼はそんな事を思った。

 

 そんな爆豪が力強く地面を蹴った。

 

 

「しゃおらああああーッ! 歯ぁ食い縛れ!」

 

 

 意図的か無意識か、好戦的な笑みを浮かべた爆豪が一直線に飛びかかり、左手で彼の体操服の上着を握り締めて高く飛び上がる。

 

 もう片方の手で爆破を繰り返して推進力を確保、加えてバランスを崩さないように器用に掌の角度を調整している。一見簡単そうに見える動きだが、慣れない者がやろうとすると忽ちバランスを崩し、地面と熱烈な口付けをする事請け合いだ。血塗れの顔面をくしゃくしゃにしながら、苦痛に泣き叫ぶ事だろう。

 

 故に難易度の高い動作を無意識にやってのける爆豪は、やはり戦闘の天才と言わざるを得ない。無理を押して尚動けば動くほどキレが増し、感覚も疲労で鈍るどころか徐々に鋭敏になっている節がある。

 

 なるほど、爆豪が他のヒーロー科とは一線を画す実力を持っているわけだ。これは強い。たとえ彼と爆豪との間に絶望的な力の差があったとしても、誰が何を言おうと爆豪の実力は本物だ。今後も著しい成長を遂げるだろう。

 

 

「くたばれぇぇぇぇーッ!!」

 

 

 物騒な掛け声と共に場外に向かって彼を投げ飛ばす爆豪。先程遥か彼方まで投げ飛ばされた際の意趣返しなのか、投げる瞬間の服を掴む力が必要以上に強い気がした。

 

 そして特大の爆発を起こし、その衝撃波と風圧で彼の体を更に場外へ押し出す推進力を生む。上空でそんな事をされた彼の行き先は、偶然か故意か、地面ではなく観客席だった。それもヒーロー科A組の。

 

 

「わわっ!? こ、こっちに来る!」

 

「あかん! このままやとぶつかる!」

 

「皆伏せろーッ!!」

 

 

 投げ飛ばされた方向の延長線上に座っていた緑谷は突然の事態に慌てふためき、隣に座る麗日も焦り、爆豪の友人である切島がクラスメイト達に伏せろと咄嗟に声を張り上げた。

 

 その声に反応して即座に回避行動が取れるのは流石ヒーロー科と言うべきか。全員が一斉に伏せ、A組に向かって飛んでくる彼の姿を並ぶ椅子の隙間からそっと見た。

 

 だがその必要は無かった。投げ飛ばされた彼がA組の座る席にぶつかる直前、いきなり空中で静止したからだ。目と鼻の先だった。

 

 

「う、嘘でしょっ!? かっちゃんにあんな勢いで投げられたのに……!」

 

「信じられへん……あとデク君凄い顔しとる」

 

 

 騒つくA組の声には耳を貸さず、彼は空中で態勢を整える間もなくその場から姿を消した。僅か数秒の出来事で、彼が消える瞬間は誰の目にも追えなかった。

 

 それは観客席にいたA組のみならず、上空にいる爆豪も例外ではない。どうせ投げ飛ばしても対処されるだろう事は想定内だったが、分かっていても見えなかった。

 

 

「ちっ、どこに消えやがったあいつ……!」

 

 

 その疑問はすぐに解決した。なぜならその言葉を口にした時にはもう、彼は爆豪の背後に回っていたからだ。気配を完全に殺し、爆豪を見下ろす形で空中に留まっていた。

 

 

「ッ!? このやろ……!」

 

 

 背後にいる彼の存在に気付いた爆豪が、振り向きざまに爆発を起こそうと腕を振るう。後ろの存在に気付いてからの対応の早さは流石と言える。

 

 それでも背後を取られた時点で時すでに遅し。爆豪の攻撃が振るわれる前に、彼はカッと目を見開いた。

 

 瞬間、膨大な質量の空気圧と衝撃波が爆豪を襲う。彼の放った気合い砲が炸裂したのだ。もちろん威力は弱くしたが、爆豪の戦闘力を考慮すれば十分な威力だろう。回数を重ねる毎に気の調整が上達しているのを実感する。

 

 

「ガッ!? うがああああああッ!!」

 

 

 気合い砲を食らい苦痛に叫び声を上げながら地面に落下する爆豪は、その傍ら頭を高速回転させどうやって現状を切り抜けるか模索していた。

 

 

(このままじゃあ後1,2秒で地面にぶつかる! この勢いはマズい、流石にやられる! どうする!? いや、方法は1つしかねえ! 地面にぶつかるギリギリで最大火力をぶっ放し、勢いを相殺する! 間に合え……!)

 

 

 咄嗟に体を捻じり地面に向かってうつ伏せの状態になった爆豪は、その両手から自身が今出せる最大限の爆発を起こす。

 

 

「ああああああああーッッ!!」

 

 

 幸か不幸か、勢いそのままに叩き付けられる事は無く、爆発の衝撃で何とか威力の相殺に成功。辺り一面に真っ赤な絵の具を塗らずに済んだ。

 

 しかし、それでも落下の勢いは残ったのか、爆豪の体は地面の上を何度もバウンドしながら転がり、ステージの端でようやく止まった。

 

 頭部や手足からは血も僅かに滲み出ており、彼の気合い砲がいかに強烈だったのかが伺える。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 会場内の全員がシンと静まり返って息を飲む中、爆豪がフラフラになりながらもゆっくりと立ち上がる。その様子をステージに降り立った彼はジッと見ていた。

 

 

「ハァー、ハァー、ハァー……ち、畜生が……!」

 

 

 激しく息を切らし、見るからに満身創痍の姿となった爆豪に、戦いをまだ続けるのかと彼は尋ねた。疲労とダメージの積み重ねでそろそろ限界が来てもおかしくないと思ったからだ。

 

 

「馬鹿言うな……続けるに決まってんだろ」

 

 

 だが、降参の意志が爆豪にない事は、未だ衰えていない鋭い眼光が証明していた。

 

 恐らくそう言うだろう事は予想していたし、案の定戦いを続ける気満々だった。しかし何度も言うが、今のダメージで本当に限界間近だと思われるので、あまり無理をしない方が身のためだ。

 

 勝利に執着するのは大いに結構だし立派な志だが、今ここで身を滅ぼすような真似はしなくても良いだろう。そういう事はもっと先、ヒーローとして活躍するようになってからでも十分だ。少なくとも今ではない。

 

 だから、悔しいと思うがもう少し自分の体を労ってあげたらどうだろうか。『いのちだいじに』という奴だ。

 

 大体、そんなフラフラの状態でどうやって戦いを続けるというのか。その様子だと出血、擦り傷、幾らかの骨折及び脳震盪まで起こっているはず。仮にまだ動けたとして、それでも勝てる保証があるわけでは──。

 

 

「うるせぇな」

 

 

 地の底から這い上がってきたかのような、そんな重く冷たい声に彼は思わず閉口する。一瞬だけ、爆豪の放つ気迫に気圧されてしまった。

 

 

「勝つんだよ……絶対に勝つんだよ! それが、()()()()()()()()()……!」

 

 

 爆豪が放ったその一言に、彼は僅かに目を見開いた。

 

 今まで爆豪の事は、粗野な言動とは裏腹に周囲への信頼を寄せ、最後まで勝利に執着する志の高い人、というイメージを持っていた。恐らくそのイメージは間違っていないだろうが、勝利に拘る動機については一切知らなかった。

 

 しかし今、その動機を知った事で、爆豪の中にあるヒーローの素質が垣間見えたような気がした。暴虐の底に眠る、如何なる干渉にも屈しない誇り高き正義の心を。

 

 どうやらもう少しだけ、爆豪に対するイメージを修正する必要がありそうだ。知れば知るほど、目の前の相手を上辺だけの行動で判断すべきではないと思い知らされる。本当に、面白い人だ。

 

 だが、それとこれとは話が別だ。試合をこれ以上続けるわけにはいかない。いや、いかなくなったと言うべきか。

 

 一度聞いておいてなんだが、先程から爆豪の頭部から流れ出る血の量が徐々に増えている事に気付いた。最初は滲み出る程度だと思っていたが、どうやら想定していた以上に重傷だったらしい。このまま続けたらいよいよ爆豪の生命に関わる。よって、早急に戦いを終わらせ頭部の治療を行う必要がある。

 

 満身創痍でフラフラの状態ながらも、彼を鋭く睨め付ける爆豪の意識を刈り取ろうと彼は身構えた。

 

 

「ハァー、ハァー……来やがれ、このやろ──」

 

 

 そして、移動したとすら認識出来ない速度で爆豪の背後に回ると、その首元に当て身を食らわせる。慎重に、しかし素早く冷静に。

 

 

「うっ!? て、てめぇ……」

 

 

 果たして首元を小突かれた爆豪は、何かを言いかけようとして倒れ込んだ。首の骨が折れていないか調べ、何の異常もない事を確認。力の調整が完璧だったのは良いが、喜ぶのは後にして急いでリカバリーガールの元へ搬送しなければ。

 

 この時点で体育祭の優勝者が決まってしまったが、それでもこれ以上無理に続けるよりはマシだろう。

 

 そんな事を思いながら爆豪を抱えた彼は、主審であるミッドナイトの方を見た。急いで試合終了の合図を出してもらうために。

 

 その意図を汲み取ったのか、ミッドナイトはゆっくりと首を縦に振ると、片手に持った鞭を高々と掲げて言った。

 

 

()()! よって勝者は、()()()()!」

 

 

 耳を疑った。フラフラの相手を気絶させたのだ。どう見ても勝者はこちらのはずなのに、まさかの爆豪の勝利宣言。彼は思わず抗議した。

 

 確かに優勝する気はなかったが、それでも虚偽の結果を宣うのは頂けない。あまり変な事を口走らず、今一度状況をよく見てほしい、と。

 

 だが、その抗議にミッドナイトは首を横に振ると、足下を指差して彼に言った。

 

 

「よく見てほしいのはこっちの台詞よ。自分の足下と今いる場所をよーく確かめてご覧なさい。爆豪君はこちらで搬送しておくから」

 

 

 ミッドナイトにそう言われ、満身創痍の爆豪を救護ロボに預けた彼は視線を足下に移した。そして気付いた。

 

 彼が今立っている場所は爆豪の背後。爆豪は彼の気合い砲によってステージの端まで転がされた。

 

 ステージの枠を定めた白線は、度重なる爆破の衝撃と熱によってそのほとんどが消し飛ばされ、境界線を目視で確認するのは難しい。しかし、四隅の部分は僅かに白線が残っており、そこから慎重に辿っていけば場外かそうでないかの判断が付く。

 

 よって、僅かに残った白線を基点として、今立っている場所まで目視で辿っていくと……彼の右足の踵部分のみ、ステージの枠外の地面に触れていた。紛う事なき場外だ。

 

 以上の事を纏めると、爆豪を気絶させようと背後に回った時点で彼の場外負けが既に決定しており、その後で当て身を食らった爆豪が気を失ったという流れになる。あの一瞬で場外と判断したミッドナイトは流石主審というべきか。鋭い観察眼である。

 

 彼は頭を抱えた。

 

 

『えっ、いや……ええええええええー!? そんな事ある!? そんな事あるの!? いや、確かにぱっと見じゃあ場外かどうかなんて判断するのは難しいけどさ! 難しいけどさぁ! こんな呆気ない形で終わるか普通!? ねぇ!? ちょっと! ええええええー!?』

 

『まあ落ち着けマイク。色々言いたい事はあるだろうが、それでも決着は決着だ。どんな結果であれ、両者の健闘を称えてやったらどうだ?』

 

『あ、うん、それもそうだな。……えー、それじゃあ、予想外の結末を迎えた決勝戦だったけど、とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!』

 

 

 会場内に微妙な空気が流れる中で起こった拍手を一身に浴びて、彼は深い深い溜め息を吐き、ちらりと発目のいる席を見やった。

 

 果たして一連の様子を観客席から見ていた発目は抱腹絶倒、彼を見ては何度も噴き出し、豪快な笑い声を上げていた。

 

 彼は不貞腐れた。

 

 

 


 

 

 

 ──試合終了から数十分後。

 

 雄英体育祭の全過程が終了し、表彰の時間に移った。1位から3位の者までが表彰台に上がり、先生からメダルを授与されるのがこの学校の伝統だ。

 

 今年のメダル授与者はなんと、あのオールマイトが行うという話を風の噂で耳にした。やはり今年度から教師として赴任してきた事もあって、より多くの注目が雄英に集まっているからだろうか。

 

 

「ねえ、何あれ……」

 

「起きてからずっと暴れてんだと」

 

 

 そんな事を考えながら2位の表彰台に立った彼は、1位の方から飛んでくる唸り声を無視し、表彰式が始まるまで空に浮かぶ雲の数を数え始める。

 

 

「────ッッ!! ────ッッ!!」

 

 

 雲を数えながら、彼は別の事も考えていた。これからの事についてを。

 

 今回、雄英体育祭という場を借りて大々的に全世界へ披露したホイポイカプセルを今後どのように売り出していくべきか。先程ニュースを確認したら、物流を担う多くの企業の株価が既に大暴落を引き起こしており、中小企業に至っては倒産しそうな勢いだった。あの様子だと、本当に倒れてしまうまで秒読みだろう。

 

 こうなってくると大量の失業者を世に輩出する上に日本経済全体にも影響が出るわけで、恐らく政府から色々と難癖付けられるだろう事は容易に想像できる。というか、政府としては文句を言わざるを得ない。

 

 職を失った者の中にはホイポイカプセルを披露した彼に恨みを抱き、敵として襲撃に来る輩が出てくるかもしれない。個性社会である現代、誰もが人に危害を加えられる過ぎた力を持っているのだ。そのような事が起こっても不思議ではない。

 

 しかしその一方で、ホイポイカプセルを求めて多くの企業が寄ってくるのは確実。特に自動車産業や建設業を営む企業はその傾向が強くなるだろう。いや、自動車産業もホイポイカプセルと一緒に紹介したエアカーとエアバイクのせいで多大な影響を受けるかもしれない。

 

 意外な事に、今はまだそこまで影響は出ていないが、あと数年もすれば徐々に大きくなっていき、やがて無視出来なくなってしまうだろう。何気にエアカーシリーズも革新的な発明なのだ。余り舐めてもらっては困る。

 

 いずれにせよ、今後ホイポイカプセルは慎重に扱っていかなければならない。とはいえ開発には彼のみならず両親も携わっているので、その責任は両親の肩にも当然圧し掛かる。そもそも両親の力添えが無ければ、ホイポイカプセルなんて代物は絶対に作れなかったが。

 

 

「────ッッ!! ────ッッ!!」

 

 

 今後の事について色々と考えている内に、いよいよ表彰の時間となった。

 

 主審のミッドナイトがメダル授与者の名前を呼び、それがステージの屋根から飛び降りてきたオールマイトの掛け声と重なってしまうというハプニングがあったものの、何事もなかったかのようにオールマイトがメダルを手に取った。

 

 3位の常闇と轟へ順々にメダルが授与され、一言二言会話がなされると次の表彰者へ。そしてあっという間に2人のメダル授与が終わり、彼の番となる。

 

 

「2位、おめでとう! まさか一緒にビンゴダンスを踊った君があんなに強いとは思わなかったよ! 驚いた! 今日最も注目を集めたといっても過言ではないだろうね!」

 

 

 オールマイトからのお褒めの言葉、彼はありがたく受け取った。本当はここまで勝ち上がる気はなかったのだが、今更そんな事を言っても嫌味にしか聞こえないので余計な事は口にせず、当り障りのない受け答えで対応する。

 

 

「でも君の戦いを見てると、攻撃力が些か過剰なんじゃないかって思うんだ。今後その無駄をもっと削る事が出来れば、君は更に強くなれる! 応援してるよ!」

 

 

 精一杯の手加減ですらあれなのに、正直あれよりも更に弱くとなると難しいどころの話ではない。オールマイトは一体何を求めているのだろうか。

 

 そもそも、どうして今後も戦う事を前提として話が進んでいるのか。仮にヒーローの道へ誘おうと思っているのであれば、是非とも止めてもらいたい、割と切実に。

 

 その間にオールマイトから2位の証である銀メダルを授与され、それを首に掛けた。

 

 ……さて、そろそろツッコむべきか。

 

 

「さて爆豪少年! 宣誓での伏線回収、見事だったな! おっと、その前にこれを外してと……」

 

 

 爆豪の前に立ったオールマイトが、その口に取り付けられている拘束具を外した。

 

 

 ──表彰式が始まる前、リカバリーガールの治癒によって完全回復した爆豪は、決勝戦の結末を聞くなり狂ったように暴れ出した。

 

 なぜ暴れ出したのかは何となく察しが付く。だからといってその場で暴れるのは論外だ。

 

 だから、その場にいた先生達が宥めようとしたが結局収拾が付かず、かといってこのまま表彰式に出させるのはマズかったので、その折衷案として提案されたのが爆豪を拘束具で雁字搦めにするという方法だった。

 

 その結果どうなったか? 石柱に拘束具で固定された爆豪が血走った目でこちらを睨み続け、低い声で唸りながら左右に揺れて暴れ出すという事態になった。クラスメイトからは「締まらない1位だ」と揶揄されていたが、それも当然の事だろう。

 

 

 そんな爆豪の口にあった拘束具が外され、怒りで限界まで捻じ曲がった顔が露わになる。凄い顔だ。

 

 その顔を見るや否や、オールマイトが一瞬たじろいだ。

 

 

「オールマイトォ……こんな1番なんて何の価値もねえんだよ。世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!」

 

 

 だが、底冷えするような爆豪の怒りを前に、オールマイトは気を引き締めて努めて冷静に、落ち着き払った口調で爆豪を褒め称える。

 

 そして、金メダルの受取を拒否する爆豪の口に無理やりメダルのひもを引っ掛けて受け取らせると、観客達の方を振り向き大声で言った。

 

 

「さあ、今回は彼らだった! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い、高め合い、更に上へと登っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!」

 

 

 何度も言うが、彼はここに立ちたくて勝ったわけでは無く、ヒーローになるつもりも毛頭ない。だからこそ湧き上がってくる場違い感に、彼は思わず苦笑を浮かべた。

 

 

「てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和下さい! せーの……!」

 

 

 1人だけ仲間外れにされた様な気分を味わっていると、オールマイトから締めの言葉を要求された。

 

 ここにきて締めの言葉となると、勿論あの言葉しかないだろう。彼は大きく息を吸った。

 

 

「「「「プルス「お疲れ様でした!!」ウルトラ!!」」」」

 

 

 ……最後の最後でやらかしてしまったオールマイトに、全員の微妙な視線が突き刺さる。

 

 シンと静まり返った会場内で、痛いほど突き刺さるその視線に遂に耐え切れなくなったオールマイトは、冷や汗を大量に流しながら恐る恐る口を開いた。

 

 

「いや、あの、そのぉ……疲れたろうなと思って、つい……ごめん」

 

 

 最後の最後までハプニングだらけの体育祭となった。めでたしめでたし。

 

 

 




今話をもって遂に終わりました、体育祭! いや、本当に長かったです。疲れました。
さて、今回の体育祭で世間からかなりの注目を集めてしまう事となった主人公は、これから先どうなっていくのでしょうか? 
次回から新章スタートです(もしかしたら閑話を挟むかもしれないけど)。
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