サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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投稿期間が過去一番に開いてしまいました。すみません!
続きを書こうにも中々書く時間が取れず……(刃牙おもしれぇ……SPY×FAMILYおもしれぇ……!)
まあ何はともあれ新章スタートです。ここから主人公を取り巻く環境が徐々に変化していく……はず!


第2章
第12話 なるほど、人間の屑ですね!


 雄英体育祭が終わった。波瀾万丈が続いたその日の話題性は世間を賑わすのに十分だった。

 

 話題の中心はもちろん、サポート科でありながら他のヒーロー科を圧倒し、現役ヒーロー顔負けの実力を見せた彼だ。決勝戦でホイポイカプセルという世紀の大発明品を披露したのも注目を集める要因となっている。

 

 ある人は言った、彼は将来有望なトップヒーローの卵だと。

 

 またある人は言った、彼はこれからも世界に革命を起こす大発明を生み出す天才だと。

 

 誰もが一度はヒーローを目指す現代、世間ではヒーローになるべき人材だという声が圧倒的に多い。彼は研究者としての道を歩む方が相応しいという声は全体で見れば少数派だ。これもヒーロー飽和社会故の影響だろう。

 

 いずれにせよ彼に注目が集まっている事に変わりない。だが、彼に注目しているのは何も世間だけではない。

 

 

「ヒーロー科の生徒以外にもこんな面白い子がいたなんてね。リアルタイムで見た時は驚いたよ。そう思わないか、ドクター?」

 

「確かに、なぜヒーロー科にいないのか不思議なくらいだ。何か裏があるのではと疑いたくなるほどにの」

 

 

 日本国内、某所。とある2人組が雄英体育祭の録画を見ながら、サポート科の彼について語り合っていた。

 

 

「映像で確認しただけでも、パワー、スピード、耐久力、機動力、反射神経、どれもオールマイトに匹敵するものばかり……いや、匹敵なんてものじゃないね。間違いなくそれ以上だ。USJに送り込んだ脳無程度ではとても歯が立たない」

 

「明らかに手を抜いていた。にもかかわらずあのレベルじゃからのう。本気を出せば確かにオールマイトなんて目じゃないだろう。経験値くらいか? オールマイトがあの子に勝っているのは」

 

「ヒーローとしての精神性もだね。少なくとも、あの子からヒーローの志なんてものは感じられなかった。どちらかといえば、ヒーローではなく僕達よりの精神だろう」

 

 

 2人は彼の事を良く見ていた。故に見抜いていた。彼が決してヒーローになるべき人材ではない事を。世間では彼をヒーローとして育てるべきだという声が跡を絶たず、雄英高校もその対応で困り果てているのだが、分かる人には分かっていた。特に、裏社会でそれなりの年月を過ごした者にとっては。

 

 体育祭の決勝戦時における彼の行動は、そのどれもがヒーローを目指す人には絶対に真似出来ないものばかり。彼が披露したホイポイカプセルによる影響も加味すれば、下手な敵よりも敵らしかった。

 

 その事実に気付く者が果たして何人いるのか。少なくとも、ここにいる2人はすぐに気付いた。

 

 

「それにしてもオールマイトを彷彿とさせるあの力、最初見た時は彼が後継者かなぁと思っていたんだけどね……」

 

「違うのか? 精神性はともかくとして、実力は間違いなくオールマイト以上じゃろ? あんなのはそうそういるものではない。ヒーロー科ではないのも、我々の目を欺けるための作戦かもしれないと先生も呟いていたはずだが……」

 

 

 白衣に身を包み丸眼鏡をかけた老人の疑問に、体の至る箇所に点滴を取り付け、口以外の顔のパーツがないスーツ姿の男が首を横に振って言葉を続ける。

 

 

「確かにそうなんだけどね、その精神性が問題なんだ。さっきも言ったけど、彼にヒーローとしての志はない。果たしてオールマイトが彼のような人材を後継者として選ぶと思うかい? 感情論で動く短絡思考の平和主義者が」

 

「……うむ、無いな。オールマイトの性格を考えたら、絶対にあの子を後継者として選びはしない。むしろ敵予備軍として警戒するだろう。そうなると、真の後継者は別にいると考えた方が妥当なのか?」

 

「まだ仮説に過ぎないけどね。でもオールマイトの後継者と思しき子は他にも見受けられた。サポート科の彼を後継者と断定するのは早計だよ。そもそも力を譲渡したのかどうかすら確定したわけじゃないし」

 

 

 どうしようもない、とでも言いたげに肩を竦めるスーツ姿の男に、白衣の老人は深い溜め息を吐く。

 

 

「情報が足りない、という事か。いずれ分かる事とは思うが、こうも不確定な要素が多いと不安になるのう。彼がヒーローになるか否かにかかわらず、あの力は無視できるものではないし」

 

「まあいずれにせよ、弔には頑張ってもらうしかないね。まだまだ至らない点は多いが、ヒーローも弔の成長を待ってはくれない。だからこそ、僕らも出来る限りの教育を施して、より一層の成長を促さないと」

 

 

 会話が一段落ついた所で、次の話題に移ろうと老人が口を開きかける。だが、その前にポンとスーツ姿の男が手を打った。何かを思い出したかのように。

 

 

「そうだドクター、あの子が体育祭で披露したホイポイカプセルってアイテム、今度取り寄せてくれないかい? 僕は自由に動ける状態じゃないから、代わりに買って来てほしいんだ。流行り物には目がなくってね」

 

 

 男の頼みに、老人はゆっくりと振り返ってコクリと頷く。

 

 

「先生に言われんでも分かっとる。ワシとてあれは是非とも欲しい。ただ、市場に出回るのはしばらく先になると思うから、それまで待っといてくれ」

 

「ありがとうドクター。いつも僕の頼みを聞いてもらって悪いね」

 

「何を今更。ワシと先生の仲じゃろう? 無理をしないで安静にしておくれ」

 

 

 2つの悪意は高らかに笑う。

 

 

 


 

 

 

 ──所変わり、福岡県福岡市。

 

 ここに、1人のヒーローが颯爽と空を駆け抜けていた。太陽の光を反射して煌びやかに輝く紅の翼を目一杯広げ、優雅に羽ばたくその姿は、見る者全ての注目を集めて魅了する。

 

 そして事件が起きれば目にも止まらぬ速さで現場に駆け付け、幾千枚もの硬い羽を正確に制御しながら事件解決まで導く。それが終われば集まったファンへのサービスをそつなくこなし、また次の事件現場へ足を運ぶ。

 

 ヒーロービルボードチャートJP上半期第3位、ホークスのいつもの仕事風景である。そんなホークスの元へ、とある一本の電話がかかってきた。

 

 

「はいもしもし、こちらホークス……って、あなたですか。急にどうしたんです? 今仕事中なんすけど?」

 

『先日の雄英体育祭の件について少し調べてほしい事が出来たから、折り入ってあなたに電話をかけました。ここまでは良いわね?』

 

 

 電話の向こう側から聞こえてくる女性の声に、ホークスは気怠そうに頭を掻き毟りながら応対する。

 

 

「あー、どうせあれでしょ? サポート科のあの子でしょ? 雄英体育祭で調べてほしい事と来たらそれしかありませんし。ですよね?」

 

『話が早くて助かるわ。じゃあ早速だけど、まず彼が体育祭で披露したアイテムについて詳しい情報を集めて来てほしいの。良いわね?』

 

「えー、ちょっと待ってくださいよ、それ本当に俺が動く必要あるんすか? 俺、基本的に九州で活動してるんすよ? その気になれば日本列島縦断も数時間で出来ますけど、行き帰りは楽じゃないんすから。ホイポイカプセルでしたっけ? あれを詳しく調べたいならそっちで直接やれば良いじゃないっすか。その方が手間省けますし、楽でしょう? そもそも、その調査はウチじゃなくて経済産業省とかの管轄じゃ──」

 

『何か言ったかしら?』

 

「……いいえ、何も」

 

 

 色々と御託を並べ、面倒な仕事をどうにか回避しようと試みたホークスだったが、電話越しでも伝わる女性の有無を言わさぬ圧力を前に、大人しく首を縦に振った。

 

 

『……話を戻すわ。あなたには今からホイポイカプセルの調査に行ってもらうわけだけど、これはあくまでおまけ。いえ、勿論それも大事だけど、本当に調査してほしい事は別にあるわ。それは──』

 

「彼の力の正体について、でしょ? 最後まで言わなくても分かりますよ、それくらい」

 

『……流石ね。こちらが言いたい事は既に把握済みって事かしら?』

 

「分かり易いんすよ。把握も何も、俺だって気になるもんですし」

 

 

 相手が最後まで言い切る前に、後の言葉を全て言ったホークスは肩を竦める。

 

 体育祭の様子はラジオを通じて把握していた。仕事中にテレビを見るわけにもいかないので、仕事を終えてから映像も一緒に確かめた。そこで分かった事がある。サポート科の彼は、間違いなく自分自身(ホークス)どころかエンデヴァーやオールマイトよりも上の実力だと。

 

 世間では、彼の実力はトップヒーロー並みだという認識だが、その認識は微妙にずれている。ヒーローになって、多くの敵やヒーローを間近で見てきたからこそ気付いた。

 

 あの力は放っておくには危険過ぎる。電話の相手が警戒するのも無理はないだろう。ホークスはそう思った。

 

 

『調べてほしい事は以上よ。やり方はそちらの自由で構わないから、出来るだけ多くの情報を集めてきて頂戴。こちらはこちらですべき事がたくさんあるの。敵連合への対応とか、最近巷を騒がせてるヒーロー殺しの事とか色々ね』

 

「あー、確かにそれも気になりますね。というか、敵連合の情報はまだ集めてないんすけど、締め切りってありましたっけ?」

 

『特にないわ。けどなるべく急いで。……そうね、雄英のヒーロー科ではそろそろ職場体験が始まるから、それを利用して情報を集めるといいわ。あなたはNo.3のヒーローだから、指名すれば高確率で来てくれるはずよ』

 

「その方が良さそうっすね。こっちから行くのも面倒ですし、向こうから来てもらいましょう。ああそうだ、あの子にも指名って出来ましたっけ? 各事務所2人まで指名出来るそうですけど……」

 

『やってみて頂戴。サポート科の子に指名した前例は全然聞かないけど、出来るには出来るわ。もしもの時のために、こちらから手を回す事も可能よ。それくらいならすぐに出来るけど……どうかしら?」

 

「ええ、そういう事ならお願いします」

 

 

 それから一言二言話し合った後、ホークスは電話を切ってポケットにスマホを入れた。そして深い溜め息を吐くと、気怠げに飛びながら愚痴を溢す。

 

 

「まーったく、面倒な仕事を押し付けてくれちゃって。本当に人使いってもんが荒いんだから」

 

 

 そう言いながらも、職場体験の指名に必要な書類を作成するため、急いで事務所に戻るホークスであった。

 

 

 


 

 

 

 体育祭が終わり、2日間の休校を経て学校へ向かう彼だったが、朝から困り果てていた。

 

 

「体育祭見たよ! 凄かったねぇ本当に! ヒーローデビューが待ち遠しいよ!」

 

「ねえねえ、なんでヒーロー科じゃなくてサポート科なの? 君なら絶対トップヒーローになれるのに!」

 

「雄英から嫌がらせとか受けてたりしない? 大丈夫? 困ってる事があったら私達が協力するよ?」

 

「あの、一緒に写真撮っても良いですか!」

 

「君、ウチの事務所に来る気はない? あっ、私こういう者でして……」

 

「リアルタイムで見たけど、あれとんでもない発明だよね! どういう仕組みなの?」

 

 

 朝の満員電車の中、体育祭での活躍振りを観戦していた人々が次から次へと話しかけ、ちょっとした人だかりが出来ていた。

 

 こうなるだろうとは予想していたが、実際に起こると非常に面倒で仕方がない。怒涛の質問攻めに彼は朝から対応を迫られ、精神的に疲れた状態で学校に行く羽目となる。

 

 学校に着くと多くの生徒から物珍しい目で見られたが、既に精神的にぐったりしていた彼は周囲の視線に目を向ける事なく教室へ向かった。

 

 

「おはよー……って、なんか凄いぐったりしてるけど大丈夫?」

 

「お前体育祭であんだけ暴れたら、そりゃあ声掛けられまくるに決まってるだろ。……まあ、お菓子あげるから元気だせよ」

 

「そんな事よりも今日の数学小テストあったよね? そんなに勉強してないんだけどイケるかなぁ?」

 

「赤点取らなきゃ大丈夫っしょ! 何とかなるって!」

 

 

 幸い、クラスメイトは普段の学校生活で彼の奇行振りに慣れているのか接する態度に変化はなく、教室と工房と我が家が安息の地だと彼は認識した。

 

 そんなこんなで分かりやすく周りの環境がガラリと一変した、その日の放課後。いつものように工房に立ち寄った彼は、発目と共に新たな発明に精を出していた。

 

 

「いやー、まさか1日限定の行事でここまで環境が変わるとは! 雄英体育祭様々ですね! 私も学校来る時に結構注目を集めたんですよ!」

 

 

 溌剌とした笑顔で語る発目は、工具を両手に抱えて目の前にある部品を弄り回している。そして彼との会話に夢中になって一瞬余所見をした時、回路を組み違えた瞬間を彼は見逃さなかった。爆発は免れないだろう。

 

 気付いておきながら発目に一切注意しない彼の畜生ぶりがありありと見える中、一緒に2人の会話を聞いていたパワーローダー先生が深い溜め息を吐いた。

 

 

「お前らなぁ……そりゃあ体育祭であんだけ目立ったらそうなるだろ。いやまあ、別にそこは良いんだ。胸を張って活躍するのは喜ばしい事だしな。ただ……やり方ってもんがあるだろ? なあ?」

 

 

 彼と発目は同時に目を逸らした。

 

 

「……おい、今なんで目を逸らした? やっぱりお前達も自覚あったんだろ? やり過ぎたって自覚が。そうだろおい? ……無視するな!」

 

 

 パワーローダー先生はお怒りだった。

 

 体育祭という場を利用し、自分勝手に暴れまくった2人を見て胃を痛め、遂には閉会式が始まる前に倒れ伏してリカバリーガールに看病されるという事態に陥った事もあり、何かを言わずにはいられなかった。

 

 良い歳した大人が生徒に向かって怒鳴り散らす光景は、傍から見ればとても大人気なく見える事だろう。しかし、パワーローダー先生のこの行動は正当な感情によるものである。少なくとも担任である先生だけは、2人に対して怒る権利があった。

 

 

「特にお前! 決勝戦で散々やらかしてくれたおかげで、今やあちこちで大混乱だぞ! 特に物流業界! 確かに、あのカプセルには度肝を抜かされた! 流石カプセルコーポレーションの御曹司なだけの事はある! 素晴らしい天才ぶりだ! その点は担任として誇らしいと思ったよ! ……でもな!」

 

 

 パワーローダー先生は険しい顔で彼に詰め寄ると、片手に持っていたスマホを見せる。

 

 

「これはこの2日間で変動した株価の推移、そのデータだ。見ろ、物流を担う企業の株価が大暴落している。そして資金力に弱い中小企業は軒並み倒産に追い込まれている状況だ。そのおかげで今雄英には大量のクレームが届いている。お宅の生徒のせいで職を失った、どうしてくれるんだってクレームが全国から大量に」

 

 

 それは大変だ、職を失ってしまった人達はなんて気の毒な事だろうか。彼は心にも無い言葉を棒読みで発する。

 

 

「うわぁ……」

 

「お、お前、いくらなんでもその言い方は……!」

 

 

 それを見て発目が一歩距離を取り、パワーローダー先生の表情がより一層険しくなる。

 

 だが、いくら険しい顔で詰め寄っても彼が揺らぐ事はないのを理解しているため、パワーローダー先生は怒りの感情を吐き出す様に深く息を吐いて気持ちを落ち着かせた。

 

 

「……かつてガラケーが広く使われていた時代に、とある企業がスマホという革命的な製品を売りに出した。その結果、あっという間に世界中でスマホが使われ始め、ガラケーは衰退の一途を辿り、遂には生産も止まってしまった。僅か数年の出来事だ。そんな過去が通信業界にはあったんだ。そして今、似たような事が物流業界で起き始めている」

 

 

 手にした資料を眺めながら静かに語り始めるパワーローダー先生に対し、彼は真剣な表情で耳を傾ける。

 

 

「お前の両親が創設したカプセルコーポレーションは、今や世界4大企業の一角を担う超巨大企業。そんな所が物流を変える発明品の販売を発表したんだ。例えまだ発表しただけで販売まで時間が掛かると言えど、世界中で影響が出るに決まってる。こうなる事は予想の範疇だったんじゃないか?」

 

 

 その疑問に、彼は迷う事なく正直に頷いた。

 

 彼はただ、観客達に強烈なインパクトを残すような発明を披露したかっただけだが、それが世間に及ぼす影響を考えていなかったわけではない。職を失う者、恨みを持つ者、混乱に乗じて悪事を企てる者、そんな輩が現れるであろう事は十分に予想出来ていた。それでも彼は、自身の目的を優先したのだ。

 

 何度も言うが、彼は好きな事のためなら他人を振り回す事も厭わない。どこまでも貪欲で、どこまでも自分本位な性格、それが彼なのだ。

 

 だから、ホイポイカプセルの発表で周囲にどんな影響が出ようが彼の知った事ではない。失業した者が現れようが悪事を働く者が現れようが、それは単なる結果論であって、彼の行動を止める要因にはならない。

 

 ただし、ホイポイカプセルの製作を手伝ってもらった両親も影響の煽りを受けてしまう事だけは申し訳なく思っている。彼は自身を大切に育ててくれた両親や親しい友人相手にはとことん甘いのだ。

 

 

「……はあ、まあ良い。過ぎてしまったものはもうどうしようもない。それに発明自体は素晴らしいからな。サポート科の先生としては手放しで褒めたいくらいだ。だが、今起こっている事の影響は必ずどこかでお前に返ってくる。くれぐれもその事を忘れないように。俺達教師も出来る限りの対応はするが……夜道を歩く時は背後に気を付けろよ。良いな?」

 

 

 それは承知している、当然だろう。彼は首を縦に振った。

 

 話に一段落付いたところで作業を再開しようと工具を手に取る彼と発目。だが、そんな彼の肩にパワーローダー先生がポンと手を乗せて言った。

 

 

「1つ言い忘れてたが、ちょっと今から校長室まで来てくれないか? 校長がお前を呼んでるんだ」

 

 

 


 

 

 

 ──遡ること数時間前、朝礼の時刻にて。

 

 休み明けのヒーロー科A組の教室では、担任の相澤が生徒達に今後の活動について話を進めていた。

 

 

「おはよう。早速だが今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」

 

 

 ヒーロー科のみ履修する授業、ヒーロー情報学。普段はヒーロー関連の法律やヒーロー活動の基礎など、ヒーローに関わる内容を重点的に学ぶ教科であり、頻繁に小テストが行われるため、一部の生徒からは苦手意識を持たれている。

 

 そのため、「特別」と聞いて何がくるのか警戒心が高まり静まり返る中、相澤が口を開いた。

 

 

「コードネーム、所謂ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「胸膨らむヤツ来たああああッ!!」」」」

 

 

 警戒から一転、一気にクラス内のボルテージが最高潮に達する。

 

 瞬間、相澤が鋭い眼光で生徒達の興奮を鎮める。このクラスではいつもの光景だ。

 

 

「……というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として期待できる2年生と3年生から。つまり、今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が無くなれば、一方的に関係断ち切り、なんてケースも珍しくない」

 

 

 ドラフト指名の現実を教えられ、ビクリと肩を震わせる生徒がちらほらと現れる。もしかしたら自分がそうなってしまうかも、という漠然とした不安が一瞬脳裏をよぎったためだ。

 

 

「んで、その指名の結果に関係なく、全員職場体験に行ってもらう。お前らはUSJの事件で既に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってのが目的だ」

 

「なるほど、それでヒーロー名の考案ってわけなんですね!」

 

 

 納得したと言わんばかりの満面とした笑みで頷く麗日の返事に、相澤は静かに肯定した。

 

 

「そういう事だ。そして気になる指名の結果だが……今年はかなり特殊だぞ。まず、A()()()この2人に注目が偏った。例年はもっとバラけるんだがな」

 

 

 教室のスクリーンに表示されたグラフには、2人の生徒に多くの票が入っていた。体育祭で活躍した轟と爆豪の2人に。

 

 ただ、優勝したはずの爆豪より3位の轟の方が多くの票を集めている結果に教室内が騒がしくなる。

 

 

「あーあ、白黒ついちゃった! 悔しい!」

 

「見る目ないよね、プロ」

 

「というか1位と3位逆転してんじゃん。やっぱ表彰台で拘束されたヤツとかビビるもんなぁ」

 

「ビビってんじゃねーよプロが!」

 

「わああああ! 指名あったよ飯田君!」

 

「うむ、良かったじゃないか麗日君」

 

「お前の指名、全然無いな。やっぱ怖かったんだ」

 

「……うん」

 

 

 指名の結果を受けて十人十色の反応が見られる中、A組内で1番多くの票を集めた轟がとある疑問を口にする。

 

 

「……先生、ふと思ったんですが、全体的に合計の票数が少なくないですか? 毎年1万以上の事務所が指名するって聞いたのに、皆の分を足しても5000程度にしかならないなんて……」

 

「うおっ!? 意外な所からまさかの質問! でも、言われてみれば確かにそうかも?」

 

 

 普段は無口の轟から飛んできた質問に、意外に思った瀬呂が驚きの声を上げる。

 

 そして、瀬呂の一言で確かにそうかもと疑問に感じた生徒達の注目が相澤に集まり、相澤もその質問を受けてゆっくりと頷いた。

 

 

「轟の言う通りだ。例年なら1万以上の指名がヒーロー科に集まる。だがさっき言っただろ? 今年はかなり特殊だと。そしてA()()()2人に指名が集中したとな」

 

「ま、まさか……」

 

 

 どこか勿体ぶったような相澤の言い方に、誰かが小さな声を漏らす。

 

 他の生徒達もとある可能性と人物を頭に思い浮かべる。爆豪に至っては途端に表情が険しくなった。

 

 

「そう、そのまさかだ。お前らも覚えてるだろうが、体育祭で大暴れした例のサポート科のあいつ。あいつがA組B組を差し置いて最も多くの指名を集めている。ちなみに、これがその結果だ」

 

 

 スクリーンに表示された指名の数、6000超。

 

 ヒーロー科の中で最も多くの指名を集めた轟が約2500、次点で多い爆豪が約2000。今年がいかに特殊なのかが良く分かる結果となった。

 

 予想以上の結果にクラスのほとんどが驚きに目を見開く中、相澤が淡々と語る。

 

 

「これを見て分かるように、ヒーロー科以外の生徒が体育祭で最も多くの注目を集めた。まあ何が言いたいかというと、ライバルはお前達ヒーロー科だけじゃないって事だ。場合によってはヒーロー科への編入もあり得る。その逆もまた然りだ。体育祭で少々浮かれ気味になってる所に水を差すようで悪いが、決して気を抜くな。そんで体育祭で思うような結果を残せなかったヤツ、もっと焦れよ? 『Plus Ultra』の精神で追い付いて来い」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 生徒達の大きな返事が教室内に響き渡る。

 

 それと同時に教室のドアが開け放たれ、際どい格好をしたミッドナイトが華麗な歩きで教壇に立った。

 

 

「話が終わったところでヒーロー情報学に入るわよ! もう知ってると思うけど、今日はヒーロー名の考案。よーく考えて決めなさい! この時の名が世に認知されて、そのままプロ名になってる人多いからね!」

 

「ミッドナイトの言う通りだ。適当なもん付けるとプロになって後悔するから名前決めは慎重に。俺はその辺のセンスないから、名前決まったらこの人に査定してもらうように。以上だ」

 

 

 そう言って寝袋に包まる相澤を横目に、ミッドナイトによるヒーロー名考案の時間が始まった。

 

 

 


 

 

 

 ──時は戻り、時刻は夕方。

 

 作業の続きに取り掛かろうとしたところでパワーローダー先生に呼び出され、校長室にやって来た彼は、現在雄英の教師陣に囲まれる形で校長の根津とテーブルを挟み向かい合っていた。

 

 

「突然呼び出してすまないね! ちょっと話したい事があって、こうして君を呼んだのさ!」

 

 

 根津校長とは、体育祭の1週間前にビンゴダンスに向けての準備を手伝ってもらった事が切っ掛けで知り合った。よって、彼と校長は既に面識があり、準備を手伝ってもらった事に彼は感謝している。

 

 そんな校長からの呼び出し。用件は何なのか、それはもう分かっていた。

 

 

「あっ、その顔は呼び出された理由が分かってるって顔だね! なら単刀直入に聞くけど……ヒーロー科に転科する気はある?」

 

 

 勿論ない、当然ない、毛頭ない、天地がひっくり返ってもない。彼は即答した。

 

 

「そこまで頑なに否定するとはね……まあ何となく分かってたけどさ」

 

 

 ならばどうして分かりきった事を聞いたのだろうか。校長ともあろうものが、こんな事で生徒1人に時間を費やすのは非常に勿体ない。校長のためにもならない。

 

 そんな彼の疑問に根津校長は何度も頷きながらも、彼の前に紙束を差し出した。

 

 渡された紙束を手に取り目を通すと、そこには『ヒーロー事務所 指名一覧』と記載されたタイトルと共に、大量のヒーロー事務所の名がずらずらと書き記されている。

 

 

「それは今回の体育祭を経て、君をドラフト指名したヒーロー事務所の一覧表さ。総指名数6090、ヒーロー科の生徒を差し置いてぶっちぎりのトップなんだ。つまりこれだけ大勢のヒーロー事務所が、近々ヒーロー科で行われる職場体験に是非とも来てほしいと希望しているって事になるのさ」

 

 

 なるほど、確かに今日の朝もヒーロー事務所の関係者と思しき者から数多のスカウトを受けた。それが数値として具現化されたのが、この一覧表という事になる。

 

 だがサポート科の生徒にこれを渡して、果たして何になるというのか? はっきり言って、この指名を受ける気は当然ない。

 

 

「それは勿論知ってるさ。君が将来ヒーローを目指しているわけではないという事も。正直言って僕自身、ヒーローへの道を君に強制する気はないしね。さっき転科するかどうかを聞いたのも、色々と事情があっての事なのさ」

 

 

 校長にも立場というものがある。世間では、彼を立派なヒーローに育て上げるべきだ、あれほどの人材がサポート科にいるのはおかしいし勿体ない、という声が多く、雄英もその対応に困っている事を彼は知っている。

 

 それに加え、恐らく校長より上の立場の者からも色々と言われていると思われる。世間であれほど騒がれているのだ、嫌でも公的機関の目に留まる。

 

 これは推測だが、校長は絶え間なくやってくる世間からのクレームに近い願望と上からの指示を潰すために、あえて転科の件を持ち出し、こちらの意向を打診したのだろう。

 

 だが、それらを踏まえてもなお、ヒーロー科のみが行う職場体験に行く事を勧めようとしている気がする。これは一体どういう事なのか。

 

 

「でも、職場体験だけは参加しても良いんじゃないかと思ってるんだ。なんでって思うよね? その理由は君が作ったホイポイカプセルにあるのさ」

 

 

 ヒーロー云々の話からいきなりホイポイカプセルの話になった瞬間、何となく校長の意図が読めてしまった。

 

 大方、数ヶ月後に販売する予定のホイポイカプセルを、職場体験という場を利用して、実際に街中で使うとどうなるのか確かめたらどうだと言いたいのだろう。

 

 実の所、体育祭で披露したホイポイカプセルは、確かに本来の機能は完璧であるという自負があるものの、販売までにクリアしておきたい不安要素は多々存在するのだ。

 

 その中でも最も知っておきたい要素の1つが、実際に街中で有効的に使えるのかどうかである。いくら性能が良くても実際の現場や生活で使えなかったら、どんな機器もただのガラクタと化してしまう。世間からの注目度が高い故に、販売まで慎重に物事を進めていきたいと考えている。

 

 しかし、いくら彼に超巨大企業のバックアップがあれど、公共の場で新製品の性能実験なんて真似は出来ない。どれだけ大規模であろうとカプセルコーポレーションは民間企業、公共の場でやれる事には限界がある。やるからにはやはり、公的機関からの許可が必須となる。

 

 ただし、実際に許可を取って実験となるとそれなりに費用は掛かるし時間も消費する。しかも万が一の事が起きたら、その責任は全て彼とカプセルコーポレーションが背負う事になる。正直言って面倒だ。出来る事なら手間をかけずに事を進めたい。

 

 だからこその職場体験だと思われる。ヒーロー事務所への職場体験は雄英高校、引いてはその上の機関のヒーロー公安委員会の指示の下、毎年執り行われる恒例行事である。そして生徒達に何かあれば、その責任は受け入れ先のヒーロー事務所と雄英高校、事の規模によっては公安委員会が責任を取る仕組みとなっている。

 

 もちろん生徒自身にも一定のペナルティは課せられるが、何かあれば責任の大部分は公的機関が背負ってくれる。しかも職場体験という場を利用すれば、実験の許可に必要な費用と時間の大幅削減が可能となるだろう。

 

 彼は自身の解釈を校長に述べた。

 

 

「うん、大体その解釈で間違いないよ。ホイポイカプセルは確かに素晴らしい発明品だけど、まだまだ課題は山積みなんじゃないかなって思ったんだよね。だからこそこうして勧めてるんだけど、君にとっても悪くない提案だと思わないかい?」

 

 

 校長にそう聞かれ、彼は顎に手を当てて考える。

 

 確かに提案は悪くない。カプセル販売までに不安要素は出来るだけ早く潰しておきたいし、何かあってもこちらが背負うリスクは限りなく軽減される保障もある。

 

 正直こちら側に有利すぎる内容で、絶対に何か裏があるのは確定。政府や公安委員会などが関わっているのではと踏んでいるが、それを差し引いてもこちらにメリットがあるのは事実。

 

 この提案に隠れた目的があったとしても、校長の提案に乗る理由としては十分だろう。それに、校長には体育祭で秘密裏に協力してもらった借りがある。その借りを返す意味でも、提案を素直に受け入れよう。

 

 彼は決心した。

 

 

「職場体験、参加する気になってくれたのかい? それは良かった。こちらとしても色々と準備した甲斐があるってものさ。そもそもサポート科はヒーローを間接的に援助するのが目的で存在する学科。自分の好きな物を作るのは止めないけど、少しはヒーロー達の方にも目を向けてほしいのさ。それじゃあ資料を渡しておくから、今週末までに希望する事務所を決めて提出するように──」

 

 

 


 

 

 

 話を終えた彼は資料を手に取って校長室を出た。

 

 まさかヒーロー科限定の行事に他科の生徒が行く事になるとは思わなかったが、これも何かの縁。帰ったらどの事務所に行くか考えよう。行き先選びは慎重に。

 

 そんな事を思いながら工房へ戻る彼の後ろ姿を、一緒にいた教師達が眺めながら根津校長に尋ねる。

 

 

「よろしかったのですか、校長?」

 

「ん? 何がだい相澤君?」

 

「最初、ヒーロー科への転科を勧めてたでしょう? それが最終的に職場体験の参加のみ。しかも彼の目的はヒーロー活動の体験でも援助でもなく、自分が作ったアイテムの試運転です。個人でやるべき事を、どうして雄英までその片棒を担ぐような真似を……?」

 

 

 相澤の疑問は最もだった。

 

 いくら今回の職場体験で何か裏の目的があったとしても、彼がやろうとしている事はやはりプライベートで行うべきで、雄英が手伝うのは合理性に欠けているのだ。

 

 そんな疑問に、校長は腕を組んで逆に尋ねた。

 

 

「……相澤君は、彼がヒーロー科へ移る事に賛成するかい?」

 

「……しませんね。他の皆さんがどう思っているかは知りませんが、少なくとも俺は反対です。力があれば成り立つほどヒーローは甘くありません。はっきり言って、彼にはヒーローとしての資質がない。それに本人もヒーローになりたくなさそうですし。望んでもいない人に無理やりヒーローの道を歩ませるなんて、あまりに残酷ですよ」

 

 

 相澤の意見に教師達が首を縦に振って肯定する。全員似たような意見を持っている証拠だ。

 

 その返答を予想していたのか、校長も相澤の意見に頷いて肯定する。

 

 

「僕も皆と同じさ。確かにあの子の力は抜きん出てるけど、それだけでヒーロー科に行かせようとは思わない。それに、今年のヒーロー科は優秀なヒーローの卵達ばかり。僕達がやるべき事は彼をヒーローにさせる事ではなく、今いるヒーロー科の生徒達を立派なヒーローになるまで全力で育て上げる事。大切なのはそこだと僕は思っている」

 

「なら尚更どうして彼に転科を勧めて……? それに職場体験まで……」

 

 

 今度はミッドナイトから飛んできた疑問の声に、校長は腕を組み難しい顔で答えた。

 

 

「上からの指示さ」

 

「上……という事は、公安からですか?」

 

「そう、公安からの要請でね。あの子をヒーロー科に転科させるか、もしくは何らかの形でヒーローと密接な関わりを持たせるようにって指示が来てさ。あの子の意思を無理やり捻じ曲げるような真似はしたくないけど、かといって要請を丸々無視したらいつか強引な手段に出るかもと思ってね。形だけでも向こうの要請に応えた方が、彼のためにもなると思ったんだ」

 

「なるほど、それであんなにも職場体験の参加を勧めたわけですか……」

 

 

 校長の説明を聞いて全てを理解した相澤だったが、内心は全く納得していなかった。

 

 

(公安の奴らめ……自分達の都合で生徒に過酷な道を歩ませようとしやがって……)

 

 

 




根津校長の個性は『ハイスペック』。人間以上の知能を持つから、主人公の思考をここまで予測しててもおかしくはないかなぁと思いました。
あと主人公の考えがドライすぎて、書いたの自分なのに読み返してかなり引いた。いつからこんなにも乾いた心を持つようになったのか……。これじゃあ元気玉作れない。
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