サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
何だかんだ言って結局ヒーロー科と一緒に職場体験へ行く事になった彼は、手にした資料を1枚ずつ目に通しながら工房へ戻った。
「……で、断る気満々だった職場体験に参加する事になったと? ホイポイカプセルを街中で使いたくて、でも責任は取りたくないから雄英に背負わせる算段で? なるほど、人間のクズですね! 全くもって清々しい! アハハハハッ!!」
言われなくても分かっているから今すぐ黙って欲しい。お口チャック。
発目に痛い所を突かれた彼は、ジト目で発目を睨み付ける。だが、元からそんな程度で怯むような柔な精神を持っていない発目には全く通用しなかった。彼を指差して大笑い、相変わらずである。
「アハハ……いやー、笑っちゃいますね。本当、話題に事欠かない人ですよあなたは。こちらも暇を持て余す時間がないってものです。それで、どこに行くとか決めてます? いっぱい指名受けてるんでしょう?」
一頻り笑った発目にそう聞かれ、彼は顎に手を当てて資料に目を向ける。
資料に記載されているヒーロー事務所の数は全部で6090、全国津々浦々からたくさんの指名が来ている。週末までに、この大量の紙束の中からどれか1つだけを選ばないといけない。
名の知れた所から全く聞いた事もない事務所まで知名度の幅はピンキリで、これら全てを確かめていくのは正直言って面倒くさい。よって、ヒーローランキングの高い順から数えて上位100名までの中から行き先を決める事にした。
工房の片隅で資料の内容を整理しながら事務所の名をピックアップする事1時間、最終的に残った100の事務所を別の用紙に纏め上げた。
「あ、ようやく終わった感じですか? ちょっと私にも見せてくださいよ。どれどれ……うわ、有名所ばかりが残りましたね。どこの事務所もかなりの大手ですよ」
確かにその通りで、残った100の事務所は1番低い所でもヒーローランキング200位以内に入る一流だ。トップ10位以内のヒーローからも指名が来ており、最高順位は現在ヒーローランキング3位のホークスからだ。
他にも4位のベストジーニスト、5位のエッジショット、6位のクラスト、8位のヨロイムシャ、9位のリューキュウ、10位のギャングオルカと、ほとんどのトップヒーローが指名している。指名していないのはオールマイト、エンデヴァー、ミルコの3人だけ。
雄英教員のオールマイトは言わずもがな、2位のエンデヴァーはおそらく息子である轟焦凍を指名していると思われるため、こちらへの指名は無い。7位のミルコはそもそも事務所を構えず、サイドキックも連れないという独自の活動体系を取り入れているヒーロー。基本的に1人で活動しているので、指名がないのは当然と言えるだろう。
だがその3人を抜きにしても、シンリンカムイ、Mt.レディ、デステゴロなど、名のあるヒーローからの指名も来ている。
錚々たる面々からの指名の嵐。ヒーローを目指す者にとってはまさに選り取り見取り、夢のようなシチュエーションだろう。
しかし、彼からしてみればホイポイカプセルの性能実験をちゃんと出来る環境であるならどこでも構わず、上位100名に絞ったのも、トップヒーローであればあるほどその環境が整っているからだ。正直言って、個々の活動実績に興味はない。
「それで、この残った100の事務所の中からどれか1つを選ぶわけですね? 正直どれを選んでも良いとは思いますけど、やっぱり行くならより有名でより注目のある事務所に行くべきだと思うんですよね! それが結果的にあなたのためにもなると思いますし、はい!」
何故だろうか、どれでも良いと言う割にはやけに行き先を気にしてるように見える。こういう時は何か企んでいる可能性が高い。
訝しげに感じた彼は、本音を言ってほしい旨を発目に伝える。
「ぶっちゃけ言うとですね、あなたにはトップヒーローの事務所に行って欲しいです! だって彼らはいつも注目の的で皆の人気者じゃないですか! そんな人の近くでベイビー達が活躍する場を見せたら更に注目が集まるじゃないですか! だから私の可愛いベイビー達を持って、ホイポイカプセルと一緒に使ってください! あと体験先のヒーローの連絡先も教えてください! あなたが作ったコネを私も利用したいので! というわけでお願いします! ヒーローとのコネ作り、健闘を祈ってますので!」
清々しい告白だった。
先程まで「人間のクズ」などと宣い爆笑していた人が頼むような事ではない。人の事を笑えないレベルで不純な動機である。
とはいえ、発目の言う事にも一理ある。100のヒーロー事務所に絞った身として、発目と利害が一致しているからだ。ホイポイカプセルだけ使うのなら、検証は1日ですぐ終わるというのもある。発目の思惑に乗っかるのもまた一興だろう。
なにより、欲望に忠実な彼女の行動は嫌いじゃない。そしてその欲望を包み隠さず正直に打ち明ける豪胆さも。むしろどんと来いとさえ思う。
彼は発目の手を取った。良いだろう、その話乗った! 元気な声で承諾した彼に、発目の笑みがより一層深くなる。
「では交渉成立という事で! さあ決めましょう、あなたがどこのヒーロー事務所へ媚を売りに行くのかを!」
発目の高らかな笑い声が工房中に響いた。
──2週間後、職場体験当日。
雄英高校最寄りの駅にて。
駅の改札口前に雄英高校1年A組の生徒と担任が集まっていた。これから各々が決めた職場体験先に、公共交通機関を利用して向かう予定となっている。
「全員コスチューム持ったな。本来なら公共の場での着用は厳禁なんだ。間違っても無くしたり落としたりするなよ?」
「はーい! 分かりました先生!」
「伸ばすな、『はい』だ芦戸。それじゃ……っと、その前に……」
職場体験に行く前に、担任の相澤が点呼と注意事項の説明を生徒達に行う。その相澤の呼び掛けに呼応して、生徒達の朗らかな返事が駅内に響く。
少し離れた位置からその様子を横目に眺め、A組のようにリュックもコスチュームが入ったアタッシュケースも持たず、代わりに大量の買い物袋をぶら下げながら、ラムネ味のソフトクリームを食べる生徒が1人。
その生徒に相澤が近付き、A組の面々もまたその後を視線で追う。
「おい、ソフトクリームを食べるのは勝手だが、説明はちゃんと聞いてたか? それと今回のお前の参加は特例なんだ、皆に一言挨拶くらいしてやれ」
相澤にそう諭された彼は確かにその通りだと思い、食べる手を止めてA組に向き直り、軽い自己紹介と挨拶を行った。
本来はこの場にいないはずであるサポート科の彼の存在に、A組のほとんどが驚愕に声を上げる。
「あー! 君は体育祭の時のサポート科!」
「えっ、もしかしてお前も職場体験に行くのか!?」
「でも考えてみれば当然とも言えますわ。数多くの指名を頂いていましたし」
「まあ何はともあれよろしくな!」
「つーかどこに行くんだ? 行き先によっちゃあ、他の誰かと被るかもな」
「ウチはそんな事よりも、めっちゃ買い物してるのが気になるんだけど……というか荷物は?」
「ソフトクリーム良いなー! ラムネ味美味しそう! ねえねえ、一口ちょーだい!」
アイスクリームを一口強請ってきた
そうこうしていると、彼の存在に特に驚いた様子を見せなかった2人が彼に話し掛けた。
「体育祭で見たお前の性格から考えて、こういうもんには誘われても来ないと思っていたんだが……来るんだな。ちょっと意外だ」
「……よう、また会ったな。体育祭での出来事、忘れたとは言わせねえぜ」
体育祭の決勝トーナメントで対戦した轟と爆豪だ。轟は凛としつつもどこかあどけなさも感じれるような表情で、反対に爆豪は嵐の前の静けさを体現したかのような険しい顔付きで彼に詰め寄る。
約3週間ぶりとなる拳を交えた同級生達との対面に、彼も少しだけ口角を上げた。
「体育祭であんたに完敗して以来、俺ももっと強くならねえとって思ったからよ。左の力、早く使いこなせるように毎日特訓してるんだ。ちょっと前の俺じゃあ全然想像出来なかったけど、こうして前を向けるようになったのはあんたのおかげでもある。そこん所は感謝してる」
「俺は半分野郎と違って不満しかないけどな。勝敗はどうあれ、あの戦いの最後は未だに納得してねえ。だからもう1度勝負しろ……って言いたい所だが、今はてめぇの方に軍配が上がる。それは認めてやる。だが良い気になるなよ? すぐにてめぇを追い抜いて、本当の意味で1番になってやる」
2人とも体育祭が終わって以降、それぞれ前に向かって歩みを進め、日々修行を重ねて成長している。その証拠に、2人とも体育祭の時よりも気が高まっており、相当の修練を積んでいる事が窺える。
今まで忌避してきた自身の力を受け入れて前に進む轟も、高いプライド故に勝ち気な姿勢を崩さずストイックに鍛錬を積む爆豪も、この調子なら将来は間違いなく立派なヒーローになるだろう。未来は不確定な事だらけだが、この事に関しては断言しても良い。それは他の皆にも言える事だが。
ここで話が一段落ついたので、いよいよ出発前の最終確認を相澤が行う。
「……よし、改めて俺から言う事は以上だ。それじゃあお前ら、くれぐれも体験先の事務所の方々に失礼のないように」
「「「「はい!」」」」
最終確認も終わり、各々が選んだ事務所の方向へバラバラに歩き出すA組の生徒達。
その際、体育祭の時から気になっていた緑谷に声を掛けようとしたが、麗日、飯田の2人と何やら深刻そうな表情で話し込んでいたので止めた。デリケートな話をしていると思われるため、下手に突っ込むのは野暮というものだろう。
そんな中、彼はとある人と一緒に駅のホームに向かう。
「……む? 俺と同じ新幹線に乗るか。一応聞くが、ひょっとしてお前も九州……いや、
新幹線が止まるホームの前で話しかけてきたのは、同じ新幹線に乗ろうとする常闇踏陰だ。頭部が烏の頭のようになっており、変幻自在の影を操作するという強力な個性を持っている。
他に上げる特徴があるとすれば、どこか古臭い言い回しをしている点だろうか。どういう経緯があってこのような口調になったのかと聞きたくなるが、聞いたところで特に何かあるわけでもないので止めておく。
「俺は今から九州の福岡まで出向き、ホークスの元へヒーローの教えを乞いに馳せ参じる
……本当に、どういう経緯があってこのような口調になったのだろう。益々気になってくるが、こればかりは聞いてはいけない気がする。正直に聞いてしまった暁には、常闇の名誉に深い傷を付けてしまうかも知れない。直感でそう悟った。
気を取り直した彼は常闇の質問に首を振って答える。
2週間前、体験先の事務所候補をトップヒーローのみに限定してほしいという発目の要望に応え、どこにしようか迷っていた彼は、発目が言ったこの言葉で行き先を決めた。
『ホークスの事務所はどうでしょう? 福岡と言えば博多! 博多と言えば博多グルメでしょう!』
ラーメン、もつ鍋、水炊き、焼き鳥、鉄なべ餃子、辛子明太子、うどん、あまおう、屋台街、etc……。
普段行く事のない九州地方、その中でも最大の都市である福岡の名物を想像し、彼は自身の胃袋に身を委ねた。欲望に忠実なのだ。
こうしてあっさりとホークスの事務所に行く事を決めた彼は、現在同じくホークスの事務所へ行く常闇と一緒の新幹線に乗っている。
「いや、まあ、轟からお前の事は聞いていたが、面と向かって話すと想像以上だな。今からホークスに会いに行くというのに、既に観光気分とは……」
ホークスの事務所へ行く理由を聞いた常闇の表情は何とも形容し難いもので、本人もどう反応すれば良いのか困っているといった感じだ。
とはいえ彼にも目的はある。そのためにも、これから1週間お世話になるホークスへ何かお土産を渡そうと思い、駅に向かう途中で大量のお土産を購入して持って来ている。要はご機嫌取りだ。
「その大量の買い物袋は全部ホークスに献上するお土産だったのか。確かにこれから1週間お世話になるし、だったら俺も何か買ってくれば良かったな」
困り顔から一転、お土産を持参してきた彼の行動にえらく感心し、腕を組んで納得したと言わんばかりに頷く常闇。よく見ると、口調以外にも1つ1つの仕草がどこか勿体ぶっている様に感じ取れる。
そんな事を思いつつも、口には出さずに常闇と雑談に興じる彼であった──。
数時間後、福岡県福岡市博多駅にて。
真昼を少し過ぎた辺りで目的地に到着した2人は、そのままの足でホークスのいる事務所へ向かった。街の中心地にある高層ビル、その最上階がホークスの事務所だ。
流石は3位のヒーローと言うべきか、事務所のある高層ビルは福岡の中でも一等地、ビルの中に入ると豪勢な造りをしたエントランスがお出迎えしてくれた。
受付人に雄英の学生証を見せると、最上階へ繋がる直通エレベーターへ案内される。事務所専用のエレベーターまで用意されるこのVIPぶり、ここまでの厚遇を受けるヒーローは数える程しかいない。
隣を見ると、期待と緊張からか若干ソワソワしている常闇の姿があった。やはりヒーローを志す者として、本物のトップヒーローを間近で観られるのは嬉しいのだろう。楽しみなのだろう。
「「いらっしゃい! ホークスヒーロー事務所へようこそ! よう来たね!」」
1分足らずで最上階に到着した彼らを出迎えてくれたのは、ホークスではなくそのサイドキックと思しきヒーロー2人。トップヒーローのサイドキックを務めているだけの事はあり、並のヒーローよりも高い戦闘力を有している事が気で読み取れる。
彼が2人のヒーローの気を読み取り、常闇がその間に2人と挨拶を交わす。彼自身も常闇に続いて挨拶をし、買い込んだお土産の一つを2人に手渡した。
「さて、折角君らに来てもらったところ悪いんやけど、肝心のあの人は今パトロール中でな。そろそろ戻って来る頃合いやと思うけん、それまでソファーで寛いで……」
2人に事務所の奥まで案内され、肝心の所長が不在である旨を教えてもらっていたその時、突如として最上階から街を一望できる大きくて分厚い窓が、機械音と共に自動で開き出す。
「あ、あの、いきなり窓が開き出したんですけど、これってまさか……」
「うん、常闇君の想像通りだよ。丁度良かタイミングで戻って来たみたい」
サイドキックの言う通り、開き切った窓の向こうから、大きな気を持つ者が凄まじい速度で接近してくるのを感じ取る。彼を除いた、この場の誰よりも大きな気を持つ者が。
その10秒後、窓から悠々と翼を羽搏かせながら事務所に入って来るヒーローが1名。黄色を基調としたコスチュームに身を包み、背中には紅く煌めく剛翼を携えたその男こそ、ヒーローランキング第3位のホークス。
他の人とは違うぶっ飛んだ入り方に、常闇が驚きの余り口をパクパクさせている。かくいう彼もこれには予想外で、少々面食らってしまった。
そんな2人に、ホークスはにっこりと柔和な笑みを浮かべると、快活な声で言った。
「やあ2人とも、初めまして。俺はホークス、1週間よろしくね。歓迎するよ」
颯爽と現れ、華麗に事務所へ帰還し、爽やかに挨拶してみせたホークス。そんなヒーローに対し、彼は即座に気を取り直してお土産袋を手に持つと、その全てをホークスに手渡しながら自己紹介を済ませた。
「わああ、これって現地にしか売ってない高級スイーツでしょ? そんでこっちは地域限定の水羊羹! 確か3日しか賞味期限が持たなくて、保管がめっちゃ大変って聞くけど、よう持って来たね。皆で美味しく頂くよ!」
喜んでいる、一切の偽りなく本心から。
お土産によるご機嫌取り、掴みは上々。発目と約束したコネ作り、その目標へ1歩前進した事を彼は実感した。
「……雄英高校1年A組在籍、常闇踏陰と申します。此度の職場体験、ヒーローとなるべく研鑽を積みに参りました。よろしくお願いします」
「うん、常闇君もよろしくね!」
彼とホークスとのやり取りを神妙な面持ちで見ていた常闇の自己紹介に、ホークスが笑顔で返す。その際、一瞬だけ目を細めたように見えた。まるで面白そうなものを見るような目で、笑みを深めて。
それは視線を向けられた常闇自身も感じ取ったようで、ホークスに品定めされていると思ったのか、その表情は硬かった。その反応を見てくすりと微笑むホークスを見ていると、恐らく意図的に向けた視線だと思われる。
そうして全員の自己紹介が終了したところで、ホークスが手を叩いて注目を集めた。
「はい、それじゃあ2人とも部屋に行って荷物を整理してきて。この事務所は広いからねえ、1人1部屋ずつ客室が用意されてるんだ。その間に俺は出発準備しておくから、そこの2人に案内してもらうように。あっ、当然コスチュームは着てよ?」
その指示の下、彼と常闇はサイドキック達に客室まで案内された。
部屋は一般的なホテルと同程度の広さと設備が整っており、1週間滞在する分には何の問題もない。流石トップヒーローと言うべきか。
部屋に入った彼は、ズボンのポケットからホイポイカプセルを取り出し、スイッチを押して床に放り投げた。直後、投げ込まれたカプセルから軽快な破裂音と共に煙が上がり、大きなスーツケースが出現する。
荷物の持ち運びが面倒だと感じた彼は、事前に荷物をスーツケースに纏め、それをホイポイカプセル化して持ち運んでいたのだ。だからこそ、彼はほとんど手ぶらで行動する事が出来ていた。カプセルの仕組みを理解している彼にとって、荷物をホイポイカプセルに収める作業は朝飯前なのだ。
数分後、一通り荷物を整理して、制服から動きやすい服装に着替えた彼は、部屋を出てホークスの所へ向かう。ほぼ同時に常闇も部屋から出てきて、どちらも出発準備が整った。
常闇のヒーローコスチュームは個性を活かすためか、真っ黒な服にマントと全身を黒一色で統一しており、どこか禍々しい見た目をしている。常闇らしい服装だろう。
対する彼はというと、スポーツ用品メーカーに特注で作製してもらった黒色のジャージという、何ともヒーローらしくない格好をしている。
とはいえ特注品故に、販売店で売られている物よりも耐久性、耐熱性、伸縮性ともに優れており、重量も幾分か軽い。値段は言わずもがな、一般的な物の数十倍は余裕で超えている。
ヒーロー科と同じ様に、雄英高校専属のサポート会社にコスチュームを受注してもらう事も考えた。しかし、被服控除を利用すると本格的にヒーローの道へ連れていかれそうな気がしたので、自前で用意出来るものは全て揃えた。雄英に背負ってもらうものは万が一が起きた時の責任だけで良いのだから。
「おっ、やっと出発準備が整ったかな? それじゃあ早速出掛けようか」
相変わらずの下衆な思考を発揮する彼と、そんな思惑など知る由もない常闇を前に、ホークスは傍に控えていたサイドキック達に指示を出すと、開いている窓に手を掛けた。
「あ、あの、我々はこれからどうすればよろしいので……?」
再び出て行こうとするホークスの背後から常闇の疑問の声が飛ぶ。今まさに飛び立とうとしていたホークスはこちらを振り向くと、にこりと微笑んで言った。
「俺は先に行ってるからさ、君達はサイドキックの皆さんに説明受けながら付いて回ってよ。……ああ、俺を追って来られるならどうぞご自由に。君達は今、俺の監督下にある。プロヒーロー『ホークス』の名において、
制限付きの個性使用の許可だけ伝えると、ホークスは翼を広げて飛んで行った。猛スピードでビルから離れ、数秒足らずで姿が見えなくなる。
なるほど、世間で『速すぎる男』と言われるだけの事はある。スピードに一点特化したヒーローだ。速さは力というが、まさにその通りだと思う。
ホークスの実力の一端を目にした彼は感心したように頷くと、案内役を任されたサイドキック達の所へ向かった。先に飛んで行ったホークスには目もくれずに。
「……ん? あれ、ちょっと待ってくれ。お前は行かないのか? 移動は素早いし、確か空も飛べていたはずだが……」
それを疑問に思った常闇が、今度は彼に尋ねた。体育祭で観た彼の実力を考慮すれば、ホークスに付いて行くだろうと予想していた常闇の思考も当然の帰結だった。
だが彼は首を横に振り、言った。まずはプロの人達に業務内容を聞いておかないと駄目だろう、社会人としての基本だ、と。
「いや、確かにそれはそうなんだが、新幹線でのお前の発言を聞いている身としては、ちょっと信じられないというか、何というか……。というか、お前の口から常識が出てくるとはな。妙な所で律儀な男だ」
勿論こんなものは建前である。
本音を言ってしまえば、ホークスに付いて行くとずっと飛び回る羽目になり、そうなってしまうとホイポイカプセルの検証もグルメ巡りも満足に出来ないと思ったのだ。それに付いて行こうと思えば、いつでも追い越して置いてけぼりに出来るので、今すぐ追う必要がないというのもある。
本音まで言ってしまうと流石にサイドキックの人達に怒られるので心の中に仕舞い込み、皆でエレベーターに乗ってビルをゆっくりと降りて行く。
そしてエントランスから小走りで街中へ駆け出ると、事務所から支給されたインカム越しにホークスの指示が飛んで来たので、足並みを揃えて急いで現場へ直行。
「遅いですって」
数分かけて現場に着くと、ホークスが幾枚もの羽を同時に操作しながら、敵と思しき者を取り押さえて待っていた。
「完庭那のバーで客が暴れてるらしいから次そこで! 事後処理よろしくお願いしまーす!」
軽い息切れを起こしているサイドキック達と、息も絶え絶えに遅れてやって来た常闇にそう言うと、翼を大きく広げて颯爽と飛んで行く。
その後ろ姿を眺めながら敵を拘束していると、サイドキックから説明が入った。
「俺らはほぼ後始末係でね。ホークスは速すぎるけん、この形が一番効率的たい」
「いやあ、折角ここまで来てもろうたのに何かごめんね。俺らの脚じゃあ、とてもホークスに追いつけなくてさ。でも、もたもたしてる間に被害拡大とか本末転倒でしょ? やけんこれが一番良かとよ」
確かに考えてみればその通り。今は皆と足並み揃えて走っている彼だが、もしホークスと同じ立場だったらさっさと1人で現場に向かい、全力で事件解決に尽力するだろう。これで『皆と一緒に走っていたので間に合いませんでした』となっては、ヒーローの面目丸潰れだ。職務怠慢ともいう。
だからこそ、一刻も早く現場へ赴き、一刻も早く事件を鎮静化する。それを日々延々と繰り返すのだ、たった1人で。
彼は今一度、ヒーローとしてのホークスの凄さを実感した。
──結局その日は、ホークスの仕事ぶりを目の当たりにしながら、ただひたすら皆と走って追いかけては事後処理の手伝いに徹するという作業の繰り返しだった。
その間でも、彼は街中で見つけた焼き鳥専門店からしれっと焼き鳥を何本か購入し、こっそり食べながら走っていた。完全にサボりなのだが、サイドキック達にはバレていないのが凄いところ。常闇は忙しすぎて余裕が無かったのか、焼き鳥を頬張る彼を見ても何も言わなかった。
あと、焼き鳥はとても美味しかったとだけ言っておこう。
ホイポイカプセルの検証等やるべき事がたくさんある中、職場体験初日はホークスヒーロー事務所の活動スタイルを徹底的に頭に叩き込んで夜を迎えた。
ちなみに、職場体験に来た2人を置いて颯爽と飛んで行ったホークスはというと、予想と違い、終始全く付いて来なかった彼の行動に面食らっていたとの事。だが、そんな出来事を彼が知る事は未来永劫なかった。
「──あれっ、全然来ないんだけど!? えっ、ちょっと待って!? 追って来るかなあと思って敢えて挑発したのに、その気じゃないって事? マジで言ってる? これは一筋縄ではいかなさそうだな……はあ、面倒くさ」
またもや更新が遅れてしまったすみません。実を言うと、偶々アマプラで発見したアニメが面白くてそればっかり見てしまい……はい、すみません。
しかし! 更新が遅れた事は申し訳ないと思っていますが、そのアニメをずっと観ていた事に後悔はありません! 面白かったので!
というわけで、今後もこのような事があると思うので、温かい目で見守ってくれると幸いです。
……さっ、更新もしたし、早くHELLSINGの続き見ないとなあ。AMEN!!