サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
ホークスに敵退治の援護を頼まれ、拳銃やマシンガンを携帯した強盗達との戦いが街中の大通りで突如始まった。
「……ん? なんだこの人だかり? 何かのイベントか?」
「違う違う、敵だって。全員銃持ってるから騒ぎになってんの」
「えっ、マジかよ。今どうなってんの?」
周辺を見回すと、先程までのやり取りを聞いていた大勢の通行人が歩道に立ち並んでおり、こちらの様子を固唾を飲んで見守っている。
「おい見ろよ、あそこにいるのって雄英体育祭で準優勝した例の……!」
「あ、本当だ、サポート科の子じゃん! 生で見るのは初めてかも! 写メ撮ろっと」
「ねえ、向こうの敵さ、全員銃持ってるじゃん。危なくない? 怖いし早く逃げた方が……」
「大丈夫でしょ! あの子の活躍を近くで見れるし、それにすぐヒーローが来てくれるから」
中にはスマホやカメラを持ち、一部始終を映像や写真に収めようする者もいて、ちょっとどころか結構な人だかりが出来ていた。要するに危機管理能力の低い野次馬である。
危ないし邪魔なので今すぐどっかに行けと言いたい。しかし、それによって彼1人にだけ意識が集中しているこの状況が崩れてしまう恐れがある。もし人質を取られでもしたら、彼は困らなくても皆がパニックになって更に面倒な事になる。
色々考えた末、犯人達の意識が野次馬に向いていない内に事態を収束させる方が良いという結論に至り、敢えて避難勧告を出さずに前を向いた。
それに、これから相手をする3人の気の大きさを読んでみた所、マスキュラーとは比較するのも馬鹿馬鹿しいほど小さかった。いくらマシンガンを所持しているとはいえ、この程度ならマスキュラーの方が何十倍も強い。
彼は犯人達に向かってゆっくりと歩を進めた。
「……なんだてめぇ、まさか丸腰で来る気か? 随分と舐められたもんだな」
「体育祭で2位取って自信過剰になったのか、それともただの馬鹿なのか……」
「どちらにせよ蜂の巣にして──ッ!?」
3人目の男が何かを言いかけたが、その言葉の続きが口から出てくる事はなかった。
何故なら男の目の前にはいつの間にか彼が立っており、そして男が所持していた拳銃を握り潰していたからだ。数十mあった距離を一瞬で詰めて来て。
この間僅か0.01秒未満。故に、拳銃を壊されたと男が認識したのはその3秒後。マシンガンを所持している他の2人も同様である。
「なっ!? このガキぶっ殺して──うぐっ!?」
そして、すかさず男の首元に当て身を食らわせ、抵抗する隙を一切与えずに眠らせた。
その手刀は人の目で動いたと認識出来る速度を超えており、見ていた誰もが、そして気絶した本人でさえも何をされたのか分からないレベル。
何が起きたのか認識出来ないまま仲間がやられてしまった事で、残った2人は得体の知れない恐怖を覚えた。だからマシンガンを力強く握り締め、彼に向けて引き金を引いた。
「……う、うわああああああああッ!!」
「死ねっ! 死ねっ! 何なんだよ、今何をしたんだよお前!」
罵声と共に飛んでくる無数の銃弾。恐怖に慄いてがむしゃらに撃ちまくる2人は、目の前の脅威を排除しようと必死だった。
だが、彼にとって銃弾は文字通り止まって見える程度の速度であり、それが100発だろうが1000発だろうが関係ない。自前の動体視力と身体能力だけで、向かって来る全ての銃弾を素手で掴むのは朝飯前なのだ。
だから目の前で撃たれても彼は一切取り乱さず片手を構え、飛んで来た銃弾を1発も漏らさず正確に掴み取る。さも当然とでも言わんばかりの表情で、何の感情の揺らぎも見せず。
「……す、凄え。あいつ、銃弾掴んでるよ」
「う、嘘でしょ? 素手で全部受け止めてるし、しかも片手って。というか腕の動き全然見えないんだけど」
「どういう身体能力してるの? まず素手で銃弾掴んでる時点で頭おかしいし、あの速度に反応してるのも意味分かんない」
「と、とにかくカメラ! 早く動画撮ってアップしようぜ!」
普通の人にとって、視認出来る速度を超えた数百もの銃弾を、負傷せずに片手で全て掴み取る所業は、目隠しながら精密機器を組み立てるに等しいまさに神業。到底人の成せる業ではない。故に見ている人全員の度肝を抜いた。
そんな人間離れした動きをいとも簡単にやってのけた彼は、全ての弾を撃ち終えて呆気に取られた2人の目の前に現れ、これまた素手でマシンガンを握り潰した。
「……ひっ!? く、来るなぁ!」
「クソ、クソッ! どっか行け化け物め!」
瞬間、先程までの勢いは一体どこへやら、完全に戦意を失い罵声を浴びせる2人。
それを見て彼は特に残念がるでもなく、淡々と首元に手刀を食らわせ意識を刈り取った。このような結果になる事は既に分かっていたため、最初からこの犯人グループに期待などしていなかったのだ。
こうして強盗団と彼との戦闘は開始30秒程度で呆気なく終わった。マスキュラーよりも遥かに弱い分、戦闘時間も非常に短かった。
気絶した強盗団から武器となるものを全て回収し、3人を歩道まで引き摺って常闇達が来るのを待つ。もちろん、衝突時に大破した自動車も一緒に担いで道路の端に寄せる。
彼の一挙手一投足に周囲から歓声が湧き上がるが、当の本人は特に気にせず他の皆が来るのを待ち続ける。
と、そんな時だった。
「お疲れ様、君の活躍見ていたよ。凄かったねぇ、正直マジで驚いた。あ、一応聞くけど怪我はない?」
彼の目の前にスポーツドリンクを携えたホークスがやって来た。どうやら向こうも速攻で戦闘を終わらせたようだ。流石速すぎる男、侮れない。
そんな感想を抱きつつ、差し出されたスポーツドリンクを受け取り怪我はない事を伝える。仮に銃弾が当たっていたとしても、その程度で傷が付くほど柔い体はしていないが。
ホークスも彼の返答にほっと胸を撫で下ろし、大量の羽根を操作しながら言った。
「それじゃあ、皆が来るまでここで少し待とうか。あっちで捕まえた敵も連れて来たからさ」
その背後には、ぐったりと項垂れた状態で吊るされている別の3人の男女の姿。ホークスが追いかけた方の強盗団だ。
一人一人を1枚の羽根で釣り上げている事から、羽根のパワーと強度がどれほどのものか窺える。パワー押しには割と無力とかこの前言っていたが、羽根にこれだけの力があれば十分だろう。
こうして武装した強盗団をあっさりと捕まえた2人は、常闇達が駆け付ける5分後まで次の仕事の話を続けたのだった。
ちなみに、今回の出来事は様子を見ていた通行人達が当日SNSに動画をアップし、瞬く間に全国中へ知らされる所となった。
この一件が決定打となり、彼の非公式ファンクラブが結成された事を当の本人は知らない。その存在を初めて知るのは、職場体験が終わって発目と1週間ぶりに再会した時の事である。
強盗団との追いかけっこも終わり、その後の業務も難なくこなしたその日の夕方。
「なんで指名したのかって? いきなりそんな事聞いてどうしたの、ツクヨミ君?」
街のパトロールから帰り、今日解決した事件事故の事務処理に勤しむホークスとサイドキック達の元へ、常闇がそんな質問を投げかけた。
近くで聞いていたサイドキック達は1度常闇の方に視線を向けるも、すぐにパソコンに向かい合って作業に集中する。
そんなサイドキック達の対応を見て、ホークスが「俺に丸投げぇ? えー、皆薄情すぎない? まあ指名したの俺だけど」と独り言ちりながらも、常闇の質問に答えた。
「んーとね、鳥仲間」
「……お巫山戯で?」
返ってきたあまりにも簡潔な答えに、常闇の表情が険しくなる。返す言葉も口調こそ丁寧で冷静なものだが、そこには煮え滾るような怒気を孕んでいた。
そんな常闇の怒りを前にしても、ホークスは相も変わらず飄々とした態度を崩さない。
「いーや2割本気。半分は1年A組の人から話を聞きたくて。君らを襲った敵連合とかいうチンピラのね」
今回ホークスが職場体験で指名するのは初めてと聞いており、どうして今年になっていきなり指名に参加したのか疑問だった。
しかしなるほど、そういう理由なら納得がいく。ヒーローなら確かに敵連合の話は気になるだろう。常闇は悔しそうに歯を食い縛っているが。
「んで、どうせなら俺に着いて来れそうな優秀な人って事で、上位から良さ気な鳥人をと思ってね。……あっ、君もその1人だよ」
ぺらぺらと指名された理由を語られる。その度に常闇の表情がより一層険しくなっていくが、ホークスは全く臆しないし気にしない。ホークスに鳥人間と判定された彼も全く気にしていない。
傍から聞いていたサイドキック達はジト目でホークスを見やるが、その視線にもホークスは気にせずスルー。
それから数十秒経っただろうか、口を噤んで聞いていた常闇が口を開いた。
「……あの日、敵連合が姿を見せたのは、授業前に13号先生の話を聞いている時だった」
USJに現れた敵がどんな様相で、どんな事を言って、どんな個性を持っていて、どんな行動をして、どんな方法で襲って来たのか。それら全てを常闇は淡々と静かに話し出す。
込み上げてくる怒りと悔しさの感情を抑え込み、さも何でもないかのように。
「へえ、逃げようとしたら黒い靄を操る敵に出口を塞がれて、そいつに暴風・大雨ゾーンって場所へワープさせられたんだ」
「ああ、その後は待ち伏せしていた敵の集団を他のクラスメイトと共に──」
USJ襲撃事件の話が長引きそうな気がしたので、近くで聞いていた彼は席を立って部屋に戻った。
──それから数日後。
残りの期間もあっという間に過ぎ去り、本日が職場体験最終日。
事務所の広間には、荷物を纏めた制服姿の彼と常闇に、ホークスとサイドキック達が向かい合っていた。
「今日まで大変お世話になりました。心底より感謝申し上げます、ホークス」
感謝の意を述べて頭を下げる常闇に続き、彼も一緒に頭を下げて礼を言う。昼前の時間帯、本来ならまだ街のパトロールに行っている時間にも拘わらず、事務所にいるヒーローのほとんどが揃っている。
そんな中、先頭にいるホークスがニコッと笑う。
「いやあ、感謝するのはこっちの方だって。初めての指名で不安だったけど、2人が職場体験に来てくれて良かったよ」
「うんうん。2人が頑張っている姿を見てると、俺らも頑張らんとってやる気出た。良い刺激になったばい」
ホークスとサイドキックの言葉に、他の人達が首を縦に振って頷く。
こうして感謝されると、ここまで来た甲斐があったというもの。お別れの時間が迫り、しみじみとした空気が流れ出す。
「改めて、本当にありがとうね」
いつもの飄々とした態度を崩さず、それでも柔和な笑みを見せるホークス。その感謝の言葉は、本心から出た言葉なのだろう。
彼も常闇も、お互いプロヒーローが活躍する実際の現場を何度も目の当たりにしてきた。程度に差はあれど、それぞれが多くの事を学んだ。
そして彼に限って言えば、3日目の夜に相対した本物の敵との殺し合いも、普段の生活では味わえない良い刺激を得たと言えるだろう。
常闇もまた、自身とホークス、そして彼との実力差を間近で見続けた結果、現状の分析とこれからの課題を見つけていた。これからの成長具合に期待である。
そうして別れの挨拶が続き、いよいよ事務所を出る時間になった所でホークスが最後に言った。
「後期になったらインターン始まるよね? その時、もし仮免試験に合格してたらまた来なよ。まあ、ツクヨミ君はともかく、君は来るかどうか分かんないけどね」
それでも気が向いたらいつでもおいで。そう言ってホークスは手を振った。
他のサイドキック達も、別れを惜しむように手を振って2人を見送る。それをちらりと見て会釈で返し、彼と常闇は事務所を出て博多駅へ向かった。
──そして帰りの新幹線の中。
2人は向かい合って座り、彼がお土産と一緒に購入した福岡名物、あまおうのいちご大福を頬張っている中、常闇が外の景色を眺めながらぼそりと呟く。
「……流石だな。此度の職場体験、1週間行動を共にして、お前の凄まじさを改めて理解した」
常闇に話し掛けられ、食べる手を止めて首を傾げる。そして手に取った大福を1つ差し出した。
「いや、共にというのはいささか誇張が過ぎるか。後半になってからというもの、お前がホークスと共に行動する中、俺はただその後を走り追いかけ、遠目から背中を眺める事しか出来なかったからな」
差し出された大福を前に、片手を前に出して遠慮する意を伝えつつ、1週間の内容を振り返る常闇。その声は非常に穏やかだ。
「加えてお前がホークスと共に捕まえた強盗団の話を聞いて、己の未熟さと無力感にただただ打ちひしがれたよ。現場にいた者達がアップした動画を確かめたが、今の俺にあんな芸当はどう頑張っても出来ん。
いや、そもそもあの状況下で市民を守る事さえ出来たかどうか……。すまんな、食事中にいきなりこんな話を持ち出して」
別にそれくらいで食事の邪魔にはならないので謝る必要はない。気にしていないから大丈夫だ。
それよりも、先程から褒めちぎっている常闇の雰囲気が、どうも嫉妬染みた感情を纏っているように見える。羨望を通り越した嫉妬、あるいはそれ以外の負の感情。そんな感じだろうか。
「嫉妬? ……ああ、そうだな。その通りだな。俺はお前に嫉妬している。醜い話だが、この1週間の間で突き付けられたお前との差を理解して、俺はずっと嫉妬しているんだ。どうしてヒーロー志望でも何でもない、サポート科のお前にそれほどの実力があって、俺はプロに付いていく事すらままならないのだと。普通逆じゃないのかと。
だがそれ以上に、何も出来なかった自分自身が悔しくて仕方がなかった。情けなくて堪らなかったのだ。だから、飛んでいるお前の姿を見る度に、俺の心の中はどす黒い感情で一杯だった。嫉妬と無念と怒りに満ち満ちていた」
訥々と自身の心境を語る常闇。その独白を聞いて、彼は何て事ないかのような軽い口調で返した。
じゃあ、ヒーロー目指すの止める? そう言っていちご大福を口一杯に頬張った。
「止める、だと……? どういう事だ?」
あまりにも軽い口調で言われ、常闇が怪訝そうな顔で聞き返す。その声には若干の怒気が籠っていた。だが、常闇が放つ険呑な雰囲気など、彼にとってはそよ風にも等しい。
常闇は嫉妬しているし情けないと言っているが、そんな事をいつまでも心の中で抱え込んでもどうしようもないのだ。いくら相手や自分に対して負の感情を抱え込んでも、現状の差が埋まる事はない。
それどころか、自身を過小評価しては暗い気持ちになるという負のスパイラルに陥ってしまう。そんなのは惨め以外の何物でもない。
今の常闇に必要なのは、ただがむしゃらに突き進む事だと思う。前へ前へ、血反吐を吐いて、地べたを這い蹲いながらも。嫉妬も、無念も、怒りも、その全てを力に換えて。
負の感情は力だ。その力は使い時によっては牙を剝くが、逆に言えば、使い時を誤らなければ自分の限界の一歩先まで連れて行ってくれる源なのだ。
今の常闇は負の感情を
吐き出すのだ、心の中に抱え込まないで。もっと自由に、もっと我が儘に。自分の上に誰かがいるなら、それら全てを呑み込んで自分のものにするくらいの勢いで、欲望のままに進み続けるのだ。
そうして自身の
そこまで言い切って、彼はもう1度問い質した。ヒーローを目指すの止めるか? と。
「………………」
常闇は何も言わない。考えているようだ。
別に返答を求めているわけはないので、答えようと答えまいとどちらでも良いのだが、常闇は真剣に考えているようなので待つ事に。
そうして数分経っただろうか、最後のいちご大福に手を伸ばしかけた所で、常闇がゆっくりと口を開いた。
「……正直、俺はまだお前の言っている事の全てに納得出来たわけじゃない。そのやり方が俺にとって本当に適しているのかどうかも、実際にやってみないと分からん」
いきなり我が儘になれだの欲望のままに進めだのと言われても、ヒーローを目指すやり方として、本当に良いのかという懐疑的な気持ちはあるのだろう。これはあくまでも個人の意見なので、手放しで賛同出来るとは限らないのだ。
そう思っていると、常闇が「だが」と話を区切って言った。
「頂点……確かにそうだな。欲望のままに進むのが本当に良いのかどうかは分からないが、頂点に立ち続ける者達は皆、欲望を抑え込んでいない。ヒーローに限らず、どこの分野でも共通している」
常闇の言う通り、常にトップに立ち続ける事は、現状を維持し、その場に立ち止まって成せる芸当ではない。常に何かしらの欲望が頂点を追い続ける源となっている。
例えば、オールマイトは「人を助けたい」という思い一つで各地を飛び回り、何十年も頂点に君臨している。個人の考えだが、何十年も消える事のないその思いは、もはや善意を通り越して欲望の域にまで達していると言えるだろう。
頂点に立つ者は欲望を抑え込んでいないという常闇の言葉は、ある意味で真実だ。
「だから、これから自分がどうしていきたいか、どのように進んでいくべきか、改めて考えながらヒーローを目指していこうと思う」
そんなこんなで、常闇の中である程度の結論が出た。これ以上は新幹線の中で考えても仕方がないので、帰ってから自分に見合ったやり方をじっくり決めれば良い。
話が一段落着いたので、彼は最後のいちご大福を頬張ると、今度は大量の弁当を取り出した。時刻は午後1時を回ったところ、まだ昼食の時間の真っ最中である。
と、弁当箱の山を見た常闇が呆れた口調で一言。
「……お前は逆に、自制を覚えた方が良いと思う」
やかましい。
それから2日間の休日を挟み、1週間ぶりの雄英高校にて。
「おはようございます! 1週間離れていただけなのに、何だか随分久しぶりな気がしますね! で、どうでしたか?」
教室に入って早々、発目に職場体験中の出来事についてあれやこれやと質問攻めされた。
他のクラスメイトもどうだったのかが気になるようで、机の周りにちょっとした人だかりが形成される。
とりあえず、ホークスの活躍ぶりを間近で見続けた時の様子から話す事に。話が進む度にクラスメイト、特に女子からの歓声が沸き起こる。ホークスの女性人気は伊達ではない証拠だ。
「ふむふむ。流石はホークス、速すぎる男と言われるだけの事はあります。これもデータとして保存して、ベイビー開発時の参考にしましょう。……そう言えばあなたも活躍してましたよね? 逃げる強盗団を大通りで捕まえたって。大変気になります。その時の状況を詳しく! さあ!」
あれは職場体験4日目の出来事で、今までの業務とは違う事をしたので良く覚えている。今思えば、よくホークスは戦闘許可を出したなと思う。一歩間違えれば、ホークスのヒーローとしての信頼と地位が崩れるかもしれなかったのに、だ。
いくら大丈夫そうだからと言っても、ヒーロー科でもない高校生を戦闘に参加させる理由としては弱過ぎる。体育祭での活躍などを考慮してもだ。それともNo.3ヒーローという事で、万が一不測の事態が起こっても何らかの保険があったのだろうか。
仮にその推測が本当だったとしても、どう考えてもマシンガンを所持した敵の対処など、人目が付く場所で任せる仕事ではない。規格外の戦闘力を有する彼だからこそ、何の問題もなく解決出来たわけだが。
考えれば考えるほど不思議で堪らない。しかしもう過ぎた事。今更考えた所で所詮は推測の域を出ないし、無事に事件を解決出来ているので結果オーライとしよう。
あっさりと思考を放棄した彼は、発目の要求に淡々と応える。
「ほうほう、やはりSNSにアップされたあの動画は眉唾では無かったですか。普通なら信じられませんが、あなたの実力なら納得です。というか、あなたは逆に何が出来ないんでしょうかねぇ」
感心した様子でそう言う発目だが、彼にだって出来ない事はたくさんある。彼は確かに強いしまだまだ成長の余地はあるが、万能ではないのだ。
こうして朝のホームルームが始まるまで発目からの質問に答え続けた彼は、1週間ぶりに教室で普通の授業を受けた。ここ最近非日常的な日々を送っていたため、こちらの方が逆に新鮮味を感じる程には普通の授業だった。
──その日の放課後。
いつもなら発目と一緒に工房に籠って何かを作っているのだが、現在彼は校長室にいた。1週間の職場体験を振り返ってどうだったかを伝えるために。
「1週間の職場体験、お疲れ様! とても実りある体験になったかな?」
明るく陽気な声で話しかけてくる根津校長に、彼は静かに首を振って肯定する。
確かに、今回の体験は色々な意味で充実した日々だった。ホークスやサイドキック達との交流、常闇との交流、街のパトロール、そして戦闘。どれもが良い思い出になったと言える。
特に博多のグルメ巡りは、数ある思い出の中でも群を抜いて充実したものと断言できる。ラーメンはもちろん、餃子、鶏料理、いちご大福、明太子、そのどれもに舌鼓を打った。最高だった。
それを聞いた校長はうんうんと嬉しそうに相槌を打って頷く。
「それは良かった。校長である私にとっても、生徒が充実した日々を過ごしてくれたようで何よりさ。それでどうだった? プロの活躍を間近で見て、何か学べた事はあったかい?」
プロの活躍を見て思った事は、ホークスは本当に凄いヒーローであると言える事。『速すぎる男』の異名通り、本当に周りのヒーローや警察を全て置き去りにして街を飛び回り、たった1人で事件解決まで導いていた。
ずっと近くで飛んでいた彼だからこそ分かる。あれほどの速度で飛び回りながら、周囲の異変を瞬時に察知して行動に移す力は誰もが真似出来る事ではない。しかも幾枚もの羽根を1枚ずつ緻密にコントロールしていた。
仮に他の人が『剛翼』の個性を持っていたとしても、ホークスほど上手くは立ち回れないだろう。あれはホークスが持つ天性の才能と、積み重ねた努力と経験、この3つの要素が合わさった結果と言える。
これらの事を総括すると、プロヒーローは戦闘力だけでは成り立たないという事。トップにもなるとそれはもう顕著、強いだけでヒーローにはなれないのだ。
こうしてみると、やはり自分はどこまでもヒーローに向いていないと自覚させられる。今回の職場体験で学んだ事があるとすれば、一番は恐らくそれだろう。
「ヒーローには向いていない、か……。なるほど、一周回って面白いね。ヒーロー飽和社会となったこの時代、プロの活躍を見てそういう結論が出た生徒は君が初めてさ」
現代の学生達、特にヒーロー科とは真逆の意見。下手するとヒーロー飽和社会に対するアンチテーゼとも受け取られかねないこの発言に、校長は肯定も否定もせず、ただニコニコと頷くだけだった。
「まあ何はともあれ、君にとって充実した1週間となった。それだけでも今回の職場体験は何物にも代え難い価値がある。体験先で積み上げた経験や思い出は、これからもずっと大切にする事さ──」
それから数十分後、ようやく校長への報告が終わったので、すぐさま発目のいる工房へ足を運ぶ事に。
その道すがら、彼は考えていた。
1週間の職場体験を経て、確かに自分はヒーローに向いていないと改めて自覚した。数日前、自信喪失しかけていた常闇には、ヒーローとして大成したいならもっと我が儘になれとアドバイスしたが、そう言う自分はそれ以前の問題だ、と。
だが、ヒーローに向いていないからとって、その程度では全く困らない。そもそも彼のやりたい事、好きな事はヒーロー活動ではないからだ。
彼の好きな事は今も変わらず食事と発明だ。ここ最近の出来事でサイヤ人の本能が若干刺激されたのか、戦闘も楽しいと思えるようになってきたが、満足出来るレベルかと言われればそれは否だ。あくまでも暇潰しの範疇を出ない。
もちろん職場体験の思い出は大切にする。だが、これからの行動指針に影響を及ぼす事はない。今回の事は、結局どこまで行っても
そして、ホイポイカプセルの性能実験を行うという当初の目的は当然達成している。職場体験6日目に1日かけて行い、目立ったトラブルもなくカプセルが正常に作動した事や、街中で使う時の安全性や細かい改善点なども確認した。後は家に帰って細かい微調整を行うだけである。
故に、そろそろ次の発明に本格的に取り掛かろうと決めていた。どれほどの期間と予算を掛けて何を作るかはまだ決まっていないが、可能であれば発目と共同で作ってみたいと思っている。
職場体験が終わり、これから始まる発明ライフを想像しながら、彼は工房で待つ発目に会いに行くのだった。
これからの予定として、期末試験編、合宿編、神野事件編と順当に話を進めようかどうか決めかねているのが現状です。