サイヤ人 in ヒロアカ 作:H & J
職場体験が終わり、いつもの学校生活に戻ってから数週間が経過した。
6月も中盤を越えて、徐々に期末テストの存在が大きくなりつつあるこの時期。彼のクラス、1年H組サポート科の教室内では、放課後にも拘わらず半数以上のクラスメイト達が意見を交わしていた。
「やっぱり作るとするなら見た目派手な物が良いんじゃね? 巨大ロボットとかロマンでしょ!」
「何言ってんのよ、巨大ロボットってただデカいだけじゃない。組み立てだけで重労働だし、そもそも体育祭のレースで飽きるほど見たから新鮮味が無いわ。やるなら精密かつ小さい物よ。時代は小型化なんだから」
「でもそれはそれで少しありきたり過ぎない? ロボットほどじゃないけど、少しくらいデザイン性がある物作ろうよ」
「逆にデザインの方を凝り過ぎて機能面が疎かになる可能性もあるから、そこんとこの配分をどうするかは重要だぞ」
今、彼らがどうしてこんなにも意見を交わし合っているのか。それは今朝のホームルームでパワーローダー先生が言った事が発端である。
『えー、6月も後半になってそろそろ夏休みも近くなってきたわけだが、その前に7月初めに期末テストがある事、忘れてないな? 期末テストは中間と違って教科書の範囲広いから、復習は決して怠らないように。
それともう1つ。期末テストでは筆記とは別の試験が存在する。今からプリント渡すからよーく見ておくんだぞ』
クラス全員に配られたプリント。そこには『実技試験』と一番上にタイトルが載っており、その下に詳しい説明が記載されていた。
『サポート科もヒーロー科と同様、筆記試験の他に実技試験が存在する。サポート科の場合、決められた期限までに何か1つ、サポートアイテムを創作して提出するのが試験内容となっている。詳細はプリントに記載されているからよく読んどけ。
ただ、この実技試験はちょっと特殊でな。個人で作って提出するのも勿論ありなんだが、数人でチームを組んで何か1つアイテムを創作するのもOKとなっている。その場合は事前に担任に申告する必要があるが、もしチームを組んで作りたいのであれば、今週末までにメンバーを伝えるように──』
という事があり、現在に至る。
プリントに記載された説明によると、例えば3人でアイテムを作って提出した場合、100点満点中70点の評価を受けたとしたら、そのチームメンバー3人がそれぞれ70点を貰えるという。
つまりこの試験、チームで作って全員等しい評価を受けるか、個人で作って高得点を狙うかで、1人1人の行動が変わってくるという事になる。チームで作るメリット、個人で作るメリット、どちらを取るかは生徒達の判断に委ねられているのだ。
とはいえ、雄英に入学して3カ月も経っていない1年生は、技術力も経験もまだまだ発展途上。よって、この試験は明らかにチームで作るメリットの方が大きく、そのためクラスメイトのほとんどが誰かとチームを組んでいた。
1チームにつき最低2人、最高でも5人まで。割合でいえば3人から4人のチームが最も多い。
そして先程、教室内で積極的に意見を交換し合っていた生徒達は、その実技試験に向けて早速チームを組んだ人達である。
その人達の会話を聞き流しながら、彼は隣に座る発目の方に目を向けた。
「いやー、遅くなってしまい申し訳ありません。なんせ急に頼まれたものですから、少し時間が掛かっちゃいました。さあ、早く行きましょう!」
急に入った委員会の仕事をちょうど今終えて、これから工房へ向かおうと鞄の中身を纏める発目。彼は発目が仕事を終えるまで、ずっと教室で待っていたのだ。
そして教室を出て工房へ向かうその道中、彼は隣を歩く発目に提案した。
「……期末の実技試験で提出するアイテム、私達でチームを組んで作ろう、ですか。おお、それ悪くないですねえ! 勿論良いですよ、組む相手があなたなら断る理由なんてありません! 共に最高のベイビーを作ろうではありませんか!」
職場体験も終えて、そろそろ何か本格的な物を作ろうと思っていた手前、発目と共同でアイテム開発したいと思っていた。だから想定以上にノリノリでOKしてくれた発目には感謝しかない。
こうなった以上、お互い気合いを入れて作るのみ。早速何を作るか話し合いといこう。期限は筆記試験が終わった次の週の金曜日まで。
期間にして今日から約4週間、つまり1カ月間だ。時間はあるが、今の1年生の技量を考慮すればやや短めな方だろう。加えて筆記試験も重なっているため時間的猶予は更に厳しくなる。時間は有限、1分1秒を大切にしないといけない。
工房に入った2人は、いつもの席に座ると早速意見を出し合った。
「では早速ですが、まず私達2人で作るので、すぐ終わるような物にはしたくないです。機能面とデザイン面、どちらに重きを置くかは各チームの判断に委ねられますが、私はどちらも100点満点を目指そうと思っています」
それについて異論はない。期末試験だろうと何だろうと、手を抜いた発明などこちらからお断りだ。やるからには全力で製作させてもらう。
しかし一体どんな物を作ろうか。1カ月を費やしてまで2人で作るとなると相当な物になるだろう。彼は思考を巡らせた。
ちなみにこれは完全に自慢だが、彼も発目も筆記試験の成績は良い。中間試験のクラス内成績は、彼が1位、発目が3位とトップクラス。筆記試験の勉強そっちのけで開発に勤しんでも問題無いくらいには、2人とも勉強が出来るのだ。
よってこの2人にとっては、本当の意味で丸々1カ月分の時間的猶予が存在する。これは他のグループに比べて、極めて大きなアドバンテージとなる。
正直ここまで来ると、成績が良い者同士で組んだチームの方がより良い成績を貰えて有利なのだが、ここは自由な校風が売りの雄英高校。サポート科の実技試験の内容をどうするかも教師の自由となっている。
「というわけで、何か色々と考えてくれてるのはありがたいんですが、実は私、既にいくつかベイビーの候補があるんです。ちょっと紙に描くんで見てください」
何を作ろうかとあれやこれやと考える前に、発目は既に複数の候補を絞り出していた。こういう発想の速さやイメージ力は発目の方に分がある。彼は心の中で舌を巻いた。
そして取り出した紙にサラサラと描き出されたラフな絵。それぞれ番号が割り振られており、1番から3番まである。
「とりあえず今思い浮かんだ候補は全部で3つです。1つ目は超高性能な戦闘ロボット、2つ目は相手の位置を特定するなど、広範囲の索敵に優れた小型レーダー。3つ目は全自動で怪我の治癒を行ってくれるサポーター。ざっとこんな感じです。どうでしょう?」
描いたものを見せながら発目に問われた彼は思った。これ、全部ドラゴンボールで出てきた物じゃないのか、と。
一体どういう偶然か、たった今発目が提案した物は全てドラゴンボールで出た発明品に似ているのだ。1番はDr.ゲロが作り出した人造人間シリーズ、2番はフリーザ軍が良く使っているスカウター、3番はサポーターとは少し違うが、これまたフリーザ軍でお馴染みのメディカルマシーンを彷彿とさせる。
決してドラゴンボールとは関係ないのは分かっているが、どうしてもドラゴンボールの物と関連付けてしまうのはこれ如何に。
とはいえ、いざ作ろうとしたらどれもが一筋縄ではいかないものばかり。作り甲斐はあるが、万が一間に合わなかったら本末転倒なので、もし選ぶ時は慎重に考えないといけない。
これらの案は一旦保留とした。
「……うーん、ぱっと思い付いたのはこの3つですが、他に何か良い物ってあります?」
良い物というわけではないが、あったら便利だなと思える物ならいくつかある。
まずは自動でコスチュームに着替えられる機械。イメージとしては、ドラゴンボールZで孫悟飯がグレートサイヤマンへ変身する時に使った腕時計と同じもの。腕時計に付いたボタン1つで、いつもの服装からヒーローコスチュームへ早着替え出来るあれは、あったら便利だなと思っている。
ただし、あれはホイポイカプセルの機能を応用して作られた物で、物語内では天才科学者ブルマが2時間で完成させた。正直なところ、そこまで難しい物ではない。かく言う彼も、2時間とまではいかなくとも、3,4時間程度で作れる技量は充分にある。
他にはフリーザ軍が使用していた戦闘服や光線銃、ナメック星でフリーザが移動の際に乗っていた小型ポッドなど、ドラゴンボールの中で出てきた『こんなのあったら便利だな』と思える物だろうか。
こうしてみると、ドラゴンボールの発明品の大半はフリーザ軍が関係しているように思える。流石宇宙の技術というべきだろう。
これらの案を、『ドラゴンボール』の事は伏せた状態で発目に伝える。
「ふむふむ、確かにどれも便利そうな物ではありますね。しかしそこまで手間が掛からないのであれば、コスチュームに早着替え出来る時計とかは今度時間がある時に作ると良いでしょう。なんなら今からやってみます? 2人で協力すれば時間短縮になりますし、本番前のちょっとしたリハーサルにもなりますよ」
──というわけで2時間後、家から持参していた空のホイポイカプセルと自前の腕時計を使い、発目と共同で作り上げた。
1人で作ると恐らく4時間近く掛かった工程が、発目と協力する事で半分の2時間に短縮出来たのは上出来と言える。
そして今、彼の左手首には魔改造された腕時計が装着されている。分解した腕時計にホイポイカプセルの機能を盛り込み、そこに好きなコスチュームを内部にセットして準備完了だ。
言葉だけで説明するとたったこれだけの工程。しかし、『言うは易く行うは難し』ということわざがあるように、これも本来は簡単な作業ではない。彼と発目の2人だからこそ成せる所業なのだ。
こうして放課後の一時の間に作られた変身用腕時計。
「準備は良いですか? では、押してみて下さい!」
その腕時計に付いたボタンを押すと、彼の服装が工房内で着る作業着から雄英の体操服に一瞬で切り替わる。
それを見た彼と発目の目がキラキラと輝く。
「おおー! やりましたね、実験成功ですよ! 何気に1度も爆発を起こさなかったのもポイント高めですし、2人で協力すればここまで作業がスムーズに進む事も知れて良かったです! 思い返せば私達、1度も協力してベイビーを作った事がなかったので、何だか新鮮味を感じますね!」
発目の言葉に、彼も首を縦に振って肯定する。
今までは各々が好きな物を好きなだけ自由に作って満足していたので、初めて共同でアイテムを開発したこの経験と思い出はとても新鮮味があって貴重だ。演習試験のリハーサルとしては、この上ない成功と言えるだろう。
と、ここで完全下校30分前を知らせる校内アナウンスが流れ出した。
アナウンスを耳にした瞬間、腕時計のボタンをもう1度押して元の作業着に戻り、急いで散らかった工房内を片付けた後、制服に着替えて完全下校10分前に学校を出た。
その帰り道。
「……で、結局どうしましょう? 演習試験で先生に披露するベイビーの候補、私が最初に提案した3つと、あなたが提案した便利な物シリーズに絞って考えます? それともこれらとは別の物にします?」
どれか1つはまだ決めかねないが、今から別の物を考えるのも面倒なので、今ある候補の中で選ぶとしよう。出来る事なら今日中には決めたいところだ。
「うーん……でしたらもういっその事、ランダムで決めてみません? 思い付いたら即ベイビーを作る事が私の信条ですが、偶にはくじで育てるベイビーを決めるのも悪くないですし」
発目が提案した、くじでどれを作るか決める方法はありだと思う。というか色々と考えた結果、この決め方の方が後腐れしなくて済みそうだ。
彼はサムズアップで返した。
「OK、ではそういう事で……よっと」
返答を受け、鞄から手頃な紙を取り出し、それを数枚に千切ってそれぞれに候補の名前を書き記す発目。その紙束を片手に持ち、彼の前に差し出して言った。
「さあ、ここにベイビー候補の名前を書き記したくじがあります。この中からどれか1つを選んでください。あなたが引いたベイビーを明日から私達で育てるのです」
そう言われ、一番最初に目に付いた手前側のくじを徐に引いた。
そして発目と一緒に確かめると、引いたくじに書かれていた候補の名前は──。
──それから1週間後。6月も最終週となり、期末試験まで残すところ1週間を切っていた。
そんな中、ヒーロー科A組にて。
「「全く勉強してねー!!」」
教室内に、上鳴電気と芦戸三奈の絶叫が響き渡る。クラス内でも赤点候補筆頭の2人にとって、筆記試験は最大の難所だった。
それは他のクラスメイト達も同様で、中間試験で思うような成績を取れなかった人にとっては不安の種となっている。
そんな人達に、更に追い打ちをかける言葉を発する者が数名。
「芦戸さん、上鳴君! が、頑張ろうよ! やっぱ全員で林間合宿行きたいもん! ね!」
「うむ!」
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」
「うっ!? お前ら、言葉には気を付けろ!」
クラス内でも上位の成績を誇る緑谷、飯田、轟の3人。この3人は中間試験で5位以内にランクインするほど座学に秀でている生徒である。
別に悪意も何もない、嘘偽りのない本心を口にしているだけなのだが、それが成績下位者にとってどれほど心を抉る言葉か。上鳴達の表情が苦しげなものに変化する。
しかし、更なる追い打ちをかける者もいれば、救う者もまた同時に存在する。
「上鳴さん、芦戸さん、座学なら私、お力添え出来るかもしれません」
「「ヤオモモー!!」」
A組内でも座学において右に出る者はいない天才、八百万百である。中間試験でも1位の成績を誇り、他のA組と比べて圧倒的な頭脳と豊富な知識を保有している。
そんな彼女の提案に、苦手科目で躓いた他の生徒達も寄って来た。そして、そんな彼らのやり取りを見て溜め息を吐く者が1名。
「……この人徳の差よ」
「うるせぇ俺もあるわ。てめぇ教え殺したろか」
「おお、頼む!」
切島と爆豪は本日も通常運転である。
──数時間後。
午前の授業を終え、緑谷、飯田、轟、麗日、蛙吹、葉隠の6人はランチラッシュの食堂に来ていた。
「普通科目は授業範囲内からでまだ何とかなるけど、演習試験が内容不透明で怖いね……」
「突飛な事はしないと思うがなぁ」
「普通科目はまだ何とかなるんやな……」
いただきます、と合掌しながら、麗日は遠い目をしてご飯を頬張る。緑谷達と自身との学力の差に軽く打ちひしがれていた。
「確かにね! 一学期でやった事の総合的内容」
「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」
「戦闘訓練と救助訓練、後はほぼ基礎トレだよね」
葉隠、蛙吹、麗日の順に、演習試験に対する疑問を口にする。
サポート科と同様、ヒーロー科も筆記試験の他に演習試験が存在し、その具体的な内容がサポート科と違って教えられていないのが、6人にとって目下の悩みの種となっていた。
「そうだよね、分からない以上は試験勉強に加えて体力面でも万全に……あイタッ!」
ごつん、と鈍い音が響く。緑谷が頭を押さえながら顔を見上げると、ぶつかって来た相手はフッと笑みを浮かべ見下ろしていた。
「ああごめん、頭が大きいから当たってしまった」
「B組の! えっと……物間君! よくも!」
ヒーロー科1年B組、物間寧人。雄英体育祭では先を見越した策を練り上げ、騎馬戦で爆豪達を翻弄し活躍していた生徒である。頭の回転が速く、言葉巧みに人を翻弄するのが上手い。
そして、何故かA組に対する当たりが強く、性格もかなり捻くれているため、A組の面々からは『変な奴』という不名誉な認識をされている。黙っていればクールビューティーなイケメンだけに、何とも勿体ない限りである。
「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね? 体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えていくよねA組って。ただその注目って、決して期待値とかじゃなくてトラブルメーカー的なものだよね」
「「「ッ!?」」」
「あー怖い! いつか君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて、僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ! ああ怖……ふぐっ!」
「洒落にならん、飯田の件知らないの?」
と、鬼気迫る表情であれこれ喋る物間の首筋に、鋭くコンパクトな当て身を食らわせつつ、物間が手放したトレーを華麗にキャッチする。そんな芸当を軽々とやってのけたもう1人のB組の生徒、拳藤一佳。
一癖も二癖もあるB組の面々を纏める委員長を務め、その男勝りな性格と面倒見の良さから、姉御的存在としてクラスメイト達から慕われている。
「ごめんなA組、こいつ心がちょっとアレなんだよ」
「拳藤君!」
飯田がほっとした表情で名前を呼ぶと、オレンジ色のサイドテールを揺らして、彼女は微笑み返した。
「あんたらさ、さっき期末の演習試験不透明とか言ってたね。入試の時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」
「……えっ?」
突然知らされた情報に、その場にいたA組全員の目が丸くなる。
「えっ、本当に!? 何で知ってるの!?」
「私先輩に知り合いがいるからさ。ちょっとズルだけど聞いたんだ」
「ズルじゃないよ! そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだそっか先輩に聞けば良かったんだ何で気付かなかったんだもっと早くその考えに至れば試験に向けての対策も……」
「えっ、えっ、えっ? 何これ、緑谷っていつもこんな感じなの?」
「そうやねぇ、久々に見たけどキレキレやねぇ」
戸惑う拳藤の疑問に、ニコニコとどこか嬉しそうに麗日が答える。そんな中意識を取り戻したらしい物間が、ぐぎぎ、と歯軋りの音を溢した。
「馬鹿なのかい拳藤、せっかくの情報アドバンテージを! こここそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……!」
「憎くはないっつーの!」
「うっ!?」
しぶとく何かを呟く物間の首筋に、先程よりも強めの当て身を食らわせて沈黙させた拳藤。今度こそ意識を失った物間の首根っこを掴みながら、一言謝ってその場を立ち去ろうとする。
その時だった。
「……なんだ、ロボット演習だったのか。せっかくあいつに訓練頼もうと思ってたけど、これじゃあ意味ないかもな……」
「えっ?」
拳藤が教えてくれた演習試験の内容に、轟が少し残念そうな顔でぼそっと呟いた。その発言に、聞いていた全員が首を傾げる。
「えっと、轟君? あいつに訓練頼もうって……誰に?」
「サポート科の。以前体育祭であいつと対戦した時、『手合わせしたかったらいつでもおいで』って言ってたから、演習試験に備えて1度あいつに頼んで戦闘訓練に付き合ってもらおうかなと思って。でも試験内容が対ロボットなら、今すぐそこまでやる意味もねえなと……」
「いや、そんな事はないよ轟君!」
「……?」
体育祭で活躍したサポート科の彼に、演習試験に備えて戦闘訓練に付き合ってもらう考えだった轟。だが試験の内容を知り、流石にロボット相手にそこまで入念に準備する必要はないと思っていた。
しかし、その結論を聞いていた緑谷が途中で遮った。
「今回はロボット相手だから、確かに訓練してもしなくても意味はないのかもしれない。でもその訓練は絶対後になって活きるよ! 大体、僕達ヒーローになったら相手はロボットじゃなくなるし、自分よりも強い敵と相対する時だってたくさんある。
その点、彼の強さは体育祭で見たから良く知ってる。だからもし一緒に訓練出来たら、その経験は間違いなく大きな糧になる! だからやろう! お願いしに行こう! 今日の放課後にでも!」
緑谷が言ったその理由に、轟も「ああ、確かにな」と呟いて頷く。
それを聞いていた周りの人も、首を縦に振って肯定していた。
「ちょっと待って。サポート科のあの子と戦闘訓練は悪くないと思うけど、本当に頼みに行っても良いのかしら? 私達は筆記と演習で忙しいけれど、それはサポート科も同じなのよ。相手の都合が悪い時にこちらのお願いばかり聞いてもらうのは失礼じゃないかしら?」
だがここで蛙吹が、相手の都合が悪い時に自分達の都合を押し付けて良いものかと反論した。
一理あるどころか正論ですらあるこの疑問に、轟が答える。
「それもそうだが……でも緑谷が言ってた事を聞いて、確かにそうだって納得しちまった。それに、俺はあいつに1度完膚無きまでに敗北した。だからどうしてもあいつともう1度手合わせしたい。……まあ、向こうが断ったら当然手を引くよ」
「ケロ……そう言われると何だか反論しづらいわ」
「じゃあさ、折角なんだし轟君の他にもいっぱい人呼ぼうよ! 余裕がある人だけ来て、轟君と一緒にサポート科の人と戦うってのはどうかな? だってあの人超強いじゃん!」
2人の会話に割って入った葉隠。彼女が言ったその考えに轟は頷いた。
「それはありだな。じゃあ他に行けそうな人集めて、皆であいつに挑んでみよう……お前達はどうする?」
「もちろん!」
「ウチも!」
「ケロケロ」
「じゃあ私も!」
「当然、俺達も参加させてくれ。俺も1度、体育祭で彼と戦って完敗したからな」
「……決まりだな。教室戻ったら他の皆にも伝えよう」
彼との戦闘訓練について大体の話が決まったところで、この話はまた教室に戻ってから……となる前に、一緒に聞いていた拳藤が待ったをかけた。
「ちょっと待ってよ。A組だけ参加って、それはないんじゃない? ねえ、もし良かったら私達も参加して良いかな?」
「ああ、構わねえ。じゃあB組の奴らにも今言った事を伝えといてくれ。とは言っても、肝心の本人に断られたらこの話は全部無かった事になるから、そこだけは注意してくれ」
「うん、分かってる」
こうして、期末の演習試験の話からサポート科の彼との戦闘訓練の予定に会話の流れが変わったところで、その場はお開きとなった。
まだ完全に決まったわけではない。だがもし予定が定まった暁には、きっと大勢のヒーロー科の生徒達がたった1人の生徒に挑む事となるだろう。
そして、ヒーロー科の間でそんな話が進んでいるとは露知らず、肝心の彼は発目との共同開発に勤しむのであった──。
今のヒーロー科A組・B組の実力だと、主人公の相手は厳しいどころではないかなあ、なんて思ったり。でも精一杯頑張って、主人公に一泡吹かせて欲しい気持ちもある。難易度ハイパールナティックだけど。
ちなみに、今回のサポート科の実技試験の仕組みは、筆者が大学1年生の時に受けていたとある講義の最終レポート課題で実際にあった仕組みを、ほぼそのままの形で持ってきたものです。最終課題をチームでやるか1人でやるか好きに選べとか、ボッチに優しくないじゃん! と、当時思わずツッコんだ記憶があります笑